犬かご50
夫婦
かごめ達一行が立ち寄った村。 そこにはちょっとした逸話があった。 「夫婦地蔵?」 「はい。夫婦地蔵の前で口付けを交わした男女は永遠に 結ばれるという言い伝えがあります」 村の入り口に2体の地蔵が祭られている。 それは夫婦地蔵と村人達は呼び、大事にしてきた。 その昔、子の村に住んでいた若い夫婦がはやり病にかかり 若くして亡くなったことが発端だとかごめたちは村人から聞いた。 「珊瑚!これは私達、行かねばなりませんな!」 弥勒、珊瑚の手をぎゅっと握る。 「なんで?」 「私達は夫婦になる男女ですよ?」 「へぇええ。そうなんだ。夫婦になる男が村の女の子に ちょっかい出すんだ・・・(ギロリ)」 珊瑚、血管が浮いております。 「・・・(冷や汗)あ、あの・・・」 「一人で地蔵と口付けでもしてら・・・。フン!!」 村の空き家にて、未来の夫婦、夫婦けんか・・・。 かごめは気を利かせて 「犬夜叉、弥勒さまたち二人きりにしてあげましょ」 と耳打ちして犬夜叉を連れ出して小屋を出た・・・。 いつものことなのだが。 「・・・たまには二人きりにしてあげなくちゃね」 かごめと犬夜叉は村外れの丘に来ていた。 そう・・・ 夫婦地蔵がある丘だ。 「これが夫婦地蔵か・・・」 丘の上にポツン・・・と。 同じ方角を同じ空をみつめるように 「なんか・・・。寄り添ってるね。お互い必要とし合ってるみたいに・・・」 「あ?何が」 「だから・・・。もういいわよ!」 ぷいっと頬を膨らませるかごめ・・・。 犬夜叉が情緒的ではないのはわかるが・・・ 意思疎通ができてないみたいで・・・ (寂しいな・・・) 村人たちの話を思い出す・・・。 夫婦地蔵のモデルの若夫婦。 はやり病で立て続けに命を落としてしまったという・・・夫婦。 その夫婦は二人とも親には幸薄く・・・ だからそこ二人の絆は深かったという・・・。 深く、二人はこの丘で約束した。 互いの手に・・・口付けを交わして ”支えあって生きていこう・・・” 「・・・犬夜叉」 「なんだよ。まだ怒ってンのか」 「ううん・・・。ね。犬夜叉、左手だして」 「な、なんだよ・・・」 「いいから」 犬夜叉はおずおずとかごめに左手を差し出す・・・ そして・・・ (え・・・っ) 手の甲にそっと軽くキス・・・ 犬夜叉、突然のかごめのキスに驚く 「///」 「ごめん。急に・・・」 「い、いや別に・・・」 犬夜叉、鼻の頭をポリポリかいて照れくさそう。 「・・・。夫婦地蔵の若夫婦はね・・・。こうしてお互いの手に 口付けをしあったんだって・・・」 かごめはしゃがみ、地蔵をじっと見つめた。 「なんか・・・。ちょっと羨ましいな」 「な、何がだ?」 「・・・この夫婦地蔵の若夫婦は、長くは一緒にいられなかった。だけど・・・。 短い時間でも二人にとっては掛け替えの無い時間だったのよね・・・」 (かごめ・・・) 切なそうに地蔵に 摘んだ花を供えるかごめ・・・。 「・・・寄り添って・・・。同じ時間、同じ道を、同じ未来を・・・。きっと 夢みていたのね・・・」 「・・・」 かごめの一言一言が 犬夜叉の胸に突き刺さる。 「・・・ってなんかごめん。別に深い意味はないから・・・」 「・・・」 「帰ろ・・・。えっ・・・」 犬夜叉はかごめを抱き寄せた。 「犬夜叉・・・?」 「・・・」 犬夜叉はただ 黙って抱きしめる・・・ (・・・犬夜叉・・・) 嬉しいさというより どこか・・・。 切ない抱擁・・・。 「・・・犬夜叉・・・」 「・・・」 犬夜叉はそっとかごめを解放した。 「・・・すまねぇ・・・。なんか・・・」 巧みな言葉など知らない。 かごめが哀しそうな顔を見たら・・・ 自然に・・・。 「・・・。口付けより・・・。こっちの方がいいね」 かごめは犬夜叉手を静かに握り締める。 「・・・(照)」 「こっちの方がいい。同じ・・・景色が見えるもの・・・」 向かい合うのもいいけど・・・ 横に並んで、同じ視界の景色が見渡せる・・・ 「・・・もしかしたらさ」 「え?」 「あの夫婦地蔵の若夫婦も・・・。こうしてここから 真っ青な空をみていたかもしれないわね・・・」 キスよりも 抱き合うよりも もっとお互いを感じられる。 「男と女が・・・寄り添って生きていく。それが・・・夫婦なのかもしれない・・・。 ね。犬夜叉」 「・・・けっ。難しいこと言うな」 言葉とは裏腹に・・・ 犬夜叉の右手はかごめの手をしっかりと 力強く握り締めている・・・。 「・・・もうしばらく、景色見て行こうか・・・」 「おう・・・」 夫婦地蔵と並んで・・・。 いつまでも二人は同じ空の色を 心に焼き付けていたのだった・・・。