絆を探して
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絆 目に見えないもの だから時々不安になる 私たちの絆はどこに 絆はどこに・・・
「・・・あいつ・・・」 ひとり 仲間の気配が消えたことを察知する珊瑚・・・ 井戸のそばで実家に戻ったかごめをまっていたはずの犬夜叉が・・・ いない 神秘な童子の式神が犬夜叉を招いて連れて行った・・・ 「ただいま〜」 「か、かごめちゃん」 真新しいリュックを背負い帰って来たかごめ・・・ 珊瑚はなんとなくかごめの顔が見づらい・・・ 「ふぅ。ごめんね遅くなって・・・。あれ?犬夜叉は?」 小屋の中を見渡すかごめに珊瑚は駆ける言葉を必死に探すが・・・ 「・・・あ、ちょ、ちょっと・・・”散歩”してくるって・・・」 「・・・」 目を逸らす珊瑚にかごめはすぐに犬夜叉がどこへ行ったのか察知する 「そう。あいつったら・・・。まぁた”ながーい散歩”に行ったのか。仕方ないなぁ」 リュックをドサッと置くかごめ。 「あ、あの・・・。かごめちゃん・・・」 「珊瑚ちゃん。私なら大丈夫よ。もう慣れっこだもの。・・・っていうか 慣れさせられたっていうのかな。ふふ・・・」 「かごめちゃん・・・」 かごめの苦笑いが珊瑚は痛い・・・ 「アイツが長い散歩するなら私もその辺ちょっと歩いてくるね。雲母借りるね」 (かごめちゃん・・) 同じ女として。 かごめの心の動揺が手に取るようにわかる。 「慣れっこになんかならないよ・・・誰も・・・」 当事者ではないけれど ”あの”二人のあの二人だけの世界の空気・・・ (犬夜叉と桔梗のあの二人だけの何ともいえない空気は・・・重いよ) 「雲母・・・。どこ・・・行こうか。散歩っていっても・・・」 かごめの心は どこかで密会しているあの二人の居場所を探してる 何を話してるんだろう 何をしてるんだろう 同じコトをなんど何度何度・・・ 思ったか  考えたか・・・ 「・・・。少し・・・。疲れたね・・・」 雲母の背中を・・・ 静かに撫でるかごめ・・・ 目的地もなく空を飛ぶ・・・ まるで・・・ (まる・・・で・・・) 「・・・!」 童子の式神がかごめの目の前に現れた (桔梗の・・・) まるで。 かごめを誘うようにふわふわと飛ぶ・・・ (何処へ連れて行こうというの・・・?誰がいるというの・・・?) ドクドク・・・ まるで風船の真下に針がある光景を見ているように 不安と緊張と そして・・・ 恐怖がかごめの全身を駆け巡る・・・ 一番見たくない光景がきっと そこにあるとわかるから・・・ 「あ・・・。ここ・・・は」 式神が降り立ったのは”あの場所” 綺麗な清水が沸いて落ちる 滝壺。 そう・・・ 桔梗を助けた滝壺だ・・・ 式神はかごめをじっと見つめ・・・そして歩き出す。 かごめを・・・ 導くように。 (嫌・・・。嫌だ。行きたくない。嫌・・・) 拒否する心とは反対に かごめの足は 式神に引っ張られるように・・・進む・・・ カサ・・・ カサ・・・ カサ・・・ 一歩一歩・・・進む・・・ 滝の落ちる水音が聞こえてきた・・・ (行きたくない・・・。見たくない・・・。嫌・・・嫌なのに・・・) 足が止まらない・・・ 世の中で一番見たくない光景だとわかっていても 足が 留まらない・・・ カサ・・・ (あ・・・) まばゆい光とともに・・・ 式神の姿は消え・・・ (・・・嗚呼・・・) かごめの瞳に映るのは・・・ (・・・犬・・・夜叉・・・) 「・・・桔梗・・・っ」 滝壺の前で・・・ 深く 深く・・・ 対峙し 見つめあう・・・ 二人の姿だった・・・ (・・・嗚呼・・・っ) 声にならない 切なさと痛みが かごめの体の中心からぶわっと広がる・・・ 目を逸らすこともできず かごめは 茂みから・・・ 二人だけの世界を一人・・・ 見続けるしかない・・・ 滝の水音さえ・・・消えるくらいに・・・ 深く 動かず・・・ 目と目だけで 会話している 互いの 熱い想いを伝え合っている・・・ 「・・・桔梗・・・」 相変わらず犬夜叉が桔梗の名を呼ぶ声は 聞いたこともない 大人びた声で・・・ 咽の奥から搾り出すような 切ない声だ・・・ (どこからそんな声がでるの・・・。