同じ空の下
同じ空気をかごめも吸っているんだろう
同じ空の色を・・・見上げているのかな・・・
※
「弥勒さまったら!起きてよーーー!!」
「あ〜。あと5分ー・・・」
シーツにくるまる弥勒。
エプロン姿の珊瑚はシーツをがばっとめくろうと掴んだ。
「早く起きて・・・きゃあッ!」
ぬっと弥勒が顔を出し、珊瑚の手を掴みベットに
ひっぱった。
「珊瑚。昨日はすごかったなv」
「///な、何いってんのっ」
「空手もすごいが”ベットの中での”空手もすごいな〜vv
いろんな”技”を知っててびっくりしたぞ〜」
「///あ、あ、朝っぱらから変なこというなーー!」
二人、シーツの中でもぞもぞ動いております。
「・・・今晩も頑張ろうな」
「・・・もう・・・」
CHU。
白いシーツの中でキス音が何回も聞こえてきた
新婚ほやほやの弥勒・珊瑚新婚夫妻の朝でございました。
一方。
こちらニューヨーク。
幾多の国の人が自由を求めてやってくる。
同じ空でも少し曇っている。
「桔梗。次の楽章なんだが・・・」
ニューヨークのブロードウェイ。
小さなコンサート会場に桔梗と樹の姿があった。
今年の秋。
桔梗と樹は日本の楽団から完全に撤退して独立した。
世界の小さな会場を巡っていく。
自分達が考える音楽を追求していくために・・・。
「・・・。桔梗。どうした?空に何かあるのか・・・?」
「いや・・・。離れていても空は・・・繋がっているのだな・・・」
「・・・。そうだな・・・。きっと皆同じ空の下で生きているんだ・・・。それぞれに・・・」
遠く窓の上の空を見上げる桔梗。
誰に想いを馳せているのか樹にはわかる・・・
樹も・・・叶うことのない想いだとしても
その人の幸せを願って・・・
想いは途切れない
絶対に
「かごめ先生ーー!紅葉の葉っぱたくさん拾ったよー!」
初秋の山は緑から黄や赤の衣がえをする。
草原にはススキが風に揺れ、子供たちは胸いっぱいに清清しい風を吸い込む。
「かごめ先生。みてみて!ほら!鬼さん!」
大きなヤツデの葉っぱに目と鼻と口、三つ穴をあけて子供たちが
仮面を作った。
「わぁ♪なんて可愛い鬼さんなんでしょ。でも私もまけてないぞー♪」
子供たちは自然からの贈り物をちゃんと受け取って
おもちゃを作る。
ゲームやテレビも楽しいけれど
自分の手と足と耳、体全部をつかって遊ぶこの充実感はきっと
子供たちの心の肥やしになるにちがいない・・・。
かごめはそうおもいながら子供たちを見守る・・・。
「ねーね。かごめ先生」
「なあに?あきらくん」
「・・・。あのお兄ちゃん来るかな・・・。まだちゃんとごめんなさい
してないんだ・・・。うそついたこと・・・」
あきらが申し訳なさそうに言う。
「・・・大丈夫よ。犬のお兄ちゃんね、そんなこと気にしてないって」
「ほんと?」
「うん」
「じゃあ、今度来た時、今度は僕の宝物あげるね!トマトくれたお礼したいんだ」
あきらの笑顔がまぶしい。
一個のトマトがあきらはきっとすごく嬉しかったんだ。
(犬夜叉・・・)
風が吹く・・・
紅葉の葉が空に舞い、高く高く飛んでいく・・・
”犬夜叉・・・”
(・・・!?)
かごめの声がした気がしてはっと回りを見渡す。
「・・・ん?」
屋根瓦を上の犬夜叉のヘルメットに
紅葉の葉が一枚ひらっと落ちてきた・・・
(この辺に紅葉なんかあったか・・・?)
赤く小さな紅葉。
誰かに似ている・・・
(・・・かごめ・・・)
風のいたずらか
それとも・・・
かごめが送った便りか・・・
犬夜叉はくすっと微笑み、紅葉をそっと作業着のポケットにしまった。
「おい、犬っころ。そこ終わったんなら次、柱んとこ
の修繕たのむわ」
「おう。わかった」
犬夜叉が今、建てている建物。
それは
犬夜叉が初めて”居場所”と思えた場所。
”居場所”と思える相手と過ごした建物だ。
「犬夜叉。なんじゃこの壁は!!”新・楓荘”は純和風といっておるじゃろうが!!」
「やかましい!!ばばあ!これでも予算内でやりくりしたつもりだ!!文句が
あるならもっと資金だしやがれ!!」
完成予定図を手にした楓が犬夜叉に早速注文をつける。
「お前・・・。”今年中”にここを完成させたいんじゃろ・・・?」
「・・・!」
「かごめの勤める保育所がなくなる来年の春までに・・・」
「・・・」
かごめからのメールで星の子保育所が今年一杯で廃園するという。
”次の保育所探さなくちゃ・・・。でも新卒の募集って
少ないから大変かもしれない・・・”
そのことを聞いてから犬夜叉はあることを決意した。
「この新・楓荘が完成したら・・・。かごめにちゃんと伝えるのだろう・・・?」
「・・・」
「なら何が何でも今年中に完成させるんじゃ。それがかごめに対してのお前のけじめじゃ・・・」
「・・・。わかってらぁ・・・。ばばぁ・・・」
犬夜叉は俯いて再び屋根の上にあがっていった。
新・楓荘建設の話がもちあがったとき、犬夜叉はぜひとも自分の工務店で
やらせてくれと楓に頼み込んだ。
犬夜叉の真剣な眼差しに楓は成長を確かに感じた。
(・・・。まだまだ半人前じゃが・・・。でもいい男になったな・・・。犬夜叉)
息子同然に見守ってきた楓。
犬夜叉の背中が頼もしく見える今日この頃だ・・・
屋根の上の犬夜叉。
ポケットからさっきとんできた紅葉を取り出す。
(・・・かごめ・・・)
もし、この紅葉の葉がかごめから飛んできたのなら伝えて欲しい。
楓荘が完成したら・・・聞いてほしいことがある。見て欲しい。
自分が作った楓荘を
それから・・・
ここで・・・
一緒に生きて欲しい
と・・・
(・・・絶対今年中に完成させる・・・。かごめ・・・。待っててくれ・・・!)
もう迷わない。
自分の隣にはかごめだと
自分の居場所にはかごめがいなくてはならないと
かごめそのものが自分の居場所だと・・・
(・・・かごめ・・・。待っててくれ・・・。かごめ・・・)
一心に犬夜叉は
自分とかごめの居場所をその手で造りあげる・・・