絆を探し求めて
〜白い羽根が舞う頃〜
第11話 信じることが奇跡
「かごめ!!かごめ!!」
(・・・ママ・・・?)
自分の名を泣き叫ぶ声が聞こえる
「目を開けなさい!!帰ってきなさい!!」
(ママ・・・)
真っ黒い空間が・・・
消えていく。
見えてきたのはタイル張りの天井とライト・・・
その瞬間・・・
確かな現実の感触が肌に
音に
匂いになってかごめに伝えていく。
「・・・かごめ・・・!」
「・・・マ・・・マ・・・」
「よかった・・・。もう・・・。どこかにいっちゃったかと
思ったじゃないの・・・」
手を握りしめ
安堵の息をつく母・・・
「・・・何度も何度も呼んだのよ・・・」
「ママ・・・」
「一体・・・どこにいっていたの・・・」
「・・・どこ・・・だろう・・・」
”想いを伝えておいで・・・”
聞き覚えのある声に誘われて・・・。
500年前に行っていたのかな・・・
「もう・・・どこにもいかないでね・・・。約束よ・・・」
かごめの手を何度も握り締める・・・
「・・・ママ・・・。ごめんね・・・。もうどこにもいかないから・・・」
かごめの頬から流れる一筋・・・
母の想いが伝わってきたことと・・・
それから・・・
”君の想いを伝えておいで・・・”
想いを伝えきれなかった
後悔・・・が入り混じった涙・・・
暫く止まらなかった・・・。
かごめが意識を取り戻してから一週間。
意識は取り戻したというものの右足と左手を骨折しており
これから
「・・・。あっちこっち・・・。包帯だらけ」
「命があればまるもうけ。神様に感謝しなさい。はいりんご」
かごめのママがつまようじにりんごをさして
口元まで持っていく。
「体力つけなくちゃね。そして早く歩けるようにならなくちゃ」
「ふー・・・そうだね。よし!!」
かごめは起き上がろうとした。
「馬鹿!あんた骨折してんのよ。もう」
「あははは・・・。そうだった」
大怪我を負った体。
笑顔がかって痛々しい・・・。
かごめはリハビリを文句一つ愚痴一つ言わず
励んだ
かごめは常に前向きさを忘れない。
周囲に心配かけまいとする。
「よしもう少しがんばる!」
手すりにつかまって重々しいギプスにをひきづって
立ち上がる。
(・・・立ち上がれても・・・。心はどうなの・・・?)
かごめの頑張りが・・・かえって心配だ・・・
(誰か・・・。心の支えになる誰か・・・そばにいてくれたら・・・)
赤い衣の少年がママの頭に浮かぶ。
ガタン!
「あっ、かごめ!」
床に転ぶかごめに駆け寄る母・・・。
「だ、大丈夫・・・?あんまり無理しないで・・・」
「無理なんて・・・。ふふ。早く一人で歩けるようにならなくちゃ。
私、丈夫だけがとりえだからね」
かごめは母の手を借りずにひとり・・・
松葉杖を支えに立ち上がる・・・。
「あ・・・っ」
松葉杖の先ががすべりかごめもまた転倒。
「えへへ。人はね、転んだ分だけ起き上がる力が
つくってもんだよ。ママ。」
倒れても倒れても
笑顔を絶やさない。
その強さがかえって・・・。そばに居る人間には痛々しく見える。
(かごめ・・・。強い子なのは嬉しいけれど・・・。
弱くてもいいのよ・・・)
母の想いを感じつつも
かごめは自分の中にある、底力をふりしぼる。
振り絞りたいのだ。
(・・・生きてる人間は・・・。生き続ける努力をしなくちゃいけないの・・・)
数多の命が消えていったことか。
異世界の出来事だとしても数多の命が消え、その意味すら示せなかった
命も・・・。
(・・・みんなの分も生きなくちゃ・・・。一秒でも無駄に
思っちゃ駄目。生きて、痛みを感じて・・・。それを抱いて生きていくの)
会いたい人がいる。
誰かに会いたい、そう、希望が持てる。
会えないことが分かっていも
毎日を懸命に生きていれば
いつか”奇跡”も・・・。
奇跡は偶然起きるものじゃない。
自分で起こさせるものだ。
「・・・いつまで腑抜けの顔をしてるんだ。犬夜叉」
ご神木にもたれ、気の抜けた犬夜叉・・・
弥勒が鍬(くわ)を持って犬夜叉を見下ろす。
「・・・井戸を作る。お前も手伝え」
「井戸・・・?」
「ああ。お前が壊した場所にもう一度井戸を作るんだ」
「・・・。そんなもん作ってどうすんだよ」
自暴自棄の犬夜叉。
かごめの生死が確かめられない
桔梗の魂にも誓い切れない半端な自分に
嫌気が差してどうしようもなかった。
「翡翠のやつがな・・・言うんだ。もう一度井戸を作って
かごめ様の国へいけるんじゃないかって。夢で”誰か”が言っていたと」
「ガキの夢に振り回されてたまるか・・・。ほっといてくれ。
オレなんか・・・」
ガ・・・ッ!!!
