第67話 すきま風
弥勒が転勤・・・。 突然の珊瑚の告白にかごめも驚く。 落ちたパンフレットを拾うかごめ。 「・・・転勤って・・・。本当なの?珊瑚ちゃん・・・」 「・・・うん・・・。まだ正式じゃないけど・・・。決めたんだって・・・」 ぐしゃっとパンフレット握り締める珊瑚・・・。 「・・・。でもさ・・・。もし、本決まりだとしても、珊瑚ちゃん、 ついていくんでしょ・・・?」 「・・・あたしには実家の道場がある・・・。父上を見捨てることなんて・・・」 「・・・。そうね・・・。でも。そこを弥勒さまとじっくり 相談しなくちゃ・・・。きっといい選択ができるはずよ」 「選択以前の話だよ!!」 ドン! 珊瑚の拳でコタツの上のタイヤキが跳ねた。 「弥勒さまは私には何の相談もなく決めてしまった・・・。こんな大切な話を 一度もせずに・・・。あたしはそれが納得いかないんだ・・・」 「珊瑚ちゃん・・・。でもそれは珊瑚ちゃんに心配かけたくなかったから・・・」 「一緒に心配するのが、恋人どうしでしょ!?”心配かけたくない”なんて 他人行儀なこと・・・!!」 珊瑚は前髪をくしゃっと掴んだ。 「ごめん・・・。かごめちゃんにやつ当たりするなんて・・・。ごめん・・・」 「気にしないで。ともかく珊瑚ちゃん・・・。じっくり相談しなくちゃ・・・。 まだ時間はあるのだから・・・」 「かごめちゃん・・・」 「たいやき、冷めないうちに食べよ!ね?」 それから2時間。 かごめは珊瑚とたくさん話した・・・。 夜になって。 「真相を確かめないと・・・!犬夜叉、あんたも来るのよ!」 「痛てぇ、何しやがる!」 風呂あがりの犬夜叉の耳を掴んでかごめはいつものごとく、 楓の部屋で弥勒に尋問。 こたつに3にん。 弥勒の正面にかごめと犬夜叉が座る。 「なんでオレが担ぎ出されなきゃなんねぇんだ・・・」 とブツブツ言っておりますがかごめは無視して弥勒に尋問。 「話は聞いたわ。弥勒さま、どういうことか 説明してくれる?」 「・・・珊瑚の言ったとおりです。4月からの転勤が決まって珊瑚に伝えました」 「どうして決める前に珊瑚ちゃんに相談しなかったの・・・?婚約者なのに・・・」 「・・・」 弥勒はズズっと茶をすすった。 「弥勒さま!答えてよ!」 「・・・。珊瑚には関わらせたくない」 「!?どういう意味?」 「・・・。私の転勤劇には・・・”アイツ”が絡んでいるかもしれないからです」 「!!」 ”アイツ” 人を苦しめることを生きがいのような アイツ・・・。 久しぶりにその嫌な存在を感じて・・・。 「篠原か!?」 犬夜叉は思わず身を乗り出す。 「・・・。詳しく教えて・・・。弥勒さま・・・」 「・・・はい・・・」 話は樹の事件直後の頃のことだ。 弥勒が担当していた融資した会社が突然、何件も不渡りを出した。 いずれの会社もちゃんと借金返済はきっちりしており、経営状態の安定していた 会社ばかりだった。 当然、弥勒は妙に思い、調査をした。 すると不思議なことに、倒産した会社のすべてが”ある人物”と関わりがある ことがわかったのだ。 「・・・そいつが篠原か・・・」 「ええ・・・」 話は続く。 倒産したすべての会社は倒産した直後にすぐ、 ほかの金融機関から融資をされ、再建されていたのだ。 ・・・弥勒が融資していた金額よりずっといい条件で・・・。 更に。 会社の経営者達は口をそろえてこんな噂をたてていた。 ”戦国銀行の仏野は銀行の金を勝手に横領し、個人的な金貸しをしている” と・・・。 「そんな!弥勒さまは浮気あっても、横領なんて卑怯なことする人じゃないわ!」 「ああ。確かにな!」 かごめと犬夜叉は口をそろえていった。 「・・・あ、あのお二人とも、フォローになってないですよ・・・(汗)」 「そんな理由で弥勒さまが転勤だなんて・・・。