第85話 かごめ先生を連れて行かないで・・・!
”ずっと会いたかった・・・。ずっと・・・”
かごめの声・・・
夢の中で木霊していた・・・
”ずっと逢いたかった・・・”
(・・・かごめ・・・かごめ・・・)
「・・・ごめ・・・」
お寺の二階。
8畳の程の和室
ピンクのカーテンが少しゆれる・・・
「ん・・・」
目を覚ます犬夜叉・・・
(ここ・・・は・・・)
ふわふわの感触。
桃色の布団と干し立ての布団に犬夜叉は寝かされていた・・・
(なんか・・・いい匂いだ・・・)
布団からは日の香り
犬夜叉はここがかごめの部屋だということを察した。
そして
(・・・かごめ・・・)
犬夜叉が眠っているすぐ毛布をかぶった
かごめは寄り添うように横になっている・・・
犬夜叉の手を握り締めて・・・
(かごめ・・・ずっと俺の看病を・・・)
犬夜叉は空いていたもう片方の手を布団からもそっと出し、
かごめの前髪にふわっと撫でた。
「・・・?」
気がついたかごめに驚き犬夜叉はぱっと髪をなでた手を布団の中に急いで戻す。
「あ・・・。犬夜叉・・・。気がついたのね・・・」
「お、おう・・・(照)と、ところで俺は・・・」
「うん・・・。熱が40度近くもあってなかなか下がらなくて・・・。
あ・・・そうよ。熱・・・!」
かごめは犬夜叉の額のタオルをとって自分の額をあてた。
「・・・。よかった・・・。下がってる・・・。よかった・・・はぁー・・・」
かごめは深く深く安堵の息をついた。
「40度近くもあって解熱剤飲ませたけどなかなか下がらなくて・・・。街の病院行かなくちゃいけな
いかって・・・。私・・・。よかった。本当によかった・・・」
目を潤ませて話すかごめ・・・
かごめの激しい心配ぶりに犬夜叉はちょっぴり嬉しさを感じてしまった。
「お・・・。お前こそ・・・。ずっと俺の看病してたのか・・・。保育所はいいのか・・・?」
「大丈夫。今日は日曜だから心配しないで・・・。それに園長先生
も犬夜叉が元気になるまで付き添ってていいって・・・」
かごめは犬夜叉の額に絞りなおした濡れたタオルをそっと置いた。
「・・・。すまねぇ・・・。迷惑かけちまって・・・」
「・・・。迷惑・・・?ふふ・・・。犬夜叉らしくないね。なんか・・・」
「な・・・なんだよ。人が謝ってんのに・・・」
「もういいよ。犬夜叉が謝ることない・・・」
「かごめ・・・。俺・・・あの・・・」
何かを言おうとした犬夜叉の唇に人差し指を置いてとめた。
「いいから・・・。今はゆっくり眠って・・・。ね・・・?」
「かごめ・・・」
「あたしももう少し眠りたいの・・・。犬夜叉のそばで・・・」
かごめは犬夜叉の手を布団の中に手をいれ、そっと犬夜叉の右手を握り締めた
再び犬夜叉の横に体を倒し目を閉じるかごめ・・・
「・・・かごめ・・・」
繋いだ手をぎゅっと・・・握り返す犬夜叉・・・。
(ずっと・・・。このままがいい・・・)
そう思いながら・・・
犬夜叉も再び眠りについた・・・
「着替え・・・。園長先生の息子さんのお借りしたの」
アイロンがかかった白いシャツとジーンズを静かに
犬夜叉に手渡すかごめ。
「あんたねぇ・・・。遠出するなら着替えぐらい持ってきなさいよ」
「けっ・・・。金と単車のキーさえありゃ何もいらねぇ」
「・・・。全くもう・・・。しょうがないなぁ・・・。とにかく着替えて」
「うるせぇ!」
「汗かいたまんまだと良くないでしょ着替えなさい〜!!」
かごめと犬夜叉はTシャツをひっぱりあいっこ・・・
「まぁまぁ。仲がいいことじゃのう・・・」
「えっ。園長っ」
