絆を探し求めて
〜白い羽根が舞うころ〜

第19話 君を見守って
「ん・・・?」 ザワザワ・・・。 葉のざわめきに目を覚ます犬夜叉。 (んー・・・?ここどこだ) ビルに戦国の世では見られない屋根々・・・。 (こ、ここは・・・。かごめの国!?) ふと、足元を見ると・・・。 (この屋根の色は・・・。かごめの家の屋根・・・!?) きょろきょろと辺りを見回す犬夜叉。 ご神木が見える。 (やっぱりここは・・・かごめの・・・国) 心が早鳴る・・・。 かごめの匂いをすぐさま探す ”かごめは何処・・・?かごめは・・・何処?” 迷子が母を捜すように 犬夜叉はかごめの姿を探す・・・。 優しい匂いに誘われてたどり着いたのがかごめの部屋・・・。 ガラ・・・。 窓を開けると (・・・かごめの・・・いい匂い・・・) 求めて 恋しかった匂いが 犬夜叉を包んだ・・・。 ストン・・・と部屋の中に入る。 (・・・あんま・・・変わってねぇな) かごめが寝ていたベットも 勉強していた机も・・・。 犬夜叉は自然にかごめの匂いが一番強く漂うベットに 座ってみた・・・。 (・・・かごめ・・・。ここでどんな夢・・・見てるんだ・・・) こころがふわふわする・・・。 まるで真綿にくるまれているよう・・・。 (・・・かごめ・・・) 体中が軽くなって 安心できる・・・。 犬夜叉はそのまま・・・ 眠った・・・。 コチコチ・・・。 枕もとの秒針が5回まわった。 どれだけ眠っていただろう。 (・・・はっ・・・) 目覚めた犬夜叉。 人の気配を感じて屋根に逃走。 「あれ・・・?かごめの部屋の窓が開いてる・・・?」 かごめママだった。 窓を閉めるまま。 「へんねぇ。まるで犬夜叉君がきたみたいだわ」 (ギクリ) 屋根の上のお方。ちょっと挙動不審。 「そんなわけないわね・・・。ふふ。でも・・・。 今、犬夜叉君がかごめのそばに居てくれたら・・・」 ママの言葉が切ない。 (・・・かごめに何かあるのか?) かごめの姿が早く見たい。 何か不都合なことがあるのなら助けたい。 想いは募る一方で・・・。 犬夜叉は夕方まで屋根の上からかごめを只管待った。 (ん・・・?かごめの匂いが近づいてくる・・・) こそっと身を潜めてかごめの気配がする鳥居に視線を送った。 「・・・はぁ・・・。はぁ。やっぱりまだ階段・・・キツイ・・・」 かごめのさらっとした髪が見え始めた・・・ (か、かごめ・・・) 最後に・・・ 消えたときと変わらない・・・。 今すぐに飛び出したい気持ちに駆られる・・・。 (かごめ・・・。まだ足・・・引きづってるのか・・・) 「はぁ・・・はぁ・・・」 右足を重たそうに引きずって階段を上がり終える・・・。 「・・・やっとついた・・・」 息も絶え絶えに かごめは座り込む。 石畳に両手をついて、肩をすくませるほどに息は荒く・・・ (苦しそうだ・・・。かごめ・・・) 2年ぶりの再会なのに 痛々しいかごめの姿・・・。 本物のかごめに出会えた喜びもつかの間・・・。 家に向かおうとかごめは立ち上がったかごめ。 (あっ・・・!!かご・・・) 右足にちからをいれたせいで転ぶかごめ・・・ 「イタタ・・・」 (もう、見てられねぇ・・・っ) 犬夜叉が飛び出そうとしたその時・・・。 「大丈夫か!?」 (!?) 見覚えのない若い男がかごめに駆け寄った。 そしてかごめを抱き起こした・・・ (だ・・・誰だアイツは・・・!?) 飛び出そうとした犬夜叉、再び屋根の裏に身を隠す・・・。 「大丈夫かよ・・・。手、貸して」 「ありがと・・・」 男はかごめに腕を自分の肩に回して支えて歩く・・・。 かごめと意味深にみつめあって・・・。 (だ、誰なんだ・・・!?か、かごめもあんなに頼り切って・・・) 混乱、衝撃をうける犬夜叉・・・。 (・・・も、もしかして・・・。他に好きな奴が・・・) ”ありがとう・・・” かごめのあんな優しい顔・・・見たことがない気がする・・・。 (・・・やっぱ・・・。オレなんか・・・忘れちまうよな・・・) 夕焼け空。 屋根の上で犬夜叉、三角耳を垂らしてロンリー・・・。 (・・・なんで・・・。オレここに来たんだろ・・・) かごめに他に好きな男がいるなら 居たって意味がない。 かごめが幸せならそれでいいけれど・・・。 でも・・・ もう一回”犬夜叉”って呼んでほしい。 