第90話 あきらのねがい
 
秋が過ぎ、冬が過ぎて・・・ 3月。 『平成○年度・星の子保育所卒園式』 星の子保育所体育館。 今年最後の卒業生は10人。 紅白の垂れ幕。 子供たちが園長に名前を呼ばれ、卒業証書を受け取る・・・ 拍手喝さい・・・ 最後の卒園生としてみな・・・凛々しい顔で拍手に笑顔で応えていた・・・ 「かごめ先生。僕・・・。がんばるよ。ママの分もがんばるよ」 ピンクのスーツを着たかごめに卒業証書の筒を持ったあきらが はっきりと誓う。 「あきらくん・・・。私。どこにいてもあきら君のこと見てるからね・・・」 「かごめ先生・・・」 かごめはあきらをそっとだっこした・・・ 「最後のハグだね・・・。かごめ先生のお胸、あったかいなぁ・・・」 「甘えん坊は今日までね・・・。いっぱいはぐしてあげる・・・」 母を亡くした傷を抱えた少年。 ありったけの気持ちを込めて抱きしめる・・・ あきらの幸せをねがって・・・。 夕方。 全ての子供たちを送り出し・・・ 星の子保育所の歴史は終わった。 感慨深い想いで教室を眺めるかごめ・・・ 「かごめちゃん」 「園長先生・・・」 袴姿の園長。 かごめにあるものを持ってきた。 「これ・・・」 花束だった。 「1年間ありがとう・・・。かごめちゃんが先生になってくれて 本当に嬉しかったぞ・・・」 「そんな・・・。私の方こそ・・・。働かせて頂いて本当に感謝しています」 「ところでかごめちゃん。これからはどうするんじゃ・・・? 次の勤め先も決まっておらんようじゃが・・・」 「・・・。しばらくはどこかの託児所のボランティアでもしようかと・・・」 「・・・戦国市の病院にな・・・。院内保育という事業を始める病院があるんじゃ。 今、保母を一人募集しとる・・・」 園長は募集要項がかかれた紙をかごめに見せた。 「どうじゃ・・・?かごめちゃんは前から院内保育に興味があるといっておったし・・・」 「・・・はい・・・。院内保育は全国では盛んになってきたとはいえ まだまだやっている病院は少ないと・・・」 「どうしたんじゃ?あまり乗り気じゃなさそうじゃが」 「いえ、そんなことは・・・」 戦国市。犬夜叉がいる街。 かごめは少し迷う・・・ 「・・・。かごめちゃん。恋愛はな、タイミングというものが すごく大切なんじゃ。今、自分がどうするべきか・・・。もう応えはでておるんじゃろう・・・?」 「園長・・・」 かごめの心を見透かすように笑う園長。 「・・・結婚式には呼んでくれよ」 「えっ、園長先生ッ(照)」 「ふぉほっほっほ」 園長の後押し・・・ けれどかごめは迷いが消えない。 (・・・今・・・。戦国市に行けばきっと会いたくなる・・・。 会いたくなって抑えられなる・・・) 会って。また喜んで。 そして桔梗の影を感じて・・・ その繰り返しになるのが怖かった。 「・・・」 自分の部屋に戻るかごめ。 ピンクのスーツをぬごうとしたとき。 ポケットから一枚のメモが落ちた。 「これ・・・」 『かごめせんせいへ。ほんとうはぼくがかごめせんせいをおよめ さんにしたかったよ。 でもかごめせんせいのこころにはあのいぬのおにいちゃん がすんでいるんだよね。 かごめせんせい。いぬのおにいちゃんのところへいっておよめさんに なって。 それがぼくのねがいなんだ・・・。せんせいにはしあわせに わらってほしいから・・・     がんばって。かごめせんせい。                     あきらより』 「あきらくん・・・」 ”がんばって。かごめせんせい・・・” 最後までひらがなが書けなかったあきら。 黒のクレヨンで一生懸命に書いたのだろう 手の後が一杯ついている・・・ 「あきらくん・・・。ありがとう・・・ありがとう・・・」 画用紙にかごめの涙が落ちる。 かごめはこのとき思った。 保母という仕事を選んだで本当によかったと・・・ (あきらくん・・・。私。もう迷わない・・・。自分が進むべき道をちゃんと 進むわ・・・) さっき、園長からもらった院内保育、保母募集の紙を しっかり見つめるかごめ。 かごめの決意は固まった。 そのとき・・・ 〜♪ かごめの携帯が鳴った。 (・・・。犬夜叉からのメールだわ・・・) 携帯を開くかごめ 『かごめ・・・。元気か・・・?今日・・・卒園式だったんだろ・・・。 ご苦労だったな・・・』 労いの言葉。 かごめは心の中で犬夜叉にありがとうと呟いた。 『ところで・・・。お前に見せたいものがある・・・。楓荘があった場所だ』 (魅せたいもの・・・?) 『とにかく今度の日曜来て欲しい・・・。お前に・・・伝えたいことがあるんだ・・・』 (伝えたいこと・・・?) 『必ず来てくれ・・・とは言えねぇけど・・・。できれば来て欲しい・・・。チャンスが欲しいんだ 土曜の夜。日付がかわるまで お前を待つ・・・。もしお前が来なかったら俺はもう・・・お前を追わない。 ・・・待ってるからな・・・   犬』 犬夜叉からのメールに首を傾げるかごめ。 (チャンスが欲しいって一体・・・何か切羽詰ったことなのかな・・・) 『わかった。絶対行くね。  かごめ』 かごめはそうメールに打ち込んで送信した。 犬夜叉からの呼び出しにかごめは嬉しさと一体なんだろうという 気持ちで複雑だった。 (でも・・・。犬夜叉に会うのはもう一年ぶりだな・・・) 踊るこころを抑えれない。 会ったらどうなるのか。 一体、何が待っているのか・・・ かごめは騒ぐ胸を抑えて 日曜日。夜行バスに乗り、戦国市に向かったのだった・・・