第80話 紐
”バイバイ・・・”
かごめにそう告げられ、ホームで別れた犬夜叉は・・・
『桔梗・・・。すまねぇ・・・。都合が出来た・・・。
見送りにいけねぇけど・・・。元気で行って来てくれ・・・。』
そうメッセージを送った。
(こんな面・・・桔梗にみせるわけにいかねぇ)
その後、
犬夜叉はすぐ様、かごめがいるはずの楓のところに走ったが・・・
”かごめはもうおらん・・・”
楓に今月分の家賃を渡し、かごめは出て行った・・・。
『お世話になりました』
とのメモだけを残して・・・。
かごめの行き先はわからない。
いや・・・教えてもらえない。
犬夜叉は北海道にいる珊瑚にかごめの行方を電話で聞いた。
「珊瑚。知ってるんだろ。教えろよ!!」
「・・・。かごめちゃん連れ戻す気?つれもどしてどーなるんだ?」
「やかましい!おしえりゃいーんだよ!!」
ドン!っと
ビール片手に
壁を叩く犬夜叉。
「・・・。悪いけど今のあんたじゃ教えられない。
教えても何も変わらない」
「お前には関係ないだろ!!」
「・・・。かごめちゃんが言ってた。自分と犬夜叉は2本の紐で
桔梗と犬夜叉は一本の紐だって」
「紐・・・?」
”二本の紐を結べばきっと強い紐ができる。でも一本の紐は切れないのよ。
絶対に・・・。切れない”」
「・・・。かごめちゃんは自分から”一本”になったんだよ。
一本の強い紐になるために。あんたももう覚悟きめなよ」
「・・・。うるせぇ・・・」
犬夜叉の”紐”はかごめに”バイバイ”といわれて
ぶつっと切れた。
切れてしまった・・・。
犬夜叉は知り尽くす限り、かごめの行方を捜した。
実家にも電話をかけ聞いてみたが
”どこかの県の保育園にいる”
としかわからなかった。
かごめが口止めしていた。
(こんな・・・。こんな別れ方ってあるかよ・・・。こんな・・・)
かごめは完全に犬夜叉の前から姿を・・・消した。
そして桜も散って・・・。
五月の風が吹き始めた。
暗い。暗い部屋。
真っ暗。
一人・・・
ぼんやり天井を眺める。
カァ・・・。
ベランダの物干しに一匹カラス・・・
鳴き声が寂しく・・・。
休日・・・。
朝から何もせず、ただ、ビールを飲んで寝ていた
かごめと別れた日のことをずっと考えながら・・・。
最後の旅行。
・・・どんな顔で
どんなキモチで見送ればよかったのか。
何もかも半端だった。
何もかも・・・
(くそ・・・)
泣きたい気分だ。
・・・自分の半端さに・・・
「くそッ・・・・!!!」
グシャッ・・・。
缶ビールをグシャっと握りつぶす・・・。
泡が吹きあがる・・・。
(くそ・・・)
”バイバイ・・・”
(それだけかよ・・・。たったそれだけ・・・)
ぷつっと・・・
糸が切れたみたいだ・・・
”またね”
がない。
もう・・・二度と・・・二度と
(会わねぇつもりなのか・・・)
”思い出ができた・・・”
”楽しかった・・・”
かごめがつぶやいた一言一言の意味が・・・
やっとわかった・・・
(最初から・・・決めてたのかよ・・・)
どんな想いで
旅行をしていたのか・・・
一人、舞い上がっていた自分が・・・
(バカだ・・・俺は・・・俺は・・・)
布団に顔を埋め、塞ぎこむ・・・
すべてに嫌気がさすように
体が重い・・・
コンコン。
ノック・・・
誰かが尋ねてきたらしいが・・・
コンコン。
(・・・うるせぇな・・・)
コンコン!コンコン・・・!
誰にもいあいたくない犬夜叉をたたきおこすように
激しいノック。
「うっせぇな!!今は留守だ!!!」
バン!
