絆を探して
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”あんたの顔なんて見たくないのよッ” つめたい瞳・・・ ”触らないで・・・ッ!!” 突き放された・・・ ”帰って来るか・・・わからない・・・” 突き放され・・・ かごめは消えた・・・ (・・・力が・・・。ハイらねぇ・・・) 楓の小屋のそばの木の上で ただ遠い目をしている犬夜叉・・・ かごめの激しい拒絶に ただただ 衝撃が思考を止めていた・・・ 「・・・近くで妖怪騒ぎがあるのだが”あれ”は使い物にならんな」 弥勒が呆れ顔で犬夜叉を見上げている。 「ほっとけばいいんだよ。たまにはいい薬だ。かごめちゃんなんてもっと・・・」 「珊瑚・・・」 唇を噛み締める珊瑚。同じ女としてそれから同じ女癖の悪い男を持って かごめの気苦労は痛いほど分かる。 「でも本当に・・・。かごめ様が戻ってこなかったどうするんだ」 「其のときはそのときだよ・・・。誰もかごめちゃんをこの時代に強制的に 止めておく権利なんてないんだから・・・」 「まぁ・・・。そうだが・・・。やはり・・・。犬夜叉次第ということか・・・」 心配そうに 弥勒と珊瑚は犬夜叉を見上げていた・・・ それから弥勒たちはふもとの妖怪退治に出かけ・・・ 犬夜叉は夕暮れまで ぼんやり・・・ 体に力が入らない犬夜叉。木の上で 寝転がっていた・・・ (・・・!?この匂い・・・!??) 一番憎い邪気と匂いを感じ犬夜叉は地に降りて 鉄砕牙を構えた。 「・・・。いるんだろ・・・!?出てきやがれ・・・!!!」 ザワッ・・・。 木々がざわめく・・・ 姿を現したのは・・・ 「ククク・・・。いい様だな。犬夜叉。惚れた女に愛想をつかされたか」 「・・・白童子・・・!!」 結界と共に白童子が不適に笑って姿を現した・・・ 「てめぇ・・・ッ!!何しにきやがった・・・!!」 「・・・ふっ。ちょっと暇だったんでな・・・。かごめの心をいじくってやった」 「なっ・・・」 不適に・・・ 不気味に嘲笑う・・・ 「て・・・。てめぇ・・・ッ」 「桔梗の式神の幻を少しお前に見せたら・・・。ふっ。まるで釣のえさのように お前はくらいつき・・・。かごめもついてきた・・・」 犬夜叉は確かにあの滝に行った。 だが桔梗の姿はおらず・・・引き返してきた・・・ 「・・・何もかもてめぇの仕業か・・・ッ!!!」 「色恋とは人間を一番狂わせる感情・・・。 かごめに少しばかり桔梗とお前の逢引の幻を見せたが ワシは何もしとらん・・・。お前達が勝手に振り回されているだけだろう」 犬夜叉は奥歯をぐっと噛み・・・ 「人の心を弄びやがって・・・ッ。てめぇらは・・・ぁああ!!」 怒りとともに鉄砕牙は風の傷を放つ・・・!! だが白童子の結界は風の傷を跳ね返す・・・ 「・・・ふっ・・・。かごめに見切られた男の八つ当たりか・・・。人間とは 本当に無様だな」 「やかましいッ!!!かごめは帰って来る!!!奈落やてめぇらの 思うようになるものかッ!!!」 「・・・どうだかな・・・。貴様の心に桔梗の影があるかぎり・・・。かごめの 葛藤も続く・・・。かごめの心の闇が消えることはない・・・」 「やかましいッ!!!!消えうせろッ!!!」 に発目の風の傷も かわされてしまう・・・ 「・・・。かごめは帰って来る・・・!絶対に帰って来るんだ・・・!!!」 「どうかな・・・。犬夜叉・・・」 「なッ!!!!」 「桔梗の生まれ変わり・・・。都合がいいだろうな・・・。 貴様の痛みを解消するには 格好の女だ・・・」 犬夜叉の心を逆撫ですることを 白童子はいい続ける・・・ 「・・・。だが所詮貴様にとってかごめは”二番目”・・・。 そうじゃないのか・・・?