銀行もひどいじゃない! 何の証拠があって!」 「・・・私の上司の上司がアイツに弱みを握られているらしいのです・・・。私を 転勤させないと銀行の上層部に告げると・・・」 「そんな・・・!」 かごめは両手をぎゅっと握った。 「弥勒さま、そんな奴らに負けないでよ!」 「・・・。でも・・・。私の上司は恩師で・・・。病気のお子さんを抱えて いて・・・」 バン! 犬夜叉と弥勒の方がビクッとあがった。 「弥勒さまらしくない!!うじうじしてるなんて! 犬夜叉と一緒じゃないの!」 「なっ。どういう意味でい。かごめ!」 むっとする犬夜叉を無視してかごめは弥勒に詰め寄る。 「どうして一緒に珊瑚ちゃんと悩まないの?珊瑚ちゃんと一緒に 解決しようとしないの・・・?」 「・・・」 「珊瑚ちゃんが大切なら・・・もっとちゃんと捕まえてあげていて・・・! これから・・・一緒に生きていく二人なら・・・!」 かごめは目に涙をためて言った。 「かごめ様・・・」 「あ・・・。ごめん。何だか興奮して・・・」 涙をぬぐうかごめ。 「弥勒さま、一人じゃないんだから・・・。ね?珊瑚ちゃんと仲直り してあげて・・・」 「・・・。はい・・・。かごめ様にそこまで言われたら かないませんからな」 「うん。約束よ。じゃああたし戻るね・・・」 弥勒の言葉を聴いて安心したかごめ。 再び珊瑚の部屋に向かった・・・。 「篠原の野郎・・・。どこに雲隠れしてやがるんだ・・・! あの野郎・・・」 「犬夜叉」 「なんでい。お前と珊瑚の事は知らねぇぞ」 「そうじゃない。さっきのかごめ様の言葉・・・。気がつかないのか?」 「何が?」 ハァー・・・と呆れため息の弥勒・・・。 「犬夜叉・・・。お前このままだと本当にかごめ様はお前から離れていくぞ・・・」 「なんでてめえがんなこと分かるんだよ」 「・・・。かごめ様を見ている方が辛い。 あとからあとから桔梗やら篠原やら・・・色んなことが降りかかって・・・。 かごめ様は心根がお強い・・・。おつよいからこそ・・・お前が見えない所で 泣いているんだ」 「・・・見たようなこと言うな」 「・・・。失くしてから気がつくいても遅いんだからな・・・。大切なものは・・・」 パタン・・・。 ”失くしてから気づいても・・・遅い” 「偉そうなこといいやがって・・・」 腹立つ。 一番腹が立つのは・・・。 自分。 ”失くしてから気がつていも遅いんだからな・・・” (かごめ・・・) 弥勒の言葉が・・・後々犬夜叉を深く実感させることになる・・・。
2月も半ばになり・・・。 篠原の影はまったく感じられないほど 平穏な日々だ。 「え?じゃあ樹さん、退院したんだ」 「うん。まだリハビリとかあるらしいけど桜が咲く頃には 完治するだろうって」 「よかったね」 「うん」 学食できつねうどんと、山菜そばを食べるかごめと珊瑚。 ほかほかといい湯気がたっている。 「アイツ(篠原)も大学辞めたっていうし・・・。本当、今頃 どこにいるのかな」 「さぁ・・・」 「この寒い中、またなにか機会を伺ってそうだね。でももしまた なんかしてきたらあたしが北海の海に沈めてやるから!」 ドン! 丼を勢いよく置く珊瑚。 「あ、ありがと・・・(汗)でもそれより珊瑚ちゃんの方はどうなの? 弥勒さまとは仲直りした?」 珊瑚の箸が止まった。 「・・・。もう決めてるみたい・・・。北海道行き・・・」 「え・・・」 「北海道の不動産ちらしとか見てた・・・。もう覚悟してるんだよ」 うつむく珊瑚・・・。 「珊瑚ちゃんはどうするつもり・・・。一緒について行くんでしょ?」 「・・・。分からない・・・。分からないよ・・・」 「あ、珊瑚ちゃんっ・・・」 まだ食べかけの山菜そばを残して・・・ 珊瑚は一人、食堂を出て行った。 「珊瑚ちゃん・・・」 篠原のことも気になるが。 