絆を探し求めて
〜白い羽根が舞う頃〜
第8話 時の流れ
「あ・・・また大きくなってる」
ご神木の芽・・・
かごめは毎日水と栄養を与えている。
(・・・元気に育って・・・。お願い・・・)
切ない願いと一緒に・・・。
「かごめ!早く行きなさい!受験遅れるわよ!」
「あ・・・。いけない・・・」
今日は受験の日。
小さな芽に希望を託してかごめは自分の道を決めに
出て行く。
(生きて・・・生きなくちゃ)
自分が選んだ道。
(もしかしたら・・・いつか・・・)
会いたい人にいつかあえるかもしれない。
それを活力に変えて・・・。
「行ってきます・・・!!」
かごめは羽根をお守り代わりに握り締めて
受験会場に向かう・・・。
「犬夜叉。お前一日に何回見に行くんじゃ」
「うるせぇ」
一方戦国。
犬夜叉もかごめと同じ、毎日ご神木の芽を見に来ている。
(・・・)
健気に少しずつ成長しているごんぼく。
優しい匂いと繋がっている気がして・・・
「おう。七宝。ちゃんと水やってんだろうな」
「やっとるわい!」
かごめからもらったおもちゃの象の如雨露でぴちゃぴちゃと注ぐ。
「枯らしたらぶんなぐるぞ!!」
「だったら自分でやればよかろうが!!」
かごめと別れてから一年。
七宝とこんな風なけんかをしながら過ごしてきた。
(・・・桔梗。今日はちょっと曇り空だぜ)
桔梗の墓に白い花を手向ける犬夜叉。
桔梗が好きだった花・・・
「・・・桔梗・・・」
こうして静かに・・・
桔梗と向かい合って
語り合ったことがない気がする・・・
”犬夜叉・・・”
いつも・・・
互いに熱い想いを秘めたまま
見つめあって・・・
”こんな私は・・・。私らしくないか”
少し見せられた本音に心揺れ
初めて感じる甘酸っぱい気持ちに互いに戸惑った・・・。
「・・・風が気持ちいいぜ今日は・・・」
甘酸っぱい気持ちは・・・
懐かしい風に変わっていく。
「って・・・こんな俺はオレらしくないか」
”私らしくないか・・・”
頬を染めて微笑んだ初恋・・・
初めて自分以外の誰かを好きになった瞬間。
それは永遠。
永久に消えることがない記憶。
「あしたは違った色の花、持ってくるから」
懐かしさが心穏やかにする・・・
”過去”じゃない”永遠”・・・。
(あ・・・)
犬夜叉の背丈程に育ったご神木・・・。
(この傷は・・・)
犬夜叉が桔梗の矢で封印されていた哀しい印。
そしてかごめと出会った印・・・
(・・・。間違いねぇ・・・。この木は・・・。俺達の大切な木だ・・・)
永遠の微笑みの記憶と
500年後の優しい匂いに繋がっている・・・。
(・・・結局俺は・・・。ずっとかわらねぇ)
初恋の女(ひと)の魂の眠りを祈る想いと
無意識に優しい匂いを求める想いと
どちらかを捨てる、選べなんてできない。
(・・・でも今オレは・・・生きている・・・)
選べないけれど
捨てられないけれど
・・・”これからどう生きるか”・・・は
決められる・・・。
「・・・絶対枯れるなよ。いや、枯らせない。絶対に・・・」
育て・・・
育て
青い空に向かって。
・・・もしかしたら優しい匂いに会える未来に向かって・・・
(天に届くほどご神木が伸びた時・・・いつか・・・)
いつか・・・
いつか・・・
いつか・・・
あれから幾つ季節が過ぎただろうか。
幾つ過ぎたかなんて忘れたくらい
過ぎていった
時が流れれば自分が生きる周囲は変わっていく
「ははうえ〜!!ちちうえがまた村のおなごにちょっかい出してる」
「ったくー!!あんの助平法師は!!5年経っても
根性なおらないか!!」
お腹が大きい珊瑚が仁王立ちしてお怒り中。
「珊瑚。あんまり怒らんほうがいいぞ?腹の子によくない」
お団子をほうばる七宝。
「いいんだ!!ったく!!2人目の子供の父親になるっていうのに。
飛来骨でたたき直してやる!!」
飛来骨を背負って珊瑚は物凄い勢いで家を飛び出していった。
「・・・。ははうえ・・・怖すぎる・・・」
「お前の父は・・・果たして無傷で帰ってくるじゃろうか・・・(汗)」
引き戸越しに走っていく珊瑚をちょっと震えながら見送っております
翡翠(弥勒と珊瑚の長女)と七宝。
翡翠はもうすぐお姉ちゃんになるわけですがまだまだ
甘えん坊です。
「琥珀おじさんはまだかえってこないのかなぁ」
「・・・。アイツにはアイツのケジメがあるんじゃ。ふっ。ま、
子供のお主にはわからんじゃろうがな・・・」
琥珀は珊瑚と弥勒が結婚してから
この村を出て行った。
”オレが殺した仲間や・・・父上たちの魂をともらいたい”
そう言って・・・放浪の旅に出た。
時々は帰ってくるけどまた出て行く・・・
「琥珀もいろいろあるんじゃ・・・」
「いろいろー?」
「ふっ。まだ子供のお前はわからんじゃろうがな・・・」
「ふうん・・・。じゃ、いぬやちゃのおにいちゃんも?」
口元に白い粉をつけて七宝にたずねる翡翠。
「・・・あいつか。あいつは永遠に・・・子供じゃな」
ぱくっと2個目のおだんごをほおばる七宝。
(・・・かごめもおらんし・・・な)
じわっと・・・
七宝の目が潤む。
「あー。七宝にーちゃん泣いてるの?」
「な、泣いてなどおらん!!ないなんか・・・」
昨日、かごめの夢を見た。
一緒に遊んでいる夢。
ご神木にお水をあげてくれてありがとうって
言ってくれた・・・
(ご神木はあんなに大きくなったのに・・・)
空に手がとどくほどに
大きくなったのに・・・。
・・・”もしかしたら”がおきない・・・。
(いつなんだ・・・?)