襖のすきまから、坊主頭の園長がにやりあと除いている
「な、なんだてめぇ・・・っ」
「かごめちゃんはずっと一晩中看病していたんだよ。お若いの。愛だねぇ・・・」
「え、園長せんせいっ///」
かごめは真っ赤になりながら洗面器を持ってパタパタとスリッパを鳴らし
部屋を出て行った
「・・・。ふふふ。可愛えぇのぅvvあの反応がたまらんわい。うへへへ」
(・・・)
この坊主の年寄り・・・
女好きの友の”誰か”とたぶる。
「おい。お前さん・・・犬夜叉・・・とかいったな」
「なんでい。じじい」
「・・・かごめちゃんとはどこまでいっとるんじゃ?」
「なっ(照)」
「おお。その反応・・・。察するとお前さんがた、チューもまだじゃな!ワッはっは
ワシの勝ちじゃ。ワシはかごめちゃんの裸も見たことあるし、お尻
タッチも済みじゃーvv」
「・・!??」
あごから生える長い白いひげを触りながら園長は自慢げに話す。
「・・・小さい頃の話じゃがな。ははは」
「小さい頃って・・・」
園長室。
半日眠った犬夜叉は熱も下がり、
大分回復した。
犬夜叉(着替た)と園長が窓から下の光景を見ている。
子供たちと一緒に保育所の庭の花壇に花を植えているかごめ。
「かごめちゃんの母とワシは昔からの知り合いでね・・・。子供の頃
何度か遊びに来てな・・・。”おっきくなったらここのせんせいになるんだ”
言うてくれたんじゃ」
「・・・」
子供たちに向けられるかごめの微笑み・・・
自分が知っている微笑みとは違う・・・
分け隔てなく、注がれる慈愛・・・
地上の全ての生き物に生きる力を与える
空の陽のように
「・・・。1ヶ月前。ここに来たときのかごめちゃんは
笑っていたがどこか辛そうだった」
「・・・」
犬夜叉は少し俯いて窓の外のかごめから視線を逸らした。
「・・・。お前さん・・・。かごめちゃんを連れ戻しに来たのかのう・・・?」
「・・・」
「どうなんじゃ・・・?お前さんの返答によってはかごめちゃんを渡す
ことはできん・・・!」
園長は犬夜叉に向かって持っていた杖をビシッと突きつけた・・・
「お・・・俺は・・・」
犬夜叉は必死に言葉を捜した。
だが・・・出てこない。
(なんでだ・・・)
「”じじいには関係ないだろ”そういう顔じゃのう・・・。まぁいい・・・。
年寄りが若いモンの色恋にかかわる事はない。じゃが・・・かごめちゃんにはいつも笑顔で
いてもらいたいんじゃ・・・つい余計な心配してしまってのう・・・」
園長に何も返答できない。
自分はかごめを連れ戻しに来たのか
それとも・・・
「お?おまえさんを呼んでいるぞ?」
窓の下からかごめが犬夜叉に向かって手招きをしている。
”ちょっと犬夜叉も来て”
とかごめの口が呼んでいる。
「・・・しょうがねぇな。じゃあじじい悪いが行くぜ」
パタン・・・
犬夜叉はかごめに呼ばれほっとしていた。
園長の問いに答えられい自分を見たくない。
ここまで来て
かごめを追いかけてきているのに自分の気持ちが見えないなんて・・・
「あー。来た来た。ほら。今話してた。これが
犬夜叉のお兄ちゃんです。ほら、あいさつして!」
「わっ。やめろっ。何すんだ!」
かごめは犬夜叉の頭を強引に子供たちに下げさせた。
スコップを手に持つ子供たちが犬夜叉をじっと見つめている。
「・・・おにーちゃんがかごめ先生の”番犬”?」
「ばっ・・・。誰が番犬だコラ。ガキだからって手加減しねぇぞ」
「元気がいい”番犬”だね。かごめ先生」
「そーでしょぉ♪それでね、泥遊びも大好きなのよ」
「だれが・・・」
べチャ!
