"井戸を壊そう・・・"
かごめの突然の申し出に・・・。犬夜叉はただ驚く・・・。
「・・・かごめ・・・」
「いつかは・・・。決めなくちゃいけないことだったの・・・。それを
先延ばしにしてた・・・」
”とにかく今は・・・犬夜叉のそばにいて・・・精一杯がんばろう・・・”
そう思って・・・
未来のつらい選択から・・・目をそらしていた・・・。
「私・・・。現代に帰る・・・。帰らなくちゃ・・・。あそこが
私が生きる場所だし・・・それに・・・。もう私がここにいる理由もない・・・」
「かごめ・・・」
自分から・・・。別れを切り出す・・・
それが今、私がするべきこと。
私が・・・しなければいけないこと・・・。
「・・・犬夜叉は何も考えなくていいから・・・。桔梗の心を守ることだけ・・・
考えて・・・」
「かごめ・・・」
”偽善だ”
”同情だ”
頭のどこかで
ひねくれた自分が叫んでる。
”いい子になるな。人の死を奇麗事にするな”
それでもかごめは
選択する・・・
「・・・かごめ・・・。そんな急に・・・」
「私の気持ちも察してよ!!」
かごめはわざと大きくかかとをけって土を鳴らした。
「・・・もう解放してよ・・・。犬夜叉と桔梗を見続けるなんて・・・。
桔梗を想うあんたの背中を見るのはもう・・・」
「かごめ・・・。そうだよ・・・な・・・」
(違う・・・!!本当はずっとそばにいたいよ・・・!)
けれど言えない。
望んじゃいけない。
人の死の上に成り立つ
幸せなんて・・・
あるはずがない・・・
「・・・ごめんね・・・。最後まで強くなれなくて・・・」
嘘をつきながら
泣く・・・
嘘をつかないと
犬夜叉を突き放さないと
誰も前に進めない。
「いや・・・。お前には・・・つらい思いばっかりさせて・・・」
「・・・。笑ってサヨナラしよう・・・」
「え?」
「明日・・・。私・・・。帰る・・・。笑ってさよなら言うね・・・。
ほら・・・。もういっぱい私、泣いちゃったでしょ。涙もないし」
「かごめ・・・」
「・・・。切ないサヨナラは・・・きつすぎるよ・・・。だから・・・。
笑ってサヨナラ言うからね・・・!」
「かご・・・っ」
足早に
去っていくかごめ・・・
呼び止めたいけれど
今の自分には
そんな権利はない・・・
(桔梗を心に抱えたままの俺には・・・何も・・・)
桔梗の墓土を
抱きしめる・・・
(・・・桔梗・・・)
かごめの痛々しい笑顔より
今はまだ・・・
哀しい魂を想うことしかできない・・・
余裕がない・・・。
(かごめ・・・ごめんな・・・)
不甲斐ない自分を呪いながら
その日の夜が明けた・・・
「かごめちゃん、本当に・・・。本当に帰っちゃうの・・・?」
「うん。ごめんね。勝手に決めて・・・」
リュックに荷物を詰めるかごめ・・・
「いやじゃあああ!!かごめ。行くな」
七宝はかごめに抱きついて涙で抗議するが
「・・・七宝ちゃん。ごめんね・・・。もうお菓子とか
もってこられない」
「ちょこれえとも、くっきいもいらん。じゃから
かごめ、ここにのこってくれ」
七宝、鼻水たらして訴える・・・。
「・・・ごめんね・・・」
「えええんーーー!!」
七宝の泣き声が
珊瑚の胸にも弥勒の胸にも
痛い・・・。
「・・・かごめ様・・・。ご決意は変わらないのですね・・・」
「・・・。弥勒さま。浮気しちゃだめよ」
「へ!?」
シリアスな弥勒が一変・・・。
「珊瑚ちゃんは私の大親友よ!浮気なんかしたら・・・。
弥勒さまの舌抜きに帰ってくるからね!!」
