第59話 ジェンガ ハァ・・・。 「かごめーーーー!!」 バアン! ドアを蹴破って、中に入ってきたのは・・・。 「鋼・・・牙くん・・・」 「かごめ!大丈夫か!???」 「う、うん・・・。でもどうして・・・」 ついさっき、鋼牙の携帯にメールがはいった。 『拝啓。狩屋鋼牙さま。あなたの愛しいかごめ姫が今、 第二音楽室で泣いています。助けてあげてください。 魔法使いの篠原より』 最初は篠原のおちょくりかと思ったが。 かごめの姿が見えないと友人から聞いた鋼牙。 部活をそっちのけですぐさま第二音楽室に駆け上がった。 「・・・。。アイツの罠に・・・。ひっかかっちゃった・・・。ごめんね 。わたしのせいで・・・」 「かごめが謝ることじゃねぇだろ・・・。それより本当にけがはねぇか?」 「うん。大丈夫・・・」 かごめの瞳が赤い。 頬には涙の痕が・・・。 「・・・かごめ。お前・・・もしかして泣いてたのか・・・?」 「え・・・?そんなことないよ。ちょっと目が痒かっただけよ。 大丈夫だって。鋼牙くん。私は大丈夫・・・ね?」 ”私は大丈夫・・・” そうかごめが言う時、 全然大丈夫じゃない時・・・。 鋼牙にはかごめが心の痛みを押さえているように見えた。 誰にも感じさせないように・・・。 「そんな深刻な顔しないで。本当に大丈夫だから。心配しないで・・・ね!」 (嘘だ。犬っころのことできっと・・・篠原の野郎に なんか言われたんだ・・・) 月島桔梗との複雑な関係。 煮え切らない犬夜叉の態度に今までずっと 辛い思いをしてきたに違いない・・・。 「鋼牙くん、ホントに大丈夫だから・・・私・・・」 「どこが大丈夫なんだ・・・っ」 「鋼牙くん・・・ッ」 たまらなくなった鋼牙・・・。 思わずかごめを椅子からひっぱりピアノの前で抱きしめた・・・。 「お前が大丈夫でも・・・。オレがもたねぇ・・・!お前が辛いのは見てられねぇ・・・!!」 「鋼牙くん・・・。私・・・辛いことなんて・・・」 「・・・たまにはお前も誰かに甘えろよ・・・!篠原の野郎に散々な目に遭って その上、犬っころに二股かけられて・・・。たまには誰かを頼れよ・・・」 「鋼牙くん・・・」 力強く抱かれる腕から 鋼牙のいたわりがかごめに伝わる・・・。 切ない程に自分への想いも・・・。 「・・・。もう、やめにしろ・・・」 「え?」 「犬っころはもうやめにしろ・・・。あいつのせいで お前が・・・お前が泣くなんて我慢ならねぇんだよ・・・」 「鋼牙くん・・・」 「オレじゃ駄目か・・・!?何が何でも駄目なのか!???」 鋼牙はかごめの頬に手を添え・・・。 そっとかごめを床に寝かせた。 「や、やめて・・・」 「やめねぇ・・・。言っただろ。もう力ずくでお前を奪うことはためらはないって・・・」 「こんなの、鋼牙くんじゃない・・・」 「お前を守れるのは俺だけだ。証明してやる・・・」 鋼牙はかごめの髪をそっとすくい、ゆっくりと顔を近づける・・・。 鋼牙の真剣なまなざし・・・。 「かごめ・・・」 自分を想ってくれる強さを感じる・・・。 こんなに想ってくれるなら。 想われたなら・・・。 どんなに幸せだろう・・・。 だけど・・・。 だけど・・・。 心の奥のもう一人の自分が。 叫んでる名前は・・・。 ”犬夜叉” 「鋼牙くん。ごめん・・・。ごめんなさい・・・」 あと数センチでキスだった・・・。 鋼牙はぴたりととめる・・・。 「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさ・・・」 「もう何も言うな・・・!」 鋼牙はかごめをお越し、再び抱きしめた。 「ごめんなさ・・・」 「・・・。お前が謝ることじゃねぇ・・・」 「ごめんなさい・・・」 かごめも辛い。 