第44話 二人きりの夜 後編 『日本列島には温帯低気圧にが停滞しており、日本列島全域で激しい雨量が予想されるでしょう』 心配そうにテレビの天気予報を見ているかごめと犬夜叉。 「珊瑚ちゃんと弥勒様。だいじょうぶかな・・・。もうこんな時間」 時計は午後7時。 「けっ。子供じゃねーんだから。心配しすぎなんだよ。どーせ弥勒のことだ。雨宿りとかなんとか言って、珊瑚と”妙な場所”にでも連れ込んでんじゃねーか」 「妙な場所ってどんな場所よ」 「ど・・・どこってお前・・・ッ」 何故だか赤くなる犬夜叉。 「な・・・。い、犬夜叉、あんた何いってんのよ・・・ッ」 「ば、ばばばばお前こそ何想像したんだよ!」 犬夜叉もかごめもテレながらも想像していることは一緒らしい。 犬夜叉とかごめが想像したような”妙な場所”ではないしろ、当たらずも遠からずで。 弥勒と珊瑚は民宿に一泊することになったのだが・・・。 「へぇ〜。あんた、戦国銀行にお勤めなのかい。ご立派だねぇ」 「いやぁー。今は戦国銀行も厳しい現状でして。毎日お得意様周りしてますよ。だから体力最近つけてるんです。お嬢さん」 夕食の刺身や山菜のてんぷらの料理を前に、民宿の女将ともりあがる弥勒。 「やだよー。お嬢さんだなんて。あたしゃもう56のおばちゃんだよ。こんな綺麗な奥さんいるんだから野暮なこといっちゃいけないよ。ふふふ。で。旦那さん、子供は何人くらい予定してるんだい?」 ブハッ。 珊瑚、女将の質問にお茶につまる。 「私は何人でも。自信があります。ふッ」 「そうかい。なら力つけなきゃね!奥さん、ほら、この山菜沢山食べるといいよ!栄養つけていつでも産めるようにしとかなきゃね 。あははは!」 「・・・(真っ赤)」 ”奥さん”と呼ばれるのがとってもくすぐったい。 まだ婚約者なのに。でも・・・。 やっぱり嬉しい・・・。 「奥さん」 「はい」 女将はぼそぼそっとあることを珊瑚に耳打ちした。 「・・・!(更に真っ赤)」 「ふふふ。お二人さん じゃあごゆっくり」 なんともお茶目な女将。新婚さんを刺激するのがお好きの性分らしい。 「おい珊瑚。女将はお前になんて言ったんだ?」 「な、なんでもないよッ。なんでも。」 「ふーんそうか・・・。じゃあ食べようか」 「う、うん・・・」 ふたりきりの食事・・・。 本当の新婚旅行みたい。 珊瑚の胸はときめきでいっぱい。 「あ、こ、この山菜お、美味しいね」 「そうだな。珊瑚。あれやってほしいですな」 「あれって?」 「あーん・・・」 弥勒は口をあけて、山菜のてんぷらを食べさせてくれと要求。 「・・・なッ・・・。じ、自分で食べなさいよ」 「いいではないか。ほら、珊瑚もあーん・・・」 弥勒は箸で山芋のてんぷらを珊瑚に差し出す。 「しょ、しょうがないなぁ・・・」 そういいつつも珊瑚もどこか嬉しそう。 珊瑚もてんぷらをひとつつまんで弥勒の口へと持っていく。 お互いの腕を交差して互いに食べさせあう・・・。 「あ、あたしお、お風呂さきはいってくるねッ」 もう赤面状態が限界なのかその場を逃げるように珊瑚は風呂に・・・。
”奥さん、ついこの間ね、ここに泊まった新婚夫婦がいてね、ハネムーンベイビーだったんだよ。頑張んな!” (もう・・・。女将さんたら変なこというんだから・・・) チャポン・・・。 湯船を軽く叩く珊瑚・・・。 しかし女将の言うとおり、今宵は弥勒と同じ部屋。 ということは・・・。 『一つの布団に枕が二つ』 そんな光景が珊瑚の脳裏に浮かぶ。 (きゃーー!!(照)) ぶくぶくぶく・・・。 珊瑚は真っ赤な顔を隠すようにお湯の中に顔を半分沈めたのだった・・・。
タオルで髪を拭きながら珊瑚は部屋に戻った・・・。 「・・・!!」 布団が二つ・・・。ならんで敷いてある・・・。 「やぁ。珊瑚長湯だったな」 弥勒も風呂にはいってきたのか浴衣に着替えていた。 「み、弥勒さまこそ・・・」 「なかなかいい湯であった。うん」 弥勒はにこにこしながらちょこんと布団の上で正座。 珊瑚の警戒心は一気にあがる。 「さ・・・。では寝ましょうか。珊瑚」 「・・・え」 弥勒が立ち上がるのと同時にとっさに空手の構えをして防御体制・・・。 しかし弥勒は枕一つ持って部屋を出て行こうとしている。 「あの・・・弥勒様・・・?」 「どこって・・・。私は廊下で寝るんですよ」 「でも・・・」 「ふっ。珊瑚・・・。私を見くびるな。婚約中とはいえまだ結婚していないおなごに手を出すほど私は不誠実ではない・・・」