ドアに枕を投げつける。
ノックは治まったが・・・
「・・・犬夜叉」
(!?き、桔梗の声・・・!?)
犬夜叉は飛び起きてドアを開けた。
「・・・き・・・桔梗」
シルクのフリルスカート。
白いハイヒール。
ボストンバック一つもった桔梗が
立っていた・・・。
「ど・・・どうしたんだ。お、お前・・・」
「・・・」
桔梗は俯いたまま黙っている。
「・・・と、とにかく・・・。入れ」
犬夜叉はすばやく部屋の中に転がっていた空き缶やゴミを片付け
とりあえず、小奇麗にした。
「す、すまねぇな・・・。お前がいるような部屋じゃねぇが・・・」
「・・・」
「それより・・・。どうしたんだ。何かあったのか・・・!?」
「・・・。左手が・・・。また動かなくなった」
「え!??」
桔梗は左袖をまくり右手で左手を揉みながら言った。
「・・・医者は一時的なものだろうと・・・。だがしばらくは
バイオリンは控えたほうがいいと・・・」
「・・・。そ、そうか・・・」
犬夜叉は思った。
(俺は自分の辛さばっかり酔って・・・俺ってやつは)
空港に必ず見送りに行くと言っていたのにメール一つで
見送ってしまった。
「・・・。でも・・・。帰ってきてもよかったのか?
樹だって心配・・・」
(・・・!)
白いワンピースが・・・犬夜叉の胸に飛び込んだ。
「・・・。お前に会いに・・・帰って来た・・・。それでは駄目か・・・?」
「桔梗・・・」
「・・・日本を発つとき・・・。お前からのメールが来て不安だった・・・。
お前ともっと離れてしまうのではないかと・・・」
桔梗は犬夜叉のTシャツにぎゅっと掴まる・・・
「・・・。もう・・・。嫌なのだ・・・。お前と距離ができることが・・・」
桔梗の手は震えている・・・。
その瞳はまるで。
恋する女の瞳。
相手の心がもう、自分にはないのかと不安を募らせる
そんな・・・
「・・・。犬夜叉。もう・・・お前の中には私はいないか・・・。私は
お前にとって必要ではないか・・・?」
「・・・桔梗・・・」
精一杯に・・・自分の気持ちを訴えてくる・・・
誇り高い桔梗が・・・
ありのままの自分で・・・
「・・・犬夜叉・・・。犬夜叉・・・」
桔梗は犬夜叉の背中に手を回しさらに身を寄せた。
(・・・。桔梗の・・・香水の香り・・・)
思い出す・・・。
本当はこの香りをずっと守っていこうと誓った・・・
約束された人生を捨てて自分と共に生きると誓った・・・
”桔梗と犬夜叉は・・・一本の紐・・・。絶対に切れないの・・・”
(そうだ・・・)
守ると約束して守れなかった
切り離せるわけがない。
断ち切れない縁・・・。
慕情・・・。
「犬夜叉・・・もう・・・。私を離すな・・・」
犬夜叉の手が・・・
桔梗をゆっくりと・・・包もうとする・・・
ゆっくりと・・・
そして目を閉じる・・・
目を閉じて・・・
浮ぶのは・・・
”バイバイ・・・ 犬夜叉”
(!!)
桔梗を抱こうとしていた犬夜叉の両手が・・・
パッと下りた・・・
「・・・犬夜叉・・・」
「・・・すまねぇ・・・。桔梗・・・。俺は・・・俺は・・・」
コンコン。
ノックの音・・・。
(あ・・・あの影は・・・)
ガチャ・・・
開けるとそこには・・・
・・・犬君のイメージ崩れたらごめんなさいなのですが、この場面も書かないと
ラストに繋がらなくて(汗)犬君はこの後、必ず名誉挽回するので
楽しみにしてくださると嬉しいです(^_^;