「きゃああああああ!!!」
舞台で倒れた樹・・・。
「樹!しっかりしろ!」
犬夜叉が樹を起こす。
「樹さん!!!!」
かごめと珊瑚と弥勒も急いで舞台に上がる。
「樹さん!!しっかりして!!樹さん!!」
「早く!!誰か救急車よんで!!!早くーー!!
早くーーーー!!」
かごめが叫ぶ。
そのかごめの手を・・・。
血だらけの樹が・・・握った・・・。
「樹さん!!」
「・・・かご・・・さん・・・」
「しゃべっちゃ駄目!!しっかりして!!
今、救急車来るから・・・!しっかり!!」
樹の手を握り返す・・・涙目のかごめ・・・。
「・・・かご・・・さ・・・」
「樹さん!!」
樹は意識をそのまま失い・・・。
病院に運ばれ、すぐさま手術室に運ばれた・・・。
※
点滴がゆっくりめで落ちていく。
軽い脳しんとうを起こした桔梗がベットで眠る・・・。
その横には犬夜叉が鎮痛な面もちでパイプ椅子に座っていた。
(・・・もう・・・2時間経つ・・・。まだおわらねぇのか・・・)
腕時計は午後9時をまわっていた。
『手術中』
赤いランプ。
あのランプが灯ってはや2時間。
さっきまで刑事に事情をかごめ達は色々と聞かれていた。
勿論、篠原のことも話した。
しかし、それより何より今は
樹の容態の方が心配で・・・。
手術室の前の長椅子にかごめと弥勒と珊瑚達が押し黙って
座っていた・・・。
「・・・。大丈夫かな・・・。坂上さん・・・」
「珊瑚・・・」
心配そうにランプを見つめる珊瑚。
「大丈夫よ。樹さんそんな弱くない・・・。きっと助かる・・・!
きっときっと・・・!!」
ギュッとスカートを握りしめるかごめ・・・。
”ひとかけらでいいから貴方の愛が欲しい・・・”
縋るような声がかごめの耳の奥で響く・・・。
(大丈夫よ・・・。きっと・・・きっと・・・)
「こうして。仲間割れみたいのをさせるため・・・。どうすれば皆が一番傷つくか・・・。
アイツは知っているのよ・・・」
「・・・」
愛する者を奪うことじゃない・・・。
篠原のねらいは・・・。
ガチャッ。
手術室から看護婦が慌てて出てきた。
「どなたかO型の方はいらっしゃいませんか!?」
「はい!私です!!私O型です!」
「他の方はいらっしゃいますか!?」
かごめは一人名乗り出る。
「じゃあ貴方、こちらへどうぞ・・・!!」
かごめ一人・・・処置室に入っていった・・・。
「・・・またかごめちゃん一人担ぎ出されたね・・・。私、
親友なのに何もできない・・・」
「珊瑚・・・」
自分の無量さを責める珊瑚・・・。
「・・・かごめは・・・?」
桔梗の病室から犬夜叉が手術の様子を見に来た。
「手術で使うO型の血が足りないんだって・・・。輸血しにいってる」
「かごめが・・・」
処置室。
細い管からかごめの血液が
輸血用の袋に納められていく。
「あの・・・。私健康体ですから遠慮なくとってください」
「遠慮なくって・・・。一定量しかとれないんですよ」
「看護婦さん!!絶対、樹さん助けてあげてください!お願いします!」
白衣をつかんで看護婦に懇願するかごめ・・・
これ以上。誰かが傷つくのも嫌。
誰かが助かるならば。
なんとしてでも助けたい。
そんな想いが
血液と共に手術中の樹に流れていく。
命の温もりと共に・・・。
手術開始から2時間半。
ランプが消えて中から医者が出てきた。
「・・・。山は越えました。出血が多かくて危なかったですが輸血してくださった
おかげで手術は無事成功しました。後は患者さんの体力だけです。明日の朝
には麻酔から覚めると思いますので・・・。詳しい話は後日・・・。では・・・」
医者の言葉に犬夜叉達人は安堵する。
「あ・・・っ。そうだかごめちゃんは!」
犬夜叉達はは処置室にへ。
簡易のベットにかごめは眠っていた。
「あの・・・」
「大丈夫ですよ。ちょっとお疲れだった様なので
この方に栄養剤点滴しておきました。しばらく休ませてあげてください。
点滴が終わったらまた呼んでくださいね」
パタン。
看護婦は医療器具を持って処置室を出た。
「しばらく休ませてあげてって・・・。どうする?犬夜叉」
「・・・」
「・・・。犬夜叉。お前は桔梗様のそばにいろ」
「えっ。でも・・・」
「かごめ様は私と珊瑚で連れて帰るから・・・。
とにかくもう遅い。ごたごたしたことは明日だ。
犬夜叉、お前も少し、休めよ」
「・・・。休めるかよ・・・」
「ま、あんたの体力なら大丈夫か・・・。万が一、坂上さんの様態に何かあったらすぐ
アパートの方に電話して」
「・・・。わかった・・・」
犬夜叉は後ろ髪ひかれる思いで処置室を出た・・・。
処置室のドアを見つめる・・・。
(かごめ・・・)
樹を冷凍庫から助けたときも
輸血した今日も。
自分は何もできなかった。
何も・・・。
(・・・くそッ・・・!)
