「琥珀・・・ごめんね・・・。琥珀・・・」
冷たくなった琥珀の体を抱いてすすり泣く珊瑚・・・
深い深い哀しみが包む中・・・
(!?この匂いは・・・)
犬夜叉が感じた。
ザ・・・ッ
簾がめくられる
入ってきた人物に驚く・・・
「殺生丸・・・!??」
冷たい視線で琥珀を見下ろす殺生丸。
「て、てめぇ・・・。何しにきやがった!!今はてめぇに
かまってる時じゃ・・・」
「うるさい。どけ。お前に用はない」
立ちはだかる犬夜叉を突き飛ばし、琥珀を見下ろす・・・
「・・・。殺生丸・・・。お前もしかして・・・。
天生牙で・・・」
「・・・フン・・・。天生牙の反応につられてきてみれば・・・。
奈落の持ち駒か」
殺生丸は天生牙から手を離した。
「殺生丸!頼む・・・。弟を・・・。琥珀を助けてくれ・・・!!」
「・・・」
殺生丸に頭を下げる珊瑚。
「私からもお願い!!殺生丸!!琥珀君を助けて・・・!!」
「頼む・・・!」
かごめと弥勒も珊瑚の隣に跪き、頭を下げる・・・
「おい!!殺生丸!!人がこれだけ頼んでるのに!!」
「犬夜叉。お前は頼まないのか?仲間たちに頼ませているだけではないか」
「・・・!」
痛いところ疲れ、言い返せない犬夜叉。
(・・・)
犬夜叉は暫く沈黙した後・・・
(犬夜叉・・・)
かごめの隣に腰を下ろし、殺生丸に頼む・・・
「・・・頼む・・・。琥珀を・・・。助けてやってくれ・・・」
(犬夜叉・・・)
「頼む・・・!!」
頭をこすりつけ、頼み込む犬夜叉・・・
だが殺生丸は・・・
「土下座というのは都合のいい振る舞いだな。
そんなものでこの私を動かせると思うのか。奈落の手先だった
人間の子供など知ったことか・・・」
立ち去ろうとしたとき・・・
かごめが出口に立ちふさがる。
「・・・琥珀くんはりんちゃんを助けたこともあるのよ!?
りんちゃんを助けた貴方が・・・。琥珀くんを見捨てるの!」
「・・・」
「りんちゃんは救えても・・・。琥珀くんは救えない・・・。
あんただって十分小物じゃないの!!最後までやり遂げなさいよ!!
人助けに選り好みしてるなんてただのわがままな子供じゃないの!」
殺生丸に啖呵をきったかごめの気迫はすごく・・・
「・・・。ふん・・・」
殺生丸はかごめを通り過ぎ、琥珀に向かって天生牙を
振りかざした。
(・・・餓鬼・・・)
琥珀の周囲に見える
あの世の使い・・・。
”天生牙を持っている意味も知らずただ
振り回してるだけじゃない”
(・・・。命を救う剣など・・・くだらぬ・・・)
だが、天生牙が熱く殺生丸の手に鼓動を伝えている。
(・・・フン・・・)
ザン・・・!!
殺生丸は琥珀の頭上で空を斬った。
蛾鬼が粉砕される。
「・・・琥珀・・・!」
一同は冷たくなった琥珀に駆け寄るが・・・
「・・・琥珀!?ねぇ!!琥珀・・・。目を開けておくれ・・・!!」
一向に・・・
琥珀の体は冷たいまま・・・動かず・・・
「おいッ!!殺生丸!!琥珀めぇさめねぇじゃねぇか!!」
殺生丸に詰め寄る犬夜叉。
「フン・・・。生き返ぬのはその小僧の命が弱いだけだ」
「てめぇッ!!!ホントは何にもしてねぇんじゃねぇのか!?」
ガッ!!
詰め寄った犬夜叉に一発頬にこぶしを打つ殺生丸・・・
「犬夜叉!大丈夫!?」
かごめが駆け寄った。
「・・・。人間とは都合のいいものだな」
「どういう意味よ!?」
「・・・。その小僧は・・・。操られていたとはいえ
幾多の人間を殺したのだ・・・?自分だけが命乞えとは・・・。
罪深い人間ではないのか」
「・・・。罪があるからこそ・・・。その罪と向き合って
生きなくちゃいけないのよ。私達も一緒に・・・」
かごめはまっすぐに殺生丸を見つめた。
「・・・フン・・・。馬鹿馬鹿しい理屈だ・・・」
「生きて葛藤するのが人間なのよ。貴方だってあるでしょう。
思い悩むことが」
「・・・。くだらん・・・。」
殺生丸は嘲笑うと
静かに小屋を後にした・・・
(殺生丸・・・)
”他の命を奪っておいて・・・。自分だけ命乞えか”
殺生丸の言葉がかごめの心に突き刺さった・・・
「・・・!!琥珀・・・!?」
珊瑚の驚きの声にかごめは振り返った。
「・・・琥珀くん!」
琥珀の指がかすかに動いた・・・
「琥珀・・・!琥珀・・・!」
「・・・っ。ハァ・・・」
珊瑚の呼びかけに琥珀の呼吸が反応する・・・
琥珀の吐いた息に
「琥珀・・・!よかった・・・!琥珀・・・琥珀・・・!」
仲間達も大きく安堵し・・・
「・・・琥珀・・・。いつか・・・お前が大人になったら
酒を飲もうな」
珊瑚の肩を抱く弥勒。
(よかった・・・。本当に・・・)
かごめも心のそこから安堵した。
ただ・・・
”無下に奪われた者の命のことを・・・考えたことはあるのか”
殺生丸の言葉がかごめの心の隅に引っかかって・・・
(殺生丸に言われたくない台詞・・・。でも・・・)
無下に命を奪われた者・・・
(・・・桔梗・・・)
チラッと犬夜叉を見るかごめ。
(・・・犬夜叉・・・)
琥珀が命を手にし・・・
そして・・・
もう一人の生なき者のことを考えた・・・
(きっと犬夜叉も・・・)
犬夜叉本人以上に
気持ちを感じ取ってしまう・・・
(・・・犬夜叉・・・)
自分達の”行く末”を決める
時、が・・・
近づいていることをかごめは確かに感じていた・・・
※
深い深い
白い霧の中・・・
二人の人影が見える・・・
(誰と・・・。誰・・・?)
