まるで空に墨をこぼしたよう・・・。
只でさえ、奈落との闘いで疲れている体の犬夜叉一行。
事に珊瑚は疲れすぎて寝付けぬほどに体思い・・・。
(・・・。一つぐらい星・・・でてないかなぁ・・・)
そう思いながら、草原に座り空を見上げていた。
闇夜・・・。
風の音もない。
静かすぎて不安になる。
さっき少しうとうとしていた時見た恐い夢・・・。
こんな闇夜のように真っ暗な空間に一人琥珀がいて・・・。
こっちにきてと手を伸ばすとどんどん遠くに行ってしまう・・・。
そして・・・。
琥珀の体が光り・・・。
四魂のかけら出てきて・・・。
そして琥珀は疲れた顔でつぶやく・・・。
“姉上・・・。オレ・・・もう疲れた・・・”
“琥珀・・・!”
グッと手を伸ばし、琥珀の右手を掴もうとした瞬間・・・!
パリーンッ!
四魂のかけらが破裂し、琥珀の体も・・・。
ガラスの様に粉々に・・・!!
「珊瑚」
弥勒が肩をポンと叩いた!
「キャアッ!!」
珊瑚は肩をビクッとさせてかなり驚いた。
「法師様・・・」
「どうしたんだ?一体・・・。その驚きようは・・・」
弥勒は珊瑚の横に座り、珊瑚を心配そうに見つめた。
「・・・。ちょっと・・・。嫌な夢を思い出して・・・」
「琥珀の夢・・・か?」
「うん・・・」
いつも強気で意地っ張りな珊瑚。
しかし弟の琥珀の事になると・・・。
一変に哀しげな瞳になる・・・。
「法師様・・・。あたしね・・・。時々思うんだ・・・。四魂の玉なんてなかったらよかったのに・・・って・・・」
膝の上の自分のこぶしをギュッと珊瑚は握る。
「何もかもの元凶が四魂の玉・・・。あれがなかったらみんな、傷つかずに苦しまずにすんだ・・・。沢山の命がなくなることも・・・」
四魂の玉を奪い合い・・・。
幾多の村がつぶされ、
幾多の無関係な人々が犠牲になってきたか・・・。
琥珀もそのうちの一人・・・。
「例え奈落を倒したとしても四魂の玉が在る限り・・・。第二第三の奈落が現れるかも知れない・・・。ね、法師様、そう思わない!?奈落を倒しても・・・。ねぇ法師様・・・!!」
珊瑚は弥勒の法衣の襟を両手で掴んで、激しく問う。
琥珀を失う不安と・・・。
長い闘いの疲労が珊瑚の心を重く支配していた・・・。
弥勒は珊瑚に掴まれた手をそっと離す・・・。
「悪いが・・・。珊瑚の気持ちは分かるが私はあまり賛成できんな・・・」
「え・・・?」
弥勒は遠く空を見つめる。
「確かに珊瑚の言うとおりかもしれない・・・。元凶である四魂の玉がなくならないかぎり無意味な殺生が続くだろう・・・。だが・・・。四魂の玉は持つ者によってその価値が出てくるのだ・・・。珊瑚。自分の心に負けるな・・・」
珊瑚は俯く・・・。
「・・・。法師様は正しいこと言うよね・・・いつだって・・・。冷静だし・・・。でも、あたし、そんなに強くない・・・」
犬夜叉一行で一番冷静沈着。感情に流される事がない弥勒。
そんな弥勒を頼もしいと思う一方、本音が見えなかったりとても大人すぎて・・・。
「・・・。今日は・・・。本当に一つの星もでていないな・・・」
「・・・」
珊瑚は押し黙ってしまった・・・。
「・・・。しかし珊瑚。星があるのは空だけではないぞ・・・」
「え・・・?」
弥勒は懐の中から手ぬぐいをとりだししゃがむ・・・。
「な・・・何?」
「よく・・・見ていなさい・・・」
手ぬぐいをゆっくり開くと・・・。
「あっ・・・。蛍・・・?」
小さな黄色い光が・・・。
ゆっくりと湯気のようにふわりと飛んだ・・・。
「法師様・・・」
「言っただろう・・・?“星が在るのは空だけじゃない”と・・・」
弥勒は優しく微笑む・・・。
蛍は弥勒と珊瑚を包むようにゆっくり円を描いて飛ぶ・・・。
「さっきふいに私の法衣に止まっていてね・・・。逃がしてやろうと思ったんだが、どうしてもお前に見せたくて・・・」
「法師様・・・」
弥勒の笑顔が珊瑚の心に染みる・・・。
「珊瑚・・・。四魂の玉がなかったら・・・なんて寂しいことを言うな・・・」
「え?」
「さっきは偉そうな事を言ったな・・・。でもな・・・四魂の玉がなかったら・・・。私達は出会わなかったのだから・・・」
「法師様・・・」
奈落は憎むべき敵。
倒すべき敵。
しかし、その敵がいなければ
こうして愛しき魂には出会えなかった・・・。
沢山の妖怪や魔物がいて。
沢山の人間がいて。
その中で、こんなに大切に思える相手に出会えるなんて、
見つかるなんて
なんて尊い奇跡だろう・・・。
空飛ぶたった一つの光の様に・・・。
「あれ・・・」
飛んでいた蛍が・・・。
ポタッと珊瑚の膝の上に落ちた・・・。
「・・・。光ってない・・・。消え・・・ちゃった・・・」
「・・・」
「消えちゃった・・・」
本当に真っ暗になってしまった・・・。
微かな希望の様なささやかな光の様だった蛍・・・。
消えてしまった・・・。
闇になってしまった・・・。
「消えてない・・・」
「え・・・?」
「今の蛍の光は・・・。私と珊瑚の胸の中で光っているさ・・・」
弥勒は・・・
珊瑚の髪をそっと撫でた・・・。
「・・・。なんてな。ちょっと気障だったかな・・・」
「ふふ・・・」
気障でも何でもいい。
貴方が私を想う気持ちが伝わってくるから・・・。
嬉しい・・・。
「法師様」
「ん?」
「・・・明日も・・・頑張ろうね。」
珊瑚は弥勒の肩に頭をそっと凭れさせる・・・。
「そうだな・・・。明日も・・・明後日も・・・ずっと・・・一緒に・・・」
弥勒は・・・グッと珊瑚を引き寄せ・・・
二人は身を寄せ合う・・・。
光がなくても・・・。
きっと大丈夫・・・。
暗闇でも大丈夫・・・。
私は・・・。
一人じゃないから・・・。
それが何よりもの希望という名の光だから・・・。