第51話 毒りんご
”三ヶ月以内に5000万きっちり返済できない場合、この土地を売ってアパートを引き払っていただきます”
『楓荘』の一代危機。
住人達は楓の部屋で早速対策会議。
5人がちゃぶ台を囲んで座る。
かごめと犬夜叉は篠原が自分たちに接触してきた
ことを弥勒に話した。
「じゃあ、かごめさまを付回したのも、犬夜叉に近づいたのも
あの篠原なのですね・・・」
「ああ・・・。もしかしたら、桔梗や樹の所の嫌がらせもあいつが何か
関係してるのかもしれねぇ・・・」
「そう考えるのが自然ですな。月島桔梗か坂上樹、もしくは犬夜叉お前に
何か因縁があるのかも・・・。篠原に身に覚えがないか?」
「オレに恨みもってる奴は星の数ほどいるかもしれねぇけど、あんな野郎は
しらねぇ・・・。会ったこともねぇ」
「・・・まぁ、お前が知らなくても向こうは知っているという
こともあるからな・・・」
「弥勒さま。今はあいつが何者より、お金をどうするか・・・。それが
問題でしょ。専門家!なんとかならないの!?」
珊瑚がちゃぶ台を拳で叩いて弥勒に迫る。
「・・・。この土地を担保に銀行から借りる・・・という手もあるが、今はどこも
なかなか厳しいからな・・・」
「金のことは心配ない。みんな・・・」
楓がお茶をずずっとすする。
「楓ばばあ!何一人で和んでる!」
「金のことはワシがなんとかする。ワシの借金じゃ。若いお前達が
気にすることはない。とにかく心配無用じゃ!さ!会議は終了!ワシは寝るぞ。部屋にもどった、
もどった!」
「あ、コラばばあッ!」
犬夜叉達は追いし、電気を消し、さっさと布団にはいって眠る楓。
「なんでいッ。ばばあの野郎ッ!心配いらねぇって5000万なんて金、
どこにあるってんだ!」
楓の部屋のドアを蹴る犬夜叉。
「よしなさいよ。犬夜叉・・・。きっとおばあちゃん私達に余計な事背負わせたく
ないのよ・・・」
「・・・けッ・・・」
確かに今の自分たちに3ヶ月以内に5000万などという大金を
用意しろといわれても、限りなく無理だ。
しかし、この楓荘をなくしたくはない。
「・・・ともかく・・・。やはり篠原という人物をもっと詳しく
調べてみる必要があるな・・・。今、わざわざ50年前の借金問題を持ち出してくるなんて
おかしい話だからな・・・」
「うん。それと・・・。犬夜叉」
じろっと犬夜叉を横目で見る。
「なんだよ」
「分かってると思うけど。かごめちゃんも狙われてるだからね!ちゃんと
守らなくちゃだめだからね!喧嘩なんてしてる場合じゃないんだから・・・」
かごめと犬夜叉は互いを見合うが・・・。
「・・・わ・・・わかってらぁッ!イチイチ忠告すんじゃねぇ・・・」
喧嘩していたのを忘れていた二人。
「・・・。あ、あの・・・。じゃあおやすみ・・・」
かごめは戸惑いながら自分の部屋に戻った・・・。
「かごめ・・・」
ぎこちない犬夜叉とかごめの空気。
「ちょっと。犬夜叉。本当に頼むよ。月島桔梗の事もあるの、わかるけど・・・。
かごめちゃんの事もお願いだよ・・・。あたしもできることするからさ・・・」
「・・・」
珊瑚の言葉が凍みる。
守るべきもの二人・・・。
犬夜叉は決意を固める夜空の月を見上げた・・・。
(篠原の野郎・・・!かごめにこんどなんかしてきやがったらぶちのめす・・・!!)