霧が晴れていく・・・
かごめの瞳に入ってきたのは・・・
赤い衣と・・・
巫女の
衣服・・・
(・・・。何度か見た・・・風景・・・)
何度か見ても
何度見ても
胃のあたりが軋むような
痛み。
心臓に尖った矢先を突きたてられたような
グサ・・・っと音を感じるほどの
痛み。
(・・・夢なの現実なの・・・?)
霧が晴れていく
赤い衣が鮮やかに
巫女の長い黒髪がつややかに
鮮明になっていく・・・
色がつき
音声も・・・
舞台はご神木。
すべてを結びつける存在。
「桔梗・・・」
「・・・犬・・・夜叉・・・」
犬夜叉の腕に抱かれ・・・
刹那な瞳で見つめあう・・・
(・・・。なんでこんな風景みているの・・・?
誰かが見せているの・・・?)
夢か幻か。
「・・・。魂が・・・尽きようとしている・・・」
弱弱しい桔梗の声に・・・
桔梗を抱く犬夜叉の腕に力がこもる・・・
「・・・桔梗・・・。逝くな・・・。消えるな・・・。俺はまだ
お前に・・・何も・・・」
「・・・。犬夜叉・・・」
改めて感じる。
改めて聞く。
(・・・私の前では出さない・・・犬夜叉の・・・声)
「・・・俺はお前を・・・。逝かせたくねぇ・・・!」
「・・・。相変わらず・・・。我がままだな・・・」
犬夜叉の銀の前髪に触れる・・・
それは・・・
穏やかな微笑みは
愛を確かに感じている女の・・・
顔・・・。
「・・・。死人は・・・土に還らん・・・。
土になり・・・そして新たな命の肥やしとなる・・・」
「馬鹿なこと言うな!!そんな・・・そんな哀しいこと・・・」
「・・・哀しいことではない・・・。自然の理・・・。
還るべき場所に還るだけだ・・・」
「・・・嫌だ!!」
ぎゅっと
桔梗を抱きすくめる犬夜叉・・・
「・・・。犬夜叉・・・お前には・・・。待つ人間がいる・・・。
お前を待つ・・・」
「・・・かごめ・・・」
(・・・!)
ドキっとした・・・。
そしてズキっとした
かごめとつぶやく犬夜叉の声が・・・
あまりに
単調だから・・・
「・・・お前はお前の道を生きろ・・・」
犬夜叉は首を振った。
「・・・。俺の行く道に先に・・・いるのは・・・かごめじゃない」
ズキンッ!
「かごめは生きてる・・・。生きて・・・幸せにだってなれる・・・だから・・・」
ズキッズキッ
(生きてるから・・・?)
「・・・オレは・・・桔梗の命になる・・・」
(・・・犬・・・夜叉・・・ッ)
生きているから・・・?
私は生きているから別れを告げられたの?
どんな理由だ・・・?どんな理屈だ・・・?
生死という境目で
選択されるのか
選択するのか
そんなに簡単なものなのか
「・・・犬夜叉・・・」
「・・・お前の魂と・・・俺の魂は一つ・・・。二人の魂は混ざり合って・・・。
永遠に離れないないんだ・・・」
抱き合う犬夜叉と桔梗が
こちらをじっと見つめている・・・
申し訳なさそうな
でも幸せそうな・・・
(・・!分かんないよ!!!何もかも・・・!!!)
「・・・!!」
ぎょっとかごめの瞳が開いた。
(・・・あ・・・)
額がびっしょり濡れて・・・
かごめは手で拭って汗の量に驚く・・・
「・・・はぁ・・・」
夢でよかったと
安心はしない
現実に成り得る
夢。
(・・・。生きているから・・・か・・・)
屋根の上で
眠っている犬夜叉。
(・・・生きている人と死を背負っている人・・・。その
重みは・・・。確かに違うよね・・・)
「・・・犬夜叉・・・」
かごめの刹那い小声は
聞こえず・・・
(・・・。今は自分の事で悩んでる場合じゃない)
琥珀を大切に抱きしめて眠る珊瑚を見つめる・・・
(・・・しっかりしなくちゃ)
再び床に横になろうとしたかごめの視界に
格子の隙間から
白い妖怪・・・
(死魂虫・・・!?)
かごめを
誘うように
格子を行き来していた・・・