おすわりでもいいから 会いたい・・・。 切なさを感じながら犬夜叉はかごめの庭の草陰から 居間の様子を伺う。 (ん?あいつは・・・) 昼間、かごめを抱き起こしていた男・・・ かごめの隣に座って食事を取っている。 「草太、悪いけどお醤油とって」 「いいよ」 (草太・・・!?かごめの弟の草太だったのか・・・!?) 犬夜叉、勘違いに・・・。 (そうか。なんだ草太だったのか・・・) かなりほっとした。 でも・・・。 (・・・かごめ・・・) 家族と楽しそうにしている・・・ 家族と過ごして・・・ 生き生きしてる・・・。 (ここは・・・。かごめの国・・・。オレがまた出てったら・・・ 引っ掻き回すことに) 「あはは。草太、醤油こぼしちゃってー・・・!」 かごめの笑顔・・・ ずっと恋しかった笑顔だけど・・・ 今は少し遠い・・・ (・・・かごめ・・・) 犬夜叉はそのまま屋根の上に引き返す・・・。 (・・・。寂しいな・・・) 屋根の真下には・・・。 かごめがいるのに・・・ ガラ・・・ 夜中・・・。かごめの部屋の窓の隅・・・ 半分だけ顔を出して眠るかごめをじっと見つめている三角の耳。 (・・・どんな夢・・・。見てんのかな・・・) めのまえにかごめがいるのに・・・。 会えない。 (・・・オレ・・・。これからどうしたらいいんだ・・・) そもそも・・・。どうして自分がかごめの時代に・・・? 白い羽根が舞った意味を 犬夜叉は考える・・・。 ”貴方の大切な人を見守ってください・・・。助けることは 簡単だけど・・・見守ることは・・・” そんな声を かごめの時代に来たとき聞こえたような気がする・・・ ”遠くから見守って・・・。決して声をかけないで・・・。 触れたら・・・。何もかもが壊れてしまうでしょう・・・” (・・・またかよ。風馬。お前の仕業か・・・) 目の前にいるかごめを見つめる日々が続く・・・。 かごめが大学へ行きかえり・・・。 「きゃっ」 雑踏の中でかごめが空き缶に躓いた。 (かごめ・・・!) 犬夜叉は飛び出したいが、周囲には人間達が沢山・・・。 だれもかごめに手をかそうともせず・・・ 無関心で・・・ 「いたた・・・」 「けっ。ジャマクセェな!!」 酔っ払いがかごめに唾を吐いて罵声を残した。 (あ、あの野郎ーーーーっ!!) かごめは申し訳なさそうにお辞儀をして立ち上がり 歩き始める。 「へっ。トロイ女だな」 ドカっ!! 「ぐえっ」 酔っ払いの顔面を”何か”がふんずけた。さらに足跡が・・・ 「な、なんだ!?今のはーー??」 赤い物体が一瞬、酔っ払いの視界を横切っていった・・・。 そして只管にかごめの後を追う犬夜叉・・・。 晴れの日も  雨の日も・・・ 住宅街。傘を差したかごめが足を引きづって歩く。 バシャッ。 「きゃっ」 水溜りで滑って転ぶ・・・。 傘がコンクリートの道路に裏返る・・・。 電信柱の天辺でかごめを見下ろすかごめ・・・。 (かごめ・・・) 「あーあ・・・びしょ濡れだわ・・・」 すぐにかけよって、自分の衣をかけてやりたい。 でも・・・ かごめに声をかけたら触れたら 会えなくなる・・・。 「ん?何か動いてる」 (ギクリ) 電柱の天辺の犬夜叉、焦る。 しかしかごめがごみ置き場から見つけたのは・・・ クゥン・・・ 小さな真っ白な震えた子犬・・・ 「・・・。貴方も雨宿り・・・?寒そうね・・・」 かごめは子犬をそっと抱き上げる・・・。 「・・・一緒に暖まろうね・・・。早く家に帰って・・・」 クワン・・・。 かごめは子犬をジャケットにくるんで 家に向かう・・・。 白い傘を残して・・・。 (かごめ・・・) 犬夜叉が傘を静かに拾う・・・。 雨に強く打たれるかごめの後姿・・・。 駆け寄りたい 駆け寄って衣を傘代わりにかぶせたい。 (なんでだよ・・・。風馬。かごめがあんなに 困ってるのに・・・。辛そうなのに・・・) 「なんで手助けしちゃいけねぇんだよッ!!!」 ドカ・・・!!! 電信柱に・・・ やりきれない想いを拳に乗せて打ち付ける・・・。 「オレがここに居る意味はなんだ・・・。ただ・・・。 かごめを見てるだけなんて・・・。なんの意味があるんだよッ!!」 白い羽根が今舞い降りたら 言ってやりたい。 尋ねてやりたい。 