15話 過去を見つめて
(え・・・?)
「・・・楓・・・」
聞き覚えのある切ない声。
「楓・・・。聞こえぬか」
(え!?)
気がつくと目の前に桔梗の姿が・・・。
「楓。何をぼうっとしている」
(ちょ、ちょっと待って。楓って楓おばあちゃん!?)
かごめは水桶に自分の顔を移してみる。
少女の姿の楓がそこに・・・。
(楓おばあちゃんになっちゃってる!??)
事の展開がつかめず、楓の顔をぱちぱちとたたくかごめ・・・。
「どうした・・・。楓」
「え、あ、な、何でも・・・」
混乱する心を抑えるかごめ。
(夢じゃないわ。だって・・・。羽根がある)
白い羽根がカゴメの手に・・・
幻じゃない。
羽根が導いた世界・・・
「・・・妖怪退治は終えた。村の人々に安心してよいと伝えて欲しい」
「あ、は、はい・・・」
巫女として神々しい雰囲気が溢れる桔梗。
かごめは緊張せざるおえない。
「あ、あの・・・き・・・お、お姉さま」
「なんだ」
「えっと、あの・・・。こ、これからどちらへ・・・」
「・・・」
桔梗の表情が微かに和んだ。
「犬夜叉の所へですか?」
「・・・さぁ・・・。分からん。来ているかもしれないし来ていないかもしれない・・・。
どうだろうな・・・」
「・・・」
唯一の肉親の妹だけに見せる微笑・・・
それは恋をしている女の子の顔にかごめには見えて・・・。
「じゃあ、楓。伝言頼んだぞ・・・」
「はい・・・」
静かに森へ入っていく桔梗の後姿・・・。
好きな男の子の元へ待っていると期待して向かう・・・
(・・・普通の女の子だよね・・・)
桔梗のもう一つの顔を垣間見た気がする・・・。
かごめもこっそり後を付けてみることした。
(・・・なんか少し・・・。妬けるけど・・・ね)
森を抜け、少し広場になっている。
そこには桜の木が・・・。
(ここ・・・。私も犬夜叉とよく来た所だ・・・)
自分といたとき・・・犬夜叉はもしかしたら桔梗との思い出も
心に浮かべていたのかもしれない。
(・・・。その切なさも・・・犬夜叉の一部なんだよね。きっと・・・)
二人は少し微妙な距離を保って座っていた。
近すぎず、遠すぎず・・・。
(・・・きっとあれが二人の心の距離なんだ・・・。お互い、
近づきたいけど踏み込めなくて・・・でも遠くにいるのも切なくて・・・)
犬夜叉の孤独な心も
桔梗の恋する気持ちも・・・
かごめにリアルに伝わる・・・。
「・・・どうした。桔梗・・・。元気ねぇじゃねぇかよ」
ぶっきらぼうに言う犬夜叉。でもちゃんと桔梗の様子を気遣っている。
視線が・・・。桔梗を心配している。
「ふふ・・・。私とてただの人間・・・。疲れることもある・・・」
「珍しいな。弱音かよ」
「・・・。そうだな・・・。でも・・・きっとそれはお前の前だから・・・
かもしれん・・・」
「えっ・・・」
(あ・・・今、犬夜叉、ドキっとした・・・きっと・・・)
犬夜叉の微妙な表情をもかごめは察知する。
痛みと共に・・・。
「・・・なんだ・・・。私らしくないか・・・?」
「べ、別に・・・。お、お前はお前だろ・・・っ」
「そうだな・・・。私は私だ・・・。せめて・・・。お前の前では・・・。
ただの女の私でありたい・・・」
「桔梗・・・」
微妙な距離が・・・
見詰め合う二人を近づける・・・。
離れているけれど・・・
二人の心は触れ合いたくてたまらないんだ・・・。
(・・・触れ合いたくて分かり合いたいんだね・・・)
臆病な心同志だからこそ
求め合う何かが同じ。
秘める想いの熱さも・・・。
(・・・二人は・・・。こんなやり取りを繰り返しながら・・・
好きあっていったんだね・・・)
かごめが犬夜叉と出会って心を通じ合わせるようになったのは
時間が掛かったけど掛かった分だけ
信じあえた。
けどこの二人は・・・。
(・・・咲かなかった恋だからこそ・・・。残った想いは強かったんだね・・・)
桔梗が死人として蘇って再会したときの二人の気持ちが
少しだけ分かった気がした・・・。
二人はそのままただ黙して・・・見詰め合うだけ・・・。
(・・・。ちょっと・・・流石に・・・。切なくなってきちゃった・・・か、な・・・)
薄っすらと目に濡れたものが光る。
犬夜叉の心の一部となった桔梗。
改めて縁の強さを感じたかごめだった・・・。
それから・・・
かごめは犬夜叉と桔梗の逢瀬を何度も見つめた。
そして・・・
「犬夜叉・・・。四魂の玉をつかえばお前も人間になれる・・・」
「桔梗・・・」
「お前が・・・。お前が本当に私と共に生きるというなら・・・。明日・・・
ここで待っている・・・」
「・・・。わかった・・・。絶対に来る・・・」
犬夜叉と桔梗が未来を誓い合った場面・・・。
だが。かごめは知っていた。
その誓いは無残に奈落によって粉々になることを・・・
(・・・そう・・・。この後・・・。犬夜叉に化けた奈落が桔梗を襲って・・・。
その犬夜叉を桔梗が封印する・・・)
悲恋の結末。
かごめはふとあることに気づいた。
(・・・待って・・・。私が桔梗にそれは偽の犬夜叉だと・・・知らせたら・・・どうなる・・・?)
そうしたら・・・?
(・・・桔梗と犬夜叉は・・・。裏切りあわずにすむってこと・・・?)
