犬かご50
時空を超えて
伝えられなかった想い。 伝えたかった想い・・・ 井戸の向こうに想いを馳せても会えない現実。 だったらせてめて。 空に消えたあの二人を あの二人の幸せを 想いをずっとつなげていて・・・
あの日々は 夢だったんじゃないかと時々思う。 自分の知らない時代に行って、幾多の魑魅魍魎と闘って・・・ 切ない恋をして・・・ 「かごめ。何してるの。そろそろ登校時間じゃないの?」 「うん、今いく」 真新しい制服に身を包み、家を出る。 目の前には御神木・・・。 思い出が詰まりすぎているこの木を見るのは辛すぎる。 でも抜くわけにも行かない。 犬夜叉は 去った。 天に還った桔梗の魂を胸に刻み いずこかへ 去った ”かごめ・・・。ありがとう・・・。お前と出会えて・・・ 本当によかった・・・” 泣いていた。 泣いて・・・ 犬夜叉はかごめを最後に 深く深く抱きしめた・・・ (嫌よ・・・。ずっとずっと抱きしめていてよ・・・) 言葉にできぬ叫びを かごめは必死に我慢した こらえた。 犬夜叉の腕から離れた瞬間 体が引きちぎられるかと思った。 声をからして ”一緒にいてよ。一緒に・・・” そう叫びたかった 叫びたいけど叫べない 伝えちゃいけない想いだから・・・ 今、井戸は封印されている。 戦国の世から戻ってから、もう行き来できなくなった。 断ち切った想いのせいで・・・? もう会えない運命だから・・・? (犬夜叉・・・) 心の中で呟いても 赤い衣はもう飛んで来ない。 御神木。 出逢った場所 ここにずっと立っていれば 会えるかな きてくれるかな そんな期待を抱いては消し懐いては消し まるで切れそうな電球のように・・・ ザアアアアアアッ!!! 「・・・きゃ・・・」 御神木の葉が激しく揺れた ザワワワワワッ ”かご・・・め・・・” 「!?」 (犬夜叉・・・!??) 御神木の天辺をみあげる。 確かに聞こえた声。 確かに・・・ (聞こえた・・・) ザワワ・・・ 御神木の新緑は優しく揺れる かごめに何か伝えるように・・・ 「・・・犬夜叉・・・。そこから見てるの・・・?いるなら降りて ちゃんと聞こえるように言ってよ・・・。私・・・何も聞こえないの。 犬夜叉の姿が見えないの・・・」 応えはない。 ただ葉のざわめきだけが かごめの耳に届くだけ・・・ 「・・・。私・・・。電池切れちゃった・・・。前向きに 歩こうと思うけど・・・。歩けないの・・・。すぐ・・・井戸へ行こうとしてしまうの どうしたらいい・・・?どうすればいい・・・?」 応えは・・・ない 切れた糸。 自分の糸は犬夜叉とは結べない でも・・・せめて・・・ 自分の気持ちを伝えたかった 伝えきりたかった かごめは御神木にむかって話す。 例え届かぬ声でも 「ねぇ・・・。私・・・犬夜叉こと・・・ちゃんと支えられてたかな・・・。 一緒にいて・・・楽しかったかな・・・」 手を繋いだあの日。 笑って欲しい 私に何ができるかわからないけど・・・ ずっと一緒にいる・・・ そう誓った 「私は・・・犬夜叉に何を伝えられたかな・・・。何があげられたかな・・・ どう思う・・・」 微笑みながら 切ない雫を零しながら かごめは御神木に託す 「私は犬夜叉からいっぱいもらったよ・・・。敵に勇気と・・・。まっすぐ 突き進む強さと・・・。いっぱいいっぱい・・・もらったよ・・・」 目に浮ぶ 身を挺して いつも守ってくれた赤い背中 その背中に何度もありがとうを言いたかった・・・ 「犬夜叉・・・。今・・・。聞こえる・・・?