第86話 結論
 
「・・・」 「・・・」 二人きりの教室。 泣きたいくらいに 静かだ・・・ 「・・・。あきらくん・・・。あの子ね・・・。少し我がまま子でしょ・・・?」 「え・・・。あ、あぁ・・・」 かごめは小さな椅子に座り、話し始めた。 「最近お母さんを亡くして・・・。我が侭を誰かに言って 自分を保つしかないのよ・・・。なんか・・・見てたら誰かに 似てるなって思って」 「・・・。悪かったな。俺はあんなひ弱なガキじゃなかった」 「ふふ・・・。すぐ拗ねるところもそっくり・・・」 かごめは微笑みながら、あきらの机と椅子をを撫でた。 「だから・・・ほおっておけないんだ・・・。今・・・。あの子の 気持ちを私・・・。置いていけない。ううん・・・。私がここを離れたくないの・・・」 「かごめ・・・」 子供たちとたわむれるかごめを見ていて・・・ 心のどこかで感じていた。 ”自分だけのかごめじゃない” と・・・ 「でも・・・。嬉しかったのよ。本当に・・・。まさか来てくれるなんて 思ってなかったから・・・。ううん・・・。ほんとはちょっと期待したカナ・・・。 自惚れちゃってたね・・・」 「そんな・・・。俺は・・・」 ただかごめに逢いたかった そう想ったらいてもたってもいられなかった・・・ このごの及んで、本音が口から出ない。 言葉にできない 犬夜叉はそんな自分自身に苛立っていた・・・ 「・・・。犬夜叉・・・。今・・・。携帯持ってる・・・?」 「え・・・?あ、あぁ・・・」 ポケットから携帯を取り出す犬夜叉。 その瞬間。 P!PPPPPPP!!! 「!!」 携帯がけたたましく鳴った。 「・・・」 犬夜叉の顔は強張り、焦る・・・ (まさか・・・) 「・・・。桔梗じゃないよ。・・・私・・・」 「!?」 かごめはエプロンのポケットから携帯を取り出し電源を切る。 犬夜叉の携帯も切れた・・・ 「かごめ・・・。お前・・・」 「・・・。ね・・・?結局・・・。こういうことなの」 「こいうことって・・・」 「犬夜叉と桔梗は切れない。それ以上に・・・。”犬夜叉の中の桔梗”が 私から消えないの・・・。犬夜叉を忘れられない以上に私が・・・ 忘れられないの・・・」 かごめは両膝にぐっと拳を乗せて・・・ 感情が高ぶるのを必死に抑える・・・ 出ないと今にも・・・ 泣きそうだから・・・ 「・・・かごめ・・・っ。俺は・・・!」 「わかってる・・・!全部、全部わかってるの・・・っ。誰が悪いわけじゃない。 でも・・・でもね・・・。いつまでもこのままは駄目なの・・・。 みんな駄目になる・・・。どれだけ好きでも大好きでも・・・。駄目になる・・・」 「かごめ・・・」 ポタポタと・・・ エプロンに染み込む・・・ 「支えになりたい・・・。犬夜叉が辛いとき苦しいとき・・・。そんな 存在になれたら・・・ってずっと思ってた・・・。ううん今でも思ってる・・・」 「・・・だからってなんでこんな・・・。こんな離れてなきゃ いけねぇんだ・・・。こんな・・・」 「・・・犬夜叉は桔梗の支えでしょ・・・?支えになりたいって そう思ってるんでしょ・・・?」 「・・・」 「わかるの。私。わかるのよ・・・。桔梗と犬夜叉は理屈じゃないの。 桔梗に何かあればきっと犬夜叉は地球の裏側だって飛んでいく・・・。そういう”二人” なの・・・」 かごめの言葉が あまりにも 納得しすぎて ”桔梗とは別れる” そんな台詞さえ言えない自分が情けなく 情けなく・・・ 「犬夜叉・・・。私・・・。強くなりたいの。犬夜叉の痛みも 桔梗を想う犬夜叉の切なさもみんな丸ごと受け止められる・・・ そんな自分になりたいの・・・」 「かごめ・・・」 「だから・・・。今は犬夜叉のそばにいられない・・・。側にいたいけど いられない・・・。ごめん・・・。ごめんね・・・」 「かごめ・・・っ」 伝える言葉が見つからない・・・ 「・・・。謝るな・・・。」 「犬夜叉・・・。ごめんね・・・。本当にごめんねごめんね・・・」 「謝るな・・・。わかったから・・・もういい・・・。かごめ・・・」 「犬夜叉・・・犬夜叉・・・」 どうしてこんなに切ないの・・・? どうして苦しいの・・・? 好きだけど 一緒にはいられない 大好きな分だけ・・・ 一緒にいられない・・・ 「・・・かごめ・・・」 「かごめ・・・」 抱きしめたい 「・・・犬夜叉・・・」 抱いて欲しい 切ないほどに 駆られる衝動をぐっと抑える 「明日・・・6時半に朝一番のバスが出るから・・・。それで行って・・・」 ガラガラ・・・ ピシャン・・・っ 引き戸の閉る音が・・・ まるで二人の絆の糸と断ち切るように 痛く 響いた・・・ 「・・・かご・・・め」 誰も居ない教室。 小さな椅子や机たち 犬夜叉はただ・・・俯いて 目を閉じたままだった・・・