ククク・・・」 「くだらねぇことほざくなぁあッ!!!!うるぁああああッ!!!!」 ザンッ!!!! 白童子の長刀と鉄砕牙がぶつかり合う・・・! ギリ・・・ 刃ごしに睨みあう・・・ 「・・・ふっ・・・。犬夜叉よ・・・。どんなにお前が否定しても・・・。 かごめの苦しみは終わることがないだろう・・・。お前のそばにい続ける限り ”自分は二番目の女”だとな・・・」 「うるせぇ・・・っ」 「・・・かごめの心を壊すのは・・・ワシではない。かごめに甘えているお前だ・・・」 (・・・!) ヒュン・・・ッ!! 一瞬の犬夜叉の隙をつき、白童子は結界を再び張り 空高く舞い上がる 「ま・・・待ちやがれッ!!!!」 「犬夜叉よ・・・。精精考えるがいい・・・。ふっ・・・。いかに 自分がかごめを傷つけているか・・・」 「うるせぇえええッーーーーーーーッ!!!!!」 ザンっ!!! 放つ風の傷も 「ククク・・・」 白童子の嘲笑いと共にかわされる・・・ 「・・・さぁて・・・。かごめは帰って来るか・・・?ククク・・・。お前達人間の くだらない愛憎劇を見物させてもらうとするか・・・ククク・・・」 嘲笑いながら白童子は・・・ 空に消えていった・・・ 「・・・クソガキが・・・」 ”貴様にとっては二番目の女だろう・・・?” (違うッ!!!かごめはかごめだッ・・・!!そんなこと 露とも思ってねぇ・・・ッ!!) ドン!! 拳を地面に打ち付ける・・・ 白童子の言葉を消すように・・・ ドン!! ドン・・・ッ (違う・・・っ。オレにとってかごめは・・・。かごめはただ一人の・・・) ”犬夜叉・・・” (一人しかいねぇ・・・ッ。いねぇんだ・・・ッ!) かごめの笑顔が 犬夜叉の心を照らす・・・ だが・・・ お前が思わなくてもかごめはそう思うのだ・・・。貴様の心に桔梗の影がある限り・・・ (・・・!) 地面を打ちつけていた犬夜叉の拳が・・・とまった・・・ (オレが思わなくても・・・。かごめは・・・) ・・・かごめの心を壊すのは・・・ワシではない。かごめに甘えているお前だ・・・ 白童子の言葉が締め付ける・・・ (オレは・・・オレは・・・) かごめを想うほど求めるほどかごめが苦しむ・・・ あの井戸に今すぐにでも入って かごめを迎えに行きたい。 けれど・・・ (・・・オレがかごめを苦しめる・・・。オレが・・・) 行っちゃいけない。 少なくとも今はまだ・・・ (かごめ・・・) あの優しい匂いが恋しい・・・ 犬夜叉の心は優しい匂いを風の中・・・ 探していた・・・ 「・・・ねぇちゃん・・・。降りてこないね。ママ」 「・・・そっとしておきましょ・・・。それが優しさよ」 コチコチ・・・ 夕食にも手をつけず・・・ かごめはただベットに 顔を伏せたままだった・・・ ”あんたの顔なんて見たくないのよ・・・!” ”触らないでッ!!!” ”・・・戻ってくるか・・・わからない・・・” (あたし・・・。犬夜叉に酷いこと言った・・・。犬夜叉は悪くないのに・・・) 枕をギュッと掴むかごめ・・・ (でも・・・。あのまま犬夜叉のそばにいたらあたしもっともっと 酷いこと言ってた・・・) 『桔梗・・・』 まだ耳の奥で残ってる・・・ 吐息のような犬夜叉の声・・・ (・・・あたしって・・・。本当に・・・。何もわかってなかったのかもしれない・・・) 桔梗に対する態度と自分に対する態度の違いに 嫉妬して・・・ (・・・まだまだなのかな・・・。私は・・・。私は結局・・・) ”所詮生まれ変わり・・・” バフ!! 枕を壁になげつける・・・ (・・・。何小さなことに拘ってるんだろう・・・。あたしは・・・。あたしなのに・・・) 自己嫌悪と 納得の狭間で揺れる・・・ (・・・頭の整理がつかない・・・。”