第87話
絶対また会おうね
カタン。 ガラガラ・・・ 朝。 犬夜叉一人・・・ 桃色のカーテンの窓 かごめの部屋に想いを残しつつも・・・ 保育所をあとにする犬夜叉・・・ 黙って かごめの顔を見ずに。 逢えばきっと、その手を離せなくなる 昨日・・・ かごめと出した”結論”を破ってしまいそうだから・・・ 出て行く犬夜叉を・・・ カーテンの隙間からかごめは見ていた そして布団に潜り込み体を九の字して抑える・・・ (犬夜叉を追っていきたいよ・・・。でも・・・でも・・・。駄目。 同じことの繰り返し・・・。犬夜叉・・・!) 本心と理性と。 ずっとそばにいたい 一緒にいたい いたい でも 誰かが この関係のけじめをつけなけりゃ 始まらない 新しい季節が 永遠に来ない・・・ 「・・・っ・・・。犬夜叉・・・。ごめんね・・・ごめんね・・・。 ごめんねっ・・・うっ・・・」 しゃくり声が布団から聞こえる・・・ (ごめんね・・・) 布団に包まり、ひたすら・・・ 謝るかごめ。 せっかく来てくれたのに 追いかけてくれたのに 宙ぶらりんな現実に耐えられない自分を責めるしかできなくて・・・ チャリ・・・ (・・・?) 泣きじゃくるかごめ・・・ 枕元の携帯スラップが目に入った・・・ 一緒に旅行に行ったとき 犬夜叉とお揃いのものを買った・・・ いるかのストラップ・・・ 楽しかった旅行の記憶・・・ 初めての二人きりの旅行。 ドキドキしたことが いっぱい いっぱい あった (・・・駄目・・・。やっぱり・・・。こんな別れ方・・・。駄目・・・!!!) 「犬夜叉・・・!!!」 かごめは携帯ストラップを握り締めたまま・・・ 飛び出した・・・ (6時半か・・・) バス停に一人。 犬夜叉は静かな田園風景の中、バスを待つ・・・ (・・・バスなんか・・・来なけりゃいい・・・) バスに乗れば 本当に離れてしまう かごめと・・・ ブロロロ・・・ しかし犬夜叉の願いとは裏腹に バスは5分も早く来た 黄色のバス。 ドアが空く。 まだ誰も乗っていない・・・ もしかしたらかごめが・・・ と思い、ふと後ろを振り返る だが誰もいない 「お客さん、早く乗ってくださいよぉ・・・」 運転手の声に犬夜叉は渋々重い足をあげてバスに乗った。 一番後ろの席・・・ バスはゆっくりと走り出す・・・ (・・・かごめ・・・) 体はこの場所を離れても 心は離れない かごめがいるこの場所を・・・ 犬夜叉は俯く・・・ (何のために俺はここに来たんだ・・・。またかごめを泣かせて・・・ 俺は・・・) 髪をぐしゃりと掻き毟る犬夜叉・・・ するとそのとき・・・ 「・・・?」 バスが突然止まった。 「なんだ。あの娘っこは・・・?」 運転手の言葉に犬夜叉が振り返ると・・・ 「か・・・かごめ・・・!!」 窓の外に パジャマ姿のかごめが・・・ 「開けてください!!お願いします!!」 ドンドンとバスの車体を叩くかごめ 運転手は困り顔でドアを開けた・・・ プシュー・・・ 「ごめんなさい。運転手さん・・・。すぐ降りますから・・・」 「///。い、いや・・・いいってことよ・・・」 何故か頬を染める運転手・・・ 「ハァ・・・ハァ・・・。犬・・・夜叉・・・」 「かごめ・・・」 息を切らせてかごめは犬夜叉に近づく・・・ 「ハァハァ・・・。忘れ物したの・・・」 「忘れ物・・・って・・・」 犬夜叉は緊張してかごめを見詰めた・・・。 「・・・。大事なこと・・・。」 「だ・・・大事なこと・・・って」 「・・・。私の・・・ほんとうの気持ち・・・っ伝えること・・・っ」 (・・・えっ・・・?) 「犬夜叉・・・っ!!!」 大好きな 犬夜叉の 胸に かごめは一直線に 飛び込む・・・ 何の迷いも ない素直な気持ちで・・・ (あわわ・・・) 突然のラブシーンにバス運転手は思わず帽子を深くかぶって 見ないふり・・・ かごめの細い体・・・ 犬夜叉は両手で思いっきり抱きしめる・・・ 「馬鹿野郎・・・。こんな大事な忘れモン・・・。忘れるんじゃねぇよ・・・」 「ごめん・・・。私・・・。後悔はしたくない・・・。自分の恋を・・・。私・・・。犬夜叉を 好きになってよかったって・・・」 「・・・”よかった”って・・・。勝手に過去形にしてんじゃねぇよ・・・。 俺らは現在進行形だろ・・・」 「うん・・・。そうだね・・・」 かごめを抱きしめる犬夜叉の手が震える・・・ こんなに強く抱きしめているのに 離さなくてはならない この現実の 切なさに 震える・・・ 心が”いやだよ”と 泣いているように・・・ 「犬夜叉・・・。体に気をつけてね」 「・・・おう」 「ちゃんとご飯食べるのよ。お野菜も」 「わかってる・・・」 他愛もない話をもっとしたい。 ずっとしていたい。 昨日 決めたはず別れという結論。 最後の最後まで 別れ切れない 最後の最後まで・・・ 「なぁ・・・。かごめ・・・もう・・・。”これっきり”じゃねぇ・・・。よな・・・?」 「うん・・・」 「離れても・・・。お前は側にいる・・・。そうだよな・・・?」 「・・・うん・・・。ずっと・・・側にいる・・・。あんたがどこに いたって・・・。私は側にいる・・・絶対いる・・・」 確認しあう・・・ これは”別れ”ではないと・・・ 新しい何かを始めるための スタートだと・・・ 「・・・あのぉ・・・。お取り込み中悪いのですが時間が・・・」 運転手の言葉にかごめは ゆっくり・・・ 体を離した。 「じゃあ・・・行くね」 「ああ・・・」 離れたくない もう一度抱きしめたらきっともう・・・ 離れられなくなる・・・ かごめも犬夜叉も・・・ ぐっと堪える・・・ 今にもくっつきそうな 磁石のS極とN極みたいな・・・ 気持ちを・・・ ゆっくりとバスを降りるかごめ・・・ 犬夜叉はバスの窓を開け、かごめを見つめる 「・・・きっと・・・。また逢えるよね・・・?」 「ああ・・・」 「きっと・・・。逢おうね・・・?」 「・・・。当たり前だ・・・」 犬夜叉の言葉に・・・ かごめはパジャマの袖口で涙をごしごしっと拭いて 「・・・じゃ・・・!涙はもうおしまい・・・ね!」 「かごめ・・・」 精一杯の笑顔を見せた・・・ プシュー・・・ ドアが閉り・・・ バスが動き出す・・・ 「かごめ・・・っ!!!」 窓から体半分身を乗り出して 叫ぶ犬夜叉・・・ 「かごめ・・・っかごめ・・・」 必死に名を呼ぶ犬夜叉に・・・ かごめは・・・ 笑顔で 晴天の空のように澄み切った笑顔で ずっと バスが 米粒になるまで 犬夜叉を 見送った・・・ 「・・・。絶対・・・。また・・・。逢おうね・・・」 涙を見せるのは今日で最後・・・ 空に向かってかごめは・・・ そう心に誓ったのだった・・・ |