涙
風が吹く。
銀色の長い髪がなびく。
黄金色の草原で座り
消えてしまった
二度も救えなかった女の匂いを微かにたどる・・・
果てのない海原を探すように目を閉じて・・・。
(・・・犬夜叉・・・)
赤い衣の背中を
遠くから見守る少女。
かすかな嫉妬と焦がれる想いが入り混じる。
言葉はなけれど
赤い衣も背中は他の者を近づけさせない
”一人にしてくれ・・・”
風がそう・・・銀髪の少年の今の心を少女に届ける。
(・・・。そうだよね・・・。辛いよね・・・)
死を背負った女を二度も救えなかった
己を責め、崖の下に消えていった女の姿が
少年の心を埋め尽くしている・・・
(・・・。犬夜叉・・・)
今、少年の前に立っても多分
少年の瞳は自分は映らないだろう。
存在しなていないだろう。
「いぬ・・・」
思わず声が出掛かる。
私はここにいるのよと
私もここにいるのよと・・・
(犬夜叉・・・)
少年の想いの深さに
少女はつい思う。
私が消えたらあなたも泣いてくれますか?
私がいなくなったらどれだけ悲しんでくれますか?
いなくなれば・・・
瞳の片隅に私は映りますか・・・?
(あ・・・)
少女の涙となって桃色の頬を濡らす・・・
泣いています。
私の心が泣いています。
気づいていますか・・・?
貴方のすぐ後ろで
私は・・・
泣いています。
(・・・やだ・・・どうして私こんなこと考えてるの・・・)
我に返った少女は、刹那の涙の雫を白い手で拭う。
我の心より想う少年の心の方がより
痛んでいることを知っているのに・・・
(・・・。犬夜叉を元気にしなくちゃ・・・。笑っていなくちゃ)
届かせちゃいけない 背負わせてはいけない
悲しみに暮れる少年の心の負担にならぬよう・・・
(私の心は後まわしでいい・・・)
少年の悲しみが癒えるまで
少年の悲しみが少しでも和らぐまで・・・
少女の慈愛は
母の温もりの香りをただよわせ
風にのる・・・
「・・・。かごめ・・・?」
少女の香りは少年の心に届く。
凍てついた心を包み込むように
静かに
柔らかく・・・
柔らかく・・・
「また一人でぼんやり・・・。みんな探してたのよ」
「・・・。悪かったな」
切なげな顔を少年は隠す。
心配かけぬようにと少女に気遣い。
「・・・ここ・・・。風・・・きもちいいね・・・」
「・・・おう・・・」
少女は目を閉じて深く深く清清しい風を体に吸い込む
新鮮な空気は嫉妬と刹那を体から抜かれていく
一瞬だけれど・・・
「ねぇ」
「あぁ・・・?」
「私・・・。ここにいるよ」
「・・・かごめ・・・?」
「・・・ここに・・・ずっといるから・・・」
「・・・かごめ・・・」
少女の微笑み
疲れ切った体を一瞬で軽くする
カラカラの体を潤す
不思議な力。
不思議な・・・あたたかさ。
「・・・もう少し・・・。風にあたっていこう・・・ね・・・」
「ああ・・・」
一人じゃない。
黄金色の広い草原
となりにこの世で一番好きな匂いがあれば
きっと迷いはしないだろう・・・
少年は思う。
”きっと大丈夫・・・”
と・・・。
少年の顔に覇気が微かに戻った
希望が戻った・・・
(犬夜叉・・・。よかった・・・。よかった・・・)
少年の表情に少女は安堵する
だが少年は知らない。
少女が泣いたことを・・・
少女が流した刹那の涙を・・・
そして少女は自分に言い聞かせる
(しょうがないのよ・・・。しょうがない・・・。だから私は
もう・・・泣かない・・・)
少年は知らない。
少女の悟りを
少女の来るべきときの未来別れの覚悟を・・・
空は・・・
少女の刹那に
悔しいほどに
晴れ渡っていた・・・
サンデー17号で、かごちゃんフィーバーしているのに切なかごちゃんに
なってしまいました。ごめんよ。