どうしてそんな・・・ 切ない瞳なの・・・) 「・・・桔梗・・・おい・・・」 抉られる 犬夜叉がその名を呼び度・・・ 全身に針をさされていると思うほど・・・ 痛い・・・ 「・・・何故・・・オレを呼んだんだ・・・。なんか・・・あったのか・・・?」 「・・・。さぁ・・・な・・・。私にもわからない・・・」 神秘的な 微笑みを浮かべて桔梗は犬夜叉を見つめる・・・ 「桔梗・・・」 「・・・犬夜叉・・・」 静かに桔梗に近づき・・・ 桔梗を見つめる・・・ 見つめあう 合う・・・ (嗚呼・・・この二人は・・・見つめあうだけで・・・わかるんだ・・・ お互いの気持が・・・。言葉なんかいらないほど・・・。深く・・・) 思い知らされていく・・・ 二人が見詰め合えば 自分が入り込む隙など これっぽちも ないことを・・・ 「・・・桔梗・・・。どうしてここに・・・。ここはお前が・・・」 「そうだ・・・。私が眠っていた場所・・・。そして・・・」 桔梗はしゃがみ、水面を見つめた。 「かごめがお前を助けた場所だ・・・」 ズキ・・・っ (・・・どうして・・・。犬夜叉が言うの・・・?どうして・・・) ”かごめ”と名を言葉で発しても 犬夜叉の心が今夢中なのは目の前にいる・・・ 「桔梗・・・」 吐息をはくように呼ぶ・・・ ”かごめ”と呼ぶ声とはまるで違う・・・ 「・・・ずっと・・・。考えていた・・・」 「何をだ・・・」 「何故・・・。かごめは私を・・・助けたのだろうか・・・と・・・」 「桔梗・・・」 二人の会話に 自分の名がでてきている・・・ ドクンドクン・・・ 不思議な違和感と緊張を かごめの体に走る・・・ 「あのままほおっておけば私は完全に死んでいた・・・。私はかごめに選択肢を 与えたのに・・・。迷わずかごめは・・・滝壺にもぐりわたしを助けた・・・ 何故だろう・・・とな・・・」 「・・・桔梗・・・」 (何も・・・言ってくれないの・・・?ねぇ・・・) 犬夜叉の口から何の言葉もない。 それどころか犬夜叉はただ・・・ 「かごめのお陰だ・・・かごめの・・・」 桔梗を見つめ、そう呟くだけ・・・ 「・・・。つくづくかごめと私は違う人間だな・・・。生まれ変わりという事実など 忘れるほどに・・・」 「・・・。かごめはかごめで・・・お前はお前だ・・・。お前の代わりはなど どこにもいねぇ・・・」 「・・・犬夜叉・・・」 ”かごめはかごめだ。お前の代わりはいねぇ・・・” いつか どこかできいた台詞・・・ 一番嬉しかった言葉を・・・ 宝物にしていた言葉を・・・ 犬夜叉は 桔梗にも 投げかけている・・・ (・・・犬・・・夜叉・・・) どうしようもない脱力感・・・ かごめの中で 何かが崩れ始めていく・・・ 「桔梗が助かってくれて・・・。こうしてまた話している・・・。 本当にかごめのお陰だ・・・」 穏やかな表情で言う犬夜叉だが・・・ (お礼なんていらない・・・。いらないのよ・・・) そんな”ありがとう”なんて・・・ 刹那過ぎていらない・・・ 「オレはお前が助かってくれて・・・。本当に本当によかったと思っている・・・ 思ってんだ・・・」 「もういい・・・。その気持ちだけで充分だ。私は・・・」 (ねぇ犬夜叉・・・必死だった・・・。私・・・。本当に必死だったのよ・・・) 邪気にまみれ 水の中で 痛々しい桔梗の姿をなんとかしたくて・・・ (犬夜叉・・・。あたし・・・。本当に必死だったんだよ・・・。必死だったのに・・・) 犬夜叉のために桔梗を助けたわけじゃない ただ目の前の痛々しい桔梗を助けたかったそれだけだった でも・・・ あの水の中での”必死さ”が 泡となってぱちん・・・っと 消えてしまった・・・ 「ふっ・・・。これも四魂の玉が仕向けた”運命”なのかもしれぬな・・・」 「運命・・・?」 「私とお前が出会い・・・。私が死に・・・そして 私の生まれ変わりが・・・。私を助けて・・・。そしてお前を助け・・・。輪廻転生・・・ 一つの輪の中で物語が紡がれていく・・・」 (輪廻・・・転生・・・) 静かに語る桔梗の言葉に・・・ かごめの心に沁みこんで・・・ じわりとした無力感が膨らんでいく・・・ (私が桔梗を助けたことも・・・。犬夜叉のそばにいることも・・・それは・・・ それは・・・みんな・・・。運命・・・?犬夜叉と桔梗をこうして 会わせるための・・・)
”じゃあ私って何・・・!???”
