絆を探し求めて
〜白い羽根が舞う頃〜


第3話
天を仰ぐ魂

(どうして・・・死魂虫・・・が・・・。犬夜叉を迎えに来たの・・・?) だがそれならば屋根で眠る犬夜叉が一番最初に気づくはず・・・ かごめは小屋から出る。 犬夜叉は眠っていて・・・ 死魂虫は、かごめの体の周りをぐるぐる回って・・・ (・・・私を迎えに・・・?) かごめは犬夜叉にチラッと視線を送る。 (眠ってる・・・やっぱり死魂虫は・・・私を・・・) 直感。 それしかたとえようがない。死魂虫は自分を誘っていとわかる・・・ (・・・。行くしかないわよね) 桔梗の思惑は分からないが 行くしかない。 かごめは静かに着替えると死魂虫が誘導され 小屋を後にする・・・ (犬夜叉。起きたらきっとくるわよね・・・。桔梗は私を迎えにきたのだけれど 本当に会いたいのは・・・私じゃない筈だから・・・) 見えない絆が桔梗と犬夜叉の間にはある。 互いに何か機器迫ればその絆が反応して・・・ (きっと・・・。切ない何かの始まりなんだ・・・) 直感が働く・・・ 切ない何かは分からないけれど きっと また胸が痛むことが死魂虫についていった先には待っていることが・・・ 分かる・・・ 「かごめちゃん・・・?」 かごめの後姿を 目をこすりながら珊瑚が見ていた・・・ (水の音・・・) 滝の音ではないが・・・ せせらぎのような静かに水が流れる綺麗な音・・・ 「あ・・・」 林を抜けると・・・ 小川が見えてきた。 死魂虫はその小川の上流を目指すように上がっていく。 (その先に・・・。桔梗がいるの・・・?) かごめの心の声に応えるように 小川の淵の岩に 綺麗な黒髪の巫女が 白い素肌で横たわっている・・・ (・・・綺麗・・・だね・・・。相変わらず・・・) これが死人だろうか まるで粉雪のように白い肌・・・ きっと誰もが この美しさに魅せられるのだろう。 魅せられたのだろう ・・・犬夜叉も・・・ 悔しいけれど この美しさは 確かで・・・ (なんだか・・・。細くなったような・・・) 死魂虫が散っていく・・・ 同時に・・・ 桔梗が目覚める・・・ (・・・) 一気にかごめに緊張感が走った。 「・・・あ、あの・・・」 「・・・」 桔梗は黙して・・・ ただ・・・ かごめをみつめる・・・ 「・・・。ふふ・・・。私の生まれ変わりとはやっぱり 思えぬな・・・」 桔梗の微笑みに戸惑うかごめ。 (・・・い、一体何なの・・・) 「・・・。時間が・・・ない・・・。死魂虫が・・・ぬけていく・・・」 「え?」 桔梗の背後から・・・ 一匹二匹と・・・ 飛び出していく・・・ 「ど、どうなってるの・・・!?」 (死魂虫を失うってコトは・・・桔梗の魂が・・・) 事の成り行きにかごめは気づく。 「き・・・危険な状態なの・・・?」 「・・・もう・・・たつことすら・・・ままならん・・・」 「・・・ど、どうしたら・・・どうしたらいいの?と、とにかくなんとか しなくちゃ・・・ッ」 かごめは制服のスカーフをとり、桔梗の首の穴を静かに ふさぐ・・・ だが相手は魂の妖怪。 スカーフをすり抜けていく・・・ 「・・・無駄なことを・・・」 「な。名に言ってるの・・・。私を呼んだのはなにか手助けが してほしいからじゃないの・・・!?」 「・・・自惚れた台詞・・・を・・・」 桔梗はふっと笑った。 「お前を呼んだのは・・・。伝えたいことがあったからだ・・・」 「え・・・?」 桔梗は首筋のかごめの手を払いのける・・・ 「・・・。私が消えたら・・・。私の墓土を浄化しろ・・・。 もう二度と・・・蘇らないように・・・」 「なっ・・・何いってるの・・・。そんなこと・・・!」 「私の墓土は・・・。奈落の妖気にまみれ・・・。邪気が 妖怪たちに影響しかねん・・・」 痛々しい首の傷口。 かごめは振り払われた手を 再び傷口にあてた・・・ 「・・・。あのね・・・。簡単に死ぬとか生きるとか 言わないで・・・!自分の心・・・自分で殺してどうするの・・・!」 