※
あれから三日。弥勒は手を尽くして篠原のことを調べ上げたが
司法試験に一発で合格。その後研修期間を追え、27歳の若さで
大手企業の顧問に抜擢され、沢山の問題を解決に導いた・・・。
その程度のことしかわからなかった。
犬夜叉、桔梗、樹達との接点は見えてこない・・・。
インターネットカフェで篠原のHPをみている弥勒。
『篠原忠、法律相談所へようこそ』
というTOPページ。お悩み相談掲示板には女性の様々な金銭問題などが
たくさんよせられていた。
「何がようこそ・・・だ。アイドル弁護士が・・・」
一方その頃。
かごめと珊瑚は本屋にいた。
珊瑚が手にしているのは六法全書。
ぺらぺらめくってみるが、借金についての
部分が見当たらない。
「あー。なんかこれみれば分かると思ったんだけど・・・。よく分からないね・・・」
「うん・・・」
かごめが手にしているのは、なんと『篠原忠の生活に役立つ法律ノート』というタイトル。
「なんじゃこりゃ。あいつの本。本なんかかいてんの?まぁ・・・。本当に
役に立つのかね。嫌味な奴だね!いーだ!」
表紙に映る笑顔の篠原の顔にあっかんべーをする珊瑚。
元気な珊瑚にかごめの顔も綻ぶ。
「・・・ねぇ。珊瑚ちゃん・・・。珊瑚ちゃんは弥勒さまの前ではどんな女の子?」
「え。な、なに突然・・・(照)」
「好きな人の前で・・・一番嫌な自分になっちゃこととか・・・ない?」
「え・・・。一番嫌な自分って・・・」
「あ、やっぱりいい。何でもないから。気にしないで。一応、
この本、買ってみるね」
篠原の本を一冊持ってレジに行くかごめ・・・。
その背中がとても・・・。
切なく感じる珊瑚だった・・・。
本屋を出た二人。
歩道を歩いていると一台の車が二人に近づいてきた。
歩道の脇に車は止まる。
助手席の窓が開くと・・・。
「やぁ。これはこれは・・・楓荘の美しい住人のお二人・・・」
篠原が嫌味な笑顔が現われた。
珊瑚がかごめを守るようにさっとかごめを自分の後ろにやった。
「何?あんた・・・。やっぱりまだかごめちゃんの事
つけまわしてるってのかい?」
「付回してる・・・。まるでストーカーみたいな言い方ですね」
「似たようなもんじゃないか。かごめちゃんに何かしたら・・・」
ボキボキ腕をならす珊瑚。
「何もしませんよ。それに僕はどちらかと言うと珊瑚さん貴方の方が好みだな」
「なッ」
口がうまい。篠原の言動にちょっと顔を染める珊瑚。
「ハハハハ。面白いなぁ・・・」
「あ、あんたねぇッ・・・!」
「冗談はこれくらいにして・・・。どうです?お金のめどはつきましたか?まぁ無理でしょうがね」
「あんたに楓荘は渡さないよ!きっとなんとかしてみせる!」
「ほう。ま、期待して待っていますよ・・・。じゃ・・・」
篠原がエンジンをかけようとしたとき。
「待ってください。篠原さん」
かごめが珊瑚の後ろから出てきて呼び止めた。
「篠原さん。貴方に聞きたいことがあります」
「・・・。聞きたいこと・・・ですか。どうやら長話になりそうですね。どうします?
私の事務所は近いですがそこでお話するのは」
「・・・。構いません」
「ちょ、ちょっと待ってよ!なら私も行く!」
珊瑚はかごめの腕をつかんだ。
「珊瑚ちゃん・・・。いいの?」
「当たり前でしょ!かごめちゃん一人、敵地に行かせるわけにはいかない
よ!」
「珊瑚ちゃん・・・。ありがとう・・・」
かごめと珊瑚はこうして篠原の車に乗った。
「ふッ。女友達の友情ねぇ・・・。泣かせますね。クックック・・・」
嘲笑う篠原の声に・・・。
珊瑚の鉄拳が今にも爆発しそうだったがぐっとこらえる・・・。
二人を乗せた車は・・・。
カフェのテラスに座りパソコンでインターネットを見ている
弥勒の真横を通り過ぎていったのだった・・・。
5階建てのビル。
3階・『篠原忠法律事務所』
と煌びやかな表札が入り口に・・・。
「さぁどうぞ。事務の女の子達は帰ったみたいですがね」
中に恐る恐る入る二人・・・。
中は綺麗なオフィスという感じだ。
机が3つ。
その奥が篠原の机。立派な黒い皮製の椅子が。
まるで社長室のようだ。
「こんなところではなんですから奥の応接室へどうぞ」
応接室に入る二人。
ソファが2つ。
あとは観葉植物が部屋の隅においてある殺風景な部屋だ。
「座って待っていてください。今、事務の子にお茶もってこさせますから」
「お茶なんかいい!」
「まぁそんなに射きらないでください。お茶に毒なんて入ってませんから。フフ・・・」
暫くして事務の女の子が紅茶を3つ入れてきた。
「ああ、もう君は帰っていいよ。戸締りは僕がしておくから」
女の子は少し顔を赤らめてお辞儀をすると部屋を出て行った・・・。
「本当に篠原さんは法律だけじゃなくて『女性の扱い』もうまいんですねぇ」
珊瑚は嫌味たっぷりに言った。
「ハハ。女性の相談者が多いもので。さ、それより一服しませんか。ロシアから取り寄せた
ロシアンティです」
「・・・」
珊瑚とかごめはじっと紅茶をのぞく。
「だから。毒なんか入ってませんて。それともあなた方はどうしても僕を”悪人”
にしたいのですか?警察沙汰なことをして一番困るのは僕ですからね」
「・・・。じゃあいただきます」
「あ、か、かごめちゃん・・・!」
かごめはごくごくと飲み干す。
「・・・美味しい・・・」
「でしょう・・・?気持ちを落ち着かせる効果があるんですよ。
ま、飲みたくないものを無理にとはいいませんがね」
何だかむっとしてきた珊瑚。
「いいよ。飲んでやろうじゃないか!」
珊瑚も一気に飲み干した。
確かにさわやかな甘みで美味しい・・・。
「どうですか?少しは落ち着かれましたか?珊瑚さん」
「・・・。ふんッ」
ロシアンティには何も入っていなかった。
珊瑚とかごめはいよいよ本題にはいる。
「あんた。月島桔梗や坂上樹への嫌がらせもやってるんだって?