「・・・」
威勢がいい犬夜叉の頬に小さなどろの手形が。
子供たちは泥まみれの手で犬夜叉にごあいさつ。
「・・・。おめえたち・・・。”大人”をからかうなよ・・・?泥まみれってのはな
こういうんだーー!!」
「きゃーー!!番犬が怒ったァ!」
犬夜叉と子供たち、ちっちゃなスコップしゃがんで花壇を掘り堀り・・・
あっという間に仲良くなった。
だが・・・
「ねぇ。番犬のお兄ちゃん」
一人の園児。
「ん・・・?お前は・・・。一昨日の・・・」
犬夜叉にかごめはいないと言った少年・あきらだった。
「ごめんなさい。かごめ先生がいないって嘘をついて・・・」
「・・・。けっ。んなこと気にしちゃいねぇ・・・」
「・・・ホント・・・?」
「男に二言はねぇ」
犬夜叉の言葉にほっとするあきら。でもまだ何か心配そうな顔をしている。
「あのさ・・・。お兄ちゃん」
「なんでい」
「・・・おにいちゃんが”地獄の番人”じゃないのはわかったよ。でも・・・」
「??」
首を傾げる犬夜叉。
「・・・かごめ先生を連れに来たの?つれて帰っちゃうの・・・?」
「・・・えっ・・・」
あきらの呟いた一言に他の子供たちのスコップを握る手が止まった。
「さっきね。他の先生たちが言ってたんだ。かごめちゃんのお婿さんが
かごめちゃんをお嫁にするために・・・って」
「えーー!?そうなの!?かごめ先生、いなくなっちゃうのーー!??」
あきらの質問に他の子供たちがどよめく。
「そんなのやだよーー。かごめ先生がいっちゃうなんてー!!」
子供たちはかごめの足元に詰め寄って集まった。
「み、みんな、落ち着いて・・・」
「だって。だって・・・。かごめ先生がいなくなるなんて僕いやなんだー!」
「あたしもー。さみしくなるもんー・・・ひっく・・・」
他の園児達につられて泣き出す子供も・・・
「行かないよね・・・?ここやめたりしないよね・・・?」
「みんな・・・」
かごめのエプロンにしがみついて泣きじゃくる子供たち。
子供たちの問いに犬夜叉はかごめをじっと見つめた。
(・・・かごめ・・・)
かごめはなんて応えるだろう・・・
犬夜叉は少し緊張した。
「・・・。行かないわ。やめないわ・・・。私はここにいる・・・」
「ほんと・・・?かごめ先生」
「うん。みんなが卒業するまでは私はどこにも行かない・・・。みんなと
一緒にいたいの・・・。ここが私の居場所だから・・・」
「・・・やったーー!かごめ先生、ずっと一緒にいてくれるって!」
「わーい!」
子供たちはたちまち笑顔に・・・
あきらにいたってはかごめに抱きついて離れない・・・
(・・・かごめ・・・)
子供たちに囲まれるかごめ・・・
小さな天使達をかきわけて、かごめの手をひっぱれば
たやすく手に入る。
でも・・・
(できるわけねぇ・・・)
”どこにも行かないわ・・・。私はみんなと一緒に
いたいの。ここがすきなの・・・”
遠まわしに言われた気がした・・・
かごめからの”応え”を・・・
それから・・・
犬夜叉とかごめは子供たちが帰る夕方まで
なんとなく言葉を交わさなかった・・・
・・・本当に向き合うことが怖かった・・・
(かごめ・・・)
「かごめ先生さよーならー!」
母親に手を繋がれ、あきらが帰っていく。
かごめに一番なついていたあきら。
”かごめ先生を連れて行っちゃだめだよ”
帰り際、そう犬夜叉に駄目押ししていった。
「さてと・・・」
園児達が帰った『ももぐみ』の教室。
かごめは教室にちらばった玩具を玩具箱に入れ、後片付けをしていた・・・
カラ・・・
静かに教室のドアが開く・・・
「・・・。かごめ・・・」
「犬夜叉・・・」
夕暮れの教室・・・。
小さな椅子や机たちを背景に・・・
犬夜叉とかごめは向かい合ってただ互いを見つめた・・・
”応え”を出すために・・・