絆を探し求めて
〜白い羽根が舞う頃〜

第12話 自分の力で 自分の心で
カツン・・・。カツン・・・。 「ハァ・・・ハァ・・・」 まだ軽めのギプスのつけている右足。 左足にじゅうしんをかけて重そうに持ち上げる。 「・・・くっ・・・」 幅が細く、足の踏み場所も狭い。 ごつごつした石の階段。 松葉杖の先が不安定になってすべる 「きゃッ!!」 左足の膝小僧をぶつけて転ぶ・・・。 「痛・・・」 擦りむけ、皮脂から血が滲む・・・。 「かごめ・・・!」 「大丈夫よ。ママ・・・自分で登るから・・・」 「でも・・・」 「お願い・・・。手を出さないで。自分の力で登りたいの」 手の甲と膝小僧の擦り傷・・・ かごめは差し出された母の手を払う・・・。 「どうして・・・。どうしてそこまで・・・」 「・・・。この階段を一人で登りきったら・・・。何かが 吹っ切れる気がするの」 自分の力で 新しい何かをはじめらるきがする・・・。 「よいしょ・・・うんしょ・・・」 かごめは松葉杖を一本だけにして、さらに一段、一段 あがっていく・・・。 長い長い階段。 まるでかごめには富士山のように果てしなく高い山のように見える。 けど・・・ (頂上のない山なんてない) ゆっくりでも登ればいつか たどりつける・・・。 「きゃッ!!」 階段に手をぐっとついてバランスを保つかごめ・・・。 後ろから見守る母はハラハラしながら 今にも出そうな手をぐっと我慢する。 「・・・大丈夫・・・」 息を切らせて母に声をかける・・・ 階段一段がこんなに 力のいることだなんて 階段一段がこんなに 大きいなんて。 (15歳の私は・・・。元気に駆け上がってたっけな・・・) 戦国の世から帰ってきて 久しぶりに行った学校。 井戸の向こうで待つ大切な人のために急いでこの階段を 駆け上がった・・・ 自分を待っていてくれる誰かがいたから・・・。 「・・・ハァ・・・ハァ・・・」 ”ちっ。遅せぇぞ・・・!” ふて腐れた顔が井戸の前で待っていてくれた。 ”早く支度しろ!!行くぞ!” あの頃の私。 15歳の自分。 「ハァ・・・ハァ・・・」 辛いこともいっぱいあったけれど 一生懸命だった 諦めなかった (・・・15歳の私に負けていられない) ”かごめ!早く来いよ・・・!” 「ハァ・・・ハァ・・・」 一歩 一歩・・・ 自分の力で 自分の心で 目の前の山を乗り越えていく・・・ (あと一段、あと一段・・・) カツン・・・ カツン・・・。 木製の松葉杖の先・・・ 最後の段に支えられ・・・ (着いた・・・!) ザワ・・・ッ!! さわやかな風がかごめの黒髪をなびかせた 「ハァ・・・つい・・・た・・・」 どのくらいの時間が掛かっただろう。 3分ほどであがれる階段を 30分かけて登った。 「はぁ・・・」 久しぶりに見る境内・・・。 どこか新鮮に見える・・・ (・・・井戸・・・) 完全に封鎖してある井戸・・・。 真っ先に行く場所はあそこだった・・・ (・・・”懐かしい”なんて・・・ちょっと変な気分・・・) 「おい」 低い少年の声にかごめが振り返ると・・・ (えっ・・・) かごめの目の前に 赤い衣が ふわっと飛んだ・・・ (ま、まさか・・・) 松葉杖を握るかごめの手が震えた・・・ 「・・・い、いぬ・・・」 「姉ちゃん!おかえり!!」 「え・・・?」 赤い布の下から草太がひょこっと顔を出した。 「へへー・・・。犬の兄ちゃんかと思った?ねーちゃん 元気だしてもらおうかと思ってさ」 「・・・あ、あんたって子は・・・」 バコン!! かごめは松葉杖で草太の背中に一発くらわせた。 「いってーな!!なにすんだよ!」 「やっていい冗談と悪い冗談があるでしょ!!もう!! 本気にしちゃうじゃない・・・」 切なく俯くかごめ・・・ 「・・・わ、悪かったよ・・・。でも・・・。