「わ、わかりました・・・き、肝に銘じておきます・・・(汗)」
「それでよし・・・。うふふ・・・」
(かごめちゃん・・・)
「・・・浮気してもいいよ。法師さま」
「さ、珊瑚ちゃん何行って・・・」
「それでかごめちゃんが帰ってくるなら・・・。戻ってくるなら・・・っ」
「珊瑚ちゃん・・・」
溜まらず珊瑚はかごめを抱きしめる・・・。
幾多の戦いをともにしてきた・・・
男には言えない気持ちを
たくさんたくさん言い合ってきた仲間・・・
「・・・珊瑚ちゃん。だめだよ。そんなこと言っちゃ・・・」
「かごめちゃん・・・」
「琥珀くんと弥勒さまと幸せにならなくちゃ・・・。ね・・・」
布団に横たわる琥珀をやさしく見つめる・・・
「弥勒さま!珊瑚ちゃん・・・。元気で・・・。幸せにね・・・!」
涙は見せない。
自分が見せてしまったら
きっと
みんなが悲しんでしまう・・・
「じゃあ・・・行くね・・・!」
井戸の前まで見送る珊瑚たち・・・
約一名・・・。
残して・・・
「・・・。かごめ・・・。本当のもう帰ってこないのか?」
おめめ、ぐしょぐしょの七宝。
「ごめんね」
「・・・。じゃがあれじゃ!この井戸さえ
あればしばらく会えなくともまた来れる。そうじゃ!そうじゃろ。かごめ?」
七宝はの問いに・・・
「・・・うん・・・」
切なく返事・・・
「犬夜叉は・・・?」
「・・・いいんじゃあんな奴・・・。今のアイツは
普通じゃないんじゃ。かごめが実家に帰る方が一番
いいのかもしれん。冷却期間、ということじゃな」
「・・・。七宝ちゃん。元気でね」
ぎゅうっと七宝を抱きしめるかごめ・・・
「あ・・・。犬夜叉・・・」
俯いた犬夜叉が静かに
井戸にちかずく・・・。
「犬夜叉・・・」
「かごめ・・・」
「・・・。おすわり・・・!!」
犬夜叉、地面に埋没・・・
だが
怒り返すこともなく・・・
「ふぅ。なんかこれもできなくなるかなーって思ったら
名残惜しいなぁ」
「・・・」
「やだなぁ。シリアス顔ひきづちゃって・・・。
まあ仕方ないよね・・・。今の犬夜叉は・・・」
「・・・かごめ・・・」
「・・・。元気でね。ちゃんとご飯食べてね」
「・・・ああ・・・」
湿った別れはしない
笑って
さよなら・・・
演技くさくても
無理やりでもしなくちゃいけない・・・
「・・・あんたと一緒にいられてよかった・・・。
本当にそう思ってるよ」
「かごめ・・・」
「・・・さよならは言わない・・・。言わないよ」
犬夜叉に背を向けるかごめ・・・
言いたいことは山ほどある
でも
シリアスな別れのシーンなんて
エネルギーさえない。
もう・・・
あとはこの井戸に身を投げれば
それでおしまい・・・
おしまい・・・
「犬夜叉・・・。私が井戸に飛び込んだらすぐ・・・。お願いね・・・」
「・・・」
深くうなずく犬夜叉・・・
「じゃあみなさん・・・。暫くの間・・・さよなら・・・!!」
「かごめ、オら待ってるからな。待ってるから・・・」
「・・・ありがと。七宝ちゃん」
最後の最後まで
七宝も弥勒も珊瑚も知らない。
黙っている・・・
「・・・じゃあみんな・・・。さようなら・・・。みんなと出会えて・・・
本当によかった・・・」
(かごめ・・・)
「・・・さよなら・・・。犬夜叉・・・」
バシュ・・・
かごめが井戸の中に
消えた・・・
そのすぐ後に・・・
「おいみんなどいてろ・・・!」
「な・・・!?」
犬夜叉は鉄砕牙を振りかざし・・・
「風の傷・・・っ!!!!」
井戸めがけて風の傷を放った・・・!!!
