絆を探し求めて
〜白い羽根が舞う頃〜
第10話 姿無き恋しい人
かごめが座っていた場所
匂いが・・・消えてしまった・・・。
だが犬夜叉は其処からどこうとしない。
(・・・きっと来る・・・)
どうしてだか
確信があった。
・・・もう一度会えると・・・。
「・・・犬夜叉のお兄ちゃん・・・」
翡翠が犬夜叉を心配そうに様子を伺っている。
「・・・きっと・・・来るよ。きっと」
「・・・翡翠」
翡翠のあどけない笑顔・・・
(翡翠の方がずっと大人だ・・・俺は・・・全然駄目だ・・・)
かごめの匂いを求めながら
心の記憶の中の初恋の人は色あせず・・・
ゆれ続ける。
永遠に揺れ続ける想い。
初めての恋とそして未来の恋。
揺れ続ける
そして悩み続ける。
悩み続けながらも
会いたい人を待つ・・・
何が正しいのか 何が悪いのか
分からないけれど・・・。
「きっと来るよ。きっと」
「・・・ああ・・・そうだと・・・いいな・・・」
たった一つのことを
疑わず迷わず・・・。信じきる翡翠の純粋さ。
この真っ直ぐさがあったなら
桔梗をじんじられたかもしれない、
かごめと別れずにすんだのかもしれない。
でも・・・
”かもしれない”はかもしれないだけの・・・
架空の現実。
(・・・今、のオレは・・・ここで・・・待つこどだけだ・・・)
不誠実だと自覚しつつも
優しい匂いを求めてさまよう・・・自分を受け入れていく。
・・・一日・・・
・・・二日・・・
かごめの匂いが消えてしまっても
犬夜叉は只管に待つ・・・
・・・只管に・・・
「・・・犬夜叉のお兄ちゃん」
「ん・・・翡翠か・・・?」
いつのまにか眠ってしまっていた・・・
「・・・今夜・・・。会えるよ」
「え・・・?」
声が・・・違う・・・?
”会えますよ・・・きっと・・・”
(この声は・・・)
「翡翠、お前、今・・・」
「え?なあに?」
「いや・・・。なんでもねぇ・・・」
聞き覚えのある低い若い男の声は・・・
(・・・風・・・馬・・・?)
一瞬聞こえた声の通り・・・
その日の夜は・・・満月。
(・・・会えるって・・・。ホントかよ)
聞き間違いでも今は信じてみたい。
(星が・・・すげぇな・・・)
百億の星。
黒い画用紙にきらきらの金色の粉をちりばめたような
星が舞う空・・・
何度も一緒に見たっけ・・・。
同じ空。
きっと500年後の空も・・・
「・・・綺麗だよね」
(!?)
ご神木の向こう側から
聞こえたのは・・・。
(・・・か・・・か・・・)
聞き間違いじゃない。
幻じゃない
(かご・・・め・・・)
緊張のあまり
犬夜叉の手が震えた
「・・・どうしたの・・・?何か・・・喋ってよ」
「しゃ・・・しゃべってって・・・」
6年ぶりのかごめの声
かごめの・・・匂い。
間違いない 幻じゃない
「・・・。みんな・・・元気?」
「あ、ああ・・・」
「珊瑚ちゃん・・・またお母さんになるんだね」
「あ、ああ・・・」
緊張する
こんなに緊張したことはない
「・・・あんたも何か・・・話してよ」
「・・・。か、顔・・・。見せろよ・・・でないと何はなしていいか・・・」
顔が見たい
大好きな・・・
笑顔が見たい。
「・・・ごめん・・・それは無理なの・・・」
「ど、どうして・・・っ」
