第77話 旅路
「犬夜叉・・・」 「桔梗・・・」 携帯から、飛行場の慌しいアナウンスが聞こえる。 「あ、あの・・・。桔梗。すまねぇが実は・・・」 「すまない」 「・・・え?」 「乗るはずたった飛行機にトラブルが起きて・・・。出発が明日の夕方になった」 「・・・。そ、そうか・・・」 心の奥で安堵した自分を感じる犬夜叉。 「お前の都合もあるのにすまないな・・・。本当に・・・」 「いや・・・いいんだ・・・」 「・・・犬夜叉。私は頑張ろうと思う・・・。自分のバイオリンを信じて・・・」 「桔梗・・・」 昔の誇り高い桔梗からは考えられない言葉が出てくる。 常に自分の力を過剰に誇張することもないが、過剰に卑屈になることもなかった。 人に弱音を見せず・・・。 「とにかく・・・。頑張れ」 「・・・。ありがとう・・・。明日・・・待っている・・・」 「・・・あ、え、いやあの・・・」 「悪い・・・人が呼んでいる・・・じゃあ・・・」 「あっ・・・」 プツ・・・ッ・・・。 切れた。 肝心なことを言えず切ってしまった・・・。 (・・・) 明日・・・桔梗が乗る飛行機は午後3時発。 ”早めに帰れば間に合う” またそんな半端な考えがふっと浮ぶ。 (俺は・・・) 〜♪ かごめアドレスの着信音・・・。 「もしもし?犬夜叉」 「もしもし・・・」 「何やってるの?また寝坊したんじゃないのかなって思って」 かごめの元気な声・・・。 ホッとする一方で少し後ろめたさが・・・。 「・・・。寝坊なんかしてねぇよ」 「そう?なんかその割には声のトーンが低いわね。ま、いいか。 とにかく遅れないでね」 「ああ・・・わかってる」 「・・・。もう。せっかく旅行するんだから楽しい顔で来てよ。じゃあね」 「ああ・・・」 P・・・! かごめの明るい声が、少し辛いけれど・・・。 (かごめ・・・) 犬夜叉は携帯をジーンズのポケットに入れ、スポーツバックを抱えて・・・。 駅に向かった・・・。
駅のホーム。 「〜番線に○○温泉行き列車が入ります・・・」 アナウンス。 「あ、犬夜叉、こっちこっち!」 手招きするかごめの元へ犬夜叉は走って駆け寄る。 「やっぱり寝坊したんじゃないの。もう」 「んなわけねぇっつてんだろ・・・」 なんとなく、かごめの目を直視できない犬夜叉。 ふっと視線をそらす。 「・・・なんで目、逸らすわけ?」 かごめは犬夜叉の顔を覗き込む。 「・・逸らしてなんかねぇよ」 「ふーん・・・。もしかしてここくる前、桔梗とでも話してきた顔してるわね」 ギクリッ 犬夜叉、ストレートにかごめの推理が入り、動きが止る。 「・・・。あんたってほんっとに態度に出るわね。ったく・・・」 「んだよっ」 「少しは、顔に出さないようにするとか、多少気を使いなさいよねッ。 あんたには学習能力ってもんがないわけ。もー!!信じられない!! あんたのは鈍感さにも愛想が尽きたわよ!」 「なっ・・・。そこまで言うことねぇだろッ」 二人、ホームで口げんか・・・。 電車発車のアナウンスも無視して・・・。 二人に電車の乗務員が近づいて一言・・・。 「あの・・・電車・・・発車しますけれど・・・(汗)」 「・・・」 列車が発車する。 始まったばかりのケンカは一旦停止したが・・・。 ガッタンゴットン・・・。 電車は適度な速度で走る。 流れていく田園風景をバックに向かい合って座る二人・・・。 「・・・」 「・・・」 犬夜叉は頬杖をついてむすっとし、かごめも旅行バックを抱えたまま しゃべらない。 (・・・。なんでこうなるんだよ・・・。せっかくの旅行なのに・・・) イライラする犬夜叉の耳に隣の席のカップルの会話が耳に入ってくる。 