「なーんてかっこつけてるが、本当はお前と同じ部屋に一緒だと私は理性が吹っ飛びそうなんでな」 「なッ・・・(赤面)」 弥勒の爆弾発言に珊瑚の頬はボッと炎上。 「ということで。おやすみなされ。私の愛しい珊瑚嬢」 パタン・・・。 散々珊瑚を赤面させて弥勒は部屋を出た・・・。 「・・・」 ぽつんとひとり部屋に残された珊瑚・・・。 (弥勒さま・・・) 広い畳10畳の部屋の真ん中に二つ布団が並んでいるが、片方の布団にしか人は寝ていない。 電気スタンドの電気を消す・・・。 天井の木目をぼんやり見つめる珊瑚・・・。 (なんか・・・。一人っていうのも寝付けないような・・・) 何度も寝返りをうつ・・・。 そうして1時間ほどたったころ・・・。 クシュンッ。 廊下からくしゃみが聞こえてきた。 (弥勒さま・・・?そういえば少し冷えてきたような・・・) クシュンッ。 クシュンッ・・・。 (・・・弥勒様・・・。寝冷えしちゃかわいそうだよね・・・) 「・・・」 珊瑚が起き上がり、部屋のドアをあけた。 「弥勒様・・・。寒いの?」 「ああちょっとな・・・。でも気にするな。毛布に包まっているから・・・クシュンッ」 「・・・。そんな薄い毛布じゃ寒いよ。弥勒さま、部屋で寝なよ」 「・・・いいのか・・・?」 「・・・。もし・・・。変なことしてきたら空手技だからね・・・」 ボキっと腕を鳴らす珊瑚。 「・・・ははは・・・。お手柔らかに・・・」 恐る恐る枕を持った弥勒が自分の布団に入る・・・。 珊瑚は緊張して、くるっと弥勒に背を向けるように横になった。 珊瑚と弥勒の布団の間は約20センチほどか。 ひょいっと手を伸ばせば相手に届く・・・。 チッチッチ・・・。 弥勒の腕時計の秒針の音が静けさをいっそう際立てる・・・。 「・・・」 珊瑚はチラッと弥勒の方を横目で見た。 (な・・・ッ。すやすや寝てる・・・) なぜかちょっと寂しい珊瑚。 (あたしばっかり緊張して馬鹿みたいじゃない。ああ、もう寝よっと) くるっと弥勒のほうに体を向けた瞬間! (・・・!!!) 弥勒もこちらを向いてご対面・・・。 「やぁ珊瑚。お前の眠れないのか」 「み、弥勒さま。寝たフリしてたね!?」 「さぁ・・・。どうでしょうな〜」 相変わらず弥勒ペースに押されてしまう・・・。 だけど何だか緊張感が解けような気がして安心した気持ち。 「でも何だかいいもんだな」 「え?」 「ほら・・・。よく言うだろ?親子さんにん川の字のなって一緒に眠るって・・・。いつか・・・。俺たちに子供が生まれたら一緒にこうして眠りたいなぁと思ってさ・・・」 「弥勒さま・・・」 自分と弥勒の間にもうひとつ、小さな布団。 そこに眠るのは自分達の宝物が眠る・・・。 小さな楓のような手を持った宝物・・・。 珊瑚は手のひらが温かくなっていくのを感じた・・・。 「・・・弥勒さま・・・」 「なんだ?」 「・・・。手・・・つないでも・・・いい?あ、い、言っとくけどつなぐだけだからねッ」 「ふふ・・・。はいはい」
「な、な、何いってんの」 「ふっ。でもこうして眠るのもいい・・・。楽しみはハネムーンまでとっておきましょう」 「もー!弥勒さまったら・・・」 少しだけ騒いで二人、手をつないで眠る・・・。 将来、つないだ手と手の間に小さな楓の様な手が入るかもしれない・・・。 そんな日を夢見て・・・。
かごめは犬夜叉と一緒にアパートの階段に座り・・・。 「なんでこんなもんに付き合わなけりゃいけねぇんだ」 「いいじゃないの。どーせ暇してたんでしょ」 二人並んでもっているのは線香花火。 かごめの方は小さな小花のように。犬夜叉の方はシャワーのような形の花を咲かせている。 「ちょっと早いけど・・・。でもなんかやっぱり線香花火ってなんか切ないよね」 「そーかぁー・・・。ふあーあ・・・」 線香花火の切なさに似つかわしい大あくび。 かごめは呆れ顔だが、もう慣れたといった表情。 「なんでい。なんか文句あんのか」 「別に。ほんと、あんたってロマンってもんがかけらもないなと思って」 「ロマンだかマロンだかしらねぇが俺は眠いんだ。けっ・・・」 とかなんとかいいつつ、かごめが線香花火をやろうといったら好きなナイターも見ないでここにいるのは何故だろう。犬夜叉君。 「・・・。犬夜叉。せっかく二人きりの夜なのに・・・あたしといても楽しくない?」 かごめがなんとも切なげな顔を急にしたので犬夜叉は動揺。 「なッ・・・。なにいってんだよ。急に・・・。あ・・・」 かごめと犬夜叉の線香花火は、同時に地面に落ちて消えた・・・。 「消えちゃった・・・」
そして切なく・・・。
「・・・?どういう意味でい」 「さぁ・・・どんな意味だろ。私にもわかんないや・・・」
「え?」 犬夜叉はポケットからライターを出して、残りの二本の線香花火に火をつけた。 「ほら。もうちっと花火につきあってやっからそんな顔すんな」 「・・・うん。そうだね・・・」
(なんで・・・)
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