「・・・」 「・・・貴方は自分のこと死人だ死人だっていうけど・・・。 そんなことみんな思ってない・・・。貴方は貴方って・・・」 「・・・」 (温かい・・・) 振り払ったかごめの手・・・ 感じるはずのない感度を感じて・・・ 「・・・ああどうしたら止まるの・・・。ねぇ教えてよ・・・どうしたら・・・っ」 ポタリ・・・ かごめの瞳のしずくが 桔梗の頬に落ちる。 「・・・同情というなの涙か・・・」 「・・・わかんないわよ。勝手に出てくるだけ・・・。とにかく 貴方はどうやったら助かるの・・・!?」 「・・・。助からん」 「・・・諦めちゃ駄目・・・。犬夜叉と会ってもないのに 諦めちゃだめ・・・」 かごめは両手で 死魂虫を止める・・・ 押えて・・・ 「行っちゃだめだってば・・・。諦めちゃだめだってば・・・」 「・・・」 助からないと言っているのに 傷口を押えるかごめの手の温もりは 確かな温度で・・・ 「・・・嗚呼どうしたら・・・。誰か・・・。誰か・・・!!」 混乱するかごめ・・・ 「誰か教えてよ・・・!助ける方法を教えてよーー!!」 他人のために 混乱し、錯乱し 泣いて声を上げて・・・ 自分には出来なかった (私の生まれ変わりなどではないはずだ・・・な・・・) 「・・・。犬夜叉に知らせなくちゃ・・・。そうよ。 知らせなくちゃ・・・!!」 「・・・止めろ・・・」 「でも・・・!!」 「アイツには・・・。見られたくない・・・」 「・・・桔梗・・・」 桔梗の悲哀に満ちた声が 痛い・・・ 「・・・お前が呼んだのか・・・」 「え?」 振り返ると・・・ 息を切らせた犬夜叉が・・・ 立っていた・・・。 「犬夜叉・・・」 「・・・桔梗・・・!!」 かごめには目もくれず 横たわる桔梗に駆け寄る犬夜叉。 「桔梗・・・お前・・・」 「ふっ・・・役者が・・・。勢ぞろいしたな・・・」 「死魂虫が・・・抜け出して止まらないの・・・。犬夜叉。 どうしよう!!」 かごめの声にやっとかごめの存在に気づいたように はっとかごめを見つめる犬夜叉。 「かごめ・・・」 「このままじゃ・・・桔梗は・・・。犬夜叉、どうしよう!!」 「・・・。桔梗!!」 「・・・犬夜叉・・・!!死魂虫がいっちゃう・・・!!集めないと・・・!! 傷口、押えてて・・・!!」 かごめは傷口を犬夜叉に押えさせ、 抜けていく死魂虫を捕まえようと手を伸ばす・・・ 「行っちゃ駄目・・・!!戻って・・・!!!お願い・・・!!」 だが・・・ するするとかごめの手を抜け・・・ 死魂虫は 空に消えていく・・・ 「犬夜叉・・・」 犬夜叉を見つめる桔梗・・・ その桔梗の瞳は・・・ 別れを犬夜叉に伝えているよう・・・ (そうか・・・。わかったよ・・・) 必死に死魂虫を捕まえようとしているかごめを他所に・・・ 犬夜叉は桔梗を抱きしめる・・・ 「犬夜叉・・・!!しっかり傷口押えてて・・・!!」 「もういい・・・」 「え・・・?」 一瞬、かごめは自分の耳を疑った。 「もう・・・いいんだ・・・」 「な・・・。何言って・・・。このままじゃ桔梗が・・・!!」 「・・・いいんだ・・・。かごめ・・・もう・・・」 「良くないわよ!!このままじゃ桔梗が消えちゃうのよ!?? 犬夜叉!!しっかりしなさいよ!!」 「うるせえなッ!!!!お前に何がわかるってんだ・・・!!!」 「・・・犬・・・夜叉・・・?」 怒鳴った声に・・・ かごめの心は・・・ ビクビクと・・・ 慄いて・・・ 「・・・。二人に・・・してくんねぇか・・・」 「で、でも・・・っ」 「頼むから・・・!!少し・・・二人にしてくれよ・・・ッ!!」 犬夜叉の荒い声は・・・ かごめを拒絶して・・・ かごめの心は・・・ ジクジクと・・・ ジュクジュクと・・・ 痛む・・・ (だ・・・だめ・・・泣いちゃ・・・。犬夜叉は・・・今混乱してるから・・・。 