朔の日
日が暮れる。 空が闇に変わる様に 銀色の長髪も黒い艶やかな色に変化し、幾多の妖怪を切り刻む 長き爪も短くなる。 自分の中に流れる妖怪の血が消えていく・・・ 川面に映る自分の姿。 ”人間”の自分の姿・・・ 半妖の時は どんな妖怪が襲ってきても返り討ちにしてやると思うほどの自信 が湧くのに。 人間の姿になると 自分でも情けないような心元なさを感じるのは何故か・・・ 昔は朔の日だろうと、いつだろうといつも一人だった。 一人きりの夜だった。 他の妖怪に見つからぬよう 洞窟に隠れ 草木の陰に身を潜め 半妖である自分の運命に歯がゆさを噛み締めていた。 ”もっと力が欲しい・・・!!誰にも負けない、力が・・・!” 「・・・!」 はっと眠りから覚める犬夜叉。 (・・・夢かよ) 昔の・・・ 自分の夢。 心にいつも余裕がなかった・・・ どこか苦しかった・・・ 「・・・。どうしたの。ぼんやりして」 「かごめ・・・」 「嫌な夢でもみたの・・・?」 「別に・・・」 タオルを片手に、かごめは犬夜叉の横に静かに座った。 「大丈夫・・・?」 「んなことあるかよ・・・」 「そう・・・?」 心配そうに犬夜叉の顔をのぞくかごめ。 夢の中では一人だった朔の夜。 今は自分の身を案ずる存在がそばにいる。 「疲れてない・・・?大丈夫・・・?」 優しい声に 強張った心が一気に溶ける。 寒いと凍える体にそっと毛布を着せられたように その温もりに幸せを感じられずにはいられない 「お前こそ疲れれてるだろ。ずっと山道歩きっぱなしだったし・・・」 「平気よ。だってそれは珊瑚ちゃんも弥勒さまも同じでしょ・・・。 私だけ特別ってことはないから。ね・・・?」 「・・・かごめ・・・」 犬夜叉の視線がかごめの足に向けられた。 擦り傷が何箇所も・・・ それを隠すようにすわり、笑顔でいる。 ・・・それがかごめという女 「犬夜叉」 「あぁ・・・?」 「私は大丈夫だから・・・。あんまり無理しないでね・・・」 「けっ・・・。俺はそんなヤワじゃねぇ・・・。人間の姿でも負けねぇ」 「うん・・・」 自分を気遣うものがいる。 自分の命を気にかけるものがいる。 「お前こそ無理するなよ・・・」 「うん」 かごめの笑顔を守りたい。 守りたい 「・・・。犬夜叉に何かあったら・・・。私怖いから・・」 「・・・。それはこっちの台詞だ・・・」 「犬夜叉・・・」 「お前に何かあったら怖い・・・。だから・・・もっと・・・来いよ」 隙間が1ミリもないほどに ぎゅっと体を添わせる・・・ 目の前にいてお手を伸ばして 引き寄せて 体温を感じなければ 確かに”そこ”に居ると 不安になるほど 求める 存在。 「犬夜叉・・・」 「・・・。お前がいるから・・・強くなれるんだ・・・」 「うん・・・」 「・・・忘れんなよ・・・?」 「・・・うん・・・」 朔の日は 妖力も 自分の力に対する自信も消えてしまうけど・・・ その代わり 驚くほどに素直になれる。 恥ずかしくて言えないことも 言葉にできる 伝えられる 「・・・かごめ・・・?」 可愛い寝息が腕の中で囀ずる 幸せな寝顔。 かごめがいれば 昔は嫌いだった黒髪の自分も 今は・・・ 嫌いじゃない 「本当に忘れんなよ・・・。さっき言ったこと・・・」 ”俺はかごめがいるから強くなれる・・・” 夢の中のかごめに呟く。 心から・・・ 素直になりたい・・・ そんな・・・ 朔の夜。