ザワ・・・
風は優しいけれど・・・
求める匂いは風に乗ってこない・・・
(いつ・・・なんだ・・・?)
信じて
待って待っているけれど・・・
(”もしかしたら”はいつなんだ・・・?)
銀色の長い髪が風になびく・・・
寂しさと刹那さがあふれる瞳が
ご神木にたずねる
(・・・こんなオレだから・・・やっぱり駄目なのか・・・?)
ザワ・・・ッ
ご神木は何も応えない
期待もできなくなってきて
でも望みを絶つこともできなくて・・・
(・・・いつなんだ・・・)
ひたすらに
待つしかない・・・。
「・・・かごめ!」
「え?あ、ごめん」
横断歩道。赤になるのを待っている。
「疲れてる?ぼうっとして」
「ううん・・・」
大学生になったかごめ。
一瞬、誰かに呼ばれた気がした・・・。
(今の声は・・・)
「あ・・・。青になった」
歩き出すかごめ・・・
だがヒールのかかとが溝にひかかって
「きゃッ」
倒れるかごめ・・・
「痛い・・・あ・・・やだバック」
バックの中身が白線の真ん中で飛びちった。
手帳、化粧道具、携帯・・・
中身を拾うかごめ
「あ・・・!」
だが2枚の白い羽根が舞い上がり・・・
「駄目・・・。行っちゃ駄目!!」
(それは・・・私とアイツをつなぐ・・・)
両手ですくうように羽根を受け止めるかごめ・・・だが瞬間、
かごめの友人が叫ぶ
「かごめ・・・!危ない・・・!!」
(え・・・)
トラックがかごめ向かって一直線に突っ込んでくる・・・!!
ドン!!
「かごめーーー!!」
白い羽根がと・・・
かごめが一緒に空を・・・飛んだ・・・
ドスン!!
固く冷たいコンクリートにかごめの体は打ち付けられ・・・
同時に赤い血が・・・頭から
流れ・・・
「かごめーー!!しっかりして!!」
かごめの痛々しい怪我した体を
通行人たちが囲んで見下ろす・・・
「救急車!!誰か・・・誰か・・・!」
かごめの友人の悲痛の声が・・・
小さくなっていく・・・
(・・・私・・・死んじゃったのかな・・・)
「かごめ・・・!!かごめ!!」
(・・・手も足も・・・動かないや・・・。やっぱり死んじゃったのかな・・・)
遠のいていく意識・・・
時が止まったように
空の青さしかみえない・・・
(・・・ママ・・・草太・・・おじいちゃん・・・ごめんね・・・)
体の痛みも消えていく・・・
(・・・最後に・・・会いたかった・・・)
このまま死んでいくなら・・・
魂になれば
好きな人の元へ飛んでいけるかな・・・
(・・・犬夜叉の元に・・・飛んでいけるかな・・・)
閉じていくかごめのまぶた・・・
すると・・・
”かごめ・・・”
(誰・・・?犬夜叉・・・?)
覚えのある声・・・
”かごめ・・・”
(・・・犬夜叉・・・じゃない・・・)
”一緒にいこう・・・”
ふわ・・・
血だらけのかごめにしか見えない
真っ白な羽根が見える・・・
この声の主は・・・
(風馬・・・さん・・・?)
”迎えに来たよ・・・。一緒に・・・逝こう・・・”
白いシャツ姿の風馬が
かごめに手を差し伸べている・・・
”一緒に・・・いこう・・・”
(・・・どこへ・・・?)
”・・・君が・・・望む場所へ・・・”
白い羽根が
舞う・・・
かごめの心も・・・
ふわふわと
どこかへと・・・
飛んでいく・・・
「かごめーーーーーー!!息してよーーーーー!!」
道路の真ん中で・・・
かごめの呼吸は
止まった・・・