「わぁ・・・。法師、絵、お上手ねぇ・・・」
「ホントだわぁ♪」
「いやいや、それれほどでもないです」
何事にも器用でそつのない法師・弥勒。それは異性関係でも発揮されるようだ。
「どうです。ここは一つ、私の絵の被写体になってはいただけませぬか。ついでに私の子を産んでくださると嬉しいんですが・・・」
「きゃー♪やだッ♪」
と、何かとこの男の周りは女衆の声が絶えない。
その様子をいつも、どこからか、見て見ぬ振りをしながらも鋭い視線を送っている。珊瑚。
「へぇ・・・。弥勒様に絵の趣味があったなんて知らなかった。ね、珊瑚ちゃん」
「さぁ。趣味って言うより、女引っかける道具じゃないの。今だって・・・」
村の女衆に囲まれ、上機嫌の弥勒。珊瑚はかなり不機嫌だ。
「お絵かきならオラもまけないぞ。ほれ♪」
七宝、お気に入りの落書き帳を二人に見せる。
「ほんとだ♪大分、上手になったねぇ」
「えっへん」
自慢げ七宝。
「弥勒も誉めてくれたんじゃ。弥勒の奴、随分前から絵を描いていたみたいじゃな。オラもつい最近知ったんじゃ」
「へぇ・・・。そうなんだ・・・」
自分も知らなかったと思う珊瑚。もともと、弥勒は自分の本音を見せない所があるから、驚きはしないが、知らない事が出てくるたびに、弥勒が何だか遠く感じる珊瑚だった。
「おお、これはこれは。みなさんおそろいで・・・。一体何のお話で?」
「弥勒様が、絵が上手だなって話してたの。ね、珊瑚ちゃん」
「ついでにナンパもね」
いつもの如く、鋭いつっこみの珊瑚。
「はは・・・。昔から絵は好きでしてね。旅をしていてふと心に残った風景をかきとめていました」
弥勒はそう言って、何枚かの和紙に描いた絵をみんなに見せた。
「わぁっ・・・。すごい!」
「うまいもんじゃのー」
「いやいやそれほどでも」
感激するかごめと七宝の横で、横目にチラッと弥勒の絵を覗く珊瑚。
(ホントだ・・・。上手・・・)
しかし珊瑚、心とは裏腹なことをつい、言ってしまう。
「ふん・・・。本当は女の人描きたいんじゃないの?」
「はは。確かに・・・。しかし、私は女性を描くならたった一人ですよ」
「え?」
「惚れたおなごただひとりをね」
弥勒はまっすぐに珊瑚の目を見て言う。
「な・・・な、何言ってンの!あ、あたしなんてそんな・・・」
と、背を向けて照れる珊瑚の後ろで、弥勒、美女発見!
「おおっ!!そこのお美しい方、是非とも私の子を・・・」
弥勒、なぜか、殺気を感じて振り向くと珊瑚が・・・。
「・・・。言ってることとやってることが違いすぎるのよーー!!」
ビッターン!
「見事な響きじゃの」
弥勒様のお顔に真っ赤な珊瑚ちゃんの手の跡がつきました。
そして、珊瑚は怒ったままその場を立ち去った。
「あいたた・・・。かごめ様・・・。私、何か珊瑚に気に障ることを言いましたかねぇ・・・。(いつもより力が入っていたような気が・・・)」
「弥勒様、珊瑚ちゃん、弥勒様に描いて欲しいんじゃないかな。好きな人にモデルをやってくれって言われたらすごく嬉しいもの」
「はぁ・・・。そんなもんでしょうか・・・。ですが、今、私はちょっと取りかかっている絵がありまして」
「取りかかっている絵?」
それは3日前の事だったか。弥勒はある人物から絵を描いて欲しいと頼まれていた。
なるべく早くとの事だったが、まだ、あまりできていなかった。
「へぇ。やっぱり弥勒様って優しいなぁ。普段はただの女好きのお軽い法師なんだけど」
「かごめ様・・・。誉めているのかけなされているのか分からないんですが・・・」
「弥勒様。珊瑚ちゃんって強がりだけど本当はとってもすごく素直な普通の女の子なんだ。だからちゃんとみててあげてね」
「承知しております。ま、幼い嫉妬しかできない誰かさんとは違いますからな」
「弥勒、てめー誰のこといってやがる」
どこにいたのか犬夜叉、自分の悪口には敏感らしく、ひょこっと登場。
「私は事実を言ったまでですが」
「けっ。うるせぇ。女と見れば見境のないお前にはいわれたくねぇ!」
「本気で二またかけるよりましでしょう」
「んじゃ、お前は何股だ!」
弥勒、指をおって数えてみる。
「ひぃ、ふぅ、みぃ・・・」
「かぞえんな!!」
なんとまあ・・・。空しい男達の会話。横でかごめと七宝は冷ややかな視線。
「・・・。七宝ちゃん、大きくなってもあんな男たちになっちゃだめよ」
「うん。オラ、珊瑚やかごめの様な苦労はおなごにはさせんぞ!(サツキちゃん命)」
「・・・。とっても説得力があるご意見ね・・・」
しかし、この後、弥勒の『今、取りかかっている絵』で、珊瑚がまたまた怒りに触れることになるのだった。
珊瑚は弥勒が何を描いているのか気になって仕方がないが聞いても、他の絵とは違う様で「これは人から頼まれたものなので・・・」と真面目な顔をして見せてはくれなかった。
“一体、誰に頼まれたんだろう”
“どこで何を描いているんだろう”
「・・・」
気になりだしたら止まらない。
夜、珊瑚はこっそりと弥勒の後をつけていた。
弥勒は河原に来ていた。
珊瑚はささっと岩の陰に隠れる。
ゆっくりと頭を上げて見ると・・・。
真剣な眼差しで向こうチラリ、チラリと見ながら、絵筆を走らせている。
その視線をたどっていくと・・・。
(な・・・。お、おみよちゃん!?)
おみよとは以前、弥勒に想いを寄せていたという村の少女。
しかし、弥勒は受け入れなかった。
(ど・・・。どうしておみよちゃんの絵を法師様が!?)
“わたしは惚れたおなごしか描かない”
弥勒の言葉を思い出す珊瑚。
(な・・・何よ・・・。あんなこといっておいて・・・!!)
どうしようもない嫉妬が珊瑚の心にぶわっと湧いてくる。
弥勒が一点に集中して、おみよを見ては絵筆を動かす。
おみよも弥勒しか見てないない。
おみよだけを。そらさずに。そらさずに。
珊瑚の拳にグッと力がはいる。
たまらない。たまらない。
他のヒトをあんな瞳で見るなんて・・・。
(法師様の・・・嘘つき・・・ッ!!)
いたたまれなくなった珊瑚。
すごい早さで楓の小屋にもどった。
「ん??」
「どうされました?法師様?」
「いや・・・今珊瑚がいた気が・・・。いや、何でもありません。続けましょう。おみよ」
小屋に戻った珊瑚。その夜、布団を頭からガバッとかぶり
どうしようもなく湧いてくる嫉妬心を必至に押さえながら眠った珊瑚だった。
後編につづく