第91話 お前を待って・・・。朝
夜行バス。
新幹線の切符は取れず、夜行バスにしたのだが・・・
久しぶりに乗ったら全部満席だ。
かごめは景色を見つめながら早く戦国市について欲しいと強く願っていた。
そんなとき。
高速の道路状況を伝える電光掲示板が
2キロ先で事故による渋滞発生・・・と伝えた。
「あちゃ・・・。こりゃまいったな・・・。通行可能の見通しがしばらく立たない」
「な・・・なんだってぇ??」
運転手の言葉に乗客たちはかなり声を荒げた。
「申し訳ございません・・・」
乗客にひたすら謝る運転手。
だがバスは引き返すこともできず、
今夜バスで一泊しなければならなくなった・・・
(どうしよう・・・。犬夜叉待ってる・・・。メールしなきゃ)
早く会いたいときに
限ってこんなアクシデントに見舞われる・・・
かごめは携帯で新幹線が遅れることをメールで送信しようと
想ったが・・・。
「嘘・・・。電池切れてる・・・」
バスが止まってしまったのはトンネルの中。
当然電波は届かない・・・
(お願い・・・。早く・・・早く・・・バス、動いて・・・)
焦る気持ち。
だが通行止めの高速はかごめの気持ちを無視するように
車の行列はぴたりと動かなかった・・・。
一方。
(・・・かごめの奴・・・。遅いな)
携帯の画面の時計を見ながら苛苛している犬夜叉。
その背中には
真新しい木造の建物が・・・
外観は洋館風だが屋根は日本瓦でどっしりした面持ち。
コンクリートの塀に木目の綺麗な看板
『新・楓荘』
「苛苛するでない。お前は」
杖で犬夜叉の頭を小突く楓
「ばばぁ!!てめぇは引っ込んでろ」
「お前。管理人に向かってなんじゃ。その口の利き方は」
「管理人だぁ?ざけんな。これを建てたのはオレだ」
自信満々に腕を組み、楓荘を見上げる犬夜叉。
「ばか者。資金は誰が出したんじゃ。建てたのはお前のつとめる工務店じゃ。
まだ見習いの分際で」
「・・・けっ・・・」
口の悪さと短気なところは変わらないな・・・と思う楓。
「それにしても遅いの・・・。かごめは本当に繰るのか?
やっぱり愛想つかされたんじゃないか?」
「んなわけねぇだろ。絶対来るってメール入った」
「なら迎えにいけ。駅まで。たまには自分で動かんかい」
やっぱり犬夜叉の背中をつつく楓。
「うるせぇ!・・・オレはここでかごめを待つ・・・。かごめは来る!余計なこと言うな!」
「・・・。ったく・・・。この頑固なところもカンナで削ってやりたいわい」
ふぅ・・・とため息をつく楓だった・・・
(・・・ここで・・・。この前で意味がねぇんだよ)
かごめに”あること”を伝えるためには
伝えるなら、
この場所でないと
言えない。
(かごめ・・・。絶対・・・来てくれるよな・・・?)
暮れる空を
不安げに見つめる犬夜叉・・・
だが空は真っ暗になり
かごめの姿はない・・・
「・・・やっぱり愛想、つかされたんじゃな」
「んなわけあるか!!きっと何かあったんだ。そう・・・」
犬夜叉ははっとした。
(まさか事故とか・・・)
犬夜叉は楓の部屋に突っ走り電話帳を急いでめくった。
バス運行会社の番号を押す。
「あ・・・もしもしっ。今日の夕方戦国駅に着くはずの
高速バスはどうなってんだ!???」
尋ねると
”事故車両のため、トンネルの中で身動きがとれない”
そう聞かされ
「事故だぁあ??おい、てめぇ!客はどうなんてんだ!!無事なのか!!
かごめに怪我でもさせてみろ、てめぇんとこのバス全部、ぶっこわすぞ!!」
とくってかかった。
「あ・・・あの。乗客に怪我は全くなく、事故車両が撤去されれば問題はないと・・・」
「じゃあ、かごめに怪我はねぇんだな!??待てば来るってことだな!??」
「は、はい・・・」
店員の説明にようやく納得する犬夜叉。
しかし、苛苛が治まらず、
玄関先に座り込む・・・
「・・・一秒でも早くかごめに会いたいって顔じゃのう」
「ばっ・・・(照)お、オレはただ・・・」
「・・・素直になれ。もう意地もへったくれもないじゃろうて・・・?
ま・・・素直になったお前というのも気持ち悪いがな。ハッハッハ・・・」
「けっ・・・。ばばあが・・・」
口を尖らせる犬夜又。
子供の頃ちっともかわらないが・・・
明らかに違う。
自分で自分の幸を掴もうとしている・・・
(自分の居場所を・・・見つけたんじゃな・・・)
犬夜叉の背中を見詰めながら
感慨にふける楓だった・・・
午前零時。
真っ暗闇の中、玄関先のライトの下で
毛布にくるまってひたすらかごめを待つ犬夜叉・・・
PPPP!
ポケットの携帯が鳴った
(かごめからだ!)
かごめからの着信音に犬夜叉の心が弾む
P・・・。
「も・・・もしもし・・・」
「・・・犬夜叉・・・?」
「かごめ・・・」
ちょっぴり緊張する犬夜叉・・・
かごめの生声を聞くのは久しぶりだから・・・
(変わってねぇな。優しい声・・・)
「あの・・・。ごめんね。連絡もいれられなくて・・・。携帯の
電池切れちゃうし、トンネルの中だからメールもできなくて・・・」
「いや・・・。バス、事故ったんだってな。どうなってんだ・・・?」
「うん。30分前に通行止め、解除されたの。だから朝方にはつくと思う・・・」
「そうか・・・。よかった」
バス会社に文句の電話を入れたことはやっぱり照れくさくて秘密にする犬夜叉
「あの・・・。話って何?待たせても犬夜叉に悪いから今聞くけど・・・」
「い、いや・・・。来てから話す・・・。ぶはっくしょん!」
大きなくしゃみが響く。
「だ、大丈夫・・・?」
「何でもねぇよ。それよりかごめ」
「なあに?」
「・・・。必ず来いよ・・・。待ってるからな・・・」
(犬夜叉・・・)
かごめは少し間を置いた。
「・・・うん。必ず行く・・・」
うつらうつら・・・
まぶたが重たくなる・・・
(かごめ・・・)
夢。
初めて出逢った時の・・・
御神木の下。
雨が降っていた・・・
街で酔ったチンピラとケンカして
怪我して・・・
毎日、生きていること自体が面倒だった
あの頃・・・
かごめに出会わなかったら
自分はどうなっていただろう・・・?
昔の恋を引きずって
勝手に世の中を恨んで・・・
諦めて・・・
きっと荒みきっていた。
暖かい場所があるなんて知らなかった・・・
自分のために泣いてくれたかごめ
笑ってくれたかごめ
怒ってくれたかごめ
全部
全部
全部・・・
忘れない
(かごめ・・・)
あと何分で会える・・・?
あと何秒で会える・・・?
(かごめ・・・)
一番大好きな笑顔に・・・
「・・・夜叉・・・」
(・・・ん・・・。かごめ・・・?)
優しい囀りに
犬夜叉が目を覚ますと・・・
「おはよう・・・」
優しい朝日に包まれたかごめの微笑みが・・・
犬夜叉を包んだ・・・