第52話 ゲームのはじまり

目の前にあるアップルパイ。

それはもしかしたら継母が送った『毒りんご』かもしれない。

「さて。犬夜叉王子。今頃どちらにむかっているかね・・・。
かごめさん、貴方もこれですっきりするんじゃないか?貴方と坂上樹の写真一枚で
ギクシャクしたんでしょう?ふふ・・・」


「よ・・・余計なお世話よ!!」



「ま。どうでもいいがね。くだらん恋愛沙汰なんか。それより
見物だな。犬夜叉王子は一体どちらの姫を助けにいくのでしょう。くく・・・」


その『犬夜叉王子』・・・。


アパートへ帰る途中だったところに


篠原からの携帯に怒りで手足が震えた・・・。


(あの野郎・・・ッ!!!楽しんでやがる・・・!許せねぇ・・・ッ!!!)


しかし今は怒りより二人を助けねば・・・。


”どちらかには猛毒のりんごが・・・”


どちらだろう。


(どうする・・・!オレはオレは・・・!)



”かごめちゃんのこともお願いよ・・・”


珊瑚の言葉が浮かぶ・・・。


(かごめ・・・!)


犬夜叉の足は、篠原の事務所へと向かった・・・。



(そうだ。桔梗には携帯で連絡するか・・・!)


立ち止まり携帯をかける犬夜叉。



しかしなかなか繋がらない・・・。



(くそ!早くでてくれ!早く!)


「今は出ることができません。携帯の電源を切っているか・・・」

そのアナウンス・・・。


「くっそ・・・ッ!!!」


犬夜叉は走りながら何度も携帯をかけなおした・・・。













「・・・。かごめ姫。どうです?もう一杯ロシアンティは・・・」


コポコポとカップに注ぐ篠原。


「・・・」



「どうしたんです?さっきから押し黙って・・・」



「・・・」


険しい顔のかごめ・・・。


じっとアップルパイを見つめている・・・。


「・・・試してみますか?フッ。かごめ姫」


「・・・」


「どうぞ。僕はこのゲームのプレイヤーじゃないから。どうぞご自由に・・・くっくっく・・・」


かごめはゆっくりアップルパイを手にした・・・。



少し震わせながら・・・。



(・・・。きっとハッタリよ・・・。でも・・・。もしかしたら・・・)



本当においしそうなアップルパイが・・・。



毒林檎に見えてくる・・・。





恐怖心がかごめの体を包む。


(怖がってちゃ駄目・・・。落ち着いてよく考えるのよ。かごめ・・・)


今、自分がすべきことを・・・。




(犬夜叉・・・。きっと迷ってる・・・。犬夜叉・・・)


きっと今、迷ってる。


追い詰められて・・・。



(犬夜叉・・・!)





かごめはすぐさま自分の携帯を取り出し、犬夜叉にかけた。



PPPPP!!


歩道を走っていた犬夜叉の携帯が激しくなる。

この着メロは・・・。


(かごめだ!!)



立ち止まり携帯に出る。


「かごめか!?お前、無事なのか!?」



「大丈夫よ」



かごめの”大丈夫”の言葉に犬夜叉は深く安堵した。


「いいか、かごめ。絶対、食うんじゃねぇぞッ!今すぐそっちに行くから・・・!」


犬夜叉の言葉にかごめの恐怖心も
消える・・・。



必ず来てくれる・・・。そう信じているから・・・。


でも。


「犬夜叉。あたしは大丈夫。今は桔梗のところに行って」




「えっ。で、でも・・・ッ」




「迷ってるときじゃないわ。桔梗は何も事情を知らないのよ!早く・・・ッ!!!!」



「・・・。かごめ・・・。」




「早く・・・!!!」



かごめたちの会話をニヤニヤと嫌らしく笑って聞いている篠原・・・。




「・・・わ、わかった・・・ッ。だけどかごめ待ってろ。俺は絶対そっちに
行くから・・・。待ってろよ・・・!」






「・・・うん。待ってる。信じて待ってる・・・」



「ああ・・・!」



犬夜叉の携帯の電源ボタンを押す指が重い。


そして走り出した。




歩行者を掻き分け、信号も無視して・・・。


走りながら犬夜叉の心は・・・。


かごめの事が気になる。


本当に大丈夫か。



だが万が一桔梗の元に送られたアップルパイに毒が入っていたら・・・。


”お前を守る”


そう桔梗に告げた・・・。




どちらのところへもとんでいけたら。


なんてずるいのだろう。

なんて中途半端なんだろう。









パッパー!