応え”が見つからない・・・) 今は・・・少し時間が欲しい・・・ 寝転がるかごめ・・・ コンコン。 ママが受話器を持って入ってきた 「かごめ、お友達から電話かかってるんだけど・・・。どうする?」 「・・・ううん・・・。出る・・・」 受話器を受け取るかごめ 「もしもし・・・」 「あ・・・。かごめ?」 同級生の和美だった。 声が元気ない・・・ 「あの・・・。ちょっと話したいことがあるの・・・。うちに・・・。泊まりにこない?」 「え・・・」 「あ、い、嫌ならいいの。無理じゃなかったら・・・」 (・・・。部屋で一人でいたら息が詰まりそう・・・) 「ううん・・・。行く。今すぐ行くよ・・・」 かごめは受話器を置き支度をする・・・ 「あれ?かごめねーちゃんどこいくのさ」 「・・・友達の家。しばらく泊まってくるから・・・」 「犬夜叉の兄ちゃん来たらどうするのさ?」 かごめの肩が一瞬震えた。 「・・・。しばらく会えない・・・って行っておいて・・・。じゃ」 バタン・・・ (かごめ姉ちゃん・・・) かごめの声のトーンの低さに 今回の二人のケンカはかなり尾をひくのかも・・・と草太は思った・・・ (・・・はっ・・・) 犬夜叉、我に返るとやっぱり来ているのは井戸の前・・・ (・・・ったくオレは・・・) 離れても 無意識に井戸の向こうへ心だけは飛んでいってしまう・・・ 砂漠でオアシスを探すように 乾いた咽を潤したいように わかりきった理屈など無意味で だた・・・ あのぬくもりを あの声を あの笑顔を 求めて止まない・・・ 「かごめ様に会いたくて・・・我慢できないか」 「!み・・・弥勒・・・」 腕を組んで犬夜叉を見下ろす弥勒。 「べ・・・別にオレは・・・っ」 「・・・今回の二人のケンカはちと深刻だと珊瑚が気にしていてな・・・。様子を見に来た」 「関係ねぇだろ。ひっこんでろよ・・・」 「・・・ふぅ」 呆れ顔で弥勒はしゃがんだ。 「犬夜叉。お前、かごめ様を抱きしめたことがあるか?」 「なっ・・・(照)なんだよいきなり・・・」 「・・・おなごに愛の言葉をお前が囁けるほど伊達男ではないのはわかっているか・・・。 溢れそうな気持ちをつたえるのは抱擁が一番」 「ば。馬鹿いってんじゃねぇよ。てめぇじゃあるまいし・・・。それにな。 そんな簡単じゃねぇんだ。簡単じゃ・・・」 俯く犬夜叉に二度目の深いため息をつく弥勒。 「・・・。お前はいつもかごめ様に抱きしめられているようなものだろ」 「は・・・?」 「いつも隣でお前の心を包んでいる・・・。八つ当たりされても 弱音を吐かれても・・・。じゃあかごめ様の心は誰が包んでやれるというんだ・・・?」 「・・・。けど・・・。アイツは・・・。オレがいることで・・・。 嫌な想いを・・・」 ”お前がそばにいる限りかごめは・・・” 白童子の言葉が過ぎる。 「・・・。有言実行。とにかく行って来い・・・!」 ドン! 犬夜叉の背中を弥勒は足蹴りして井戸へと送り出す・・・ 「・・・ったく・・・。世話のかかる奴だ・・・。でもま・・・。素直になれないというのは それだけかごめ様に惚れているということなんだがね・・・」 長く共に旅してきた仲間たち 信じられる友・・・ 辛い恋だけど 別れては欲しくない・・・ (出逢ったのだから・・・。皆・・・出会えたのだから・・・) 弥勒は切なげに井戸の底を見つめていた・・・ (・・・。ど・・・どんな顔で入ればいいんだ・・・) かごめの部屋の窓の目の前まで来ているのに 手が震えて窓が開けられない・・・ 『かごめ!お前が見たのは白童子の幻だ!だから気にすることねぇんだ!』 (・・・なんか。説得力にかけるな) ”触らないで・・・ッ!!” ”顔も見たくないのよッ!!” (んなこと言われたのに・・・。