そして鋼牙も辛い・・・。 届かぬ思い。 受け止められない想い・・・。 それぞれ、胸に抱え、それでも。 自分の心には嘘はつけない・・・。 「・・・泣くな。わかってたさ・・・。 でも・・・これだけは覚えておいてくれ・・・。オレはいつだって お前に味方だからな・・・」 「鋼牙くん・・・」 鋼牙の優しさが身に染みる・・・。 犬夜叉と桔梗の密会ビデオの痛みが和らいでいく・・・。 「ありがとう。鋼牙くん・・・」 「・・・ああ・・・」 届かない想い。 だけどそれは絶対に無駄じゃことじゃない。 誰かを想うこと。 大切に想うこと・・・。 そこから、本当の恋が生まれるのだから・・・。 「かごめーーーー!!かご・・・」 鋼牙より10分程遅れ・・・。 犬夜叉もかごめを助けに来たが・・・ 「犬夜叉・・・」 音楽室の床に座り、抱きしめ合っている二人を 目撃する犬夜叉・・・。 一気に頭にカッと血が上る。 「鋼牙・・・!!!てめぇ・・・ッ!!なんでここにいるんだ!」 「・・・。犬っころ。お前は本当に頭まわらねぇのか。オレもお前も 篠原にまんまと動かされたんだよ」 「・・・!」 そう。 わざと篠原は犬夜叉に鋼牙よりあとにメールを送った・・・。 鋼牙を先にかごめの元へ行かせるために・・・。 「・・・んなことたオレだって分かってらぁ・・・ッ!それよりかごめから さっさと離れ・・・はッ」 犬夜叉は気がつく。 かごめのブラウスのボタンが外れ、かすかな着衣の乱れを・・・。 「て・・・てめぇ鋼牙・・・。かごめに何しやがった・・・?」 犬夜叉は声を震わせた。 「”何”だ?へッ・・・。言ったはずだぜ。オレは力づくでかごめを奪うってな!」 バキッ!! キレた犬夜叉の拳が鋼牙の右頬を直撃。 「犬夜叉やめて!!鋼牙くんは何もしてないわ!!だからやめて!」 「うるせえッ・・・!!今日という今日はゆるさねぇッ!!」 「・・・いいぜ。好きなだけ殴れよ。だけどオレはもう お前を殴らねぇ。殴る価値もねぇ・・・。それに・・・。喧嘩 したらかごめが哀しむからな・・・」 「なッ・・・」 鋼牙の言葉に、深い敗北感を感じる犬夜叉。 勝手にカッとして、殴って感情的になって・・・。 鋼牙の冷静さが何だか大きく見えた・・・。 「・・・だが犬っころ。これだけは言っておくぜ。 かごめの心に犬っころがいてもオレは一生、かごめが好きだ。 一生、待ってるつもりだ・・・」 自分の気持ちに自信に満ちた鋼牙・・・。 「・・・」 「かごめ・・・じゃあな・・・」 静かに音楽室を後にする鋼牙の後ろ姿・・・。 颯爽と・・・犬夜叉にもかごめにもそう映った・・・。 「・・・着てろ・・・」 自分が来ていたジャケットをかごめに着せる犬夜叉・・・。 「・・・帰るぞ・・・」 「う、うん・・・」 かごめも犬夜叉も・・・静かに 大学を後にしたが・・・。 アパートまでの帰り道・・・。 薄暗い住宅街を押し黙って歩く二人・・・。 (かごめ・・・何か言えばいいのに・・・) (犬夜叉・・・。何考えてるのかな・・・) 複雑に絡み合う想い。 「・・・す・・・すまなかった・・・。もっと早く 助けにこなくて・・・」 「・・・でもそれは篠原の企みで・・・。アイツが悪いのよ・・・」 「だけど・・・」 鋼牙より早く来たかった。 篠原の罠だろうがなんであろうが・・・。 男として・・・。 自分がかごめを助けたかった・・・。 「・・・。かごめ・・・お前・・・」 「何・・・?」 「・・・いや・・・何でもない・・・」 ”鋼牙と何があった?” 嫉妬心でその一言を言ってしまいそうになる。 その一言を言って、かごめと自分をギクシャクさせることが 篠原の目的・・・。 流石の犬夜叉もそれには気がつく。 「かごめ・・・。