第83話 軽トラと少年とトマトと・・・
 
犬夜叉が一泊した保育園の園長に貰ったメモ。 そのメモには、残りの20件の保育園の詳しい住所がかかれてあった・・ 「さぁ・・・。うちではそんな人働いていないけれど・・・」 「新しい保母?知らないなぁ。うちは新しい職員雇う余裕なんかないからね」 ことごとくハズレで・・・ メモに書いてあった住所の20件のうち、19件の住所を回った。 (残り最後の一件か・・・) 犬夜叉は国道沿いにあるコンビニに立ち寄って昼食をとっていた。 (・・・。”星の子学園”場所は・・・) クリームパンをほおばりながら 本屋でかった地図をコンクリートの上に広げる。 (・・・。こっからだと・・・。この国道をひたすら走って、山一つ超え なきゃいけねぇのか・・・。2時間は軽くかかるか・・・) 犬夜叉は空をちらりと見上げた。 どんより曇っている。 (雨さえもってくれりゃぁ・・・助かるんだが・・・) 犬夜叉は缶コーヒーの缶をぽいっとくずかごにほおなげ、 バイクにまたがろうとした。 (・・・な・・・?) 足がふらっとぐらつく・・・ 一瞬、めまいを感じたが・・・ (・・・寝不足か。けっ・・・) 「気合いがはいりゃあ、平気だ」 微かな体の火照りを感じながらも犬夜叉はバイクを飛ばす・・・ バイクのミラーにトンネルのオレンジ色の明かりが 通り過ぎて映る・・・。 ハンドルを握りながら思い浮かぶのは・・・。 ”犬夜叉・・・” (かごめ・・・) あの微笑み   あの声 あの・・・ ぬくもり かごめのそばにいない 魂が悲鳴をあげる ”寂しい” 本当に寂しいとはこんなにも辛いのか こんなにも 切ないのか・・・ (絶対探す・・・!絶対見つける・・・。かごめ・・・) アクセルを目一杯に踏んで・・・ が・・・。 「あっちゃー・・・。完全にやられてるよ。お兄さん」 海沿いのガソリンスタンド。 バイクの後輪がパンクして立ち寄った犬夜叉。 「今すぐなおせ!!たちどころに直せ!」 「そ、そんなこといったって・・・。半日はかかるよ」 店員につめよる犬夜叉・・・ 「俺はどうしても行かなきゃいけねぇんだ!”星の子学園”ってところに・・・」 「何なら乗せてってやるぜ。あんちゃん」 振り返ると軽トラックの運転席から顔を出す中年の男。 「・・・あんた知ってのか?」 「おうよ。俺がすんでる村の隣だからよ。なんだか急を要するって 感じだぜ。早く乗りな!」 「あ、あのお客さん、バイクは!」 「すまねぇが返しといてくれ!!」 バタン! 犬夜叉は男の隣の助手席にさっと乗り込む。 「お、お客さーーん!!ったくなんて強引なんだ・・・」 ガソリンスタンドにはパンクしたバイクだけが残され 店員のため息がいくつも漏れたのだった・・・ 軽トラの荷台には赤いかごや木箱にはいった野菜が詰められていた。 作業着の男。 犬夜叉は農家の人間かと思った。 「星の子学園っていったらワシが卒業した保育所だ。お前さんも もしかしたらそこの卒業園児か?」 「違う」 「そうかい。じゃあ。誰かを探してるのかい?」 「・・・。ああ。そんなところだ・・・」 人に詮索されるのは昔から一番嫌っていたことだ。 だが不思議と・・・不快感はないことに犬夜叉は自分でも驚いていた。 自分で自分の心の変化を感じる。 これも・・・ かごめのおかげなのだろうか・・・ 「!」 犬夜叉の目の前にトマト一つ。 瑞々しいトマトを男から貰う犬夜叉。 「ほれ。あんちゃんも食いねぇな。甘みがあってうんまいぞぉ」 「・・・。あ、ありがとう・・・」 感謝の言葉。こんなにさらっとお礼を言える自分に更に驚く・・・ (俺は・・・) この”変化”は誰がもたらしたのだろう・・・ 誰が・・・ 車の曇ったガラスに映る・・・ かごめの笑顔。 時計はすでに午後5時をまわっている。 