第56話 蛇対狼

蛇対狼。


今、蛇が狼にある罠をしこうとしている。



「かごめを犬っころから奪えだぁ・・・?てめぇ。一体何かんがえてやがる」



「別に。ただ。”何か”とかごめさんが犬夜叉さんのことで辛い思いをしているので
かごめさんには貴方のほうがふさわしい気がして」


「へっ。よけーなお世話だ。どうもさっきからてめぇのその目つきがオレは気にいらねぇ。
30秒以内に消えねぇとけがすっぞ。今、オレは気がたってんだ」


ボキっと鋼牙は拳を鳴らした。


「・・・。本当にいいのですか?僕の言うとおりにすれば、かごめさんのことも、濡れ衣の汚名も
みんな解決するのに。それにどっちにしろいずれ・・・貴方はかごめさんを『自分しか守る男』はいないと
思い込む・・・」



「言っただろ。30秒以内に消えろ。カウントされてぇか?」


「・・・ふう。全く。貴方も犬夜叉さんも話が通じない人だ。ま、いいでしょう。いずれ、
貴方にも僕が言ったことがわかるときがきます。近いうちに・・・ククク・・・」



篠原はにやにや笑いながら、

鋼牙の前から去っていった・・・。




「・・・一体、ナンだったんだ。今のは・・・」



”貴方はかごめさんを『自分しか守る男』はいないと
思い込む・・・”




「けっ。んなこたぁ、当たり前だっての・・・」




再び、芝生に寝転がり、鋼牙は目を閉じた・・・。



















『陸上会のホープ、狩野鋼牙、ドーピング疑惑でオリンピック選考会出場
停止決定か!?』


早速B級の週刊誌は鋼牙の一件を嗅ぎつけ、騒ぎ立てた。



毎晩恒例。『楓荘住人会議』


楓の部屋に集まる4人。


こたつの上には鋼牙のことが載った雑誌が開かれている。




「・・・においますな」



「匂うね・・・」

腕組みをする弥勒と珊瑚。


「うん・・・すごく・・・」



「くせぇな・・・」



真剣な眼差しで鋼牙の記事を見つめる4人。




「”アイツ”の匂いがしますぞ・・・」



「うん・・・。きついよ・・・」


鼻をつまむ珊瑚。


ワンワン!【やだ。アイツってあたしのことかしら?ごめんあそばせ。またやっちゃったみたい・・・】


久々ゴマちゃん登場。だが、また、こたつの横でまた畳に黄色い地図を
お絵かきしてしまった・・・。




「ゴマ、てめぇ、いつになったらおねしょなおるんだ!」


ゴマちゃんの首輪をくいっとひっぱる犬夜叉。


ワンワン!【仕方ないでしょ!昨日、飲みすぎたのよ。近所のオス犬達ったら私をなかなか
返してくれなくて】



ゴマちゃん、一体何を飲みすぎたのやら・・・(汗)


かごめはゴマちゃんをとりあえず、退却させ、雑巾で黄色のしみをふいた。



「ったく。”しつけ”がなってねぇ。かごめ、【飼い主】の
お前がしっかりしろよ」


「何よ。そんないいかたしなくてもいいでしょ。ゴマちゃんはね、
まだ子犬なの。もっと大目にみてあげてよ」



「甘やかしたら駄目だ。けっ・・・」



”いつもかごめに甘やかされているのは誰だ”と言わんばかりな視線を弥勒と珊瑚は
犬夜叉に送る。



「・・・なんでい。その意味深な視線は」



「いえいえ。何でも気にするな(汗)」



「けっ・・・。それにしても、本当に匂うぜ。鋼牙の一件の後ろにゃアイツ(篠原)の匂いが・・・」


「そうね・・・。鋼牙くんに限って不正なことするわけないし・・・」


(んなッ・・・(妬))



”鋼牙くんに限って”そのフレーズにカチンと犬夜叉のジェラシー、反応。



「だけどさ、鋼牙を陥れたところで一体、アイツ(篠原)のメリットにはならないんじゃない?
弥勒様」


「そこが不気味なところだ。アイツは鋼牙という存在を使ってどう私達に罠をはろうとしているのか・・・」



使えるものはなんでも使う。


自分達の人間関係を調べつくしている篠原が鋼牙というコマをどうごかそうと
しているのか、4人の胸に不安がよぎった。



「・・・大丈夫よ。鋼牙くんは篠原の罠にかかるほど自分を簡単に見失う人じゃないから」



「・・・(怒)」


鋼牙を擁護するかごめの発言に犬夜叉、血管を浮き上がらせる。


「・・・まぁ。用心しろ・・・ということですな・・・」



「それより弥勒さま。借金の方はどう?何かいい方法は見つかった?」



「いや・・・」



そうだ。


借金問題もあった。



「心配するな。みなの衆」



台所から湯飲みを5つお盆に乗せ、楓が座る。


「・・・ですが楓さま。5000万という金額は・・・」


「半分は都合がついた」



「ほ、本当か!?ばばあ!」


「ああ。あと半分・・・。なんとかワシのポケットマネーと保険を解約すれば
大体5000万にはなるだろう」


「やったぜ!へん。ざまあみやがれ。篠原」


単純犬夜叉、一気に問題解決と喜ぶが。

かごめは心配になった。


楓が自分達のために今まで貯めて来た貯金やさらには掛けてきた保険を犠牲にするなんて・・・。



(何か・・・もっといい方法がないのかな・・・。何か・・・)