「純ちゃん、はい、あーん」 「あーん・・・」 いちごポッキーを一本くわえ、口移しのように彼女の方が男に 渡す。 (けっ・・・。何やってんだ。あいつら) あまりのいちゃいちゃ度に犬夜叉のイライラ倍増。 スニーカーが貧乏揺すり・・・。 「はい、犬夜叉、あーん」 「え?」 スッと目の前に同じいちごポッキーを加えたかごめ・・・ 「なっ、何考えてんだ、お前はッ(照)」 「ふふふ・・・。度胸ないわねー」 かごめはにこにこしながらぽりぽりいちごみるくポッキーを食べる。 「ふふ。ごめん・・・。あんたがあんまり考えこんでるから 元気だしてほしかっただけよ」 「かごめ・・・」 「せっかくの旅行だもん。ケンカはなし・・・。ね!」 かごめは微笑んで犬夜叉に缶ジュースを手渡した。 「乾杯!」 プシュっと栓を開けるかごめ。 (かごめ・・・すまねぇ・・・) と、思いながら犬夜叉も栓を開ける・・・。 「わッ!!!」 プシュワーッ! 空けた瞬間、白い泡が噴水のように噴き上げた。 「きゃははっは・・・!やーい。ひっかかったぁ!」 「て、てめぇ!!渡す前に缶、振りやがったな!??」 犬夜叉が空けたのは炭酸飲料。振れば雪のような泡がシャワーのように飛び出します。 「ふふふー。水も滴る二股男だよ。犬夜叉」 「うっせぇッ!!!てめぇも食らえ」 犬夜叉、缶を更に振ってかごめに炭酸シャワーをお見舞い。 「きゃぁッ!!やったわね!!」 かごめも自分の缶を振ってお返し・・・。 車内で二人、炭酸シャワーのかけ合いっこをし、降りるとき、こっぴどく 車掌からしかられたのだった・・・。 「ったく・・・散々な目にあったぜ」 『戦国温泉街駅』 タオルで髪を拭きながら、木造駅舎から出てくる二人。 降りると温泉の硫黄の香りがした。 「いいじゃないの。これも旅のいい”思い出”になるんだから」 「・・・なるかよ。こんなもん」 「・・・。なるのよ・・・。私にとっては・・・ね」 (え・・・?) かごめの言葉に一瞬、ひっかかる犬夜叉。 「さぁて!じゃあ、早速、温泉探索と行きますか!」 「お、おう」 「いこ!」 かごめは犬夜叉の腕を引っ張って温泉街に入っていく。 パンフレットを手に・・・。 「まずはここ・・・!戦国温泉菩薩寺」 長い階段に大きな門。 あがっていくと本道があり、中に菩薩の像が祭られている。 「この菩薩様にはねー。縁結びの力があるっていわれてるのよ」 「ふーん」 興味なさそうな犬夜叉。 「お願いしていこうね」 「何を」 かごめは少し考えて言った。 「・・・。内緒」 ちゃりんッ。 賽銭箱に500円玉が投げられる。 カランカラン。 鈴を鳴らしてかごめは手を合わせる・・・。 静かに目を閉じて・・・。 (・・・) かごめの横顔を見つめる犬夜叉。 何を祈っているのか・・・。 犬夜叉はかごめの気持ちを知りたかった。 「犬夜叉はお願いしないの?」 「・・・願いごとなんてねぇよ」 「ふーん。謙虚だね。ふふ・・・」 願い事なんてない。 願ったところで何か変わるわけじゃない。 変わるわけじゃ・・・。 「じゃ、次、次いくわよー!」 「痛てて!ひっぱんじゃねぇよ!」 犬夜叉の革ジャンを引っ張ってかごめはずんずんと次の名所を回る。 「わー♪綺麗!」 『戦国温泉ガラス美術館』 世界のガラス工芸品を展示、即売している。 透明なグラス、皿、水差し・・・。 かごめはあっちこっち見惚れて、はしゃぐ。 「きれーよねぇ。犬夜叉」 「ガラスなんてな、ビール飲むときぐらいしかつかわねぇだろ」 「ねぇ。これお揃いで買おうよ」 かごめが持っているのは水色のガラスでできたイルカのキーホルダー。 「お、お揃いって」 「嫌?」 