第36話 ワン★ワン★小春日和
〜新しい住人〜

とある日曜の朝

新聞を取りに起きてきたパジャマ姿(やっぱり犬夜叉と同じ水玉模様のパジャマです。)のかごめ。

郵便受けの下になにか茶色い丸い物体を発見する。

もそもそ動いているので、触ってみると・・・。


「きゃあああ〜vvv」

かごめの雄叫びに犬夜叉達が何事かとそれぞれ部屋から飛び出してきた。

「どうした!?変な奴でもいたのか!?」

「犬夜叉、ねぇ見て。ほら〜♪」

ワンv

かごめの手の中にいたのは茶色の目。鼻が黒くて耳がたれて。うす茶色の柴犬の子供だった。

「きゃあv可愛いねぇv」

犬夜叉を押しのけて、珊瑚が声を上げた。

「ったく珊瑚てめぇ・・・。それにしてもなんだ?その犬」

「新聞取りに来たらここに居たの。きゃっ。くすぐったいよ」

子犬はかごめの指をぺろぺろなめてじゃれつく。

「捨て犬のようですな。ふっ。楓荘は流れ者が漂着するのが多いですねぇ。な、犬夜叉」

「何で俺をみるんでい。かごめ、どうでもいいが、その犬、ここで飼おうって腹じゃねぇだろうな?」

かごめ、にこにこ笑って返答。

どうやら、飼おうって腹のようである。

「何いってやがる!誰が面倒見るんだ!それに楓の奴がどういうか・・・」

「ワシはかまわんぞ?番犬になっていいかもしれん」

楓、朝のラジオ体操していてジャージ姿だ。

「楓おばあちゃん、ありがとう!よかったねぇvゴマちゃん」

「ゴマちゃん?かごめちゃん、この子の名前?」

「うん。ほら何だか、この鼻の頭が黒いからそんな感じしない?」

「うん、するする!ねぇ、ゴマちゃんにミルクあげようよ。かごめちゃん」

「うん、そうね!」

おなご衆、ゴマちゃんに夢中のご様子。二人、ゴマちゃんを抱いたままかごめの部屋に入っていった。

「・・・。お前達、あの子犬に惚れたおなごをとられたな。ふはははっ・・・」

鋭い突っ込みを言い残し、楓はラジオ体操の続きをしに部屋に戻る。そして取り残された男達。

片方は水玉のパジャマを着、片方は奇妙な自分の名前入りの浴衣姿で・・・。

「・・・。我々も『ゴマちゃん』になりたいですなぁ。犬夜叉」

「なりたかねぇよッ!スケベな事考えてんじゃねぇ!」

「『スケベなこと』とはなんですか。犬夜叉。お前こそなにかんがえてんだ!こら、ムッツリ男が!!」

浴衣姿絵で犬夜叉に間接技を食らわす。

なんとも空しい『ゴマちゃん』に負けた男達・・・。

それでも、この日から楓荘には新しい住人ができたんだ。

とても可愛い。住人だ。

その新しい『住人』のプロフィールを少しだけご紹介すると、名前 ゴマちゃん(かごめが命名)性別 ♀(メス) 雑種だ。

健康状態はいたって良好。性格は温厚で人なつっこい。食欲旺盛で、かごめがつくったおでんをいたくお気に召したらしい(特にちくわがお好きなようで)

同じく、かごめのおでんが好きな犬・・・じゃなかった男、犬夜叉。

その犬夜叉が『ゴマちゃん』の新たな住居を休みの日にトンカチとノコギリ手にして建築中。

「けっ。なんで俺がゴマちゃんの家、作らなくちゃいけねぇんだ!ちゃっちいことしてられっか!」

と、最初は文句を言っていたが、

「何よ。犬夜叉。ゴマちゃんの家作れないんだ。へぇ〜。借りにも大工なのに作れないんだ〜」

「なんだと!?けったかが犬小屋だろ!そんなもん10分でつくってやらぁ!」

かごめのわかりやすい挑発に犬夜叉、まんまと乗せられ、ゴマちゃんの家、建築開始した。

トントンカンカン。

流石に10分ではできなかったが、3時間ほどでなかなか見事な『ゴマちゃんの家』ができた。

ベニヤ板でできたゴマちゃんの家。

屋根を水色。胴体を白くペンキで塗ってできあがり。

「どうだ。たいしたもんだろ!」

威張る犬夜叉をほっておいてかごめはゴマちゃんを入れて早速、住み心地を確認。

「どう?ゴマちゃん」

ワンワンッ!

ゴマちゃん、なかなか元気なお返事。どうやら気に入ったらしい。

「よかったね!今日からゴマちゃんの家だよ。犬夜叉、ありがとう!」

「・・・べ、別に大したことじゃねぇよ・・・」

かごめにお礼を言われて、照れくさい犬夜叉。

そんな犬夜叉をじっと見つめるかごめ。

「な、なんだよ」

「”お礼”あげよっか?ゴ」

「お礼って何だよ」

「・・・。目、つぶって・・・」

「えっ・・・」

ドキンとする犬夜叉。

「・・・お礼・・・?欲しくないの?」

目を潤ませて犬夜叉を覗き込むかごめ。

「そ、そんなことは・・・」

犬夜叉、かなり緊張しながら目を閉じた・・・。

(・・・ドキドキ・・・)

「犬夜叉・・・。動かないでね・・・」

かごめの甘い声に犬夜叉、体がりきむ。

犬夜叉が緊張しながら待っていると・・・。


CHU!

