第81話  絵葉書





見覚えのあるあの陰は・・・






(もしかして・・・)








ガチャ・・・。










開けると・・・










「・・・ん?」








ドアの隙間から、真っ赤なカニが顔を出す。







「な・・・!?」








「北海道からこんにちは〜。やぁ。犬夜叉殿」






紺のスーツ姿のサラリーマン。




弥勒だった。







「弥勒どうして・・・」





「いやぁ。出張でこっちにきたものだからお前と飲もうと思ってな。
あ、もしかして先客か?」




部屋の奥をのぞく弥勒。






すると桔梗の姿が・・・






「あら・・・まぁ・・・。もしかして俺ってまずい時にきちゃったみたい・・・?」







「・・・」





犬夜叉、何もいえない。







「あ、これ、カニ。食べてくれ。じゃあまた今度来る」





弥勒が帰ろうとしたとき、桔梗がスッと弥勒を横切って
出て行く。






「桔梗・・・」





「・・・今夜の最終便でアメリカに戻る・・・。またメールする・・・」






パタン・・・






過ぎ去った部屋には・・・






微かに香水の残り香が漂って・・・







颯爽と帰って行った桔梗の後姿に。




犬夜叉も弥勒も一瞬、見とれてしまった・・・










「・・・。なんというか・・・。あの独特の重々しい緊張感は
すごいな」







「・・・。何の用だ。カニだけ持ってきたわけじゃねぇだろ」







「まぁまぁ・・・。それにしてもその姿・・・。荒れてるなぁ・・・。
かごめ様に振られて自棄酒の毎日って感じだな」






よれよれのTシャツにボサ頭・・・





「うるせぇ・・・。そ、それより何でお前がかごめの居所を・・・」





「ま。詳しいことは・・・こいつを飲みながら話そうじゃないか」






ビールの缶をスーパーの袋から取り出す。








「なんだ、なんだぁ・・・。荒んだ男の部屋そのものじゃないか」





酒臭い部屋。



閉め切った窓を開ける弥勒。






「余計なことするな・・・。それより・・・」






「まぁ待て。それよりつまみはないのかつまみは」




冷蔵庫を空け中をあさる。





「何もない・・・。本当にどういう食生活送ってるんだ。お前は」







「やかましいッ!!」







犬夜叉の口を塞ぐ弥勒。







「とにかく座ろう」





二人は万年床にどすっと座る。





プシュっと缶をあける。









「・・・。かごめ様とはどうなんだ?」








「ぶはッ・・・」







弥勒の直球な一言に犬夜叉、思わずはく。









「わかりやすい奴・・・そうか。そうか・・・」






「弥勒、て、てめぇ・・・。しみじみ言うなッ」







「さらに桔梗を家に連れ込むとは・・・」






「連れこんでなんか・・・。てめぇに説教される筋合いはねぇ」








「説教しに来たんじゃないが・・・。煮え切らないお前見ていたらついな・・・」





犬夜叉は思わず弥勒のネクタイをぐいっと掴んでしまった。







「・・・じゃあ弥勒、お前は相手の気持ちがわかるってのか」







弥勒は首を横に振る。







「”応え”なんて・・・。もがいて、
苦しんで、探して・・・そして自分で見つけるしかないんだ・・・
決めるしかないんだ・・・」







「・・・」






静かに犬夜叉は弥勒のネクタイから手を離す・・・








「・・・。人間、そこがつらいとこなんだよな」





「・・・」






「でも・・・。もうきちんと向き合え。桔梗とかごめ様と・・・。それぞれ向き合って
そして一人になって考えろ・・・。考えて考えて考えて・・・
考え抜け。自分がとる道を・・・」











諭すような弥勒の言葉が・・・








ゆっくりと犬夜叉の心に染みていく・・・。











「・・・。説教がましいのは性にあわんなかな。
はは・・・。でも悪いが、かごめ様の居所
は言えんな」







「・・・」






「・・・自分の力で探せ。失いたくないものがあるなら・・・」








弥勒は缶ビールぐいっと飲み干すと立ち上がり、
部屋を出て行こうとした。











「弥勒・・・」














「ま・・・。自棄酒ならまた付き合ってやってもいい。じゃあ・・・な」





そう言った弥勒の微笑みは・・・








友を気遣った落ち着いた男の・・・







大人の男の微笑だった。







(・・・弥勒・・)










ままにならない現実をもがくこともなく








成り行きに任せてもいい







そんな気分だった。











(・・・!)







弥勒が座っていた座布団。







一枚の絵葉書・・・






大きな日本庭園の絵はがき。









(これは・・・!)













『珊瑚ちゃんへ お元気ですか』









かごめの字・・・珊瑚へ宛てた手紙だった・・・







(弥勒の奴・・・。これを届けに・・・)






弥勒の友情を感じる犬夜叉・・・








(すまねぇ・・・)







心の中でつぶやく犬夜叉だった。







犬夜叉は絵葉書を読む。






『珊瑚ちゃんへ。 お元気ですか?




北海道の春って本州より遅いと聞きますが桜は咲きましたか?』








かごめの綺麗な字・・・。
語りかけてくるよう・・・







『珊瑚ちゃんに私の居所を口止めまでさせちゃってごめんね・・・。


犬夜叉が私の居所を聴きに来るなんて・・・ちょっと自惚れだったかもしれないね。



でも私決めたの・・・。犬夜叉から離れて一人で頑張ってみようって・・・』








(・・・)







『・・・一人になってみようっていうのは・・・。ただの逃げかもしれない。


でも・・・。探してみたいの今は・・・。自分がすべきことを・・・』








万年筆で書かれたかごめの文字一つ一つから・・・










聞こえる








・・・かごめの








声










いつもそばに在った・・・







微笑み














そして想いはただひとつ

















”かごめにあいたい”
















『・・・珊瑚ちゃん・・・。今  幸せですか・・・?

私はずっと願っています。どこにいても・・・


珊瑚ちゃんと弥勒さまが仲良くいられますように・・・



幸せであるように・・・。      私の無二の親友・仏野珊瑚さまへ・・・



                         日暮かごめ』








「・・・人のことばっか心配しやがって・・・」












手紙。










優しい文字。










メールでは伝えられない”何か”が伝わる。










”自分がするべきこと・・・いるべき場所を・・・”









かごめが探しているなら







自分も探さなければいけない。












(・・・会いたい)






ガサッ!




犬夜叉は電車の時刻表を取り出して、夜行の電車時刻を調べる。









(お前に・・・会いたい・・・!)





















ギィ。




バタンッ。





荷物を何も持たず、部屋を出る・・・。







バイクを走らせ駅へ・・・。








北陸の待へ向かう特急が出発するホームにかけあがる。










(会いたい・・・お前に・・・絶対探し出す・・・)













切符を握りしめ、犬夜叉は夜行列車に飛び乗った・・・。







ガタン・・・ゴトン・・・。















小さな明かりが闇の中に散らばるように窓を横切っていく・・・。










”バイバイ”









突き放されてわかった









自らが動かなければ、



変えようとしなければ





失う・・・。







繋がり。





心のつながりを・・・。










(・・・。かごめ・・・)









小さな窓の外の光・・・








小さな希望の光に犬夜叉には見えていた・・・