アイツはオレの顔みたらまた 嫌な気持ちになる・・・) どうしても一歩踏み出せない犬夜叉・・・ ガラガラッ。 (わあッ!!!!) 突然窓が開いてかなりビビる犬夜叉・・・ 「犬の兄ちゃん。何してンの?」 「・・・な・・・なんだ。お前か・・・」 心臓がバックンバックン鳴っている・・・ 「・・・かごめお姉ちゃんならしばらくいないよ」 「ど・・・。どこ行ったんだ」 「友達の家」 「・・・そ、そうか・・・」 少しほっとしてしまう犬夜叉・・・ 犬夜叉はすたっとかごめの部屋に入り、どすっと座る 草太は尋ねる。 「今度のケンカはなんかシリアスそうだよね」 「・・・べ、別に・・・っ」 子供に見抜かれ、犬夜叉二の句がない。 「・・・かごめ姉ちゃん・・・。言ってたよ・・・」 「え・・・?」 「『しばらく一人でいたい』って・・・」 「・・・」 ポテトチップをぱりっと食べる草太。 「・・・何があったか知らないけど・・・。姉ちゃんあんまり 悲しませないでね。兄ちゃん・・・」 「・・・」 草太の言葉が重くのしかかる・・・ 「草太ー!ちょっとお手伝いしてー!」 ママの呼ぶ声に草太はパタパタとスリッパを鳴らして下に降りていった・・・ (・・・) かごめの部屋に一人きり・・・ 求めて止まない 大好きな匂いが ベットから 机から 部屋全部から感じる・・・ 帰った方がいいとわかっていても (・・・ずっとここにいたい・・・) 安心できる ここから離れてしまうと かごめにもう会えない気さえする (・・・オレ・・・。こんな・・・ヤワな男だったか・・・?) 隣にかごめがいないと 世の中の終わりが来た様に 哀しい・・・ (オレがかごめを傷つけているのに・・・) 干したてのシーツに頬をよせる・・・ (かごめ・・・) 日向へ・・・ 暗くて冷たいところから日向へ来たみたいだ 体全身にかごめの匂いを染み込ませるように ベットに横になっていた・・・ ・・・”お前のそばいる限りかごめの苦しみは続く。お前の苦しみを背負ってなー・・・” (・・・!!) 白童子の言葉が 犬夜叉の心を戒めるように 響いた・・・ (・・・そうだ・・・。オレは・・・。オレは何をやってんだ・・・) かごめの部屋で 大好きなかごめの匂いに 包まれ 夢見心地になって・・・ ”かごめに甘えるだけしかできない男か。所詮・・・” 白童子の言葉に流されるわけじゃないけれど・・・ (かごめを連れ戻しに来て・・・。オレの方が癒されてどうするんだ・・・) 「・・・オレは・・・。どうしようもねぇ奴だ・・・」 部屋を見渡す犬夜叉・・・ 考えてみればかごめの生活を 普通に送っていたはずの時間を どれだけ奪ってきたのだろう 費やさせてきたのだろう・・・ かごめの机の上の写真を手に取る・・・ (そうだ・・・。かごめは桔梗の生まれ変わりなんかじゃねぇ・・・。戦国の世で妖怪と闘う はずもなかった・・・”かごめは・・・。この時代で楽しく家族や友達に囲まれていたはずなんだ・・・) 解放しなくてはいけない。 かごめの幸せのために・・・ (かごめ・・・) 決めなきゃいけない・・・ (決めなきゃ・・・いけねぇんだな・・・)
別れを
深く 深く俯く犬夜叉・・・ キィ・・・ 「あれ・・・?犬の兄ちゃん・・・もう帰るの・・・?」 無言で出て行こうとする犬夜叉。 「待ってよ!!かごめ姉ちゃんに・・・会わなくていいの・・・!??」 「・・・かごめに伝えてくれ・・・」 「え・・・?」 「・・・さよならと・・・」 「え・・・!??」 シュッ!! 草太の声から逃れるように 犬夜叉はかごめの部屋から飛び降り 井戸に向かった・・・ (・・・かごめ・・・。ごめんな・・・ごめんな・・・) 言葉にならない想いを抱え 犬夜叉は 井戸の向こうの自分の世界に・・・ 還った・・・