察してあげないと・・・いけないの・・・) 目じりまで迫った涙をぐっと こらえる・・・ 「・・・わ・・・わかった・・・」 「すまねぇ・・・」 犬夜叉の背中が 刺々しい・・・ 桔梗を抱きしめる その背中から 少しずつ・・・ 離れて距離を置いていく・・・ (犬夜叉・・・) 木の陰から・・・ 二人を見つめる・・・ 少し走ればそこにいける距離でも・・・ とても遠く感じられる・・・ 透明な ガラスケースの中に 犬夜叉と桔梗がいるよう・・・ (私は・・・。桔梗を助けることも・・・。 犬夜叉を励ますことも・・・。何もできない・・・。なんにもできない・・・) 自分の不甲斐なさと 犬夜叉と桔梗の二人の世界の強さに・・・ 圧倒される・・・ 嫉妬だか無力感だか・・・ ごちゃ混ぜになって・・・ かごめの心は破裂寸前・・・ それでも 二人の様子を見守る・・・ (見守らなくちゃいけないんだ・・・) 近くて遠い・・・ この場所から・・・ 「・・・桔梗・・・」 「・・・犬夜叉・・・」 桔梗の体が・・・ 少しずつ 白い肌が 生気がなくなっていく・・・ 「・・・桔梗・・・っ。しっかりしろ・・・!」 「犬夜叉・・・。お前という男は・・・。 本当に罪作りな男だな・・・」 「何いってんだ・・・」 「・・・かごめを蚊帳の外になどして・・・。馬鹿な男だ・・・」 「・・・。かごめなら分かってくれる・・・。それよりも・・・今はお前が一大事だろ・・・っ」 犬夜叉の優しさ・・・ 桔梗は喜びと同時に・・・ この優しさに憎しみさえ覚えた・・・ 半端な優しさ。 それでも・・・ 嬉しい・・・ 「・・・。かごめも厄介な・・・男に惚れたものだな・・・。 いや・・・私も同じだが・・・」 「桔梗・・・」 「・・・。犬夜叉・・・。かごめは・・・私ではない・・・ 私はかごめでもない・・・」 「んなことわかってるよ・・・!」 桔梗にさらに 強く抱きしめる・・・ 「・・・。桔梗・・・。逝くな・・・!オレはまだ・・・。 お前に何もしてやれてない・・・」 「・・・。犬夜叉・・・」 「・・・。お前が・・・。逝くと言うなら・・・。オレも・・・一緒だ・・・」 桔梗の手を握り締める・・・ 温もりはなくとも 握り締める・・・ 「・・・馬鹿な男・・・。残された仲間たちはどう思う・・・?かごめはどうなる・・・」 「そ・・・それは・・・」 「・・・私を悪者にするな・・・。お前の仲間達にまで・・・恨まれたくはない・・・」 語る桔梗・・・ 段々と・・・ 息も苦しそうになって・・・ 「・・・前に言ったことは忘れろ・・・」 ”お前の命は私の命・・・” 「・・・お前の命は・・・。お前のものだ・・・」 「桔梗・・・ッ!!!」 桔梗と犬夜叉の会話・・・ 自分の時には絶対に見せないつやのある男の 顔の犬夜叉と・・・声が かごめの耳にはっきりと聞こえてくる・・・ (・・・そんなに・・・深いんだね・・・。そんなに・・・。 繋がりあってるんだね・・・) 小さな嫉妬が縮んでいく・・・ 緊迫感のある二人の絆に・・・ 打ちのめされて・・・ 「・・・。お前は・・・生きろ・・・。お前らしく・・・」 「桔梗・・・」 「・・・。私は・・・。もういい・・・。死人であったけれど・・・私らしく・・・ 生きられた・・・」 桔梗の瞳から・・・ 一筋流れる涙・・・ (桔梗・・・) 同時に・・・ かごめの頬からも 涙が落ちる・・・ この涙はなんだろう・・・ 犬夜叉と桔梗の愛の深さに傷ついた涙・・・? 桔梗の犬夜叉への想いが強いことを理解した涙・・・? (分からない・・・。分からないけど・・・。私は・・・。 この二人のありのままを・・・見守らなくちゃいけないんだ・・・) どんなにつらい場面でも どんなに痛い場面でも (逃げちゃだめなんだ・・・) 奥歯をかみ締めて・・・ かごめは二人から目を逸らさない・・・ 「・・・桔梗・・・」 「・・・。犬夜叉・・・私は・・・。もう・・・眠りたい・・・」 「そんなこと・・・言うなよ・・・」 「・・・眠らせてくれ・・・。お前への想いと・・・共に・・・」 桔梗の瞳が 虚ろになっていく・・・ 「駄目だ・・・まだ・・・駄目だ・・・っ!!」 「犬・・・夜叉・・・。ありがとう・・・」 「・・・桔梗!!!」 