拳を握りしめる・・・。
全て・・・。
篠原の思惑通りに事が運んでいる気がする・・・。
(・・・。篠原・・・。絶対てめぇだけは許さねぇぞ・・・)
※
入院病棟の談話室のテレビ。
朝のワイドショーは警察ある人物の逮捕状を取ったと
いう報道でにぎわっている。
「篠原氏、ついに逮捕に行方をくらます!更には
昨日の坂上樹が刺された事件に関与!???」
早くも樹の事件をかぎつけ、篠原と樹との関わりを
レポートしたVTRが放送されていた。
当然、病院にもマスコミが・・・と思われたが樹の事務所サイドが
運ばれた病院を公表しておらず、大きなトラブルはなかった。
集中治療室。
ガラスの向こうで治療を受ける樹を桔梗と犬夜叉が
心配そうに見つめていた。
「・・・それで。医者はなんと言っているんだ・・・」
「手術は成功した・・・。快復は樹の体力次第だって・・・」
「そうか・・・」
「桔梗。お前もまだ無理すんな・・・」
「・・・。大丈夫だ。それよりお前の方こそ頭の怪我・・・」
犬夜叉の頭の包帯にそっと触れる桔梗。
「・・・。こんなもんなめときゃ治る」
「・・・。皆私のせいだな・・・。お前のこのけがも・・・全ての元凶は・・・」
「そんな・・・。お前のせいじゃねぇ。気にするな」
「・・・犬夜叉・・・」
見つめ合う二人・・・。
「ちょっと・・・!!あんたら・・・!」
珊瑚とかごめ・・・。
「ったくあんたらって・・・。所かまわず怪しい雰囲気作ってもらっちゃ
困るんだけど・・・!」
「なっ。べ、別に怪しいことなんて・・・」
「怪しいじゃないの!自覚してないだけだろ!今が
どういう状況か・・・」
「珊瑚ちゃん、もういいから」
かごめが珊瑚のセーターを引っ張って止めた。
「かごめちゃん」
「今は樹さんが目を覚ますのをまとう・・・」
そう。
今はごたごたしている場合じゃない。
「月島さん、そろそろ検査の時間なんですが・・・」
看護婦が桔梗に言った。
念のため、脳波などを調べる。
「桔梗。俺達にかまわず行ったらいい・・・。検査が終わるまで
俺はいるから」
「・・・。わかった・・・」
樹の事を気にかけつつ、桔梗は看護婦と共に
検査にむかった。
「・・・」
珊瑚は苛々が治まらない。
どうしてこんな状況で
怪しい空気を醸し出せるのか?