「バッキャーロー!赤信号だぞ!!」


トラック運転手の罵倒も聞こえない。


信号機のない道路を横断する犬夜叉・・・。


(体が・・・。体が二つあったらいいのに・・・!)


そんな都合のいい思考になる自分が許せない。


だけど・・・。


守りたいものがふたつ。


片方を守れば片方は危険になり・・・。これじゃあいけない。きっといけない。

分かっているけれど、答えを出せない。


二つを守りきることさえ、ままにならない自分の無力さが

グッと奥歯をきしませる・・・。


「ハァハァ・・・」


樹の事務所のドアを蹴り開ける犬夜叉。


受付の女子職員に怒鳴った。


「おい!!今、桔梗はどこにいる!?」

「あ・・・。え、えっと確か5階のスタッフルームに・・・」


犬夜叉はエレベーターのボタンを押すが、上がっていってしまった
後だ。


「ちッ・・・!」


カンカンカン・・・。


エレベーター横の非常階段を駆け上がる犬夜叉・・・。


桔梗の元へ向かっているはずなのに。

かごめは本当に大丈夫だろうかと脳裏をかすめる・・・。


守りたいものふたつ・・・


中途半端な自分。


無力な自分。


何も変わらない、変えられない現実。





だけど・・・。

その現実を変えるきっかけをくれるのは・・・。



何かを決められないとき、躊躇する重い心を


押してくれるのは・・・。



”桔梗の所へ早く・・・!”




かごめの優しい声だ・・・。








バアンッ!


スタッフルームのドアを蹴り破る犬夜叉。



「わぁ、おいしそう〜♪いただきまーす」



スタッフルームでは、ソファに桔梗と女子職員2人が
テーブルの上のアップルパイにフォークを指していた・・・。


「食うなーーーーーーッ!!!!」




ガシャーン!



犬夜叉は思い切りテーブルをひっくり返した。


「・・・。犬夜叉・・・。一体どうしたんだ・・・?」


突然の犬夜叉の行動にもかかわらず、桔梗は表情一つ変えず、尋ねた。


「とにかく、そのアップルパイ、食うなッ!!!」

床に飛び落ちたアップルパイを拾い、犬夜叉はそれを事務所の窓際に置いてあった
熱帯魚が泳ぐ水槽に入れた・・・。


「犬夜叉・・・。理由を話せ・・・。一体・・・」


「いいから・・・。黙って見てろ・・・」



水槽の小さな熱帯魚達。

グッピーやエンジェルフィッシュが沢山泳ぐ。

落ちてくるアップルパイの欠片をつつき始めた・・・。


「・・・」


緊張した面持ちで犬夜叉達は水槽を見つめる・・・。



だが・・・。



魚達の様子は一向に変わらない・・・。







元気に泳ぎ回る。



「・・・。ちッ・・・!!!ハッタリかよ!!
アイツの!!!!」





一気に脱力感が犬夜叉を襲う。


「犬夜叉。アイツとは誰だ?詳しくはな・・・」


PPPPP!


桔梗が犬夜叉に尋ねようとしたとき、まるで頃合を見計らったように
犬夜叉の携帯が再び鳴った。


出ると・・・。


「ハッズレ〜。犬夜叉さん」


「し・・・篠原・・・ッ。てめぇッ・・・ッ!!」


子供がゲームをして喜んでいるような声の篠原・・・。


「よかったですねぇ。月島桔梗を守れていやー、よかったよかった。でも
かごめさんがかわいそうですねぇ。結局また貴方は・・・」


「業とらしいこと言ってんじゃねぇッ!!!ハッタリかましやがって・・・!!!」


「ハッタリ・・・?ハッタリじゃないですよー。ゲームには”リアリティ”がなくっちゃ!」


「リアリティだぁ・・・?馬鹿いってんじゃねぇ。篠原ッ!!
てめぇ・・・かごめは無事か!!」


「ええ。元気でいらっしゃいますよ。たったひとり待たされて・・・。
嗚呼可哀想なかごめ姫・・・」


プツッ・・・。


嫌味な言葉を残し、篠原は切った・・・。


不安が犬夜叉を襲う。


「犬夜叉・・・」


「桔梗・・・」


「何が起こっているのかは分からないが・・・。”こんなもの”を
事務所につけられている所を見ると、”相手”は姑息で臆病な奴らしいな・・・」


桔梗は手に何か持っていた。


黒い、四角い器械のような・・・。


「桔梗・・・。それってもしかして・・・」


「ああ。盗聴器だ。今のお前の会話からきっと
仕掛けられてるのではなかと・・・。案の定、植え込みの中に・・・」


ガチャッ!