私はずっと願っています・・・ 犬夜叉と・・・それから弥勒さま、珊瑚ちゃん、七宝ちゃん・・・戦国時代の みんなの笑顔を願っています・・・」 ずっと共に闘ってきた仲間達・・・ つたえきれなかった言葉を 御神木に向かって話す。 「珊瑚ちゃんと弥勒さま。可愛い赤ちゃんできるといいね」 「七宝ちゃん・・・お父さんに負けない強い妖怪になってね」 「楓おばあちゃん。ずっと・・・長生きしてください」 心の中の仲間達に 一礼をしながらかごめは呟く・・・ そして・・・ 「犬夜叉・・・」 桔梗の魂と共に生きている犬夜叉 「・・・私は願ってる・・・。犬夜叉が・・・。好きな人と・・・100年・・・ ずっとずっと続きますように・・・。今度こそ・・・繋がっていられますように・・・ そうおも・・・思っ・・・て・・・っ。おも・・・って・・・」 手が震える・・・ 抑えても・・・ こらえきれない涙・・・ 「・・・っうぅ・・・っ」 嗚咽をあげそうになるのをぐっと我慢する ひざまづいて 必死に涙をこらえる・・・ 砂をつかんで 涙を止める・・・ だけど 届くはずのない願い 想い 「ホントは・・・寂しいよ・・・。私・・・やっぱり・・・会いたいよ・・・ 会いたいよ・・・っ。っっぅ・・・」 奇跡が起こらないかな 見上げたら そこに赤い衣が自分を見下ろしていたり・・・ そんな奇跡・・・ 「・・・どこにいるの・・・?私の声・・・聞こえて・・・るよね・・・? っつぅ・・・」 願おう 犬夜叉と繋がっていられる・・・ 好きな人の 幸せと笑顔を 願うこと・・・ 私の願いが いつか実を結んで 孤独な魂たちを明るいぬくもりの中に 導いてくれたら・・・ 「・・・犬夜叉・・・。また・・・会える・・・よね・・・っ。会えるよ・・・ね・・・」 いつかわからない あえないかもしれない きっと 会える。 信じてる・・・ 「かごめー!早く学校いこー!」 階段の下で友がよんでいる かごめは制服の袖口で涙を静かにぬぐい 目を閉じて深呼吸した。 これが私の今 生きている世界 涙はもう・・・見せちゃいけない・・・ 「はーい!今行くーー!」 また泣くかもしれない でも・・・ (私は頑張れる・・・。一人じゃないから・・・。そう・・・。だよね・・・? 犬夜叉・・・) 階段から御神木を見上げる かごめを優しく見送るように 葉が揺れていた・・・ ”好きな人と・・・ずっと続きますように・・・。繋がっていられますように・・・” かごめの声は井戸の向こうへ 届く ガタン・・・ 封印したはずの井戸の蓋 長い爪と赤い衣が顔を出す・・・ 届いていた声 強い想い 願いは時空を超える そんなもの関係ない 強い願い・・・ 赤い衣は優しい匂いのする方へ走って 呼ぶ 本当に好きな人の名を 「・・・かごめ・・・」 「犬・・・夜・・・叉」 ”あの人が 好きな人と100年続きますように・・・ずっと繋がっていられますように・・・” 願いは時空を超える 誰かを想う心は どんな心より 奇跡を生むのだから・・・ 「犬夜叉・・・っ。おかえりなさい・・・っ」 「・・・ただいま・・・。オレの・・・居場所・・・」 想いはきっと 奇跡を起こす・・・ きっと・・・
かごちゃんなら、再会できなくとも、御神木に向かって 犬と桔梗の永久の縁が続くようにと願います。そういう子なのです。 ヒトトヨウさんの(漢字忘れました)「ハナミズキ」という曲の フレーズ「君と好きな人が100年続きますように」とか「僕の我慢がいつか実を結び・・・」って部分があるのですが、妙にかごちゃんの願いの様にも聞こえてきて うるうるする自分です。・・・入りすぎですね(汗)