第57話 稲妻
『犬夜叉。助けて・・・』 桔梗からの突然のメールに犬夜叉とかごめは 信号で立ち止まってしまった。 その様子を、遠い車道に止まっている高級車 から、鋼牙と篠原が見ている。 「なんで、犬っころたちはつったままなんだ?」 「それはね。このメールを僕が送ったからさ」 篠原は鋼牙にメールを見せた。 「『犬夜叉、助けて』・・・?」 「ええ。実は犬夜叉王子にはもう一人。助けたいヒロインがいるんですよ」 「どういうことだ」 「犬夜叉のもう一人の惚れた女です」 「!???」 篠原の話に鋼牙はただ驚いた。 「犬っころに他の女・・・?」 「ええ。それも超有名なバイオリニストです。かごめさんそっくりの・・・」 「・・・!月島・・・桔梗・・・?」 「そう。犬夜叉が昔、駆け落ちまで考えた月島桔梗ですよ。あの二人は今でも時々会っているんです。 かごめさんがいるっていうのに・・。まったくどんだ二股ですよねぇ」 下世話な言い方。 篠原は本当に楽しんでいるようだ。 「・・・」 犬夜叉の衝撃の事実に困惑する鋼牙。 「どうしました?犬夜叉さんが許せませんか?そうでしょうねぇ。でも、 これからもっと許せなくなりますよ」 「!??」 「見てのお楽しみです。見てください。犬夜叉はかごめさんを置いて行ってしまいますから」 双眼鏡を鋼牙に手渡す篠原・・・。 その双眼鏡の向こうの二人・・・。 ただ押し黙って、二回目の青信号も赤に変わった。 「・・・き、気にスンナ。きっとこれはアイツの仕業だ」 「・・・」 「オレはいかねぇ。言っただろ。お前の側をハナレネェって」 「・・・」 そう言う犬夜叉だが・・・。 目は桔梗の身を案じ、視点が定まっていない・・・。 「・・・行って。犬夜叉」 「かごめ。オレはいかねぇって・・・」 「”気になって仕方ない”そう書いてあるよ。顔に」 「・・・か、書いてねぇ!」 だが、かごめをまともに犬夜叉は見られない。 「これ以上、アイツ(篠原)の思うままになってたまるか」 「でももし、本当だったらどうするの・・・?アイツの罠だったとしても 桔梗の様子を見に行って越したことはないわ。行って」 「でも・・・」 「いいから、早く!!」 「かごめ・・・」 「いってったら・・・!!!」 かごめは耐えられなくなり犬夜叉に背を向けた・・・。 かごめの背中が・・・痛い・・・。 「・・・かごめ・・・。すまねぇ・・・ッ。すぐ・・・すぐ戻ってくるからここで待ってろ・・・!」 体が引きちぎられるほどに痛いが。 青信号になり、犬夜叉は雑踏の中に消えていった・・・。 かごめはそのまま・・・。 俯いて動けなかった・・・。 「ほおらね。僕の言ったとおりになったでしょ?犬夜叉は結局行ってしまう奴なんですよ。 月島桔梗からは逃れられない。かごめさんは置いてけぼりだ・・・。あーあ。可哀想なかごめ姫」 ガッ!!!! 震えた鋼牙の拳が憎たらしい篠原の頬に はげしくぶつけられた。 「・・・てめぇ・・・それ以上喋るな・・・。歯の一本や二本じゃすまさねぇぞ・・・」 「・・・ふう。鋼牙さん。殴る相手は僕じゃないはずですよ?」 「やかましいッ!!!喋るなっていってんだろ!!!!!」 「頭に血が上りやすいなぁ。あなたも犬夜叉も。でもそんな暇ないですよ。 ほら、かごめ姫にピンチがおきようとしています・・・」 「!???」 双眼鏡で信号を見る鋼牙。 かごめがいない。 「貴方に会う前、駅前にうろついていたガキどもに ちょこっとおこずかいやったんですよ。『この写真の女と捕まえろって』」 「!!」 「さぁ。どうする?どおする?鋼牙王子!???」 マラソンの実況中継のように手にマイクをもったつもりで言う篠原。 バキ・・・!! 「篠原。てめぇはいつか、オレがボコボコにする!!覚えてろ!!!」 バタン!! 篠原に一発お見舞いして、鋼牙は車を折り、走っていった・・・。 「痛・・・。暴れ狼ときたら・・・。扱いがちょっと難しいもんだ・・・。が。 所詮、筋書き通りだけどね。フフ・・・。ぶーんぶーん・・・」 篠原はオモチャの飛行機を車の中で一人飛ばして 勝ち誇ったように笑っていた・・・。 一方かごめは・・・。 「ちょっと!何よ。あんたたち!」 「姉ちゃん。