桔梗は白いハイヒールの踵(かかと)で盗聴器を
踏み潰した・・・。



「くそ・・・。あのヤロウ・・・!!ずっと盗み聞きしてやがったのか・・・!」



「犬夜叉・・・」



「だがよかった・・・。桔梗、お前が無事で・・・」



桔梗は無事だった。



安堵する犬夜叉。だけどまだホッとしている場合じゃない!


そんな犬夜叉の心理を桔梗はすぐ見抜く。


「・・・。犬夜叉。行け。詳しいことは後でいい・・・」




「桔梗・・・。すまねぇ。だがくれぐれもお前も気をつけるんだぞ・・・」



「わかっている・・・」



「何かあったらメールくれ・・・!いいな?」




バタン・・・ッ!



少し後ろ髪をひかれるおもいで犬夜叉は事務所をあとにした・・・。



(犬夜叉・・・)




犬夜叉の後姿が・・・。




少し遠く感じた桔梗だった・・・。



























一方・・・。かごめは・・・。

「あーあ・・・。バレチャッたみたいです。盗聴器」


耳にあてていたイヤホンを外す篠原・・・。


「と・・・盗聴器ってもしかして樹さんの事務所に・・・!?」


「ええ。最新式の高い奴だったんですけど、月島桔梗に壊されちゃった」



「貴方・・・。一体何考えてるの!??こんなことして何が
楽しいの!!」


「どうしてかなぁ〜。人の、困った顔見るの、面白くって。へへ」

まるで子供。


おもちゃを壊されたように
幼稚な口調で・・・。


「犯罪でしょう・・・!!こんなことして・・・!」


「”証拠”がなかったらつかまらないですよ。
だから、だいじょーぶ」

おもちゃの飛行機をなでながら話す篠原・・・。


篠原の幼稚な態度にかごめはその異常さを感じた。


(負けちゃだめよ・・・!こんな奴に!)



かごめはその飛行機のおもちゃを篠原の手からとりあげた。


「・・・。大丈夫かどうか・・・。きっとそのうち
わかるわよ・・・。ゲームは油断したほうが負けよ・・・!」


かごめは強い意志を持って篠原に言った。


まるで何か確信をもつように。



「それで勝ったつもりですか?かごめさん・・・」



篠原はかごめにゆっくりと近づき、かごめのバックを取り上げた。


「きゃッ!!何するの!」


「それはこっちの台詞ですよ」


バックを逆さまにして床に中身をばらまく・・・。


そして小型のラジカセを手に取った。


そのラジカセはテープがまわり・・・録音ボタンに赤いランプがついていた。


「”貴方のやっていることは犯罪よ”さっきの台詞、
そのままお返ししますよ。かごめさん。これを警察にでも持っていく気ですか?」


「・・・。か、返してッ!!」


「おおっと。それは困る」


篠原は中身のテープを取り出し、ゴミ箱になげた。


「貴方も結構月島桔梗同様頭がいいですねぇ。でも悪いが
こんなテープなんて何の役にも立ちませんよ」


「・・・クッ・・・」


悔しい・・・。


講義を録音するためのカセットテープをかごめは密かに
篠原の事務所に来たときからスイッチを入れていた。


きっと何かの役に立つと・・・。


「あ、そうだ。よかった僕が最近手に入れたいい
テープがあるんですよ。代わりにあげます」


机の引き出しから透明のカセットテープを取り出した。


「ある二人の逢瀬のひととき。題名は『桔梗と犬夜叉、密かに蘇る愛』
なーんてねぇ。熱烈ですよぉ。アッハッハッハ・・・!」




パン・・・ッ!!






