第44話 二人きりの夜

前編

「〜♪」

パン!パン!

珊瑚が布団干している。鼻歌まじりでなんとも軽快なたたいて。

「あれ?珊瑚ちゃんなんだかご機嫌ね」

「え、あ、そ、そんなことないよ」

けれど珊瑚の顔は明らかに幸せいっぱいのオーラが出ている。

「あ、もしかして、弥勒さまとデート??」

「!」

珊瑚の手からポロッと布団たたきが落ちた。

図星らしい。

「そっかー。珊瑚ちゃん、よかったね。最近、弥勒さま忙しそうだったものね」

「・・・(照)」

かごめはこういう話題には滅法勘がいいので嘘がつけない。

「ね、どこ行くの?」

「え・・・。えっとあの、今度の休みに車でドライブ・・・」

「きゃあ〜。素敵だね♪」

「あの・・・。それでかごめちゃんにお願いがあるんだけど・・・」

もじもじしながら珊瑚がかごめに頼んだことは・・・。

お弁当づくり。

かごめの部屋の台所にエプロン姿のかごめと珊瑚が立っている。

フライパンに溶き卵をひき、やけてきたらくるくるっと菜ばしでまく。

ふわっとしたたまごやきのできあがり。?

「そうそう珊瑚ちゃん、うまいじゃない!」

「そ、そう・・・?」

「うん!これならいつでもお嫁さんになれるね♪」

ガシャンッ!!

かごめの言葉に照れて珊瑚、フランパンを落としそうに。

「や、や、やだ。もう!かごめちゃんたら・・・」

”お嫁さん・・・”

珊瑚は花嫁姿の自分を思わず想像してうっとり。

「珊瑚ちゃん、こげてる!!

「わー!」

玉子焼きからけむりが。

黄色の玉子焼きがちょっとだけ黒くなってしまった。がっくりする珊瑚。

「大丈夫よ。珊瑚ちゃん。一通りは作れるようになったんだし、あとは、弥勒さまへの愛をこめてつくることね」

「や・・・やだっ、もう、かごめちゃんたらぁッ」

まるで新妻に照れまくってかごめの背中をバシバシ叩く珊瑚。

(い、痛い。珊瑚ちゃん・・・さすが空手部・・・)

そんな女子達のやりとりを隣の部屋でコップ片手に盗み聞きしている男。弥勒。

「ふっ。珊瑚の奴・・・。憂い奴だ」

「『ふっ』じゃねぇよ。てめぇ。いちいち俺の部屋を使うんじゃねぇよッ」

犬夜叉の部屋にて弥勒、珊瑚の探索中。

「いいではないか。お前だってたまにやっているのだろう?」

「やるわけねーだろ!!」←※鋼牙や北条君が来たときやていた。

「まぁ、自然と聞えてくるだろうからな。かごめ様の生活の一部始終の音が。その中にはあんな音やこんな音も・・・

つんつんと肘で犬夜叉を突付く弥勒。

「や・・・やらしー言いかたすんな!ったく・・・」

なぜか赤くなる犬夜叉。やっぱり聞えているらしい『あんな音やこんな音』が。

「はー。それにしても、珊瑚の手料理、早く食したいですな〜。でも一番食べたいのは・・・珊瑚お前だよ」

ブハッ。

弥勒の台詞に飲んでいたコーヒーを吹く犬夜叉。

「この程度の台詞で。お前も子供だな〜。この分だと『愛しているよ』なんて台詞、一生かごめ様にいえんぞ」

「や、や、やかましいッ(真っ赤)てめぇはただのスケベ野郎じゃねぇか!」

「ふっ。すけべて結構!惚れた女子に愛を語れなくてどうする!犬夜叉!私が耳元で囁いてやる!耳をかせ!」

無理やり犬夜叉の耳元で愛を囁く犬夜叉。

「うわ〜。やめろー」

そんな男達の声は、お弁当作りに励む女子衆にバッチリ聞えており・・・。

「・・・。ったく男って奴は・・・。なんかお弁当作り虚しくなってきたね。かごめちゃん」

「そうね・・・」

せっかくつくったお弁当を自分達で食べた珊瑚とかごめだった・・・。


・・・とはいえ。

”珊瑚、本当に食べたいのはお前だよ”

