絆を探し求めて
〜白い羽根が舞うころ〜

第18話 絆はきっとそこに在る
やっと捕まえたと思った風船が 手の中をするりとぬけていったように 無気力な脱力感が犬夜叉を支配していた。 (表れたり消えたり・・・。ふざけんじゃねぇよ・・・) ”今よりもっと強くなった私で出会いたい” かごめの言葉の意味がわからない。 (・・・やっぱり・・・。かごめはこっちの時代にいるのが 迷惑だったのか・・・。なら仕方ねぇけど・・・でも・・・) ”きっとまた会える” (見通しのないこというな・・・) まるで空クジをひくような気分だ。 いつ会える川からない日を待ちながら生きるなんて。 「犬夜叉。柄にもなく物思いにふけてるな」 「・・・うるせぇ。一人にしろ」 弥勒が犬夜叉の横にどすっと座った。 「・・・かごめ様がどうして戻られたのか・・・。分からんか。 お前には」 「・・・けっ・・・」 「・・・もしお前ならどうする。怪我も治らない半端な状態のまま かごめ様の国にずっと居座り続けられるか」 「・・・。で、でもかごめにはオレだって、弥勒たちだって いるじゃねぇか。甘えたら良いだろう」 バシッ!! 弥勒は犬夜叉に一発食らわせた。 「なにすんだ」 「かごめ様は仲間に甘えていられるほどの図太い 人柄のおなごなのか?そうじゃないだろう。お前が一番わかっているはずだ」 「・・・」 「・・・再び自分の国へ帰ろうと思ったかごめ様の気持ち・・・。 何か意味があるとは思えないか?」 (・・・) ”きっとまた・・・” 「・・・。かごめ様が居る間、お前は桔梗さまのこの村を妖怪から 守り続けると決めていたのに・・・それがどうなった」 「・・・!」 「・・・お前の心はお前以上にかごめ様の方が分かるのかも知れんな」 ”生きている人間だけのこの世じゃないから・・・” (・・・) ”沢山の人の命が・・・。なくなったよね。 時々・・・。それを忘れそうになる自分に気づくの” 思い返せば・・・。 一緒に居たときにかごめの発した言葉の節々に かごめの複雑な気持ちが滲み出ていたかもしれない。 だが犬夜叉は全く気にも留めていなかった。 「・・・。また・・・。会えるさ・・・。お前らしくいきていれば・・・な」 「・・・」 ポンと犬夜叉の背中を叩いて 去っていった。 (・・・オレらしく・・・。生きる・・・) ”怒ってた方が犬夜叉らしいよ” ”一人じゃないんだから・・・” ザワ・・・。 ご神木の根元に両手を広げて寝転がる・・・ (オレらしく・・・) 考えても 分からない。 理屈っぽいことなど・・・。 ただ・・・。 ”きっと・・・また会えるよ・・・” かごめの優しい声と言葉が (答えの様な気がする・・・) かごめと一緒に違う時代で一緒に育てたご神木。 大切な誰かがそばにいなくとも 繋がっている絆は 確かに 在る・・・。 (オレらしく・・・か・・・) ご神木に額をあてる・・・。 (オレらしくしたら・・・届くか・・・?届けるか・・・?) 想いが 信じる心が (オレらしく・・・) 犬夜叉が額を当てている場所を・・・ 同じ頃 かごめも・・・手で触れていた・・・。 (・・・犬夜叉・・・。ごめんね・・・。勝手なことして・・・) かごめの右足にはまだ包帯が痛々しく巻かれて・・・。 (・・・でも・・・。私はもっと厳しさを知らなくちゃいけない・・・。 もっと・・・。胸を張れる人間に・・・) 沢山の人の命の上に 自分は此処に居る・・・。 桔梗と犬夜叉の過去を少しだけ垣間見た。 少しだけだったけど 色んな人が傷ついて 色んな人が命を失って・・・。 自分だけが幸せに 自分だけの恋の成就を願う自由など もってはいけない気がした。 (・・・犬夜叉・・・。私・・・ここに居る・・・。ここに・・・。 いつかまた会おうね・・・) 白い羽根がまた舞い降りたとき きっと また会える・・・ きっと・・・。 いつかきっと・・・会える・・・ その時まで・・・。 「かごめ!一人で大丈夫なの?」 包帯は取れたかごめ。 