篠原の高笑いがかごめの堪忍袋を切り、右の手の平が激しく篠原に
ぶつけられた。


「馬鹿にしないでよ・・・ッ!!!!」


「イタタ・・・。はぁ。かごめさん、貴方も結構気が強いですね。でも本当に
殴りたいのは私じゃなくて桔梗の所へ行った犬夜叉さんでしょうに・・・」



「・・・私自身が決めたことよ。それに・・・。犬夜叉はきっと来てくれるって
しんじてるもの・・・!」



「”信じる・・・”ねぇ。フッ。安っぽい言葉連発されると吐き気がする。今頃
危機を脱して桔梗と犬夜叉は・・・なんて想像してるんでしょうが。本当の所は。ねぇかごめさん」




「・・・。信じてるもの・・・。私は・・・。私は・・・」



篠原の言うとおり・・・。心の奥では犬夜叉が来るかどうか
不安がじわっと湧いてくる・・・。



来てくれないんじゃないか・・・。




「所詮、”信じる”なんて心理は自己満足でしかない。
”待ってろ、””うん、待ってる”じゃあ、かごめさん、貴方は
明日でも一年でも信じて待つっていうんですか?」




「・・・信じるわ・・・。もし犬夜叉が来なかったとしても・・・」



「・・・フッ。信じる信じるって。あーあ・・・吐き気がする・・・」




「アンタがどう言おうと・・・。私は犬夜叉を信じてる・・・。絶対に・・・ッ!」





「・・・」




太陽の光のように



まっすぐなかごめの瞳。




篠原のくすんだ心に




光の矢となって差し込んだ・・・。














バアン・・・!!!




ドアが蹴り破られる。




「かごめーーーーッ!!!!」



「犬夜叉!」



ゼイゼイと息を切らせて犬夜叉は篠原からかごめを守るように
立ちはだかった。



「おお。これはこれは・・・。犬夜叉王子。桔梗姫は
無事でしたか?クック・・・」



「・・・てんめぇ・・・」



グッと拳を握り締める犬夜叉。


「ちなみに、かごめさんのアップルパイにも毒なんていれてありません。
だーって。そんなことしたって警察で調べたらわかっちゃうでしょ?
これはゲームなんです。げ・え・む!」



完全に犬夜叉をなめきった篠原。



「・・・ぶっ飛ばす・・・ッ!!!!!」


「やめて!!犬夜叉ッ」


犬夜叉の拳を両手で握り締め、止めるかごめ。


「とめるなかごめ!俺はコイツだけは許せねぇ・・・ッ!!!!」

更に犬夜叉は篠原にくってかかろうとするがかごめがとめる。


「私も同じよ・・・!。でも。怒れば怒るほど、相手の思う壺になる・・・。ほらあそこ・・・」


かごめが天井を指差す。

そこにはカメラが・・・。


「・・・なッ・・・」


「ご心配めされるな。あんなビデオ、何かに使おうなんて
思ってないですから。あ、でも警察に持って言ったら
どうなるかなぁ。フフフ・・・」



勝ち誇った様な篠原の笑み・・・。



「篠原・・・てめぇいつかぶっ殺す・・・ッ」


犬夜叉の怒りは収まらず今にも口から飛び出そう・・・。


だがかごめは犬夜叉の右手をぎゅっ握って

怒りを鎮める・・・。





「帰ろう・・・犬夜叉・・・」



「かごめ・・・」



「私、一秒たりともここにもう、居たくないの・・・」

「けど・・・」


頼むようにかごめは言った。


「犬夜叉。帰ろう・・・。珊瑚ちゃんが心配だから・・・」


ソファで深く眠ってしまっている珊瑚。

犬夜叉の怒鳴った声にも目を覚まさなかった・・・。



犬夜叉は珊瑚をおぶって、かごめと部屋を出て行こうとした・・・。



「お二人さん。ゲームはまだ始まったばかりですよ」



「・・・」


バアンッ!