(しかも・・・。かごめちゃんがいる前で・・・)
「それで犬夜叉。樹さんの具合はどう・・・?」
「・・・さぁ・・・まだ医者からは何も聞いてねぇ・・・」
「そう・・・」
ガラスの向こうの樹を本当に心配そうに見つめるかごめ・・・。
(かごめちゃん・・・。もしかして・・・)
ガチャ。
集中治療室から看護婦が出てきた。
「坂上さんの、気がつかれましたよ。どうぞ。でも
まだ麻酔が完全に切れてないので面会は10分ほどでお願いします」
かごめと珊瑚が中に入る。
犬夜叉も中に入ろうとしたが・・・。
「申し訳ないですが面会はお二人までということで・・・。すみません」
「あ・・・っ」
パタン・・・。
犬夜叉、一人廊下に残される・・・。
(何だよ。けっ・・・)
「樹さん・・・樹さん・・・?」
酸素マスクが曇る。
かごめの声に酸素マスクをかけた樹が振り向いた。
「あ、しゃべらなくていいから・・・。よかった・・・。
樹さんが助かって本当に・・・」
「・・・」
樹は白いシーツの下から手を震わせて・・・。
かごめの手を求める・・・。
「樹さん・・・」
かごめはその手を両手で包んだ。
「・・・。早くよくなってくださいね・・・。
私達ででできることあればなんでもしますから・・・」
かごめの優しい笑顔に樹は深く安堵した顔を見せた・・・。
”ありが・・・とう・・・”
酸素マスクが息で白くくもる・・・。
マスク越しに樹の口はそうかごめに伝えた・・・。
(かごめちゃん・・・)
微妙に樹に対するかごめのまなざしの変化を
珊瑚はかすかに感じた・・・。
10分経ってICUからかごめと珊瑚が出てきた。
「どうだった。樹の奴・・・」
「意識は戻ったみたい・・・。でもまだしゃべれないみたいで・・・。
ねぇ、珊瑚ちゃんこの病院って完全看護なのかな」
「うん。そうみたいだけど・・・」
「そっか・・・。でも付き添いいたほうがいいよね・・・。
私、看護婦さんに頼んでみようかな」
「かごめちゃん・・・」
こんな非常事態なのに・・・。
心の隅で樹に優しく接するかごめにかすかに苛立ち
を感じている犬夜叉。
(・・・。情けねぇ・・・俺って奴は・・・)
「あとそれと・・・。桔梗・・・ううん・・・月島さんにも
お大事にって・・・」
「・・・」
かごめは犬夜叉から視線を逸らして言った。
「あたしと珊瑚ちゃん一旦もどるね・・・じゃあね。犬夜叉」
「あ、ああ・・・」
何だか・・・。
かごめの声が遠くに聞こえる・・・。
気のせいか・・・?
(かごめ・・・)
去っていくかごめの背中が・・・。
ずっとずっと遠くへ行ってしまうように
感じた犬夜叉だった・・・。
その日から。
犬夜叉とかごめは同じ病院に通いはじめる。
だが行く先は別々。
かごめは樹が治療を受けているICU(集中治療室)へ・・・。
犬夜叉は桔梗の病室へ。
病室の前には警官が一人、念のため
しばらくの間、警備することになり
訪問客などチェックしていた。
犬夜叉も入る前に身体検査。
(ちっ・・・。いつになってもサツってのはなんかむかつくぜ)
中に入ると、検査の結果を桔梗から聞く犬夜叉。
「そうか。検査は異常なかったのか。よかったな・・・」
「ああ・・・」
売店で買ってきたリンゴをきり皿に入れる。
「・・・ちょっと不格好になっちまったが
まぁ、味はかわらねぇ。体力つけねぇとな」
「すまないな・・・。色々と・・・」
「気にすんなって。でもコンサートは
とんでもないことになっちまったがお前のバイオリンの音は確かに
聞こえたぜ。それでいいじゃねぇか」
犬夜叉の労りの言葉に桔梗は穏やかな笑顔を浮かべた。
「そんであとどんくらいで退院できそうなんだ?」
「2〜3日もすれば・・・」
「そうか!よかったな!」
「・・・でも樹が・・・」
「樹はもう大丈夫だ。治るのにちぃと時間がかかるかもしれ
ないみてぇだけどアイツは復活する。そう信じようぜ!」
”信じようぜ・・・”
そんな言葉が犬夜叉から出るなんて・・・。
「・・・お前。本当に変わったな・・・」
「あ?そうか?よく分からねぇけど・・・」
「変わった・・・」
人を信じず、かたくなだった犬夜叉。
その犬夜叉が自ら誰かを信じようなどと口にするなんて・・・。
そうさせたのは誰か・・・。
「・・・犬夜叉。あの女・・・かごめは来ているのか?」
「ああ・・・。樹の見舞いな・・・」
「・・・そうか・・・」
桔梗も樹とかごめの事は感づいているが
特に口にはしない。
自分が今一番気になることは・・・。
犬夜叉だから・・・。
一方、
かごめは樹のために手作りの枕カバーや好きなCDなんかを差し入れする。
「・・・。ほら、樹さんが聞きたいって言っていたジャズのCD
レンタルしてダビングしてきたんです。イヤホンで聴きますか?」
樹は頷いた。