自分の存在を 硬い刃で粉々にされていくようだ・・・ 「・・・運命だなんて・・・。そんなもんオレには関係ねぇ・・・。誰かに仕組まれてオレは お前は出逢ったわけじゃねぇだろ・・・!」 「犬夜叉・・・」 犬夜叉の声色がまた・・・ 熱くなった・・・ 熱い 情熱的な瞳に・・・変わっていく・・・ かごめはその様を ただ 傍観するしかない・・・ 自分がここにいる意味が 消えそうな心を抱えたまま・・・ 「・・・。お前の命は私のものだ・・・。そう言った・・・」 「ああ・・・」 「でも・・・。命はだれかのものではない・・・のだな」 秘めたる想いが桔梗の瞳に浮かぶ 「だからなんだよ・・・!お前の命はオレのもの・・・。オレの命も おまえのものそういったじゃねぇか!」 ズキンッ・・・ 今まで一番・・・ 激しい痛みがかごめの心臓に刺さる・・・ (桔梗の命は・・・犬夜叉のもの・・・) ”犬夜叉の心は桔梗のものなのだ” 白童子の言葉が過ぎる・・・ (犬夜叉の命も心も・・・桔梗のもの・・・) 足元から 冷たくなっていく・・・ 力がぬけていく・・・ 「桔梗・・・」 犬夜叉は桔梗の腕を静かに掴む・・・ 「・・・。私の運命は・・・。私が決める・・・。こんな抜け殻の体でも・・・ 私は奈落を討たねばならん・・・」 「お前一人じゃねぇだろ・・・!奈落を倒すのは俺の役目だ・・・。お前の命を奪った 奈落を倒すのは・・・俺しかいねぇじゃねぇか・・・!」 「・・・犬夜叉・・・」 桔梗を支えるように・・・ 犬夜叉の両手が桔梗の肩を掴む・・・ 「・・・。例え・・・。別々の場所のいても・・・。オレはお前に何かあれば 絶対に飛んでいく・・・。なにがあっても・・・。危険なめには遭わせない・・・」 「・・・犬夜叉・・・」 「死人でも墓土の体でも・・・。心はお前だ・・・。それは絶対に壊させやしない・・・。 お前の心はお前のものだから・・・」 「犬夜叉・・・」 「お前を二度と・・・壊させはしない・・・っ。壊させはしねぇんだ・・・っ」 熱が篭った・・・ 犬夜叉の言葉・・・ 情熱を秘めた言葉・・・ 自分にむけられたことなどあるだろうか・・・? ”バーカ。何言ってんだよ。お前は” (馬鹿・・・。本当に私って馬鹿かもしれない・・・。でも・・・ 痛いよ・・・。犬夜叉・・・。痛いよ・・・) ”オレは・・・桔梗に命がけで応えてやらなくちゃいけねぇ・・・” 今やっと・・・ 実感した・・・ 命がけ・・・ 二人の愛は 互いの命と命で繋がれている・・・ 強い 強い 激しい絆・・・ 立っていられないほどに・・・ 喪失感と脱力感がかごめを襲う・・・ そんなかごめがすぐそこにいることも知らず・・・ 犬夜叉と桔梗の二人の世界は続いてく・・・ 「・・・。桔梗・・・。一人であまり動くな・・・。奈落はお前を狙ってるんだからな・・・」 「・・・。心配はするな。霊力はもう完全に戻っている・・・」 「けど・・・」 「お前こそ仲間の所に戻れ・・・。呼び出してすまなかった・・・」 弓矢を背負い、式神をつれてはなれていく桔梗。 「桔梗!!」 犬夜叉は桔梗の手を掴んで真摯な眼差しで言った・・・ 「頼むから・・・。無茶だけはしないでくれ・・・。もう・・・。あんな想いはしたくねぇ・・・ 無茶だけは・・・」 懇願するように犬夜叉は言う・・・ 「・・・わかった・・・」 桔梗は掴まれた犬夜叉の手にそっと手を沿わせた・・・ そして式神たちを連れ・・・ 静かに滝壺をあとにした・・・ 「桔梗・・・」 桔梗の姿が見えなくなっても 犬夜叉はずっと・・・ 桔梗が消えた森の奥をずっとみつめていた・・・ ”犬夜叉の心は桔梗のものだ” 犬夜叉の視線は つねに桔梗を見ている・・・ (私は・・・ここに・・・いる・・・よ・・・。