一体、誰への恨みつらみで馬鹿なことやってるんだい!」
「嫌がせ・・・?さぁ・・・」
「とぼけるんじゃないよ!」
「嫌がらせかぁ・・・。そういうのも何だか”スリル”があって
いいなぁ・・・。彼らの音楽はなんというか人の心を魔性にする何かがありますからね。
特に月島桔梗には・・・」
珊瑚の問いを鼻で笑うかのように不適に笑う篠原。
「篠原さん。貴方は月島桔梗、犬夜叉に何をさせたいのですか?
何を・・・」
かごめはまっすぐに篠原を見た。
「”何をさせたいか・・・?”質問の意図がわからないな・・・。ただ・・・
。彼らは何も知らない・・・。何もね・・・!」
一瞬だが、篠原の瞳が憎しみに満ちたのをかごめは見逃さない。
「どうでもいいけど、楓荘にまでちょっかいだすなんて!でもそんなこと
させないよ!弥勒さまがきっと・・・。きっと・・・」
バサッ・・・!
「珊瑚ちゃん!」
珊瑚はソファに倒れ、深く眠ってしまった・・・。
「あらら・・・。どうやらロシアンティが効きすぎたみたいですねぇ。
言ったでしょう。ロシアンティは心が落ち着くと・・・。フフフ・・・」
「・・・。珊瑚ちゃんの紅茶に何をいれたの!?」
「何も・・・。ロシアンティに合う”砂糖”を少しね。眠りによく効く・・・」
睡眠薬・・・。
かごめは瞬時に悟った。
「・・・。どうするつもりなの・・・」
「どうも。ちょっとしたゲームをね」
「ゲーム・・・?」
「名づけて・・・”2人の白雪姫ゲーム”」
「白雪姫・・・?」
ククっと篠原は笑うと冷蔵庫からあるものを取り出してきた。
白い皿にアップルパイが2つ・・・。
「アップルパイです。おいしそうでしょう?
駅前の喫茶店と同じもです。僕の大好物だ」
篠原はむしゃむしゃと食べながら言った。
「ゲームって・・・どういうことなの!」
「まぁそう焦らないで。”プレイヤー”を呼ばなくちゃねぇ・・・」
篠原は携帯を取り出し、どこかへかけた。
「ああ。犬夜叉さんですか。今、こちらでかごめさんと珊瑚さんを
お預かりしています」
堂々とそう言う篠原。
「今からとっても面白い昔話をしますので聞いていてくださいね」
まるで少年が夢中でゲームにふけるように
にこにこしている篠原。
「・・・。昔々ある所に二人の白雪姫がいました。その二人の名は『かごめ』と
『桔梗』。そっくりな二人に想いを寄せる王子さまの名は『犬夜叉』です」
子供に絵本を読みきかせる父親のような口調・・・。
篠原の歪な笑みにかごめは激しい不安を感じた。
「その二人の白雪姫の元に、継母から
贈られたのは2つの林檎・・・。しかしどちらかが毒林檎でした。さぁて・・・。
それを知った王子はどちらの白雪姫を助けようとするでしょうか・・・?ふふ。この先のストーリーは
犬夜叉さん、貴方がつくってください。そろそろ月島桔梗の元に今頃”毒りんご”が届いているかもしれませんよ。
じゃあ・・・。頑張って下さい。王子様」
P!
篠原は携帯を切る・・・。
愕然とするかごめ・・・。
「さ。白雪姫。王子はどちらに来るかな・・・。ククク・・・。どちらに愛があるか・・・。
これではっきりするでしょう?ハッピーエンドになるといいですねぇ・・・。アッハッハ・・・!」
(犬・・・夜叉・・・っ)
篠原の勝ち誇った笑いがかごめの心に恐怖感となって響いていた・・・。
|