ドゥンン!!!
放った風の傷は・・・
一瞬にして
井戸を消し去り・・・
平地にしてしまった・・・
「・・・な・・・な、何するんじゃーーーー!!」
「そうだよ!!あんた何考えてるの!!あれじゃあかごめちゃん
もう戻ってこられないじゃない!!」
珊瑚ははっとした。
”みんなと出会えてよかった・・・”
かごめの言葉の意味が
ようやく理解した・・・
「・・・もしかして・・・。かごめちゃんも犬夜叉も・・・最初から・・・」
「・・・」
「・・・いいんだ・・・これで・・・。いまの俺は
かごめを傷つけるだけだ・・・」
「いいって・・・勝手なこというなよ・・・!!!」
珊瑚は犬夜叉の襟をつかんだ。
「・・・あんた・・・泣いて・・・」
「・・・これで・・・。いいんだ・・・これで・・・」
犬夜叉の
憔悴しきったかすれ声に・・・
珊瑚の手が襟から離れた・・・。
「・・・これで・・・いいんだ・・・」
とぼとぼと・・・
犬夜叉が向かうのは・・・
桔梗の墓の元へ・・・
「うわあああああん!!犬夜叉の阿呆がぁああ」
大泣きする七宝・・・
「・・・珊瑚・・・」
「こんな別れ方って・・・ないよ・・・ないよ・・・」
弥勒の胸で泣きじゃくる珊瑚・・・
「・・・犬夜叉もカゴメ様も・・・。優しすぎるんだ・・・」
誰かの生死の上で
自分たちだけの幸せを願うはずがない。
願える心の主たちじゃない・・・
(辛いな・・・)
いつも一緒にいた仲間が
もういない・・・?
会えない・・・?
実感が沸かない
珊瑚たち
でも一番実感が沸かないのは・・・
「・・・これからは・・・。お前とずっと一緒だ・・」
巫女の衣装を頬にあてる犬夜叉・・・
(これでよかったんだ。こうするしかないんだ・・・)
頬を伝う涙は・・・
何の涙だろう
大切な誰かを失った涙・・・?
大切な誰かを傷つけてしまったから・・・?
(わからねぇ・・・。今は何も・・・)
犬夜叉が持っていた
白い羽・・・
そうれはもう
懐にはない・・・
(帰って・・・。来た・・・)
真っ暗な井戸の底。
上を見上げる
真っ暗・・・
井戸がこんなに深かったって
初めて知った・・・
「えへへ・・・。帰ってきちゃった・・・。えへへ・・・。
もう・・・向こうへ行けなくなっちゃったよ。へへ・・・」
笑うしかない
土をいじくって
爪がおれるほど
つよく掘って・・・
「もう・・・。みんなに会えないよ・・・へへ・・・」
痛みを
土に込めるために
掘って
掘って
「会えないって・・・。サヨナラしたんだ・・・へへ・・・」
爪の中に土が入り込むほど掘って
掘って掘って・・・
「・・・サヨナラ・・・したんだサヨナラ・・・サヨ・・・」
ポタ・・・
土に
泥に
落ちた涙が
染み込む・・・
「・・・うぁあああああ・・・っ」
もう
会えない・・・!!
井戸に
かごめの
叫ぶ声が
響いた・・・
ないてないて
何時間か
泣いて・・・
そして呟く・・・、
「・・・サヨナラ・・・。犬夜叉・・・」
永遠の白い羽根も・・・
ただの白い羽根になってしまった・・・
「サヨウナラ・・・」
純白の羽根に・・・
透明な
透明な
涙が
落ちた・・・