おれらとつきあえや」 ビルの裏口にかごめは中学生ぐらいの少年数人に囲まれていた。 「あんたたちに用はないわよ!」 「そっちになくても俺らにはあんの。あんたを人気のないところへ連れて行けって。こずかいくれたんだよ」 「こづかい・・・!??」 瞬時にかごめの脳裏に篠原の顔が浮かんだ。 「もしかしてそれって・・・」 「でも。どーする。俺、年上、好みじゃないしー」 「どうするかなー・・・」 中学生といえども、図体がデカイのがそろっている。 かごめに不安が走る・・・。 「おい、てめぇら!!」 かごめを見つけた鋼牙。 「鋼牙くん!?どうしてここに・・・」 「あ、そうかあんたが”狼”か」 「ガキ共・・・。かごめに何した?」 「何もしてねぇよ。つーか今から”する”トコロって感じ?クック」 なめきった少年達に鋼牙はぶちきれる。 「ガキ相手に容赦しえねぇぞ!!」 鋼牙は少年の襟を掴もうとした。 「駄目!!!鋼牙くん!!」 かごめが少年たちと鋼牙の間に割って入った。 「なんでとめるんだ!」 「鋼牙くんがこの子たちに暴力すると、アイツ(篠原)の思い通りになるからよ!!」 「アイツって・・・篠原ってやつか」 「そう・・・。多分、鋼牙君がこの子たちに暴力を振るうことまで 筋書きなのよ。アイツの・・・。ほら」 かごめは少年達が持っていたバックを取り上げた。 なんとその中には隠しカメラが。 「・・・。鋼牙くんのドーピングの件もきっとアイツの仕業よ」 「・・・。あの野郎・・・!!!」 「あー。どうでもいいけど。俺達ってもしかして用済み?なら行くわ」 少年達はつまらなそうな顔でかごめの前から去っていった。 「・・・そうだ。犬夜叉に伝えなくちゃ」 かごめは携帯を取りだし、かけた。 「かごめ、貸せ」 「鋼牙くん!?」 鋼牙はかごめから携帯を取った。 「犬っころに話がある・・・。お前はそこにいろ」 (話って・・・鋼牙くん一体・・・) 桔梗の事務所にいた犬夜叉。 桔梗は楽団員と合宿中でここにはいないという。 (やっぱり・・・篠原だったか・・・。くそ・・・おれってやつは・・・) かごめの元へ急いで戻ろうとした時。 かごめからの着メロに立ち止まって 出た。 「かごめ、お前、何かあったのか!?」 「何があったのかじゃねぇ。犬っころ」 「鋼牙!?」 意外な登場人物に犬夜叉は驚く。 「てめぇ。どうしてかごめの携帯に・・・」 「かごめは無事だ」 「ほ、本当か!?」 「おう。だから、オレのマンションまで来い。いいな!!」 ブチッ! 乱暴に携帯は切られた。 (・・・なんであの野郎が・・・) 電話越しの少し強張った鋼牙の声に犬夜叉は不安を覚えつつ、 マンションに向かった・・・。 (ここか) 大学の寮を出て新しいマンションを借りた鋼牙。 『309狩野』 表札の前に息を切らせた犬夜叉が立っていた。 ピンポーン。 チャイムを鳴らすと鋼牙が出てきた。 「かごめは・・・かごめは無事か!?」 「あったりめぇだ。ともかく入れ。てめぇなんか本当は淹れたくはないがな」 バタバタバタ 一刻もかごめの無事な姿を見たくて部屋の中を急いで入っていく犬夜叉。 「かごめ!!」 「犬夜叉・・・」 ブルーのソファにかごめは座り、コーヒーを飲んでいた。 「よかった・・・。無事だったんだな・・・」 「うん。やっぱり篠原の罠だったのね・・・」 「かごめ、すまねぇ。オレ・・・」 バキ・・・!!!!! かごめに近づこうとした犬夜叉を鋼牙は遮るように殴った。 「な、なにすんだ、てめぇ!!」 「・・・てめぇに聞きてぇことがある・・・。月島桔梗とかごめを二股かけてやがるのか・・・?」 「!!」 鋼牙の口から桔梗の名前が出て、かごめも犬夜叉も驚く。 一体誰から・・・。 二人が浮かんだのはやはり。 アイツだ。 「鋼牙くん。もしかして篠原から聞いたの・・・?」 「・・・誰から聞こうがんなこたどうでもいいんだ。犬っころ、どうなんだ?本当なのか」 「うるせぇ。てめぇにゃ関係ねぇこった。ひっこんでろ」 「関係ねぇだと・・・?関係ねぇわけねぇだろ・・・。ひっこんでられっか!!かごめを二股賭けてるならオレは もう容赦しねぇぞ!!力づくでもかごめを奪う・・・!!」 黄河の拳が震える・・・。 カーテンが雷に光って3人を照らしたのだった・・・。 |