第54話 蛇の正体 

「ご近所のみなさーん!おはようございまーす!この楓荘には・・・」


柄の悪い派手な赤のシャツを着たチンピラ二人。


拡声器を持って楓荘の前で叫び続ける。


パシャッ!



「・・・!?」


その二人の背後からフラッシュの光が。


振り向くとかごめがデジタルカメラでチンピラたちを撮っていた。


「なにすんだぁ?この女」



「何って。私、今撮った写真、プレゼントしようとおもって」



「プレゼント?どこへだ」



「警察に」



にこにこしてかごめは言い放った。



「ほほう。やってもらおうじゃねぇか。警察へ送ったって別に
おれらは怖かねぇよ」



「そう。じゃあ、あなた達が今、言ったこと全部録音して送るわ。『名誉毀損』されましたって」


「はぁ?名誉毀損だとー?ねえちゃん、俺らは真実を言ってるだけなんだよ」


「真実?ああ、今、あなた達は犯罪を犯しているってことでしょう?」


男はかごめのパジャマの襟を少し掴んだ。


そのとき、弥勒がかごめの後ろから待ってましたとばかりに登場。


「おお!かごめ様。決定的瞬間ですぞ!今、このシーンを撮れば間違いなく”暴行”シーンなります」



「そうね。弥勒さま撮っておくわ」



パシャッ。


かごめはきっちりとらえた。



「貴様ら・・・。俺ら馬鹿にしてると痛い目に・・・」



ボキ・・・。


バキ・・・。



骨をおる音が・・・。


男達の真後ろに犬夜叉とかごめが仁王立ち・・・。



「犬夜叉。あたしすっごい運動不足なんだけどいい”サウンドバック”見つけちゃった。あんたも
する?」



「そうだな。丁度いい”サウンドバック”があるしな・・・」


凄みのきいた視線が男達を見下ろす・・・。


「う・・・。俺らに怪我させてみろ・・・。反対にお前らが警察に・・・」


しり込みする男達だが口だけは減らない。


「ほう。そうしたらこういえばいいことです。”かごめさまを守るために体を張った”と
正当防衛という言葉を覚えて置いてください」


弥勒の鋭い眼差しがさらに男達をうろたえさせた。


「な、ナンだよ。兄貴。話が違うじゃねーか。オレらはただ、このアパートの前で
言われた台本どおりに大声だせばいいって・・・。そしたら
きっと犬夜叉って奴が殴り来るからそのまま警察行けって・・・」