お前を守るって言ってるのにオレは・・・」 「・・・しょうがないじゃない。犬夜叉の体は一つ・・・。 犬夜叉の”一番”守りたい者を優先しちゃうのは当たり前でしょ・・・」 「かごめ・・・、お、オレ・・・ッ」 「・・・わかってる・・・。犬夜叉の気持ちは分かってるから・・・。お願い。 今晩は一人にさせて・・」 ”桔梗・・・” まだ耳に残ってる・・・。 自分には絶対に聞こえない犬夜叉の大人の男の声。 そして表情・・・。 それが心に黒くしみ込んでる・・・。 篠原の仕掛けた心理作戦だと分かっていても。 ”桔梗・・・” 声に。 心が締め付けられる・・・。 「かごめ・・・」 犬夜叉はかごめの肩に触れようとした。 「嫌ッ!触らないでッ・・・!!!」 パシッ・・・。 犬夜叉の手を払いのけた・・・。 「か、かごめ・・・?」 突然のかごめの拒絶に犬夜叉は驚く。 「な、な、なんだよッ!!何もしてねぇだろッ」 「・・・ご、ごめん・・・。ごめん・・・っ」 バタバタバタ・・・ かごめは犬夜叉を避けるように部屋にあがっていく・・・。 (ごめん犬夜叉・・・。でもお願い今は一人にして・・・) バタン! ドアの閉められた音。 完全に犬夜叉を遮断した音に聞こえた・・・。 (イチバン・・・タイセツナ・・・モノ・・・) かごめの部屋のドアを見つめる犬夜叉・・・。 (かごめ・・・) 犬夜叉はただ・・・。 ドアを見つめるしかなかった・・・。 クワン・・・。 ゴマちゃんがベットに塞ぎこむかごめに擦り寄る。 クワン【かごめちゃん・・・一体どうしちゃったの・・・。かごめちゃん・・・】 かごめの頬をなめるゴマちゃん・・・。 クワン・・・。【かごめちゃん・・・。また犬夜叉がらみで何かあったの・・・?】 ゴマちゃんも心配。 かごめはどっと疲れがでて・・・。 夕食も取らずそのまま深い眠りについた・・・。 夜。午前零時。 かごめはあれきり部屋から出てこず、電気もついていない・・・。 (かごめ・・・) 犬夜叉も気になって眠れるはずもなく。 ベットから出て、かごめの部屋の前にいた・・・。 (電気もついてねぇ・・・。メシ・・・ちゃんと喰ったのかな・・・) 買ってきたあんまんも冷えて。 ”触らないで・・・ッ!!!” かごめの言葉はかなり犬夜叉の心を激震させた。 (・・・きらわれた・・・やっぱオレ・・・) かごめの部屋の前で落ち込む犬夜叉・・・。 今までと何か違う。 完全にかごめに拒絶された。 怒らせたんじゃない。 かごめに拒絶された・・・。 あんまん一つで”仲直り”なんて簡単にはいかない。 (・・・どうしよう・・・) 怖い・・・。 街中のチンピラにケンカを売られたって。 酔っ払いに絡まれたって。 怯えるはずもない。 なのに・・・。 ”嫌・・・ッ” 嫌われたのは自分のせい・・・? ”かごめちゃんの気持ちも考えなよ・・・!” 珊瑚にいつか言われた台詞・・・。 (・・・かごめの気持ち・・・。オレは・・・) かごめの部屋の前で悶々とする犬夜叉・・・。 フッと顔をあげると。 (・・・!) かごめの部屋の電気がついた。 (かごめ・・・) カタン・・・。 窓越しにかごめの影が・・・。 (かごめ・・・。台所に・・・。メシ・・・つくってんのかな・・・) 水道の水音・・・。 かごめの動作、音ひとつひとつが気になって・・・。 ガチャ・・・。 ドアが開いた・・・。 (かごめ・・・) 一つに束ねていた髪を下ろしたかごめが出てきた・・・。 犬夜叉はかなり緊張する・・・。 「・・・あ、あの・・・」 言葉が出てこない・・・。 「・・・。犬夜叉」 かごめの声にビクッとする。 「・・・おなか・・・へっちゃった。何か美味しいもの、持ってない?」 「・・・え」 かごめの軽い口調に犬夜叉は拍子抜け。 