今までのこのかごめとの別れや再会の意味はなんだと・・・ かごめの幸せになるにはどうすればいいのだと・・・ 「・・・見守ることに・・・なんの意味があるんだ・・・。 オレは・・・。かごめを助けたい・・・助けたのに・・・」 犬夜叉は空を見上げる。 白い羽根。 舞い降りてこないか。 舞い降りてきたら頼むんだ。 (・・・かごめの足を治してやってくれ・・・。かごめと 二度と会えなくなっても良いから・・・) ゴミ置き場・・・ 白い羽根じゃない黒いカラスの羽根を犬夜叉は拾って呟く・・・。 「・・・頼むよ・・・。かごめの足を治してくれ・・・。 オレはどうなってもいいから・・・」 雨なのか・・・ 涙なのか・・・。 犬夜叉はしばらく黒い羽根を手にして 立ち尽くしていたのだった・・・。 そしてその夜。 「うふふ。貴方は今日からうちの子よ。犬夜叉」 (な、なぬ!?) ドキっとする犬夜叉。 かごめの部屋の窓に耳を当て、こっそりの盗み聞きの犬夜叉。 そーっとカーテンの隙間から覗くとあの子犬を抱っこしたかごめが目に入った。 (なんだ・・・。オレのことじゃねぇのか・・・) 子犬の名前が犬夜叉と知って安心、そして少し残念・・・。 「犬夜叉、ふふ。元気なところはそっくりね。あ、犬夜叉ってね。 私の大切な人の名前なの」 (・・・(喜)) かごめの胸の中の小さな子犬。 窓の外の大きな犬も少し照れて喜んでいる。 「んもう。ちょっとあんまり変なところなめないで。うふふ」 (んなっ・・・) ついでにちょっぴりジェラシーも感じている(笑) かごめは子犬を優しく抱きしめて語りかける。 「・・・あのね・・・。私・・・。今、色々辛いこともあるけど 今の自分嫌いじゃないんだ」 クゥン・・・。 子犬が小さく鳴いた。 「頑張ってるのは・・・私だけじゃないって思えるの。井戸の向こうの 私の大切な人たちも毎日きっと大切に生きてるって信じてるから・・・」 (かごめ・・・) 「・・・遠く離れてるけど・・・。私は一人じゃない・・・。だから 私、力が沸いてくるの。ね、犬夜叉もそう思うよね・・・?」 ワン! 子犬は元気に鳴いた。 かごめを励ますように・・・。 「ふふ。ありがとう・・・。」 そして窓の外の大きな犬も・・・ (そうだ・・・。お前は一人じゃないぜ・・・。オレに昔、 言ってくれたように・・・) 「私の好きな人・・・今頃どうしてるかな・・・。幸せに・・・。 元気でいてくれるといいな・・・」 子犬を・・・愛しそうに見つめ・・・ 頬を摺り寄せてぎゅうっと抱きしめる・・・。 (かごめ・・・) 不思議だ。昼間・・・濡れて冷えていたはずの体が・・・ 温かい・・・。 まるで・・・ かごめに抱きしめられているようだ・・・。 (・・・かごめ・・・。お前・・・やっぱり温かい・・・。 温かい・・・な・・・) かごめの優しさに包まれているよう・・・。 犬夜叉は自らの体を両手で 包んだ・・・ (・・・今度は・・・オレが抱きしめたい・・・。お前を・・・) 温めあいたい。 (頼む・・・。風馬・・・。かごめを・・・かごめを・・・) 願う・・・ (かごめを・・・抱かせてくれ・・・。抱きしめたいんだ・・・) 二度と会えなくなってもいいから・・・。 拾ったカラスの羽根に・・・ 犬夜叉は何度も何度も呟いた・・・ その日の夜・・・。 かごめは夢を見た・・・。 赤い衣の中に 飛び込んでいく自分の姿を・・・。 (犬・・・夜叉・・・?) ”大切な人に会いたい・・・?” (うん・・・) ”じゃあ・・・。今度は『自分の力』で会いに行ってごらん・・・” (え・・・?) ”白い羽根の力は・・・もう無いよ・・・。自分の足で 会いに行ってごらん・・・” (どういう・・・こと・・・?) ”100回・・・階段を上がってごらん。きっと君の好きな人がそこに・・・” (え・・・?え・・・?) かごめが見た夢・・・。 朝起きたかごめ。 境内へあがる階段の下にいた。 (夢の意味は・・・分からないけれど・・・。信じてみよう。 きっと何かがあるんだ・・・) もしかしたら もしかしたら (犬夜叉に・・・会えるかもしれない・・・) 不確かな希望。 でも・・・。信じる。 「・・・よし・・・!!」 かごめは重い右足をひきづって一歩一歩登り始める・・・。 その往復を100回・・・。 100回目、登りきったら起こる”何か”を信じて・・・。