ドアの激しい閉めた音はかごめ達の精一杯の篠原への反抗・・・。


「罠たくさんありますからね・・・クク・・・」


窓際で、篠原はまるで悪戯を考えている子供のように
目を輝かせて、飛行機のおもちゃで飛ばして遊んだ・・・。


「ぶーん、ぶうーん・・・」













夕暮れの帰り道・・・。



人通りの少ない住宅街を珊瑚を背負った犬夜叉とかごめが無言で歩く・・・。



今日一日の篠原に振り回された疲れと


様々な感情が犬夜叉とかごめの心を巡って・・・。




「・・・すまねぇ。かごめ・・・。また俺のせいでお前を
危険な目に・・・」



「べつにいーよ・・・」



「良くねーだろ・・・。もしたしたらお前の方のアップルパイに・・・」



そう思うとゾッとする。


篠原のハッタリだったとしても・・・。



「・・・。すまねぇ・・・」




「謝らないでよ。やだな・・・」




「けど・・・」



他にかごめにかける言葉が見つからない。


何度、何度、何度、かごめを危険にさらしたか・・・。



「・・・怒ってるのか?」




「怒ってないよ。怒ってないけど・・・」



かごめは犬夜叉に背を向けて鉄橋の真ん中で立ち止まった。




「アンタはさ・・・。結局行っちゃう奴なのよ。
守りたいものがある限り・・・」



犬夜叉が真っ先に守りたいものそれは・・・。




「いかねぇよ!もう何処へも・・・俺はお前のそばからは・・・」




「・・・嘘」




「嘘じゃねぇ。俺は・・・!」



かごめは振り向き、細い人差し指でそっと犬夜叉の唇の動きを止めた・・・。





「・・・。何も言わなくていい・・・。誰が悪いわけじゃない。誰のせいでもない・・・。
私はそう思ってから・・・」



穏やかに微笑むかごめ・・・。




(かごめ・・・)




沈む陽・・・。



かごめの頬をオレンジ色に染める・・・。




唇から伝わるかごめの指の温もりは



背中にあたる夕陽のあたたかさに似て・・・。





犬夜叉の唇に添えられた人差し指を


無意識に犬夜叉は




かごめの手の平ごと握り返した・・・。








静かな小川の上にかかった鉄橋の真ん中で・・・。





犬夜叉はかごめの指を包むように握り締め・・・







見つめあう・・・
















「クシュンッ」




「・・・!」(犬)



「!・・・」(かごめ)




珊瑚のくしゃみで手をぱっと放す二人。



「・・・。あ、ご、ごめん・・・。いい雰囲気だったのに・・・」


「なッ・・・(照)。さ、珊瑚。て、て、てめぇ起きてたのか!」


「心配したのよ。さ、珊瑚ちゃんなかなか起きなかったから・・・ッ」


二人とも頬を染めて言う。


「だってさ。おきようにも起きれる”雰囲気”じゃ
なかったし・・・」


更に赤くなる犬夜叉とかごめ。



「もう一回眠るから続き、どうぞ」



「ば、馬鹿いってんじゃねぇ!起きたんなら自分で歩きやがれ!」


珊瑚をすとん!と歩道に下ろす犬夜叉。



「こら!あたしは荷物じゃないぞ!」


「けっ。お前、筋肉つけつぎじゃねーのか。結構重いぞ。ま、かごめ
もあんまかわらねーけど・・・」


おなごの前で体重の事を言った犬夜叉。


当然、おなご二人はご立腹です。




「かごめちゃん、先に行って美味しいアイス食べよ」



「そうね」



すたすたとおなご達は犬夜叉を置き去りにして
アパートへ歩いていった。




「こら!俺の分のアイスも残しておけよなー!!」













そして夜。


風呂からあがったかごめ




ガチャ・・・。


自分の部屋に入る・・・。



風呂上りなのに。



体が重い・・・。



どっと疲れと



これから篠原はまたどんなことをしてくるか分からない不安が。



かごめの肩に重くのしかかって・・・。




”私は犬夜叉を信じてる”



そう篠原に言い放ったけど・・・



『犬夜叉と桔梗の逢引のテープ』



一体、何が・・・。



小さな嫉妬心が過ぎっては消え過ぎっては消え・・・。




「ハァー・・・」



まるでどこかに落ちていくような深い深い
ため息・・・。



出口のない迷路を、ずっとさ迷っている・・・。


”すまねぇかごめ”



犬夜叉なりの誠意の言葉なのかもしれないけど・・・。







やっぱり。






切なくて・・・。




ばふッ。


かごめはそのままの服でベットに倒れる。





天井をぼんやりながめるかごめ・・・。





”俺ははなれねぇ。お前の側からは・・・”






「・・・」



そう言っていたけれど。


やっぱり犬夜叉は行ってしまうだろう・・・とかごめは思う。



桔梗に危険が迫れば何をおいても・・・。









誰が悪くて、誰かのせいでもない。


皆、ただ、一生懸命で。


だた、精一杯・・・。



誰かを助けたい、誰かを守りたい。


誰かのためになにかしたい。


それが返って誰かを傷つけ、傷つけあったりすることもある・・・。


(しょうがないのよ・・・。みんなだた必死なだけ・・・)



かごめは何度もそう心の中で自分に言い聞かせた・・・。





意図が分からない”篠原”という悪意。


これからどう犬夜叉達を包むのか・・・。




まだ本当に”ゲームの始まり”にすぎない・・・