ボト・・・ッ。

昼間、聞えた弥勒の台詞に鉄アレイを落とす 、トレーニング中の珊瑚。

(な、なんであんな気障な言葉にどきどきしてるんだろ。あたしったら)

それが恋する乙女というもの。

明日の久しぶりのデート。

『何か』が起こりそうな予感がする珊瑚だった・・・。


久しぶりの休日。

珊瑚は朝早く起きて、かごめに教えてもらったとおりのレシピでお弁当を作った。

「じゃあ、珊瑚。行こうか」

弥勒が借りたレンタカー。

助手席にお弁当がはいったバスケットを抱えた珊瑚が乗る。

(なんか・・・。本当に『彼女』って感じがする・・・)

恋する乙女は何もかもが新鮮。

「珊瑚、今日は楽しい休日にしような」

「え、う、うん・・・」

「じゃあ、出発!」

緊張する珊瑚を乗せ、エンジンをかけ、車はアパートを後にしていった・・・。

二人が乗った車をかごめはゴマちゃんを抱いて階段の手すりに座り見送った。

「珊瑚ちゃん達、いい休日になるといいね。ゴマちゃん」

ワン!【そうね!あの二人はお似合いだと思うわ。でも弥勒の女癖がよくなって欲しいものね!】

幸せになってもらいたい。

”かごめちゃん・・・。弥勒さま食べてくれるかな”

”上手にできたかな。不安・・・”

空手部キャプテン、誰よりも強い珊瑚だが、弥勒のために朝早く起きて弁当を少し不器用に作った。

本当に、普通の女の子。

心から幸せになって欲しいと思う・・・。

「くわぁ〜・・・」

純粋に友の恋を祈っているそばで、思い切り寝起きの犬夜叉登場。

やっぱり水玉のパジャマを着ている。

「なんでい。かごめ。朝っぱらからそんなところに座って」

「別に。珊瑚ちゃん、弥勒様とデートだって。いいなぁ・・・」

チラッと犬夜叉に視線を送った。

「ふぁあ・・・」

犬夜叉、アクビで返答。

「・・・。もういいわ。ゴマちゃん、ねぼすけ男はほっといて一緒に朝ごはんたべよ」

あきらめ顔でゴマちゃんを抱っこし部屋に戻ろうとした。

「おうかごめ」

二階への階段の真ん中で振り返るかごめ。

「・・・。買いモン・・・行くか・・・?」

「犬夜叉・・・」

「俺、ラーメン切れたしよ、色々買うモンあっからお、お前が暇なら一緒に言ってもいいぜ・・・」

犬夜叉は鼻の頭をぽりぽりかきながら言った。

弥勒のようにスマートにデートに誘える犬夜叉じゃない。

・・・たぶんこれは犬夜叉の精一杯なのかも。

「・・・ふふっ。わかったわ。じゃぁ、お昼どこでランチね♪犬夜叉のおごりで」

「なっ。勝手に決めんな!」

「よーし。じゃあジャンケンねー♪」


ジャンケンをしながら二人、二階へ上がっていく。

久しぶりに笑う。犬夜叉とかごめ・・・。

楓荘の花壇の花水木の花が咲き始めていた・・・。


一方。弥勒と珊瑚は・・・。

ザザン・・・。

弥勒たちは海辺でランチタイム。

「あー。なかなか美味だったよ。珊瑚」

「ほ、ほんと・・・?か、かごめちゃんの様おいしくできたかわからないけど・・・」

シャケおにぎりや、玉子焼き、お稲荷さんなど・・・お重に入っていたお弁当を全て平らげた。

「あ、珊瑚・・・」

弥勒、珊瑚の口元のご飯粒をとり、ぱくっと食べた。

「んなっ・・・///(赤面)」

「珊瑚の手作りのお弁当、ごはん粒一つ残せません」

珊瑚はさらに頬をあからめ、たまらずくるっと弥勒に背を向けた。

(もう・・・っ。人をドキドキさせることばっかり弥勒さまったら言うんだから・・・。反応に困っちゃうじゃないの・・・)