弟分らしき男がぼそぼそっと言った。


「・・・やはり貴様らの依頼人は篠原か。その姑息なやり口。決して
自分の手は汚さない。全くへどがでますな」


「おう。てめーら・・・。篠原に言っときな。お前が何を仕掛けてきても
まけねぇってな。俺らは一人じゃねぇからってな!!」


「ひいッ!」


男達は犬夜叉のドスの聞いた声におののき、すたこらと拡声器を担いで逃げていった・・・。



「けっ。くずどもが・・・」

「やれやれ。やはりかごめさまの言うとおり、私達の感情を揺さぶるというのが
篠原の”攻め方”らしいですな。冷静さを常にもたねば・・・」



「・・・。でも弥勒さま。篠原のことこのままにはしておけないよ」


珊瑚が心配そうに言った。


「ええ。ですが証拠がない限りあいつを訴えることもできない・・・。せめてアイツの正体
が分かれば・・・」



「篠原の正体・・・」



一体”誰”に対しての恨み、憎しみなのか。


敵を攻めるときは、敵を知れ。


だがいくら弥勒や珊瑚たちが篠原のことを調べても最近の経歴以上のことは
わからない。どこで生まれ、何処で育ったのか・・・。


表向きは『両親は外交官だった』などという風に言われているが・・・。


誰もその詳細は知るものは居ない。






その篠原の事務所に、犬夜叉達に追い返された男達が逃げてきていた。


犬夜叉達から言われたことをそのまま話すチンピラ兄弟。


「おう。アンタ。話が違うじゃねーかよ。筋書きじゃアンタの言うとおりに
したら犬夜叉って奴が俺らをボコボコにする、そしたら警察に被害届けだせって言って
たよな」


「あんな頭の切れる仲間がいるなんて聞いてなかったぞ!」


弱小チンピラ兄弟、黒い椅子に座る篠原に訴える。

「言われたとおりのことはしたんだ。とりあえず金は払ってもらうぜ」


「・・・”金”だと・・・?わかった」


篠原はスーツから財布を取り出しいくらか出した。


チャリーン・・・。


一円玉2枚。じゅうたんに放り投げる。


チンピラ兄弟は唖然。


「どうした?”ギャラ”だ。受け取れ」



「ギャラが2円だと・・・!?ふ、ふざけるなッ!!人をおちょくってると痛い目に・・・。ぐあああッ!」



吸っていた煙草をチンピラ兄の額に押し付ける篠原・・・。



「クズにやる金などない。失せろ・・・」



「熱い・・・あちぃよーー・・・ッ」



チンピラ兄はあまりの熱さ転げまわる。


「あ、あ、兄貴ッ」


チンピラ弟が額の灰を払いのけるがチンピラ兄の額はやけ爛れ・・・。


「目障りだ。とっととその2円持って消えろ。」


「・・・く・・・。あ、あんた、おかしい・・・。狂ってるぜ・・・」



チンピラ弟は兄を背負い、悔しそうな顔で社長室を出て行った・・・。



「狂ってるだと・・・?狂ってるのはオレじゃない・・・。
この世の中だ・・・。力ないものがいつも犠牲になる。はけ口になる・・・」



机の引き出しをあけ、一枚の写真を険しい表情で見つめる
篠原・・・。


その写真にはある人物が・・・。


プルル。


電話の音にハッとした篠原はすぐにまた嫌味な顔に戻り、電話に出た。


「何・・・?月島桔梗が・・・?」

受付に月島桔梗が来て面会したいと女子事務員からの連絡が・・・。



「すぐ、通して差し上げて。粗相のないように」


丁寧に言って内線を切った篠原・・・。



(ふふ。”白雪姫”が単独でご登場か。見物だな)



冒険をしている子供のようにわくわくした表情を浮かべる篠原。


ガチャ・・・。



薄紅色のロングスカートと黒のニットを着た桔梗が静かに姿を現した。


手には何か大きめのバックを持っている。

「おお・・・。これはこれは。月島桔梗さんではないですか。
僕は前から貴方のFANだったんですよ。光栄だな」


篠原は握手を求めたが応じない桔梗。


「・・・。ふふ。嫌われているみたいですね。まぁ立っていてもなんですから
座ってくださいな」



しかし座らない桔梗。



「・・・この間、僕が送ったアップルパイはいかがでしたか?
おいしかったでしょう?」




「・・・生憎だが私は甘いものが嫌いだ」



「それは残念・・・。でも犬夜叉さんは好きみたいですよ。
もう一人の”月島さん”ととても仲がよく恋人同士で・・・」






カチャ。



桔梗はいきなり用意してきたアーチェリーを
篠原に向けた。



「おいおい。・・・物騒な”お土産”ですこと・・・」




「黙れ。言え。お前は誰だ。何故犬夜叉や私をつけ狙う・・・」



「・・・。さぁ。何故でしょう・・・?お空の上の神様に聴いてみますか?」


ガチャッ!



桔梗はアーチェリーを更に狙い定める。


「言え・・・。お前だ何者だ・・・」



「・・・。月島さん。貴方は本当に度胸がありますねぇ・・・。凛として。
常に冷静さを失わず的確な行動をする・・・。でも・・・。惚れた男の前じゃただの女って
分けですか。フフフ・・・」



べたつくような笑い・・・。


桔梗は一瞬、ある人物を浮かべた。




「フッ・・・。お前の正体、大体分かった・・・」


桔梗はアーチェリーを下ろした。



「・・・ほう。それは困ったな。じゃあ僕は一体何者なんです?」



煙草を取り出し、ライターで火をつける。

銀色のライター。蛇の彫り物が・・・。




「そのライター・・・。昔、私と犬夜叉を罠に嵌めた男も同じものを持っていた・・・」



「・・・で・・・。その男の名前は・・・?」



「無双・・・。あの男も蛇が好きだった・・・」



ジュッ。


篠原はガラスの灰皿に煙草に火を消す。


何かを握り粒すように・・・。



「ふッ。で・・・。貴方は今日、僕の正体を掴みに来ただけ・・・。というわけですか。
惚れた男のために」



「犬夜叉にこれ以上手を出すな。でなければ私は今度は本気でお前を打つ」




「・・・。あんな二股男のために月島桔梗あろうとも人が手を汚すというのですか。
まったく愛は盲目とはいったものだな・・・。まぁ、一応肝に銘じておきましょう」



桔梗の凄みにも篠原はにこにこしながら聞いている・・・。



「お話はそれだけですか。僕はこれから仕事なんです」




「・・・」




桔梗は無言で部屋を出ようとしたが・・・。

じっと部屋に飾ってあった絵画を見つめ、アーチェリーを
構えた。




ガチャンッ!



放った矢は蛇の絵画ど真ん中に命中。



「今度からはもっとマシな場所にカメラは隠しておくことだな・・・」



パタン。



桔梗は矢一本残し、去った・・・。





「”なんて物騒な白雪姫”だ。やれやれ・・・」




篠原は刺さった矢を引き抜き・・・。




「もっと面白くしてやるさ。ゲームをね・・・!!」



ボキッ。



矢を真っ二つに折った・・・。










「・・・篠原の正体がわかった・・・?本当か!樹!」


楓荘に樹がやって来た。


楓の部屋でいつものように住人会議。


ちゃぶ台をむ、犬夜叉、かごめ、弥勒、珊瑚、そして樹が囲む。


「はい。桔梗が思い出したんです。ある人物を」



「ある人物・・・?オレも知ってるやつか?」



「ええ。犬夜叉さんも僕もとても・・・。その名は無双・・・」



「・・・!!」


無双。それはかつて駆け落ちしようと約束をした犬夜叉と桔梗を罠にはめた
男だった。

以前、この楓荘に押しかけ、かごめを襲った男でもある。


「無双と篠原・・・。一体どんな関係なんだ!」



「篠原は・・・。無双の腹違いの弟です」



「・・・!」




やっと蛇の正体が分かった・・・。




だが。



蛇は次なる獲物を狙っていた。



意外なところを・・・。