(・・・?この匂いは・・・)

「!」

ワンッ♪

犬夜叉の目の前にゴマちゃんの黒い鼻の頭が見えた・・・。

「えっへっへー!ひっかかった!犬夜叉!」

「な、な、何しやがる!!てめぇ〜!!」

「ゴマちゃんからのお礼、終了!さ、ごまちゃん、お散歩いこう!犬夜叉、あんたも一緒においで!」

「おいでって俺は犬じゃねぇ〜!」

怒る犬夜叉をほおって、かごめとゴマちゃん、一足お先に公園へ・・・。

中央公園には大きな芝生がある。

小春日和の日の下で、キャッチボールをする親子、散歩に来ている老夫婦・・・。

みんな、のんびり過ごしている。

何ともゆったりとした空気が流れて・・・。


ワンワンッ!
ゴマちゃんは開放感からか、元気に走り回る。

「ゴマちゃん、あんまり遠くに行っちゃだめよー!」

「けっ・・・。なんで俺が犬の散歩につき合わなくちゃいけねぇんだ」

「だれもついてきてって頼んでないけど。でもいいじゃないの。たまにこうしてのんびりするのも」

「・・・まぁな・・・」

敷物をしいて犬夜叉とかごめ二人座る。

青い空の下。

ごろんと寝転がれば、こんなに空は青かったのかと驚く。

普段、気が付かなかった事に気づかされる・・・。

かごめと一緒にいるから・・・。いかに自分にそんな時間が必要かと・・・。




キャワワワンッ!

向こうでゴマちゃんの異様な鳴き声がした。

かごめと犬夜叉があわてて声が聞こえた方に行ってみると・・・。

「ゴマちゃん!」

ゴマちゃんがくるんとしたしっぽを一生懸命に振っているのは、クリーム色のラブラドール。

どうやら、友達になりたいようなのだが・・・。

「ゴマちゃん、駄目よ」

かごめは慌ててゴマちゃんを抱っこした。

「すみません。驚かせてしまって・・・」

「いいえ。お気になさらないで下さい。うちの『ジュン』は滅多な事では怒りませんから。うふふ・・・」

優しく笑うその人は目を閉じている。

見れば、ラブラドールには首輪はなく代わりに、その人が掴んでいるのは、紐ではなく違うものだ。

更にラブラドールの体にぶら下がっているプレートに『お願い・仕事中。この子は盲導犬です。触ったり声を掛けたりしないでください。そっと見守って下さい』と書いてあった・・・。

かごめはその通り、『ジュン』に触ったり声を掛けたりしないで一歩ひいてジュンににっこり微笑んでご挨拶。

かごめとその盲目の女性はなんとなく気があって芝生に座って話を仕始めた。

犬夜叉とゴマちゃんは遠くの方で遊んでいる。

盲導犬について色々なことを聞くかごめ。

その女生徒『ジュン』は10年来のよきパートナーだということ。

『ジュン』という名前は旦那さんの名前をいちじとったということ。

盲導犬になる犬はほんの一握りで、本当になるまで、盲導犬の訓練所で厳しい訓練をたくさんすること。

でも厳しい訓練だけど、色々な人達の愛情に包まれていること。

生まれたときは里親の人に。

それから盲導犬としての役目を終えた老犬になっても、『老犬ホーム』というところがあって余生を頑張ってきた分だけ自由に過ごすということ。

また老犬にも、里親さんがいこと・・・。

知らなかったことをかごめと犬夜叉は沢山聞いた。

「この子のおかげで色々な所へ行けるようになりました。私の中の世界が広がって色々な人と出会えるようになった。そう。こうして貴方と今、出会ってお話をしているように・・・」

「じゃあジュンは加納さん(女性の名字)にとって大切な人との架け橋なのですね。とっても優しい架け橋・・・」

「ええ。仰るとおりです・・・。この子は架け橋になって私にあったかいものを一杯くれました。だからいつも、ありがとうって言っているんです・・・。ねぇジュン・・・」

主人の横で静かに座り、主人の声を黙って座るジュン・・・。

「そしてこのハーネス(盲導犬と人を結ぶ物)・・・。私とジュンの心を繋ぐ絆・・・。大切な絆なんです」

「温かい絆・・・ハーネスですね・・・。その絆をジュンは沢山の人につなげている・・・」

ジュンはかごめの言葉にそうだよと言うような顔でチラッとかごめを見た。


「うふふ・・・。ジュン君、加納さんの側が一番好きなのね。ジュン君の『居るべき場所』なのね・・・」
ジュンの頭を静かに撫でて、加納さんはかごめの言葉に嬉しそうに微笑んだ・・・。

かごめと加納さんの会話を黙って聞いていた犬夜叉。

言葉一つ一つ・・・。心に染みた。

まるで自分にとっての大切な『誰か』を思わせて・・・。

ワンワンッ!