ここに・・・) 桔梗が去っても・・・ そこは犬夜叉と桔梗、二人だけの空間・・・ 見えない線で 区切られて 誰も寄せ付けない緊張感が充満してる・・・ 「桔梗・・・。オレは・・・。お前に・・・何ができるんだろうか・・・。オレは・・・。 お前を・・・」 まるで 犬夜叉と桔梗の悲恋の舞台を一人 観ているよう・・・ 二人だけの世界。 二人だけの絆が そこに ある・・・ (もう・・・。いい・・・。もう・・・) どこに意識があるのかわからない 呆然と脱力感のみ感じるかごめ・・・ 森の中をさ迷うよう・・・ 手の先にも 足の先にも 力が入らない・・・ 眩暈が する・・・ 「・・・雲母・・・」 雲母が 擦り寄ってくる・・・ ドサ・・・ッ 倒れかけたかごめを支える・・・ 「雲母・・・。ごめんね・・・」 雲葉はの体のあたたかさだけが 粉々になった心を少しだけ・・・ 冷静にしてくれる・・・ 風が吹く・・・ 柔らかな風だ・・・ かごめは目を閉じて 考える・・・ 空っぽの心を・・・ で・・・ 今・・・ こうして自分がここにいることが わからない・・・ (あたしは・・・何故ここに・・・いる・・・の?) ”お前と私が出会い・・・私が死に・・・。私の生まれ変わりが私を助け 犬夜叉の隣にいる・・・。全て運命なのかもしれぬな・・・” (何もかもが運命・・・。犬夜叉と私が出逢ったのもみんな・・・) ・・・犬夜叉と桔梗の・・・ 出会いがあったから・・・ (私が時代を超えてここにいるのも・・・。私が生まれて来た意味さえ・・・) ・・・桔梗が犬夜叉との再会を願い そして犬夜叉も桔梗と再び会いたかったから・・・ 自分が封印を解いたのも 全て 何もかもが (犬夜叉を想う私の気持もみんな・・・) 時を越えるほどの
犬夜叉と桔梗の深い絆と愛があったから・・・
耳の奥の奥で 誰かが囁いた・・・ 「・・・違う・・・。違う違う違う・・・ッ!!!違う・・・!!!」 かごめはどうしようもなく虚しい気持と思考を払うように 顔を何度も振って両手で頭をたたいて否定する・・・ (違うわ・・・。私は私・・・。例え・・・例え、私が桔梗の生まれ変わりでも 私の生きてきた時間もこの心も・・・私のものだわ・・・) 自分の両手をじっと見つめるかごめ・・・ 桔梗と瓜二つなこの顔 何故にこんなに似ているのだろう・・・? 似てなくてはいけなかったのだろう。 犬夜叉は 今でもこの顔を見て桔梗を思い出すことがあるのだろうか・・・? バシャン!! 水面を思い切りはじく・・・ (私は・・・。かごめ。桔梗じゃない。かごめよ・・・) ”生まれ変わり” それはあくまで『事実』であって・・・ (私の心は・・・私しかわからないもの・・・) ”死人でも・・・なんでも・・・。心はお前だから・・・。 オレはそう想ってる・・・” 犬夜叉の言葉を思い出し 胸が痛み出す・・・ 犬夜叉と桔梗・・・ 小さな誤解から互いを憎しみあい、しかしそれは・・・ そのに本物の”愛”があるから・・・ 人間の愛や憎しみは時を越え生まれ変わりまでつくってしまうのか それほどに 犬夜叉と桔梗の想いは (・・・固く深い絆で・・・結ばれているから・・・) ”桔梗・・・” ”犬夜叉・・・” 視線だけで会話できるほどの二人。 (・・・入れるわけもない・・・。入っちゃいけないんだ・・・) 命を懸けあった想い同士 そんな・・・ そんな 激しい想いを抱えた二人を前に・・・ 越えられない壁が突然 目の前に現れたような疲労感を覚えた・・・ (私は・・・。私は・・・。生きていから・・・。二人の想いの深さには・・・勝てない・・・) 勝つとか負けるとか そういうことじゃないとわかっていても・・・ 見つめあう二人の空気を目の辺りにしたとき 理屈はすっ飛んでしまう・・・ (・・・それでも・・・。それでも・・・。あたしは・・・。あたしは・・・!あたしが ここにいるのは・・・)