「お前に・・・出会えて・・・よかった・・・」 犬夜叉は大声で叫ぶ・・・ 「・・・お前を・・・。愛せて・・・。よかった・・・」 「桔梗・・・!!オレもだ・・・」 ズキン・・・ッ 二人の・・・ 愛の言の葉が・・・ かごめの心に 凍てつく氷の矢のように・・・ 耳の置くまで突き刺さる・・・ 「桔梗・・・!!!」 「・・・犬夜叉・・・」 桔梗の・・・ 瞳が静かに 閉まっていく・・・ 「・・・犬夜叉・・・。お前を愛せて・・・ 幸せだった・・・ありがとう・・・」 「桔梗ーーーー!!!」 桔梗の体が・・・ 真っ白な光に一瞬包まれた・・・ その光は 空高く 舞い上がり・・・ (・・・駄目・・・!!逝っちゃだめ・・・!!!) かごめは 追いかける・・・ 「行っちゃだめえええ!!!悲しみだけ置いて行っちゃだめぇええ!!!」 青い空に 手を伸ばし 追いかける・・・ 「・・・哀しみだけのこして・・・行かないでぇええッ!!!」 死魂虫に 包まれる光に向かって泣き叫ぶ・・・ (行っちゃだめ・・・ッ。犬夜叉の心が壊れる・・・。 桔梗の心も壊れる・・・。哀しみだけ置いていかないで・・・) 「行かないで・・・ッ!!!」 かごめは声が届かない 白い光は 太陽に引き寄せられるように 青い空に 消えた・・・ 「・・・。どう・・・して・・・」 脱力して・・・ 座り込むかごめ・・・ 「・・・どうして・・・。どうして・・・ッ!!」 こぶしを 土にぶつける・・・ 何が哀しい 何が悔しい わからない ただ・・・ こらえ切らない重い悲しみが 涙になって・・・ 「・・・。かごめ・・・。よせ・・・」 かごめの手を 止める犬夜叉・・・ 「・・・もう・・・いいんだ・・・」 「・・・犬夜叉・・・」 「桔梗は・・・。生きてる・・・。生きてるんだよ・・・」 巫女服に 包まれた 墓土を・・・ 犬夜叉はなでる・・・ まるで赤子を抱く父のように・・・ 「・・・桔梗はここにいる・・・ 魂は・・・戻ってくるかもしれねぇ・・・」 「・・・犬夜叉・・・?」 「・・・桔梗を・・・。しなせやしねぇよ・・・死なせるわけねぇだろ・・・。 なぁ・・・。桔梗・・・?」 桔梗の巫女服にほお擦りする犬夜叉・・・ その犬夜叉の瞳は・・・ どこか・・・夢を見ているような 現実に心がないような 少し・・・異質な・・・瞳で・・・ 「・・・犬夜叉・・・?」 「一人に・・・してくんねぇか・・・」 「犬夜叉・・・」 「頼むよ!!!出ないと今のオレは・・・。お前を傷つける・・・!!」 犬夜叉の声に肩をビクッと震わせる・・・。 「・・・一人に・・・してくれ・・・」 桔梗の墓土を・・・ 愛しそうに 抱きしめる・・・。 (・・・犬夜叉・・・) 桔梗という愛の 喪失・・・ 犬夜叉の心は混乱に満ちている 激しい痛みと後悔と共に・・・ (桔梗を・・・助けられなかったから・・・。つらいんだね・・・。犬夜叉・・・) 犬夜叉から離れながら・・・ かごめは思う・・・ 自分の中の 嫉妬や痛みなど 小さなもの・・・ 今、一番つらいのは・・・ (・・・桔梗と・・・犬夜叉・・・) 嗚呼神様。 どうしてこの二人に こんな痛すぎる別れ方をさせるのですか・・・? どうしてこの二人に もっと向き合う時間を 与えてくださらないのですか・・・? (・・・神様・・・。お願い・・・。もう一度・・・。 あの二人に・・・向きあう機会を・・・。あの二人に・・・) 切ない痛みをかごめは心の奥に 押し込んで 願う。 同情とよばれてもかまわない。 この世に全能な神がいるのなら 悲恋に終わるあの二人の運命を変えて欲しい。 そう願わずには居られない。 (・・・私は・・・。離れなくちゃいけないね・・・。 犬夜叉の傍から・・・) 今から・・・。犬夜叉と桔梗の二人の永遠の時が 始まんだ・・・。 (・・・その時が・・・来たんだ・・・ね・・・) 泣きながら・・・ 犬夜叉と共に 泣きながら・・・ そう・・・。 犬夜叉との別れの時が・・・ かごめの決意に 迷いは なかった・・・