第47話 対話 かごめがボランティアをしている保育所の遠足。 かごめも同行することになった。 行き先は戦国山公園。 山全体が公園となっていて冬はスキー、夏はゴンドラが有名だ。 山道を保育所のバスがゆっくりと走る。 バスの中では子供達と保母達が歌を楽しそうに合唱している。 後ろの方にいたある少年。 少し退屈そうに窓を覗く。 隣に一台のスポーツカーが走っていた。 「あ・・・!」 少年は運転席を見て指差した。 長い髪のかごめとよく似た女性がハンドルを握っている。 「あ、かごめ先生だ!」 「え?」 少年の横に座っていたかごめも窓を覗くがもう車はずっと先に行ってしまっている・・・。 「おっかしいなぁ。今僕ね、かごめが乗ってた気がしたんだけど・・・」 「うふふ。翔くん、きっと見間違いよ。私はここにいるじゃない」 「そうだよね。でも本当に良く似ていたなぁ・・・」 この世の中で。 自分とよく似た女といえば一人しかない。 思い当たる人物は一人・・・。 (でもまさかね・・・。こんな山奥に桔梗が来ているわけがないわ・・・) 少しばかり不安を感じたがかごめはきっと見間違いだろうと自分に言い聞かせた・・・。 「わぁっ。広いなぁ〜」 芝生。一面の芝生。 綺麗に刈られた芝生は青々としていいかおりがする。 そこは冬になると雪が積もり、スキー場に早代わりする。 芝生広場の横にはケーブルカー乗り場があった。 「さー。みんなここは広いので一人でどこにでもいかないように。いいですねー!」 子供達にそう注意を促すと昼食が終わった子供達から個々に遊び始めた。 ある子は持ってきたバドミントンで。在る子はなわとび・・・サッカー・・・。 深い緑色の芝生のじゅうたんの上で子供達は元気に飛び回る。 楽しい声が響く・・・。 そんな中、一人の少女が慌てた顔で保母の下へ走ってきた。 「どうしたの?」 「あのね、翔ちゃんがいないの!」 「え!?」 かごめの隣に座っていた少年が姿を消した。 保母たちは一斉にあたりを探すが見つからない・・・。 「かごめ先生、見つかった!?」 「いいえ・・・」 息を切らせて探し回ったがみつからない。 その時、かごめにある物が目に入った。 『ケーブルカー乗り場』 (まさか・・・。あれに一人乗り込んでは・・・) 「園長先生!すぐケーブルカー乗り場に問い合わせてみてください!私、ケーブルカーで見晴台まで行って見ます!」 「あ、カゴメ先生・・・ッ」 かごめは急いで乗り場まで行き、係員に子供は乗っていなかったかと尋ねた。 「子供一人ではないですが。若い女性と男の子が乗ってました。そういえば、女性のほうはサングラスをかけていたけどあなたに似ていたなぁ・・・」 「!」 かごめは直感した。 間違いない・・・。 (きっと桔梗だわ・・・!) でもどうして桔梗がこんなところに・・・。 今はそんな疑問より子供の方が心配だ! かごめは係員に理由を話してすぐにケーブルカーに乗せてもらった・・・。 ゴー・・・。 ゆっくりとあがっていく・・・。 山々がすぐ下に見えて、ケーブルカーは頂上を目指す。 (翔君・・・) 『戦国山頂上〜』 アナウンスと共にケーブルカーは頂上に着いた。 梅雨の時期で人はまばら。 かごめすぐ見晴らし台に走った・・・。 見晴台は駅を出ると目の前に・・・。 まるで大きなバルコニーのよう・・・。 ずっと向こうの海まで眺められる・・・。 そして双眼鏡がいくつもあり保育所のスモックを着た少年が覗いていた。・・・。 「翔君!!」 「あれ?かごめ先生!どうしてここに・・・?」 「どうしてって翔君がいなくなったから探しにきたのよ」 「でも僕も『かごめ先生』とここに来たんだ。一緒に。ねぇどっちが本当のかごめ先生?」 少年は不思議そうに首をかしげた・・・。 「私がほんものです!翔君。勝手な行動しちゃ駄目でしょ!みんな、とっても心配したのよ!!」 少しきつく叱るかごめに少年はしょんぼりした・・・。 「ごめんなさい・・・」 「ふう・・・。まぁいいわ・・・。ともかく下に帰りましょ。みんなを安心させてあげないと」 かごめは少年をだっこし、乗り場に戻ろうと振り返った。 「・・・!」 振り返っていたのは桔梗だった・・・。