犬夜叉が好きだから・・・
それが唯一なのに この想いすら・・・ 何かの延長線上にあるものというのかー・・・? 「違う・・・う・・・。う・・・っ」 思考回路が 壊れそうだ・・・ 色んな考えが想いが 痛みが 切なさが 駆け巡って・・・・ 行き場所のない 迷いと 虚しさが 涙となって かごめの頬を濡らす・・・ 「・・・もう・・・。何がなんだか・・・わからなくなった・・・」 キュルル・・・ かごめの哀しそうな声に雲母が額を寄せる・・・ 「雲母・・・。ごめんね・・・。心配かけて・・・。でも・・・。 もう少しだけまって・・・」 キュー・・・ かごめの顔を覗き込む雲母。 「・・・。ねかせて・・・。心の嵐がおさまるまで・・・」 雲母に体を預け・・・ 目を閉じる・・・ キュー・・・ 雲母のしっぽが かごめを静かに包んだのだった・・・ 「・・・。どこ行ったんだよ。かごめは」 夕方になっても楓の小屋に戻らなかったかごめ。 犬夜叉は井戸のまわりを腕を組んでうろうろしている。 だがかごめを真っ向から怒れない。 ”かごめちゃん。あんたが桔梗に会いにいったことしってるよ” 珊瑚から聞かされた。 「・・・」 後ろめたさとかごめがどのくらい怒っているのか気になって仕方ない。 (・・・。毎度のことだけど・・・。やっぱりあいつ、怒ってるんだろうな・・・) かごめに嫌われたらどうしよう。 幼い恐怖心が犬夜叉を支配する。 「・・・!」 かごめの匂いが空から近づいてくる・・・ 犬夜叉に緊張が少し走った。 カサ・・・ 雲母に乗り・・・ かごめは静かに地に下りた。 「・・・か・・・かごめ・・・」 無表情のかごめ・・・ (や、やっぱ怒ってる・・・。すんげー怒ってる・・・(汗)) オロオロ状態の犬夜叉の横をかごめは・・・ (・・・え・・・っ?) スッと通り過ぎた・・・ 視線すら合わせないで・・・ (・・・なんだよ。その空気・・・) 流石にかごめの様子がいつもと違うことを感じる犬夜叉。 「くぉら!!かごめ!!なんで無視しやがるッ!!!」 かごめの前に立ちはだかる犬夜叉。 言葉は乱暴だがかごめを覗き込む犬夜叉の眼差しはおずおずしていて・・・ 「・・・。お、怒ってるのかよ・・・。あのな、いつも言ってるが お、オレはやましいことは何も・・・」 「・・・」 ”桔梗・・・” 桔梗には あんな切なく大人びた声を 視線を送るのに 「こら!聞いてるのかよ。お、オレだってな、馬鹿じゃねぇぞ。 お、お前の気持ちだって把握してるつもりだ」 ”死人だろうがなんだろうが心はお前だ・・・。そうだろ・・・?” (じゃあ私の心は・・・。一体に何・・・?) フラッシュバックするみたいに 蘇る言葉の数々・・・ 「ってお前、なんでオレの顔、見ねぇんだよ。おい、かごめ・・・」 「・・・」 俯くたままのかごめ・・・ かごめの反応に不安を覚える犬夜叉は焦る・・・ 「かごめッ!!!オレの顔、見ろって言ってんだろ!!!」 強引にかごめの肩を掴む犬夜叉・・・
バシッーン・・・ッ
