第6話 本当の喪失
別れ。
劇的に切なく盛り上がった別れではない。
でも・・・
もう井戸が無い。
「・・・これで・・・よかったのか・・・?犬夜叉よ・・・」
桔梗の墓の前・・・線香をたく楓・・・
「・・・これから・・・。俺は桔梗をここで守っていく・・・」
「・・・犬夜叉・・・」
「・・・。そう・・・決めたんだ・・・」
(・・・だったら何だ・・・その覇気の無い・・・目は・・・)
精気がない
覇気がない
心の中がからっぽ・・・
「・・・桔梗になにか・・・。花摘んでくる・・・」
犬夜叉は少し体をふらつかせて歩く・・・
地面に足の裏がついてないような・・・
・・・全身から脱力感を感じる・・・
(・・・何もかも・・・わからねぇ・・・。感じねぇ・・・)
白い花を摘む・・・
(・・・オレは・・・)
奈落と闘い・・・
得た結末が・・・
この脱力感だけか・・・
守ると約束したはずの女は守りきれず・・・
(桔梗・・・。本当は・・・オレも・・・。お前と一緒に・・・
逝くべきなのに・・・)
”お願い・・・。簡単に命を手放さないで・・・。
犬夜叉の命は沢山の命の上に成り立ってるんだから・・・”
涙で訴えるかごめの瞳が
よぎる。
(・・・。オレは・・・。何かを望んじゃいけねぇんだ。
一生ここで・・・。お前を守っていく・・・)
一生ここで桔梗の心を守り
生きていく・・・
「・・・あ・・・」
かごめと対で持っていたあの白い羽根。
なくなっていることに今、やっと気づく犬夜叉。
”これを持っているもの同士は絶対に結ばれる”
(・・・もうあの羽根も・・・いらねぇし・・・。持ってちゃいけねぇんだ・・・)
桔梗の衣を抱いて
ご神木に背をもたれる犬夜叉・・・
「・・・一緒に・・・生きていこうな・・・」
飛んでいってしまったあの羽根。
かごめへの想いを乗せて・・・
消えたんだ・・・
そう・・・。
犬夜叉は自分に言い聞かせていた・・・
「あーー!!もう寝過ごしちゃったーー!!」
洗面所で髪をとかすかごめ。
「んもーーー!!草太ったら歯磨き粉ちゃんと
しまっときなさいよーー!」
とたばたと廊下を走るかごめ。
「はぁ。受験生は忙しいったらありゃしない。いっただきまーす!」
頬を大きく膨らませ、朝食をほおばるかごめに
草太やママ、じいちゃんたちは呆然。
「ごちそうさまでした!んじゃママ、いってきマース!!」
いつもより声、一オクターブ上がっている。
「・・・姉ちゃん・・・。無理・・・。してるよな・・・」
「そうね・・・」
「そうじゃのう・・・」
どんなに明るい笑顔でも。
心のそこから楽しい笑顔と
哀しみを押し込めるための笑顔は違う。
(・・・少しは・・・。親の前ぐらい涙・・・見せてほしいわ・・・お母さんは・・・)
辛さを笑顔に代えてしまう娘の心が・・・
ママは痛かった・・・
「で・・・あるからこの問題分かる奴・・・」
「あ、はーい!はい先生、私解きます!」
積極的に手を上げて黒板に向かうかごめ・・・
友人たちはかごめのはりきりように驚いて・・・
「いくよーー!ボール受け取ってねーーー!!」
グランドでも
かごめの張り切る声が響く・・・。
何かをはじき帰すために
何かを忘れるために・・・
「たっだいまーーー!!ママ!夕食の手伝いするね!」
制服のままエプロンつけて台所に立つ。
「今日は何?ふふ。ハンバーグなら得意・・・」
かごめがにんじんを切ろうと包丁を持ったがママは取り上げた。
「・・・ママ・・・?」
「・・・かごめ・・・。休みなさい」
「え・・・?」
「・・・笑顔の下の涙とちゃんと・・・。向き合いなさい」
ぽろっとかごめの手から
にんじんが落ちた・・・
「ママ・・・」
「・・・強がりは・・・。心を壊すだけ・・・。自分の
心と向き合わなきゃ・・・」
「・・・ママ・・・」
母のの優しい労り・・・
「・・・休んできなさい・・・。食事ができたら呼ぶから・・・」
母に背中を押されて・・・
二階へ上がっていくかごめ・・・。
パタン・・・。
薄暗い部屋・・・
窓の隙間から風が入る・・・
カーテンが・・・
・・・揺れる・・・
今にも誰かがあけそうな窓・・・
”おう・・・!かごめ!”
(犬夜叉・・・)
”いつまでこっちにいる気だ!!”
(犬夜叉・・・)
”・・・迎えに来てやった・・・。行くぞ・・・”
もう・・・
迎えには・・・
来ない・・・
「・・・うぅぅ・・・」
嗚咽が泊まらない。
会えない
会えない
会わない・・・
(犬夜叉・・・)
かごめは素足でご神木まで走った・・・
矢の傷跡をなでる・・・
「犬夜叉・・・犬夜叉・・・」
木の根元で・・・
崩れるかごめ・・・
本当の”別れ”の痛みは・・・
寂しさは・・・
「・・・会いたいよ・・・会いたいよ・・・」
時間が教える・・・
夜明けても
朝が来ても
・・・犬夜叉はもう・・・
(・・・もう・・会えない・・・)
一晩中泣いても
犬夜叉は来ない。
一日
二日・・・
本来過ごすべきの日常に戻れば戻るほど・・・
ご神木はあるのに
井戸もあるのに
「・・・犬夜叉・・・」
もう・・・
想い人は
来ない・・
笑顔も
声も
足音も
見えない
聞こえない・・・
ざわ・・・。
かごめの別れの言葉を震えるように・・・
ご神木の葉がなびいて・・・
(あ・・・)
白い羽根が風に舞い上がり・・・。
(・・・本当に・・・サヨウナラ・・・だ
ね・・・)
高く遠く・・・
空に消えた・・・。
ザワザワ・・・ッ
「・・・!?」
ご神木に寄りかかっていた犬夜叉に・・・
ヒラリ・・・
(これは・・・)
なくなったはずの羽根が・・・
落ちてきた・・・
(・・・かごめ・・・)
何故だろう・・・
どうしてだろう・・・。
この羽根は・・・
犬夜叉の手に舞い降りた・・・
(・・・持ってちゃいけねぇのに・・・)
けれど・・・
犬夜叉の手は
羽根を確かに握り締める・・・
いつか・・・
(いつか・・・)
”もう一度・・・”
という
捨てきれない
望みを託して・・・
”犬夜叉・・・”
忘れなければいけない笑顔が・・・
優しいにおいと声が・・・
過ぎる・・・
(・・・かごめ・・・。元気で・・・。)
夕日色の瞳から
伝う一筋・・・
ザワ・・・
”犬夜叉・・・。サヨナラ・・・”
ご神木のざわめき
(・・・さようなら・・・)
もう絶対に会えない。
確信に変わった・・・
本当の”喪失”は始まったばかりだ・・・