そして強引に河原に連れ来られた珊瑚の頬も・・・。
「ほ、法師様・・・。用って一体何なの?」
「・・・。かごめ様に言われてしまった。おみよの一件をちゃんを珊瑚に説明しろ・・・とな。隠し事をされるのが一番つらい・・・と」
「かごめちゃんが・・・?」
「・・・。隠し事をされた時の辛さは・・・かごめ様がよくご存じだからだろうな・・・きっと」
「かごめちゃん・・・」
自分を元気づけてくれたかごめ。
考えてみれば自分より遙かに切なくてどうしようもない気持ちをいつも抱えているはずなのに・・・。
かごめは相手に求めていない。何も。
優しくされたい、常にいつも自分を見ていて欲しい。
“恋”をすれば相手に色々求めてしまうのに、かごめはそれをしない。
ううん。ホントはかごめだって心の奥底では思っている。でも、かごめはそれをみじんも相手には見せない。
珊瑚はかごめのそんな強さに憧れ、そして・・・。
同じ女の子として身が切れる位にせつない。
「かごめちゃんて・・・やっぱり強いね・・・。もしあたしがかごめちゃんの立場だったら多分・・・。逃げてしまうと思う・・・」
「・・・。ああそうだな・・・。だから、私も逃げないぞ。珊瑚」
「えっ?」
弥勒は珊瑚じっと見つめた。
「珊瑚、私はお前が描きたい。お前だけを」
「・・・」
真剣な。瞳。
本当はずっとその言葉が聞きたかった。
あたしを描いて欲しかったの・・・。
珊瑚は高鳴る鼓動を押さえて深く頷いた。
「そうか・・・。ありがとう。じゃ・・・どうせならこの夕日を背にしている珊瑚を描きたいのだが・・・」
「い・・・いいよ・・・」
珊瑚はゆっくりとその場に座り、弥勒は懐から紙を筆と墨を取り出した。
「あ、あのさ・・・。法師様、あたしはどこ・・・見てたらいいの?」
「好きな所を見ていてくれた良い。ただ、そうしてしばらくじっと座っていてくれたら・・・」
「じっとって言われても・・・」
そういう弥勒はすでに筆を走らせていた。
真剣なまなざしで・・・。
「・・・」
(法師様が・・・。あたしを・・・。見てる)
見ている。
弥勒が珊瑚を。
珊瑚だけを。
一点だけを見つめて。
珊瑚だけを。
(や・・・。やだ、何か・・・体が・・・)
熱くなる。弥勒の視線が珊瑚の体の奥を・・・。
熱く・・・させる。
注がれる・・・。視線。
鋭くて・・・。激しくて・・・。
でも優しい・・・視線。
(もう・・・。なんか・・・法師様に全部・・・)
見られている。自分のすべてを見られている。
恥ずかしさと嬉しさが・・・。さらに珊瑚の鼓動を早くさせ、熱く、熱く、させる。
(法師様・・・。法師様・・・)
珊瑚はわき上がってくる緊張を押さえようと着物のすそをきゅっと握った。
「だめだ・・・」
突然、弥勒が筆を置いた。
「え・・・っ?ど、どうしたの?」
「集中できない・・・」
「あ、あたし、何か変なこと・・・した?」
弥勒は首をよこに振って否定した。
「惚れたおなごが私をじっと見ているなんて・・・。たまらない・・・」
「え、あの、ほ、法師様・・・!?」
弥勒は珊瑚にゆっくりと近づいてきた。
「珊瑚・・・。私はもう・・・。抑えられない・・・」
「え・・・あのっ・・・ちょ、ちょっとあの・・・っ。きゃあっ・・・」
弥勒は珊瑚の両肩をぐっと掴んでその場に押し倒されてしまった。
「珊瑚・・・」
目の前に・・・。弥勒の顔が・・・。
弥勒はそっと珊瑚の頬に手を当てた。
「かわいい・・・珊瑚・・・」
そしてなんとも愛しそうな眼差しが近づいてくる・・・。。
(キャア・・・ッ!!!ほ、法師様ーーーー・・・っこ、こんなところでッ)
珊瑚は思わず目をつぶってしまった・・・。
・・・。
・・・。
「・・・。あ・・・れ・・・?」
珊瑚がおそるおそる目を開けると・・・。
弥勒は珊瑚のお腹に頭をのっけたままなんと、眠ってしまっている。
「なっ・・・」
珊瑚、一気に体と心の緊張感が抜けた。
「なによ・・・っ!!もうーー・・・」
けど・・・。弥勒の寝顔を見るのははじめての珊瑚。
「・・・」
珊瑚はそっと弥勒の頭を自分のひざに乗せた。
(・・・。そういえば法師様・・・。ここ2,3日、夜遅くまで絵、描いてたっけ・・・)
なんて、のんきな寝顔。
人をこんなにドキドキさせておいて・・・。
でも・・・。ずっと見ていたいな・・・。
素直になって・・・。
とても幸せな気分になりかけたと思ったら・・・。
「ひっ・・・」
あら。まあ!珊瑚の後ろで弥勒の右手がまたもセクハラを・・・。
「ああ、珊瑚・・・。とてもいい心地です・・・」
何だかわざとらしい寝言の弥勒。
「こ・・・の・・・。」
珊瑚爆発3秒前。
「セクハラ法師ーーーーーーーッ!!!!」
バッチーン!!
寝顔の弥勒に・・・またもや見事な手跡がつく。そして河原の石を抱えたまま眠っていたそうな。
「珊瑚・・・。最近腰つきがごつくなりましたなぁ・・・。むにゃむにゃ」