「今日”色々”あってさぁ。疲れて大学から帰ってすぐ寝ちゃったの。 夕食食べてないからおなかへ茶って」 「・・・」 「ねぇ。何かおしいもの、ない?」 「え・・・あ、あぁ・・・。あんまんならあるけど・・・」 「それちょうだい♪レンジで暖めれば食べられるから。犬夜叉も一緒に食べる?」 「・・・あ、あぁ・・・」 いつものかごめに戻った・・・? 犬夜叉は戸惑いながら買ったあんまんを持ってかごめの部屋に。 「あー。やっぱり『サークルJ』のあんまんがイチバンよね♪」 「お、おう・・・」 こたつに入り、 ほかほかのあんまんをほくほくとほおばるかごめ・・・。 「犬夜叉、あんた、食べないの?」 「え・・・。べ、別に・・・」 「そ。なんか元気ないね」 「げ、元気ねぇのはお前だろ・・・ッ」 それも・・・。 自分と桔梗のせいで・・・。 「・・・。言っとくけど。私。強がってなんてないから」 「え・・・?」 「・・・篠原も甘いわよね。女ってモンがわかってないのよ。 私、逆境に追いやられれば追いやられるほどなんか・・・闘志がわいちゃって。あ、 も、一個もらうわね」 かごめ、2個目のあんまん、いきます。 「今度は何を仕掛けてくるか・・・。何しても体力、つけとかなくちゃね!」 「・・・かごめ・・・。お前、やっぱ強いな・・・」 「”二股男”の誰かさんのせいで強くさせられてるのよ。反省しなさいよね!」 「なッ・・・。オレのせいだってのか!」 「そうよ!だから、あんたの分、もーらい!」 かごめは犬夜叉の食べかけのあんまんを強奪。 「充分元気じゃねぇかよ!オレはてっきりお前に・・・」 「てっきり・・・何?」 ”お前に嫌われたのかと思った・・・” 「な、なんでもねぇよッ(照)」 「ふふ。コーヒー淹れるね!」 「お、おう・・・」 かごめの笑顔が戻った・・・。 犬夜叉はまだすこしかごめの態度に気遣いながらも 安心した・・・。 (・・・かごめ・・・。すまねぇ・・・。本当に・・・) だけど・・・。 かごめは痛みを隠して笑う・・・。 その様子を・・・隣の部屋の珊瑚は聞いていた。 ゴマちゃんを抱いて。 「・・・かごめちゃん・・・。本当に強いね・・・。私なんかより・・・」 クワン・・・【私もそう思うわ・・・】 本当はもっと泣きたいのかもしれない。 犬夜叉にぶつけたい気持ちがあるのかもしれない。 (でも・・・そうしないのは・・・) ”犬夜叉が一番辛くなるのを知っているから・・・” (ううん。それもあるけど・・・) ”つらくても何でも犬夜叉のそばにいたいから・・・” 壊したくないから。 桔梗がいても、いなくても・・・。 「犬夜叉・・・本当に幸せもので・・・。馬鹿野郎だよ・・・。ね、そう 思わない?ゴマちゃん」 ワゥワゥ・・・【"大"がつく程ね・・・】 かごめは泣いたも。 悔しい想いをさせられても。 絶対に負けない・・・。 理不尽なことに。 ・・・弱い自分に・・・。 (負けないわ・・・。絶対に・・・) 辛い気持ちの分だけ強くなる。 かごめはそう改めて思った・・・。 だが・・・。 ワイン片手にテーブルの上で一人。 ジェンガをする篠原。 かすかに揺れ、積み上げられたジェンガ 最後の一本を抜いていく・・・・ 「ジェンガ・・・。人の心もそうだ。どれだけ 上手くバランスを取っていても一本、柱を抜いてしまえば・・・」 がッシャーン!!! 見事にフローリングにジェンガは崩れ散った。 「ほらね・・・。。 ちょっと刺激すれば崩れるのさ・・・。どんなに信頼し合っている 者同士でもね・・・。くくく・・・」 ワインをぐっと飲み干す篠原。 次のゲームはどうするか、 悪戯を企てる子供のように・・・。 罠を巡らせていたのだった・・・。 |