ゴマちゃんが犬夜叉のジーンズを引っ張る。

どうやら遊んで欲しいらしい。

「今、ちょっと立て込んでるんだ。大人しくその辺であそんでやがれ」

ワンワンッ!

それでもゴマちゃん、構って欲しいらしい。

「ちっ。仕方ねぇな。おう。かごめ、ゴマちゃんと水でも飲んでくらぁ。勝手に帰るんじゃねぇぞ」

犬夜叉は加納さんに軽く会釈し、ゴマちゃんを連れ、水飲み場まで走っていった。

「ったく・・・。犬は『犬』でもあいつはどうして愛想がないのかしら」

かごめの言葉に不思議そうに顔を傾げる加納さん。

「あ、いえ、私の連れ、あだ名が『犬夜叉』って言うんです。すいません、変な意味じゃないです」


「ぷっ。うふふふ・・・っ。そうですか、何だか漫画みたい名前ですね。うふふっ」

加納さん、妙に大ウケしたらしい。

かごめは何だかそれが嬉しくて、どんどん犬夜叉の話をした。

「実はですね、うちで飼っているゴマちゃん、わたしが作るおでんが大好きなんですけど、犬夜叉も好きなんですよ。どっちももう、よく食べる食べる。好物のちくわを最後に一本残すところまで一緒なんです」

「フハハハハ・・・!」

さらに大ウケして加納さんは腹を抱えて笑った。

一方、犬夜叉は自分が話の種にされているのを知らずゴマちゃんにGパンのポケットを噛まれて翻弄されていた・・・。

「こら、噛むんじゃねぇッ!!」



楽しい話を聞けたのも、反対にかごめが加納さんに出会ったのも、みんな『ジュン』のおかげ。

みんな繋がっている・・・。

誰かと誰かが出会って。


支え合って。


目には見えないけど繋がっていく・・・。

紡がれていく。

優しい絆が・・・。




「へぇ・・・。そんな事があったんだ・・・」

「うん。とっても貴重で大切な事、聞いた気がする」

「そうだね・・・」

楓の部屋でかごめ達4人、こたつにあたって今日の出来事を聞いていた。

つい、10分ほど前、テレビでは哀しい事件が放送されていた。

目を覆うようなニュース。

でもかごめの話を聞いて、4人とも何だか希望を貰った気がしていた・・・。

ワンワンッ!

こたつの中から鳴き声が。

珊瑚の膝から顔を出すゴマちゃん。

「何だ。ゴマちゃん。中にいたのか。ふふ・・・。あ、そうだ・・・v」

珊瑚は何かを思いついた顔した。

「弥勒様。目を閉じて・・・」

「ええッ!?こっここでですかッ。でも珊瑚・・・」

「いいから目を閉じて・・・。ね?」

甘い声で弥勒に迫る珊瑚。

「ふっ・・・。珊瑚。お前がそこまで言うなら・・・」

言われるがまま弥勒は目を閉じた。

「いいって言うまで開けちゃだめだよ」

「はいはい〜♪」

目を閉じた弥勒を余所に犬夜叉、珊瑚、かごめ達はにやっと怪しい笑い・・・。

「珊瑚・・・」

(ふっ。珊瑚、お前の魂胆は分かっていますよ。ゴマちゃんとキスさせるつもりだな。ふっ。その前に私がお前を引き寄せて強引に・・・ふっ)


「弥勒さま、目、開けて良いよv」


目を開けるとそのには・・・!


「なんじゃい」


楓の顔が幅1センチ目の前に!!!


「ぎ、ぎきゃああああ・・・・!!!ちっ地球外生命体ッ!!」

「失敬な。わしゃれっきとした地球育ちの日本人じゃい」


「ワハハハ!弥勒様ひっかかったーーー!」


賑やかな声が響く。


楽しい声。


みんな心が繋がっているから。

優しい気持ちの絆が・・・。


TBS系の「どうぶつ奇想天外」で、老いた盲導犬の特集をしていました。北海道に実際に『老犬ホーム』というのがあって、年老いた盲導犬が余生をすごす所なのです。そこでは、ずっと人のために働いてきた盲導犬をその疲れを労るように職員の方がお世話をしていました。また、老いた老犬を新たな家族として新しい家に迎えていたり。
皆さんに温かく包まれていました。皆さんとても優しい顔で。
また、一度別れたご主人と盲導犬の再会するシーンもありました。老いて役目を果たした盲導犬が二年ぶりに元のご主人に会いに行くのです。 2年という時間が経てば、その犬の記憶の中にご主人の面影があるか分からないそうです。でも、テレビに出ていた盲導犬は覚えていました。ご主人が名前をよぶと一心にに駆け寄っていって・・・。テレビの画面なのに、こっちもすごく嬉しい気持ちになりました。
ナレーションの『一度培った深い絆は決して色あせたりしません』という言葉がとても印象に残りました。盲導犬は沢山の人達とつながっているんだなぁとと色々考えさせられました。