形は似ていても。 雰囲気はまるで違う・・・。
「あ・・・。そ、そう・・・」 「あ、あの・・・。月島さん・・・はどうしてここに・・・?」
「・・・」
かごめは何だか息が切れそうだ・・・。
「新しく出すアルバムの製作で忙しい・・・」
「じゃ・・・。じゃあ私達、下に降りるわね。じゃあお先に・・・」 かごめと少年は一足先にケーブルカーに乗り込む。 すると、ドアが閉まり様に桔梗が静かに乗り込んできた。 「・・・気が変わった。私も降りる・・・」 「・・・」 狭いケーブルカーに・・・。
かごめは自分の着ていたカーディガンで少年を包んでだっこする・・・。
「・・・あの・・・。何か?」 「・・・」
(一体何なの・・・。言いたいことがあるなら言えばいいのに・・・) しかしかごめも何を話していいのかわからない・・・。 その時。
「きゃあッ!!」 突然ケーブルカーは激しく横に揺れ、かごめと桔梗は強く窓に打ち付けられた・・・。 ギイッ。ガタンガタンッ ケーブルカーはそのまま停止してしまう・・・。 「いたたた・・・。たんこぶできちゃったかも・・・。あ、翔君!」 少年は無事だ。 それよりも・・・。 「あ・・・」 桔梗の右腕の甲が擦りむけ、血がでている・・・。 「ちょ、ちょっと・・・。怪我してる・・・」 「・・・。たいしたことはない・・・」 「だけど血が出てるじゃないの・・・。ちょっと待ってて」 かごめはポケットからピンクのハンカチを取り出し、手の甲にきつくまく・・・。
「ちょっと痛いかもしれないけど・・・。血を止めないと・・・」 「・・・。余計なことを・・・」 「よ・・・余計なことって。あのね、目の前で怪我した人がいたらなんとかしようと思うでしょ。ましてここには貴方と私しかいないなら・・・」 「・・・」
「・・・。犬夜叉は・・・。どうしている・・・」 初めて犬夜叉の事に触れられた・・・。 かごめは再び緊張状態・・・。 「どうって・・・。元気・・・だけど・・・」 「・・・。そうか・・・」
かごめも聞かない・・・。
ギイイイ・・・。 やがてケーブルカーはゆっくりと動き出した・・・。
下の乗り場に着き、ドアが開く。 保育所の保母達がかごめと少年を待っていた。 「ああ、翔君よかった・・・!」 かごめは少年を園長に預けた。 少年の無事の姿に皆、安堵する・・・。 (桔梗・・・) いつのまにか桔梗の姿はなくなっていた・・・。
赤いソファに座りリビングでバイオリンの調律。 オーダーメイドのバイオリンはイタリアの職人しかつくれない。 手入れは念入りにしなければ・・・。 ポト・・・。 絨毯の上にピンクのハンカチが落ちた。 かごめに巻いてもらったハンカチ・・・。 返しそびれた・・・。 「・・・」 初めてかごめに会った。 今、犬夜叉に一番近くにいる女・・・。 「・・・」 かすかにハンカチは陽の香りがする・・・。 ハンカチをそっとテーブルに置く。 ベランダに出て、バイオリンを奏でる・・・。 その日、奏でた音色は少しだけどこか・・・。
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