「・・・。お願い・・・。今は何も聞かないで・・・。このままで・・・」
かごめの切羽詰った声に犬夜叉はそれ以上聞けない・・・
聞くと
かごめの消えてしまいそうで・・・
「・・・あれから・・・5年半たったね」
「お、おう・・・」
「私は・・・二十歳になって・・・。年をとったよ。ふふ」
「・・・ばっ・・・。年なんか関係ねぇよ。お前はお前だ」
「ありがとう」
顔を見ないで話す・・・
かごめの笑顔が見たい
笑顔を目の前でみたい
抑えられない想い・・・
「・・・お前こそ・・・元気なのか?」
「うん」
「・・・そうか・・・」
(・・・男とか・・・いるのかな)
6年近く・・・。自分の知らなかった時間がかごめに流れている
「・・・犬夜叉・・・。星・・・。変わってないね・・・」
「あ、ああ・・・そうだな・・・」
雑談なんていい。
すぐ後ろにいるかごめの顔がみたい。
後ろに走ってかごめを抱きしめたい。
駆け巡る想い。
「・・・かごめ・・・。そっち・・・行っていいか」
「駄目。それは・・・」
「なんでだよ!お前・・・やっと来られたんじゃねぇか!!なのにこんな・・・」
「・・・」
”羽根の奇跡は一度だけ・・・”
会ったら・・・それっきりになるかもしれない。
すぐに消えてしまうかもしれない
(それに私はもしかしたら・・・)
黄泉の国へ行ってしまうかもしれない。
「・・・。ご神木・・・一回やけちまったんだ、デモ・・・また
新しい芽がでてきて・・・」
「うん・・・知ってる・・・」
「ご神木が育ったら・・・。お前に会えるって。きっと会えるって
信じてきたんだ。なのに・・・なのにこんなのってあるかよ!!」
「・・・だ、駄目・・・!!駄目だって場・・・!!」
犬夜叉はとうとう我慢できず、
立ち上がって反対側へと歩いた。
ザワ・・・
反対側には・・・
5年前と変わらない・・・
15歳のかごめの姿が在った
「・・・。変わってなんて・・・ねぇじゃねぇか・・・。何も・・・」
手を伸ばせば、すぐ抱きしめられる。
「・・・こないで・・・!」
俯いて顔を隠すかごめ・・・
「・・・どうして・・・」
「・・・。一回きりかもしれない・・・。これが最後かもしれない・・・」
「最後って・・・」
押し黙るかごめ・・・
もしかしたら。
”生”の世界から離れなければいけない運命かもしれない。
「・・・言ってる意味がわからねぇ・・・。ちゃんと・・・
ちゃんとオレの顔見て話せよ・・・ッ!」
犬夜叉は強引に顔を覆っていたかごめの手をつかんだ・・・
「・・・何が・・・。変わってるっていうんだ・・・」
優しい眼差し・・・
桃色の頬・・・
何も変わらない。
変わってない。
だが・・・犬夜叉はあることに気づく。
(・・・冷たい・・・手・・・?)
温度がない。
(ど、どういうことなんだ・・・)
犬夜叉の胸に実に嫌な不安が過ぎる・・・。
「・・・かご・・・め・・・お前・・・?」
「・・・お願い・・・。何も・・・。何も聞かないで・・・。お願い・・・。
お願い・・・」
泣きいて請うかごめ・・・
なんで再会できたのに
なんでそんな悲しい顔をしてるんだ
なんでそんな苦しそうな顔してるんだ・・・
「かごめ・・・お前・・・どうしたってんだよ・・・?どうなってるんだよ・・・?