「・・・い、嫌じゃねぇけど・・・」 「じゃあ買おう♪レジいってくるねー★」 レジで清算し、イルカのキーホルダーを犬夜叉に渡す。 「ほら・・・♪」 可愛い親子のイルカのキーホルダー。 「はい、これ、犬夜叉のね♪私、携帯につけとこ」 早速ストラップがわりにつけるかごめ。 「気に入らない?」 「別にそんなんじゃ・・・(照)」 「・・・。いいよ。もっててくれるだけでいい。嬉しいから・・・」 「・・・」 しゅん・・・とするかごめ・・・。 「携帯に物ぶらさげるのは趣味じゃねぇけどま・・・いいか」 犬夜叉は携帯を取り出し、ぶつぶついいながらもつけた。 「・・・お、落としたとき、便利だからな」 「・・・アリガト。」 「お。オウ・・・」 鼻の頭をかく犬夜叉。 「じゃぁ・・・そろそろお昼だし、おいしいもの、食べよ。おそばの 美味しい店しってるの」 昼食は温泉商店街の小さな蕎麦屋に入ったかごめたち。 「ねー。おそばいっぱい食べるとさ、長生きするっていうから、 いっぱいたべとこーね♪」 ちゅるちゅるとそばをすうかごめ。 「あ、かまぼこ食べないの?じゃあもらうね」 「あっ。こら」 犬夜叉のかまごこをかごめがぱくっと食べた。 「ふふー。残すなんて勿体無いものね」 かごめの仕草にちょっとどぎまぎ。 (こ、こんなやりとり・・・。まるで長年連れ添った・・・) 「・・・夫婦みいやねぇ・・・」 (えっ) かごめたちの隣の席の老夫婦の一言に犬夜叉の箸が止った。 「そうだなぁ。奥さんの方が若い頃の母さんにそっくりだ。いいですねぇ。 若い新婚さんは」 老夫婦の会話に、二人は照れくさくなってかしこまって そばをすする。 「まぁ。赤くなっているわ。ふふふ・・・初わねぇ・・・」 「///」 おそばの味がなんだか こそばゆかった・・・。 午後。 二人は郷土博物館、土産物屋・・・ あちこちまわった。 「あ、おまんじゅう、楓おばあちゃんに買っていこうね!」 かごめはずっと笑顔・・・ 「ふふー。はい、写真撮るわよー!」 絶えず、笑って・・・ 「犬夜叉!早く早くー!」 何かを忘れたいような とにかく楽しいときを過ごしたい・・・ 哀しい気持ちが浮んでこないように笑っている・・・ そんな微笑み・・・ (かごめ・・・元気だ・・・いつもと変わらない・・・) 犬夜叉は・・・ かごめの笑顔の奥の真意が何なのか・・・考えていた・・・。 旅館についた二人。 午後、5箇所も名所を回ってくたくたな犬夜叉。 すっかり荷物もちです。 (ったくかごめの野郎。人にもたせやがって・・・) かごめはフロントでキーをもらっているが何かもめているよう。 荷物を抱えてフロンと行くと・・・ 「も、もうしわけございません。当方の手違いでご予約いただいた部屋1部屋しか ご用意できませんでした」 「ええ!?だって私、確かに2部屋おねがいしますって・・・。あの、他に空いてる部屋って ないんですか?」 「あいすみません。今日は団体さんが入っていて満室で・・・。本当に申し訳ありません」 番頭らしき男が頭をさげた。 「なんでしたらば、他の旅館に部屋が空いていないか当方でお探しいたしますが」 「・・・。いいです。他の旅館は高そうだし・・・。一部屋でいいです」 「そ、そうでございますか!?で、では料金はこちらの不手際ということで 割引させていただきます」 「はい。ありがとうございます」 「ささ、お客様、こちらです」 仲居2人が犬夜叉から荷物を受け取ってそそくさと部屋に案内する。 「あれ?どうしたの?犬夜叉、行こう」 (い、行こうってお前・・・) 今晩・・・同じ部屋で過ごす・・・。 犬夜叉はゴク・・・っと息を呑んだのだった・・・