「いい光景だな・・・」

「え?」

弥勒の視線の先には・・・。

キティの赤いフリルのスカートをはいた女の子。

裸足になって波打ち際で両親と貝拾いをしている。

ピンクのサンダルを履いて・・・。

少女は本当に嬉しそうだ。

そんなほほえましい光景。

「穏やかな時間を・・・何よりも大切にしている・・・。あの親子の笑顔の中に本当の幸せがある・・・。そんな気がする・・・」

「弥勒さま・・・」

珊瑚は前に楓から聞いた弥勒の両親の話を思い出した。

両親は幼い頃にもういなく、叔父に育てられた・・・と・・・。

過去にどんな背景があったのかは知らないが、誰より、家族に対しての憧れが強いのかもしれん・・・楓の言葉がずっと珊瑚の中に残っていた。


「・・・弥勒さまだってきっと幸せになれる・・・。だって弥勒さまは一人じゃないから・・・」


「珊瑚・・・」

見つめあう二人・・・。


珊瑚の前髪が揺れて・・・。

「少し・・・。前髪伸びたな・・・」


人差し指でサラッと前髪をすくう弥勒・・・。

くすぐったい・・・。


珊瑚は自然に瞼を閉じた・・・。


弥勒は珊瑚の両肩をそっと支え、唇を近づける・・・。

だが誰かの視線が。


(ん・・・?)

お下げの女の子が不思議そうに二人をじーっと見ていた。

「わぁああ!!」

バキッ!

珊瑚は驚いて、弥勒を突き飛ばす。

「”チュー”してたの?おねえちゃんたち?」

「ち、ち、違うよ。えっとね。め、目にごみが入ってたからとってもらってたの」

少女の質問にあわてて弁明する珊瑚。

「ふうん。そっかー。あのねぇうちのママとパパはねぇ。毎日玄関で「愛してるよ」チュってしてるの。ついでに夜もね、ママとパパは一緒のおふとんでチューして・・・」

「真美!余計なこというんじゃありませんッ(汗)ど、どうもすみませんでしたっ」

娘の爆弾発言に両親はあわてて口を押さえてその場を退散・・・。

盛り上がっていたところへ、思わぬ珍客・・・。

「ふふ・・・ッ」

「くすッ・・・」

弥勒と珊瑚は何だか可笑しくて。

「この続きは今度のデートだな。珊瑚」

「・・・。ふふッ。そうだね・・・」


二人、笑い合って・・・。


”あの親子の笑顔の中に本当の幸せがある・・・”

それを弥勒も珊瑚もさわやかな波風に吹かれて感じていた・・・。


デートの帰り。

生憎の雨模様。

車のワイパーも激しく動く。

戦国町へ帰る道路は突然の豪雨による事故のため、通行止めの看板が・・・。

「・・・困りましたな・・・。町に帰るにはこの道路しかないのに・・・」

「どこか、抜け道はないの?」

「・・・。少し時間がかかるが山手の方を迂回してみるか・・・」

海沿いの道をあきらめ、細い林道に入ったが・・・。

『雨による土砂崩れの危険があるため明日の朝まで通行禁止』

黄色いヘルメットをかぶった工事員の看板がこちらにもたてられていた・・・。

「・・・参ったな・・・」

「・・・。明日の朝までってことは・・・。今夜は・・・」

アパートには帰れない・・・ということだ。

珊瑚は窓の外見た。両脇は杉の木の林・・・。

「ど、どうするの?弥勒さま」

「・・・。とにかく戻ろう。海辺の道に。心配するな」

弥勒は珊瑚の手をぎゅっと握った。

「うん・・・」

弥勒を信じよう・・・珊瑚はそう思った・・・。



「あんれまぁ。道に迷われたんですかー」

割烹着を着たおばさんが出てきた。

『民宿・海原』

一軒の民宿に弥勒は車を止め、一晩とめて欲しいと頼んだ。

”夜になるとこの辺はまだとても冷える・・・”

そう言って・・・。

「だけどあいにく、部屋はひとつしか空いてなくてね・・・」

「結構です。婚約者同士ですから。ね、珊瑚」

妙に嬉しそうに言う弥勒・・・。

「さ、部屋に行きましょう」

「え?ちょ、ちょっと・・・っ」

(い、一緒の部屋ってことは・・・)

何だか胸騒ぎのする珊瑚だった・・・。