なんでこんな・・・冷たい体なんだよ・・・?」
「・・・犬夜叉・・・」
生気がない・・・
優しい匂いはするのに・・・
「・・・お前・・・お、お、お前・・・」
冷たいからだ
恐ろしい現実が
犬夜叉の脳裏に浮かび・・・
手も足も
震えだした・・・
「・・・。う、嘘・・・だろ・・・?」
「・・・。犬夜叉・・・」
「お・・・お前は生きてるよ・・・。ピンピンしてよ、向こうの世界でよ、
元気に・・・」
「・・・」
「げ、元気に・・・生きて・・・いきて・・・るはず・・・だろ・・・」
かごめは・・・
犬夜叉から視線をそらしたまま・・・
頷かない・・・
「・・・う、嘘・・・言うな・・・」
「・・・ごめん・・・」
ドサ・・・ッ
犬夜叉は・・・足の力が抜けて・・・
座り込んだ・・・
「・・・じゃ・・・じゃあ・・・。今・・・目の前に居る・・・お前は・・・お前は・・・」
「・・・ごめん・・・ごめんね・・・」
「冗談じゃねぇよぉおおお!!馬鹿なこと・・・!!お前は目の前に
いるじゃねぇか!オレの目の前に・・・!!」
かごめを引き寄せ
確かめる
(温かいはずだ!つめたくなんかねぇ!!あったかいはずだ!!)
「お前は生きてる・・・!!あったけぇはずだろ!?」
犬夜叉はかごめの手を何度も何度も擦る
「あったかけぇはずだ・・・あったけぇはずだ・・・」
「犬夜叉・・・いいから・・・」
「よくねぇえ・・・お前は生きてる・・・生きてるに決まってだろ・・・
生きてる・・・生きてる・・・」
犬夜叉は・・・
狂ったように
かごめの手を擦る
擦る
擦る・・・
でも
その手は
生きている人間の温みはなく・・・
「・・・もういい・・・。もう・・・」
「うるせぇええ!お前は生きてる生きてる生きてる生きなきゃ
いけねぇんだよ・・・!!」
「・・・いいの・・・。私は・・・。もう・・・」
(!!)
掴んだかごめの手が・・・
透けている。
「・・・。いかなくちゃね。そろそろ・・・」
「い、いくって・・・」
”どこへだよ”
そんな場所
聞けるはずがない
「・・・ごめんね。本当はあんたに会いにきちゃいけなかったのに・・・」
「な、何言って・・・」
「・・・。ごめんね・・・」
(かごめ・・・!)
消えていく
言いたいこともまだたくさんあるのに
消えていく
「なんでお前が・・・っなんで消えるんだよ!?」
「・・・ごめんね・・・」
引きとめようと腕を掴んでも
掴めない。
すりぬけて 薄れていく・・・
「・・・犬夜叉・・・私ー・・・」
「待っ・・・」
容赦なく
余韻も残さず
かごめの体は・・・
跡形もなく・・・
消えた・・・
「・・・か・・・ごめ・・・」
(今のは・・・。幻だ・・・。ただの夢だ・・・)
夢であってほしい。
でも・・・
犬夜叉の手のひらには羽根が2枚
確かに在る・・・。
「・・・誰か・・・。教えてくれ・・・」
幻なのか
そうじゃないのか
「・・・どうやったら・・・。かごめの世界にいけるんだ・・・
誰かおしえてくれ・・・」
かごめの生を確認することも
できない・・・
「・・・こんな・・・。こんな・・・」
せっかく会えたのに
5年待ったのに
なのに・・・
(かごめが・・・死んでるかもしれねぇなんて・・・!!!それも
確かめられないなんて・・・!!!)
哀しめばいい・・・?
どうしろと言うんだ・・・
「わぁあああああ!!!」
ドン!!
ご神木に拳をぶつける犬夜叉・・・。
ドン!ドン!!
(これが・・・。”罰”なのか・・・?)
二人の女を同時に心に止め、
中途半端な心の自分に甘んじていた。
そして・・・
救えなかった・・・
何一つ・・・!!何一つ!!
「くそぉおおおお!!!誰か!オレを殺せ!!!
オレの命をくれてやるから・・・!!かごめに!!桔梗に・・・!!
幸せな人生を・・・!!幸せを・・・与えてやってくれ!!!」
ドン!!ドン!!!!
ご神木を強請る・・・
何度も
何度も・・・
5年掛かって
育てたのに
(・・・もう・・・どうでもいい・・・何もかも・・・)
この体が塵になればいい。
白い羽根の白さがまぶし過ぎる・・・。
犬夜叉の中の
希望の羽根も
消えた・・・。