親友の恋の一大事にかごめは・・・。 (なんとかしなくっちゃ!) と、決意していた。 (犬夜叉にも協力を仰がないとね) かごめは携帯を取り出し犬夜叉にかけた。 「あ、もしもし。あたし」 「なんだよ。仕事中にかけてくんじゃねぇよ」 カップラーメンをすすりながらの仕事中なのか、犬夜叉よ。 「あのさ。あんた、今日早く帰ってこられない?」 「なんでだよ」 「珊瑚ちゃんと弥勒さまたちをなんとかしたいのよ。すき焼きでも しましょう」 「やだね。めんどくせーな」 カッチン。 非、協力的な犬夜叉にかごめの怒りのスイッチ音。 「あんたねぇ、親友の恋愛の危機だっていうのに何平和なかおして ラーメンすすんてんのよ!!いい?今晩が駄目なら 今度の休み、必ずあけておきなさいよ!!」 ガッチャン! 乱暴にきられたかごめに犬夜叉。 「・・・なんでラーメン食ってるのわかったんだ・・・(汗)」 ため息一つ。 最近・・・。 かごめとはなんとなくぎくしゃくしている。 それもこれも自分に原因があるとはわかっているものの・・・。 ”失くしてから気づいても遅いんだからな” 弥勒の言葉が浮かぶ。 「・・・けっ・・・。てめぇの色恋沙汰解決してから人に 言えつーの・・・」 寒空・・・。 重たい雲を見上げる。 それは犬夜叉の心のようだった・・・。 その頃。 「すまんのう突然電話して」 「いーえ。楓荘さんのお願いと合っちゃね、断れませんから」 楓荘の下水の調子が悪いので下水道業者がアパートの裏の マンホールを開け、修理していた。 「なにせ古い下水管なもんで、細いんじゃ」 「これを機会に新しいものに取り替えたほうがいいですねぇ。 ちょっとおおがかりになりますが・・・」 「そうじゃのう。ま、そのときはお宅に任せるとしようかの」 「毎度ありがとうございます!」 下水道業者は営業スマイル。 張り切って、仕事に励む。 「おい、新人、車からスコープ持ってきてくれ」 「・・・はい」 作業着を着て、深く帽子をかぶった男。 楓にむかってたずねた。 「あの・・・お手洗いを・・・」 「ああ。それならわしの部屋でどうぞ。一階の奥ですじゃ」 男は軽く会釈すると車に向かった。 「・・・。新人さんですかな?」 「ええ。つい最近雇ったんですが、なんとも愛想のない 男で・・・。ま、そういう男のほうが使い勝手がありますけどね」 「・・・」 楓は少し聞き覚えのある声だと一瞬思ったが・・・。 (・・・まさかな・・・) 楓の視線を少し気にしつつ、男は上司に言われた道具をもってきた。 10分ほどかかっただろうか。 「おせーじゃねぇか。トイレ長すぎるぞ」 「すいません・・・」 男は再び黙って作業を続けた。 楓は男の顔を覗き込むがまったくの別人。 ”アイツ”とは・・。 (・・・気のせいじゃったか・・・) 楓は妙な胸騒ぎを感じたが打ち消した・・・。 そして週末。 かごめは弥勒と珊瑚にも声をかけてみた。 だがどちらも予定はまだわからないと曖昧な返事だった。 一人、すき焼きの準備はしたが・・・。 「無駄になっちゃうかな・・・」 寂しそうに呟く。 「なんだかこのままじゃみんなばらばらになっちゃう・・・」 それもこれもみんなアイツのせい。 アイツの・・・。 バタン! 犬夜叉の部屋のドアが激しく開いた。 「どうしたの!?」 かごめが飛び出すと、ヘルメットを持った犬夜叉がいた。 「・・・どこかへ・・・いくの?」 「あ・・・ああ・・・」 犬夜叉の表情で”どこ”へ行くのかすぐかごめは理解した。 チクチク・・・ 胸の奥が痛む。 「・・・そっか。あーあ・・・どうするのよ。お肉、あんたの分も 残っちゃうじゃない」 「す、すまねぇ・・・」 「別に誤ることないけどさ・・・。今日。珊瑚ちゃんたちのこと 相談したかったのに」 「・・・か、帰ってから聞いてやるから・・・」 「”聞いてやる”か・・・。