かごめは小さなイヤホンを両耳にかけさせた。
酸素吸入マスクを曇らせ少し辛そうな樹。
好きな欧米のジャズのメロディ・・・。
「そのシンガー、私も聴かせてもらいました。とっても
優しいギターの音色がいいですね・・・」
かごめの笑顔に
樹の辛そうな表情が一気に和らぐ・・・。
「え・・・」
ベットの裾からそっと・・・
点滴の針が刺された腕を震わせて出す樹・・・。
”ありがとう”
樹はそう言っているよう・・・。
ただ
黙って微笑んで両手で握り返した・・・。
そのうち樹は眠って・・・。
(おやすみなさい・・・)
静かに病室を出たかごめ・・・。
「あ・・・」
自動販売機の前の長椅子で缶コーヒーを飲んでいた犬夜叉とばったり・・・。
「・・・」
「・・・」
何だかわからない重たいもやもやした
空気が漂う・・・。
だけどこのまま通り過ぎていくことはできないし・・・。
「一緒に・・・帰るか?」
「・・・。うん・・・」
二人は気まずいまま
病院を出た。
もうすぐクリスマス。
街路樹には無数の電灯が取り付けられている。
「・・・。い・・・樹の具合はどうたった・・・?」
「うん・・・。まだ喋れないみたいだけどそのうち
酸素マスクも取れるだろうって付き添いの事務所の人が言ってた・・・」
「そうか・・・」
「・・・そっちは?」
「ああ・・・もうすぐ退院だって・・・」
「そう・・・」
話が続かない。
お互いに必死に言葉を話す。
久しぶりに二人きりであるいているのに・・・。
「・・・も、もうすぐクリスマスだね・・・」
「そ、そうだな・・・」
アンティークショップのウィンドウ。
ろうそくや可愛いリースで
ディスプレイされ、にぎやいでいて・・・。
クリスマス、かごめは犬夜叉と一緒に映画を見て、食事に誘うと
ずっと思っていた。
だけど・・・。
(・・・。クリスマスどころじゃない。みんな・・・。あいつのせいで・・・)
桔梗を狙わず、樹を狙った。
それは、犬夜叉は桔梗に樹にはかごめがそばに・・・。
そんな状態まで篠原は予想していたに違いない。
この気まずさも・・・
篠原に対する怒りがこみ上げてくるかごめ。
それは犬夜叉も同じだった。
「・・・。許せねぇ・・・」
「え・・・?」
「桔梗の舞台を台無しにして樹の野郎をあんなめに・・・。オレとかごめを
揺さぶるためだけに・・・」
「犬夜叉・・・」
犬夜叉は立ち止まりぐっとこぶしを握り締める。
「でも・・・もっと許せねぇのは篠原を制止できなかったオレだ・・・。
何も・・・できなかった・・・」
「そんな・・・。犬夜叉は必死だったじゃない・・・。誰かが責められることじゃないわ
。攻められるのなら、人の心を踏みにじってばかりいる篠原よ・・・」
「かごめ・・・」
「ね!くよくよしてたらまたアイツに付込まれるわ!
強気でいかなくちゃ!ね!」
すぐに。
自分の殻を作って入ってしまう心に。
かごめは殻を破って弱気な自分を引っ張り出してくれる。
自分を責めても仕方ない。
せめてもなにも見出せない。
”今、一番守らなければならないのは・・・”
「暫くだってアイツは私たちに近づけない筈よ。警察に追われてるんですもの。
今はとにかく・・・桔梗と樹さんが回復するようにそれぞれできることを
しよう・・・。変な意地や嫉妬は捨てて・・・。ね」
「かごめ・・・」
「ほおら!そんな深刻な顔しないの!そういう顔が篠原のねらい目なんだから。
”あんたなんて怖くない”ってぐらいにどっしり行こう!」
一番つらい時に
一番元気で笑顔を振りまく。
絶対に自分や桔梗にはできないことだと
犬夜叉は思った・・・、
複雑な気持ちのまま、アパートについてしまった。
お互いに当たり障りのない話しかせず部屋に
戻る・・・。
「じゃ・・・またあとでね」
「お、おう・・・」
逆にかごめに励まされてしまった。
何か、かごめに言うことはないかと犬夜叉は言葉を捜すが出てこない。
「・・・・・犬夜叉・・・」
「え・・・?」
かごめは犬夜叉の革ジャンを掴んで
とてもなにか言いたげな顔を・・・。
「・・・」
(な、なんだ・・・?)
かごめの”溜め”に緊張する犬夜叉・・・。
「・・・。ごめん・・・。なんでもない・・・」
パタン・・・。
何かを言いかけて部屋に入ってしまった・・・。
(・・・。かごめ・・・一体何、言いたかったんだよ・・・)
かごめの部屋のドアを
じっと見つめるしかない犬夜叉・・・。
一方部屋にはいったかごめは・・・。
ベットにすぐにうな垂れる。
”今はそれぞれできることをしよう・・・”
それがかごめの精一杯の言葉だった。
嫉妬して、また思い直して、また嫉妬して・・・。
部屋の
それから三日後・・・。
コンコン。
病室にゆりの香りがただよう。
桔梗の病室にかごめが白いゆりの花を持って
見舞いにやってきた・・・