かごめの脳裏に
二つの選択肢が浮かんだ・・・。
(私が二人にそれは偽者だと知らせたら二人は・・・信じあえたままでいられる。
知らせなければ・・・そのままで・・・)
知らせるか。
知らせないか。
(・・・知らせたら・・・。犬夜叉と桔梗が幸せになって・・・。
私と犬夜叉は・・・)
「おう。楓」
「!!」
犬夜叉がご神木の上から降りてきた。
「けっ。何考えこんでやがる」
「い、犬夜叉・・・」
「ま、オレにはどうでもいいことだけどな。これ食うか?」
懐からみかんを取り出して、くれた。
「・・・ど、毒なんかはいってねぇぞ」
「・・・」
(やさしい・・・。私と出会う前の犬夜叉も・・・優しい・・・)
優しい犬夜叉と
出会えなくなるなんて
(・・・嫌だ・・・!そんなの絶対に嫌だ・・・!!
で、でも・・・)
それは我侭で自分勝手なことじゃないだろうか。
犬夜叉と桔梗の幸せを邪魔する権利はかごめにはない。
むしろ幸せなれるチャンスを作れる立場にいるのに・・・
「・・・ど、どうしたんだ。な、泣くんじゃねぇよ」
「・・・」
(どうしよう・・・。私はどうしたらいいだろう・・・)
迷いが涙に変わる・・・
「・・・と、とにかく・・・。信じて・・・」
「ああ?」
「何があっても桔梗・・・お姉さまを信じて・・・」
「わ、わけわかんねぇ」
「・・・」
かごめはそれ以上何もいえなくて
犬夜叉の前から走り去った・・・
「んだよ。あのガキ・・・」
かごめは走った。
自分がどうしたいのか
どうするべきなのか
考え抜いて・・・。
「楓。何を泣いている」
「・・・!」
かごめの背中を桔梗が静かにたたいた。
「・・・どうした・・・」
「べ、別に・・・」
「・・・。そうか・・・。話したくないのならいい・・・。
だが・・・お前が泣き止むまでそばにいよう・・・」
(桔梗・・・)
桔梗の本当の優しさに触れた気がする・・・
そして・・・、犬夜叉と桔梗の運命の日の前日。
眠れないかごめは白い羽根を握り締めて何度も寝返りを打っていた。
(私はどうしたら・・・)
何度も自分に言い聞かせる。
(ねぇ・・・。どうしたらいいの・・・?)
”君の・・・。本当の幸せを探しに言ってごらん・・・”
風馬の声がかごめの耳の奥で響いた。
(私の本当の・・・)
”君の心で・・・”
(・・・)
「わかった・・・」
かごめは白い羽根にそう誓い・・・
運命の日の朝へと眠りについた・・・
一方・・・。
もう一つの白い羽根の主は・・・
「かごめがいねぇだと!?」
眠っていたはずのかごめが床から忽然と姿を消し、
犬夜叉達が騒いでいる。
弥勒たちや村人達総出で村の中を探したがどこにもいない。
「どこいったんだ。かごめちゃん・・・。もしかして
実家へ帰ったのかな」
「いや。それは無理だろう。あの怪我では・・・。井戸まで
行くのもままならんだろうし・・・」
心配する珊瑚と弥勒。
「・・・っ。じっとしてられねぇ!!!」
犬夜叉は珊瑚達の家を飛び出して
井戸へ向かった。
もしかしたら、かごめの国へ繋がっているかもしれないと
井戸の底へ降りてみたが何も変わらない・・・。
「くそッ!!!どこいっちまったんだよ!??」
井戸も飛び出して犬夜叉は辺りをがむしゃらに探す・・・
かごめの匂いを探りながら・・・
(また消えるのかよ!!オレに黙って・・・!伝えたいことがまだ・・・
あるのに・・・!)
「かごめ!!どこだ!!」
森も川辺も探す
探す・・・
「かごめ・・・!」
(もう・・・。中途半端な別れはいやだ・・・!こんなのは・・・!!)
やっと会えたのに・・・
「かごめ!!どこいったんだ!!」
これからは・・・
(・・・これからは・・・。ずっと一緒だって思ったのに・・・)
犬夜叉は声が枯れるほどにかごめの名を何度も呼び続ける。
探し続ける・・・。
(あんまりだろ・・・。かごめ。突然消えるなんて・・・!
あんまりだろ・・・)
奥歯をかみ締める
やっと会えたのに・・・!
やりきれない気持ちが抑えられない
「・・・!?」
ふわっと
白い何かが犬夜叉の目の前に落ちた。
(羽根・・・!)
ふわふわと犬夜叉を誘導するように
ある場所へ導く・・・。
そこは・・・。
「桔梗と四魂の玉を受け取るはずだった場所・・・?あ・・・っ」
羽根は・・・まるで”そこで待っていろ”と言わんばかりに
ふわふわ何度か飛び回って・・・そして消えた・・・。
「・・・どうして・・・。ここへ・・・?一体何がどうなってるんだ・・・」
(待ってればいいんだな。かごめは戻ってくるんだな)
確信のないことだが
犬夜叉は信じる。
(待ってやる。だから絶対に・・・戻って来い・・・。かごめ・・・!)
どすんと腕を組んで座る犬夜叉・・・。
優しい匂いが漂うのを
只管に待ったのだった・・・。
・・・何だか理屈とかすっ飛ばしファンタジックというか、
て何でも有りな展開にしてしまいました(汗)でもこれにも色々理由っていうか
意味があって考えた展開なわけで「え?」と不思議がらずに最後まで
おつきあいくださいますよう御願い致します(汗)巧みに犬が幼い楓ばあちゃんのことを知っていたというのはこの話上の設定なので原作上の設定はむしして
読んでください(汗)