いっつもそんな言い方だよね」 少し棘のあるかごめの物言いに犬夜叉は反応。 「あたしと犬夜叉は”対等”じゃないものね」 「どういう意味だよ!いつ俺がそんな風に見たってんだ!?」 「いつもよ!!いっつもそんな気がしてた。あんたは意識してないだろうけど 守って”やる”とか聞いて”やる”とか・・・」 「そんなもん、ただの言葉の”アヤ”だろ!!気にしてんじゃねぇよ」 「気にするわよ!!じゃあんた、桔梗に私に言うみたいに”バーカ”とか っていったことある!?桔梗に対してはいつもあんたは対等 な態度じゃない。紳士じゃない、優しいじゃない、あたしには見せない顔するじゃない・・・!!! 別人みたいに大人の男の人じゃない・・・っ」 「・・・っ」 「あたしが我慢してるからってもう甘えないでよ!あたしだって感情があるのよ! 何でも受け入れられる完璧な人間じゃないのよッ・・・!うっ・・・」 かごめは感情と共に出る涙を隠すために両手で顔を覆った。 日頃・・・感じていた小さなことが 積もって火を吐いた・・・。 こんなこと言いたくないのに・・・。 かごめの心は自己嫌悪と抑えられないたまったものでせめぎ合って・・・。 「・・・。お前・・・そんなこと思ってたのかよ・・・」 「思いたくなくても感じるのよ、分かるのよ、あんたの一字一句、視線から言葉から 空気から全部・・・。その度に・・・犬夜叉が遠くて・・・。ずっとずっと遠くにいる気がして・・・」 「・・・。いるじゃねぇか。俺はここに・・・」 「でも心は・・・。すぐに飛んでいってしまう。時間も場所もみんな越えて・・・。今も もう飛んでいってしまってるでしょ・・・?桔梗の所へ・・・」 「・・・」 返す言葉がない。 言葉を返す権利もない。 勇気もない・・・。 押し黙ってしまった・・・。 「・・・。ごめん・・・。こんなこと言っちゃいけなかったのに・・・。 犬夜叉が悪いわけじゃないのに・・・。ごめん・・・」 「・・・」 「ちょっと疲れてただけだから・・・。気にしないで。もういいから」 「あ・・・かご・・・」 パタン・・・。 ”気にしないで。もういいから” やけに・・・ 遠く、他人にいうように聞こえた・・・。 「・・・。気にしないでって・・・。無理なこと言うなよ・・・」 閉ざされたドアの向こう。 無理にでもこじあけて、遠ざかるかごめを引き戻したい。 だけど・・・。 「・・・!」 ジーンズのポケットの携帯。 バイブが振る。 自分を呼ぶもう一人の女がいる。 それを無視することなど・・・。 (・・・できるわけねぇ) 卑怯だと思いつつ、何度も自分が二人いたら・・・と思った。 本当に卑怯だ。 (かごめ・・・。ちゃんと・・・話をしよう・・・ちゃんと・・・) 締め切られたカーテンを見上げ、犬夜叉はエンジンをふかして アパートを去った・・・。 カーテンの隙間。 遠ざかっていくバイクを見詰めるかごめ・・・。 何度何度 一体何度目だろう。 こんな風景。 こんな気持ち・・・。 嫉妬と自己嫌悪が入り混じって体中を支配する・・・。 苦しくて。 辛くて。 いくら泣いてもいくら 思い直しても繰り返し、繰り返しその波は襲ってくる・・・。 かごめはベットに横になる。 暫く枕に顔をうずめて・・・。 (もう慣れっこだもん・・・こういうのは・・・。だからもうなかない) だけど・・・ぎゅっと握った枕は・・・。 やっぱり涙の跡が残った・・・。 こうして。アパートにはかごめと楓の二人きり。 そのアパートを見上げるのは・・・。 作業服を着た男だ。 「こちら。順調。ジュリエットは彼氏とケンカ別れした模様ですよ。クック・・・ リーダー」 作業着の男の・・・。 蛇の指輪をし、携帯の相手の名を口にした 「はい。了解。手はずどおりに進めます。篠原さん」 と・・・。