強くなってきた風に荒れだした波を見つめ・・・ 犬夜叉の乗った車は海沿いを抜け、 山道を少しずつ上っていった・・・ 暗い林道。 両脇は杉林のようだがもう薄暗く、あたりの風景は見えにくい。 コンクリートの道ではなく、砂利道ででこぼこしていて 車が揺れる。 ヘッドライトを光らせ、軽トラは雨の中を走る。 「この林道を抜けるとバス停が見えてくるんだ。バス亭つっても幼稚園のバス亭だがな ハッハッハ」 中年の男は煙草を加えながらハンドルを握る。 男の言うとおり砂利道が終わり下りはじめると、コンクリートの道になった。 「・・・ほら・・・あそこだ」 一本道をぬけると 杉林は終わり、田んぼが姿を現した。 『星の子学園バス亭』 ★マークの看板のバス停。 子供用なのか低い高さだ。 「このバス亭のわき道を500メートルいけば寺が見えてくる。そこだから」 「すまねぇ。おっさん」 犬夜叉はトマトときゅうりとビニール傘を男に貰った。 「いいってことよ!困ったときはお互い様ってな。じゃあな!」 気風よくエンジンを鳴らし、軽トラは薄暗い道を走り去った・・・ 軽トラに軽く会釈して 犬夜叉はバス亭の細いわき道歩いてく・・・ すると男の言ったとおり、お寺が見えてきた。 お寺の横に隣接する平屋建ての建物。 校庭には小さな遊具たち、鉄棒やジャングルジムがうっすら見えた。 保育所の方からは子供達の声が聞こえてきた。 (今度こそ・・・。いやここが最後だ・・・。きっといる。 かごめはここに・・・いる) 逸る気持ちを抑えつつ・・・犬夜叉は保育園のインターホンを押した。 「はーい」 ガラガラ。 引き戸が開き、中から出てきたのはなんと・・・ 「なんでしゅか?」 6さいぐらいの男の子。 (・・・ガキが出てきてもしかたねぇのに) と思ったが流石にそれは口にできない。 「あの・・・。坊主・・・。誰か・・・大人の人いねぇか?」 「僕はお坊さんじゃありません」 「・・・そうじゃなくて・・・(汗)大人はいねぇのかって聞いてんだ」 「ボクはもう、おとなです。だってボク、鉄棒逆上がりできるから」 「・・・」 このままこの男の子とここで押し問答やっていても仕方がないと 思った犬夜叉。 ポケットからかごめの写真を取り出し男の子に見せた。 「おめぇ。この人みたことあるか?ここに働いてねぇか?」 「・・・」 男の子はじーっと写真を見つめた。 「・・・。ううん。いないよ。絶対いないよ」 「本当か?本当にいねぇのか?」 犬夜叉は少し強めに尋ねた。 「うん。いないもん!!知らないもん!!知らないもーん・・・わーん・・・」 男の子はくずりはじめ、泣き始めた。 「いないもん!しらないもーん!わーん・・・」 (や、やべぇッ) 焦った犬夜叉。 「わ、わかった・・・わかったから泣くな!男だろ!ほら!これやるから・・・!」 ガラガラ・・・ピシャン! 犬夜叉は男の子の手のひらにトマトを乗せ渡し、慌てて 玄関を飛び出していった・・・。 「・・・」 犬夜叉が出て行ったのと同時に 男の子の泣き声に気づいた 一人の職員が玄関に走ってきた。 「あ・・・。先生!」 「どうかしたの・・・?あきらくん」 エプロンで男の子の涙を拭う職員。 「誰か来ていたの・・・?」 男の子は首を横に振った。 「そのトマトは・・・?」 「・・・。空の上から降ってきたの」 男の子の言葉にふっと微笑む職員・・・ 「ふふ・・・。あきら君はロマンチックね・・・。じゃあそのトマト 食堂のみんなと一緒に食べようね。さ、おいで」 職員にだっこされ男の子・・・ 「あのね・・・あのね・・・。ボク・・先生がだあいすき」 「私もよ。あきらくん」 「先生のだっこ、あったかいんだもん。ママと同じだ」 職員にぎゅっと抱きつく男の子。 その職員のエプロンの名札・・・ 「だあいすき・・・」 『かごめ先生』と書いてあった・・・