だがまだ右足に力を入れると痛みが走る。 玄関でママが心配そうに大学へ行くかごめを心配そうに 見つめていた。 「お母さん。大丈夫。人間てね・・・。結構打たれづよいよ。 じゃあ行ってきます」 少しかかとの高かったヒールをやめて 白いスニーカーでかごめは家を出る・・・。 (・・・痛・・・) まだ痛みが残る。 無理をすれば、普通に歩くことが困難に成りかねないと 医者から言われていたが・・・・ (・・・大丈夫・・・。自分の足がある限り歩く・・・) 自分の足で歩きたい。 真っ直ぐに前を向いて 胸を張って・・・。 「ママ、行ってきますー!!」 ステップを踏んで・・・ 大切な人と いつかまた会えると 信じて・・・ 何かを信じる力が 人を幸せにする。 「おーい!!産まれたぞーーー!!」 珊瑚の腕に新しい命が白い産着にくるまれている。 「おお・・・。女の子か・・・。ご苦労様・・・珊瑚・・・」 赤子を抱く珊瑚をいたわる弥勒・・・。 「・・・ねぇ。法師様・・・。この子の名前なんだけど・・・」 「ん・・・?」 「・・・”かごめ”って名前にしようと思うんだ・・・。どうかな」 「いい名だ・・・。真っ直ぐで・・・。思いやりに満ちた子になる・・・」 「うん・・・」 弥勒は産着に包まれた赤子の額をそっと撫でて 頷いた・・・。 その様子を屋根の上の犬夜叉が聞いていた・・・ 「・・・なんて名前付けやがる・・・。でも・・・」 かごめ、かごめと呼ぶ声に反応しそうだ。 でも・・・ (・・・いい名前だ・・・) ”きっと会えるよ・・・” それが呪文。 元気が 勇気が 出る呪文。 ”きっと会えるよ・・・” 「こらーー!かごめ!」 (!!) ご神木の天辺で空を眺めていた犬夜叉。 翡翠の声に三角耳がピクっと反応する。 7歳になった翡翠と妹のかごめ2歳がどたばたと井戸の周りを走る。 (・・・まったく・・・紛らわしい・・・) 弥勒と珊瑚の次女、かごめの名前が呼ばれるたびに 条件反射で心が反応してしまう。 元気に駆け回る小さな2歳のかごめ。 こてん!とかごめが滑った。 「うえーん・・・」 泣き出すかごめを抱き起こす翡翠。 「泣いちゃだめだよ。かごめ、お前は強い子なんだから」 「つおい・・・?」 「うん。お前の名前はね。母上と父上の大切な友達の名前なんだよ。 」 「ともらち?」 翡翠はかごめの頭をなでなでと優しくさすった。 「とっても優しくて強くて・・・。いい匂いがする人だったんだって。 だから、簡単にないちゃだめ」 (におい??) かごめは自分の体をくんくんとかいでみた。 「・・・わかんない」 「あははは。あのね、犬夜叉のおじちゃんじゃないと わかんないんだよ。大好きな人だったんだって」 ポコ! 翡翠に軽くゲンコツ食らわせたのは犬夜叉。 「だれがおじちゃんだ」 犬夜叉、まだまだちょっとお子様なようで。 「とにかく、泣くな俺が知ってる”かごめ”はすぐ 泣くようなやわな女じゃねぇぞ」 うん・・・!とかごめは確かにうなずく・・・。 「かごめ、つおいおんなのこになる」 「おう。その意気だ」 「うん・・・!えへへ・・・」 ”かごめ”の笑顔・・・ ふと空を見上げる。 (・・・かごめ・・・。今頃・・・。笑ってるかな・・・) 遠い遠い同じ空の下で 幸せに笑っているだろうか 馳せる想いは 途切れることは無い。 ご神木に寄りかかり・・・ 目を閉じる犬夜叉・・・ (足・・・。治ったかな・・・) ご神木がザワザワ 騒ぐ・・・。 (・・・かごめ・・・元気かな・・・) ザワ・・・ッ ひらひら・・・。 白い羽根が ゆっくりと 舞い落りる・・・。 (・・・かごめに・・・。会いてぇ・・・) ザワ・・・ッ (・・・かごめ・・・) 白い羽根が舞った そしてまた・・・ 募る想いが 何かを起こす・・・。 「あれ。あれれれ!?犬のおにーちゃんが いない」 花を摘んできた翡翠。 一枚の白い羽根を拾う。 「きーれーな羽根・・・。でも犬のおにーちゃん。 どこいったんだろうね・・・」 ご神木から 犬夜叉の姿が消えた・・・