(え・・・) かごめの右手が・・・ 犬夜叉の頬に激しく打ちつけられた・・・ 「”その”手で触らないで・・・ッ!!!!!触れないでよ・・・!!!!」 ”桔梗・・・” その名をよんで掴んだ手で・・・ 触れないで・・・ 突然のかごめの平手に犬夜叉は 唖然とする・・・ 「な・・・。何すんだよッ!!!いきなり・・・!!!!」 (そんな・・・。心底嫌そうな顔で・・・。冷たい瞳で・・・) 自分をみつめるかごめの視線に 犬夜叉の心は痛んだ・・・ 「ごめん・・・」 かごめは一言だけ呟いて犬夜叉に背を向ける・・・ (・・・これ以上犬夜叉の顔見てたら・・・。もっと酷いこと言いそうなの・・・。 だから一人になりたいの・・・) 「かごめ・・・。一体なんだってんだよ・・・!!そんなに そこまで怒ってるのか・・・?」 「・・・。お願い・・・。お願いだから一人にして・・・」 「何でだよ・・・。オレのこと信じてねぇのか・・・!信じられねぇのか!」 「・・・」 かごめの背中が・・・ (来るなと・・・。言ってる・・・) 「・・・。わかった・・・。お前を怒らせて悪かった・・・。でも・・・。でも また帰って来るんだろ・・・?」 「・・・」 「戻ってくるんだよな!??かごめ、応えろよ!!!」 「・・・。わからない・・・。今は・・・」 「わ、わからないって・・・。ば・・・馬鹿いってんじゃねぇッ。お前が いなかったら誰が四魂かけらの気配さがすんだ」 (!) あたしは何・・・? 耳の奥で聞こえる・・・ 訴える心 「・・・ごめん・・・。犬夜叉・・・。今はほおっておいて・・・!!あんたの 顔見たくないのよッ!!!」 「ごめんって。あ、かご・・・っ」 犬夜叉の言葉を断ち切るように・・・ かごめは井戸の底に ・・・消えた・・・ 「かごめ・・・」 かごめの気持がわからない (戻ってくるかわからないって・・・。かごめ・・・) かごめに拒絶されるかもしれないという恐怖心が 犬夜叉を井戸の向こうへ追いかけようと焦らせる。 (触られるのが嫌なくらいにオレが嫌いだってのか・・・。嫌いになったのか・・・) 「行くな。犬夜叉」 犬夜叉の腕を掴んで止めたのは珊瑚。 「離しやがれ。珊瑚。お前には関係ねぇだろ!」 「関係ある!かごめちゃんはあたしの大切な親友だ。だから関係ある」 「けっ・・・。かごめの奴、戻ってこねぇかもなんていいやがって・・・。 そんなことオレがさせ・・・」 珊瑚はぎろっと犬夜叉を睨んだ。 「な、なんだよ・・・」 「・・・。かごめちゃんを失いたくないなら・・・。今は行くな・・・!」 「なっ・・・」 「今まで・・・。何度も桔梗のことで思いつめてたかごめちゃん・・・。そのかごめちゃんから あんたは”自分の心に冷静になる”時間まで取り上げるつもりか!??」 「・・・!」 珊瑚の言葉に 犬夜叉の手が井戸から離れた・・・ 「・・・。葛藤してるんだよ。何度も何度も何度も・・・。それ度に かごめちゃんは一人で乗り越えようと 自分の中で昇華させようと必死になんだ・・・」 「・・・」 「犬夜叉。あんただって・・・。そういう時間・・・。あった方がいいんじゃないのか・・・?」 「・・・」 「・・・あんたにもあんたの迷いや苦しみがあるだろうけど・・・。」 井戸の底を じっと見下ろす犬夜叉に告げる珊瑚は・・・ 静かに小屋に戻った・・・ (・・・かごめ・・・) ポツ・・・ ポツ・・・ 夕立か・・・ 雨が犬夜叉の衣を濡らす・・・ (・・・。かごめ・・・。戻ってこねぇのか・・・?オレのそばにいるのも・・・嫌になったのか・・・?) ”触らないでよッ!!!その手で触らないでよ・・・っ” かごめの振り払われた手を じっと見る・・・ あのときの あの かごめの 目・・・ 「・・・触られたくないほど・・・。嫌だったのか・・・?」 かごめの手が打たれた頬が・・・ 熱く 痛む・・・ 熱がこもった頬に手を当ててみる・・・ 「・・・痛てぇ・・・」 違う・・・ 本当に痛いのは・・・ 「・・・心臓が・・・痛てぇ・・・」 激しく打ち付ける雨・・・ 滅多に流さない 犬夜叉の頬を伝う涙を・・・ 隠すように 冷たく犬夜叉の心に突き刺すように・・・ 降り続ける・・・ 濡れる犬夜叉を 白童子が不適な笑みを浮かべて見下ろしていた・・・