心配げに窓の外の月を見上げるかごめだった・・・。



















「ふう。オリンピックはまだ来年だ。まだ出られないと決まったわけじゃねぇ」



大学のグラウンド。


少し冷たい風がふく。


ユニフォームを着た鋼牙がストレッチをしていた。



「いいなぁ。まさに”つむじ風の狩野鋼牙”だ」


鋼牙に拍手を送るのはそう・・・。



蛇。


篠原だった。




「またてめぇか。しつこい奴だな」



「ふふ。言ったでしょう・・・?僕は貴方のFANだと・・・」


篠原は煙草に火をつけ、吸った。


「・・・ここは禁煙だ。吸いたいなら外いきやがれ」


「そんな冷たくしないでください。今日は大事な”第二のゲーム”の日なんですから」



「ゲーム?テレビゲームなら家でしやがれ。オレは忙しいんだ」


鋼牙は篠原に背を向け、スタートラインに立つ。


「いいんですか?そのゲームのヒロインは日暮かごめだ」



「!」


かごめの名前に鋼牙は篠原に振り返った。


「・・・てめぇ・・・。何考えてやがるんだ・・・」



「プレイヤーは”犬夜叉王子”二人のヒロインを助けに行く・・・そんなゲームですよ。どうです?
面白そうでしょう?一緒に見物しませんか?」



鋼牙は篠原のスーツの襟をぐっと掴んだ。


「・・・かごめに何しようってんだ・・・。あぁ?事と次第によっちゃ
てめぇ、痛い目に・・・。それに二人のヒロインってなんだ」



「・・・。ああ。そうか。貴方は何もしらなかったんですね」



「どういうことだ」





「ふふ。”それ”を知ったらきっとあなたは僕ではなくきっと
犬夜叉を殴りたくなりますよ。きっとね・・・」



鼻を膨らませ、わざとらしく、そしていやらしく笑う篠原・・・。



「ともかく。僕と一緒に来てみればわかりますよ。そしてかごめさんを救うのは貴方になるのだから。
クククク・・・」



意図が分からない篠原の笑いに。鋼牙は言いようのない不快感を感じた。



言ってる意味はわからないが、かごめに危機が迫っているのは確かだ。


鋼牙はストレッチを途中でやめ、篠原の車に乗り、


大学をあとにした・・・。
















「ちょっと!半分残しておいてよ!」



「うっせー!腹へってんだ。お前はホイ。中華まんでがまんしな」



コンビニからあんまんと中華まんを買ったかごめと犬夜叉が出てきた。


今日、一緒にビデオレンタルする約束をしていた。


「かごめ、お前、何借りるんだ?」



「そうねぇ。わたし、”REON”が大好きなの。ジョン・ノレが
すっごくキュートでぇ・・・」


歩道でかごめは思い切り目をきらめかせていった。


「へん。女ってのは相変わらずだな・・・」


「じゃあ、犬夜叉は何を借りるの?」


「ああ?俺か?オレは・・・」


暫く沈黙する犬夜叉。



「・・・あ・・・やだ。もしかして・・・。”言えない様な”ビデオ、なんじゃないでしょうね!?」


「あ?ナンだ”言えない様な”って・・・」



「えっ。だ、だからそ、その・・・」


かごめ、自分から言い出しておいて何故か赤くなる。



「ナンだよ。言えよ。」



「そ、そ、そんなこと、女の子の口から言えないわよ!」



「・・・女の子だぁ?一体どんなビデ・・・」



犬夜叉、ようやく”言えない様なビデオ”の意味を理解した。



「ば、ば、馬鹿やろう!み、弥勒じゃあるまいし、そんなもんッ(照)」


「え、じゃあ、弥勒さまは借りてるの!?どうなの!」


「知るか!こんなところででけぇ声だすな」


「白状しなさい、はく・・・」



犬夜叉とかごめ、他の歩行者から大注目の的・・・。




二人はそそくさと早歩きで
通り過ぎた・・・。





そんな二人を・・・。



グレーの高級車がゆっくりとつける・・・。


そう。鋼牙が乗った・・・。




「犬っころめ。かごめにまたちょっかいだしやがって」


暗い後部座席に並んで乗っている鋼牙と篠原。


「ふふ。喧嘩するほど仲がいいっていいますからね。ま、でもそれも
今すぐに崩れますよ」


「・・・どういう意味だ」



「ま、見ていてください。一通のメールを犬夜叉に送るだけで・・・。あの和やかな
空気が一気に気まずいものになりますから。ふっ・・・」



篠原はスーツのうちポケットから携帯を取り出し、なにやら少し文章を打った

そして、送信ボタンを押す・・・。



「てめぇ。何をたくらんでやがる・・・」


「いいから、いいから・・・。鋼牙さん。貴方の出番は最後です。さてさて。ゲームのはじまり、はじまりっと」



篠原はぱちぱちと一人手を叩いた。




それと同時に・・・。


犬夜叉の携帯にメールが入り、赤信号で止まっていた犬夜叉は早速メールを見た。




(・・・!)



『犬夜叉・・・助けて・・・』



桔梗からのメールだった。



一瞬、桔梗らしからぬ文体で篠原ではないかと思ったが
このアドレスは桔梗と自分しか知らない・・・。




「どうしたの?犬夜叉」



「・・・か、かごめ・・・」



携帯を覗き込むかごめ。



(・・・!)



一気に和やかな空気は重くなる。



信号が青になったのに。




わたらない二人・・・。




信号で立ち止まったままの二人を・・・




遠い場所から蛇と狼が眺めていたのだった・・・。