姉ちゃんが一番 喜ぶことってこれかなって思ったから・・・」 「草太・・・」 弟の思いやり・・・。 かごめには痛いほど伝わっている。 「・・・ふふ・・・。あんた・・・。デカクなったよね」 いつのまにかかごめの身長を超えて 犬夜叉と同じくらいに・・・ 「犬夜叉よりおっきいかもね。ふふ」 「姉ちゃん・・・」 かごめの口から”犬夜叉”という言葉を聴くのは 久しぶり・・・ かごめの声が切なく草太の耳に響く・・・ 「草太・・・。私の中で・・・犬夜叉と過ごした時間はずっと 大切に今も心の中に在るよ・・・。だから大丈夫」 「姉ちゃん・・・」 「草太。いろいろありがとう。心配かけたよね。さ、 家に帰ろう」 かごめは草太の肩に掴まって家に還る・・・ チラリ・・・ 井戸に視線を送るかごめ・・・。 (・・・そう・・・。15歳の私は今も・・・) 一生懸命だった15歳の自分。 その気持ちは色あせることはない・・・。 「出来たぞ!完成じゃー!」 「完成じゃー!」 七宝と翡翠が完成した新しい井戸の前で万歳三唱。 「ふふ。どうですか。法師だけではなくキコリとしても なかなかでしょう」 斧を持って自信に満ちて笑う弥勒。 「ふん。合間になんぱしてたくせに。ねぇ翡翠。 こんな助平な父親いやだねー」 翡翠を抱っこして冷たい視線を送る珊瑚。 「ははは(汗)と、とにかく出来たのだからいいではないですか。 なぁ。犬夜叉」 「・・・けっ・・・。穴を掘ったのはオレだ」 いつもどおりの不貞腐れた態度・・・。 (・・・犬夜叉、調子が戻ってきたな・・・) 珊瑚と弥勒はそう感じて少し安心した。 「どーんなもんだ!犬夜叉よ!!井戸の淵はオラが 削ったんじゃぞ」 「けっ。ガキの仕事なんてあそんでるよーなもんじゃねぇか」 ドカ!と足蹴りする犬夜叉 「なにすんじゃー!!オラはな!オラはな!井戸ができれば かごめが帰ってこられると思って思って・・・」 目をうるうるさせる七宝。 「・・・。けっ。悪かったよ・・・」 「・・・。井戸は出来たけど・・・。かごめの国に 繋がっていないのじゃな・・・」 寂しそうに井戸の底をのそく七宝・・・。 「・・・けっ・・・。いいんだよ。それで・・・。 目に見えなくても・・・繋がってるからな・・・」 「え?」 「・・・んじゃ、オレはちょっと村の見回りにでもいってくらぁ」 くしゃっと七宝の頭をそっとなでて犬夜叉は立ち去る・・・ 「・・・な、なんか・・・犬夜叉が優しい・・・。ぶ、不気味じゃ・・・」 「そうか?アイツは大分丸くなったと思いますがね」 「うん。井戸、一生懸命掘ってたし・・・。たとえ、かごめちゃんの 国に行けなくても・・・。繋がっていたいんだよ」 井戸の底。 かごめの時代とは繋がっていなくても 心は繋がっていると思いたい。 犬夜叉も弥勒も珊瑚も七宝も皆・・・。 「ねぇちゃん!病み上がりなのになにしてんだ!」 松葉杖のまま、台所に立ち、皿を洗うかごめ。 「これもリハビリにうちよ。体うごかさないとね」 「だからってな、無理してんじゃねぇよ。姉ちゃんは部屋でやすんでてくれ!」 かごめから皿を取り上げる草太。 「んもー。姉ちゃんオモイナ弟は可愛いけど、動きたいの!」 皿の取り合い。 だがもうかごめよりも大きい草太の力はすごい。 「姉ちゃん!!いーから静かに寝ろ!!」 無理やり台所から追い出される・・・ 「姉ちゃんは・・・。頑張りすぎなんだよ。だから・・・休め!!いいな!」 「草太・・・」 エプロンをつけて皿を洗う・・・ 草太の背中・・・ 広くなった・・・ 頼りになる背中・・・ (・・・私は・・・一人じゃない・・・。ママも・・・おじいちゃんもいる・・・) 自分を心配してくれる、 自分を案じてくれる人がいる (草太・・・。ありがとね・・・) 弟の背中を心強く見つめていた・・・。 その夜。 「・・・」 何かを感じたのか・・・ 窓を