弥勒の拳が犬夜叉の右頬を強打した。
「・・・何発でも殴ってくれ・・・。俺なんかどうでも・・・」
「一発で十分だ。犬夜叉。どうしてお前はいつも動かない」
「・・・」
「お前が動かなくてもオレは動くぞ。娘の夢を信じたいからな、
オレは」
弥勒は鍬を担ぎ、井戸の跡を掘り出す・・・。
(・・・井戸なんて・・・いみねぇ・・・)
ザく・・・。ざく・・・。
土を掘る音が空しく響く・・・。
「・・・犬夜叉・・・。お前・・・。かごめ様から教えてもらったんじゃないのか・・・」
「何をだよ・・・」
「・・・最後まで・・・。諦めないこと・・・」
「・・・」
ザク
ザク・・・
「・・・希望を捨てないこと・・・。お前は一人じゃないということ・・・」
弥勒の言の葉が・・・
かごめの言葉に聞こえてくる・・・。
かごめと共に過ごした時間。
かごめから教わったこと
伝わったこと・・・
”奇跡っていうのは・・・自分で作るもの”
「・・・犬夜叉・・・。かごめ様に会いたいのはお前だけじゃない。
オレも・・・珊瑚も・・・みな会いたいんだ。だから信じる。
根拠のないことでも信じる・・・」
ザク・・・
ザク・・・
土を掘る音が
犬夜叉の心の奥の重みをえぐる。
「・・・信じるんだ・・・。信じて・・・。信じぬく・・・」
「弥勒・・・」
結果が分かっていても
信じることをやめてしまえば
そこで本当におしまい。
奇跡は待つものじゃない。
弥勒が持っていた鍬を犬夜叉が手に取る。
「・・・そんなへっぴり腰じゃ・・・。ほれねぇだろ」
「・・・犬夜叉・・・」
ザク・・・
ザク・・・
土を掘り起こす・・・
掘って掘って掘って
底まで掘れば
かごめの時代に繋がる
繋がるのかわからない。
でも・・・
”信じることをやめちゃ・・・駄目だよ。何時でも・・・。
人を・・・自分を・・・”
(・・・かごめが残した言葉・・・。オレが信じないでどうするんだ・・・)
”生きて・・・生き続けて・・・。命を失ってしまった人たちの心を
忘れないで・・・”
(オレは・・・。桔梗の心と桔梗が生きていた証を伝えていく・・・。
生きて・・・。生きて・・・)
ザク・・・
一堀りひと堀り・・・
この一堀りを信じる・・・
自分の生き様を
生き方を
諦めてはだめだ・・・
”自分の居場所は・・・。自分で見つけて・・・。
自分を信じて・・・。そしてそばに居てくれる人達を信じて・・・”
思い描く結果が出なくとも
信じてやりぬく心を持ち続けよう。
だって奇跡は・・・
(・・・自分で作るものだ・・・)
どれだけ掘っただろうか・・・
彫り上げた土が山になり・・・。
犬夜叉は掘った底で上を見上げる・・・
(青い・・・空だな・・・)
きっとかごめも・・・同じ空をみているに違いない。
かごめは生きている。
きっと・・・
(そう信じるんだ)
犬夜叉は夢を見た。
長い髪の・・・
あの優しい匂い。
誰かが・・・懸命に歩こうとしている
ご神木へ向かうあの長い長い階段を
誰かが登っている・・・。
(誰だ・・・?)
一直線の道を転んでは起き、コロンでは起き・・・
犬夜叉は手をさしのべようと伸ばすが
届かない・・・
”私は大丈夫・・・”
そう呟く笑顔・・・
すりむいて手のひらをパンパンとはたいて
あがっていく。
(かごめ・・・)
諦めることなく
一段、一段・・・。
一歩、一歩・・・。
(がんばれ・・・がんばれ・・・)
見つめることしか出来ない。
みまもることしか・・・
でも・・・
声はとどく
気持ちをおくりつづけることは・・・
(・・・あ・・・)
あと数段で頂上というときに・・・。
かごめは立ち止まり
後ろを振り向いた。
(かごめ・・・)
そして見せた飛び切りの笑顔が・・・
久しぶりで・・・。
ポタ・・・
「ン・・・」
空から雨が降ってくる
犬夜叉の顔にしずくが・・・
「・・・なんだ・・・。ゆめ・・・か・・・」
夢でも嬉しかった。
あんな心の底からの笑顔が見られて・・・。
掘った穴の底から空を見上げる。
重たい雲の合間から青い空が顔を出して・・・。
(きっとまた・・・会える)
信じる力が奇跡を起こす。
ただ
待っていても”何か”は始まらないから・・・。
かごめが退院した。
社に繋がる階段の手前でタクシーが止まる。
タクシーから松葉杖の先が降りる。
「かごめ、荷物は私が持つから」
「ありがと。ママ」
杖を脇に抱え、かごめがタクシーから降りる。
そして長い長い階段を見上げる・・・。
「かごめ。さ、肩につかまりなさい」
母がかごめに肩を差し出すが・・・。
「いい。ママ。自分で上がるから」
「だって・・・」
「・・・自分で上がりたいの。自分の力で歩きたいの・・・」
かごめの真剣な眼差しに母は
かごめの申し出を承諾した。
「でも・・・。苦しくなったらちゃんとママのこと呼ぶのよ。
貴方の後ろにいるから・・・」
「ありがとう。ママ」
かごめは松葉杖に力をこめて右足から
あげて登りだす・・・。
(高く・・・。長い階段・・・)
一人きりの力で上ってみせる。
階段の向こうに
待っているご神木・・・。
一度は燃えて消えたご神木・・・
(自分の力で・・・自分の足で・・・)
登ろう
階段の向こうに何かが待っているかもしれない。
自分の力で 自分の足で・・・。
「・・・よし・・・!」
右手に白い羽根をにぎしめてかごめは
一歩を踏み出した・・・。