(一緒にって・・・つまりそれは二人きりってことか!?)
犬夜叉君の妄想。
一つのシーンが始まります。
一つの布団に枕が二つな光景が・・・。
「だ、駄目だ!!お、俺たちはまだそんな・・・!」
「?なに一人りきんでるの?」
(はっ・・・)
妄想終了。犬夜叉、必死に正気を保つ。
「楓おばあちゃん喜んでくれたの」
「楓ばああ?なんでばああが行くんだよ」
「だって。旅行って私と犬夜叉と楓おばあちゃんが行くのよ」
(・・・)
ガシャーン・・・とさっき妄想した布団に二つ枕の構図が犬夜叉の中で
崩れた。
「楓おばあちゃんに一番私達、お世話になったのよ。温泉旅行、プレゼント
してあげたいんだ。って何おこってんのよ。あんた」
「・・・な、何でもねぇよ(怒)」
やっぱり怒ってます。犬夜叉君。
「変なの。でね、ちょっと急なんだけど3月の最後の週に予約いれちゃったの。
ほら、場所はこの温泉」
かごめは早速パンフレットを犬夜叉に見せた。
「犬夜叉ねぇお休み、とってくれるでしょ?」
「さぁな。月末は何かと仕事はいるから無理だな」
「月末じゃないと駄目なの!それとも・・・。協力してくれないの?あたし、寂しい・・・」
(え・・・)
かごめは顔を覆ってとてつもなく悲しい顔を・・・。
「な、なんだよ、お前・・・。そんくらいのことでなんつー顔してんだよ・・・(焦)
わ、わかったよ。協力するから・・・」
「ほんとね?ふふ。やった★」
かごめ、舌をぺろっと出してウィンク。
「あってめ嘘泣きしやがったな!?」
「ふふー。ひっかかる方が悪いのよー!」
かごめの涙にはやっぱりめっぽう弱い犬夜叉。
おなごの方が数倍上手なのです。
「ね、絶対に”月末”にお休みとってね」
「わかったよ。でもなんで月末なんだ?」
「・・・。だって春が桜が散る頃じゃあ遅いのよ」
「あ?どういう意味だよ」
「どうでもいいの!とにかく頼んだわよ!」
(・・・なんか変だな・・・)
かごめの態度にやっぱりなにか不自然なものを感じる犬夜叉。
(なにかを・・・急いでいるみたいな・・・)
「なーにやってんの。犬夜叉、先いくよー!」
「お、おう・・・」
元気よく歩道橋を元気にかけのぼっていく。
自分を置いて。
「早く来ないと行っちゃうからー!」
犬夜叉は何故かかごめが遠くに見えた。
すぐ見えるところにいるのに
「てめぇ、待ちやがれー!」
すぐ見えるところに・・・
その日。3月にしては少し冷たい、寂しい風が吹いた・・・。
※
”かごめと二人きりの旅行”の夢が散ったけれど
天は犬夜叉に味方した。
「え?楓ばばあが?」
犬夜叉、工務店の社員寮。
万年床に寝転がってかごめと携帯で話す犬夜叉。
老人会の慰安旅行があるからといって
断られた。
”かごめたちの気持ちだけで充分じゃ。若いもん、二人で楽しんできてくれ”
と。
「でね。どうしようかと思って・・・」
「ど、どうしようって・・・(期待)」
「・・・。しょうがないな。犬夜叉、お休みとっちゃったんだよね・・・。
じゃあ、二人でいくしかないか。お金、前払いしちゃってるし・・・」
「・・・けッ・・・。し、仕方ねぇな(喜)
心の中で万歳三唱している犬夜叉君。
「じゃあ、今月の最後の週末は空けておいてね。あ、お湯わいてる。じゃあね!」
P!
”週末は明けておいてね。二人で楽しもうね・・・♪”
かごめの台詞を並べ替えて耳の奥でリフレインさせる犬夜叉。
「・・・」
犬夜叉、携帯を両手で可愛くもってかごめの言葉にまるで乙女のように
頬を染めております。
かごめと二人きりの旅行・・・。
あの妄想がよみがえる。
一つの布団に二つの枕が並んで・・・。
(・・・(照))
”楽しもうね・・・”
(・・・。た、楽しむって”何”を・・・)
犬夜叉、かなり勘違いして一人、しあわーせな気分です。
(となると男としては色々と準備していかねぇと・・・)
早速、犬夜叉、押入れをあけ、がさごそがさごそ。
旅行バックを取り出し荷造り開始・・・。
(着替えだろ、それからタオルに・・・)
PPPP・・・!
「!!」
犬夜叉の妄想、携帯音にビクッと驚きて終了。
(ったくなんだよ。こんな(幸せな妄想の)ときに・・・)
「はいもしもし」
ちょっとご機嫌斜めで出る。
「・・・私だ・・・」
(!!)
その声に一気にコメディタッチの”ノリ”は吹き飛んでしまう。
「・・・き・・・桔梗・・・」
「悪い・・・。忙しいか・・・?」
「い・・・いや・・・」
犬夜叉の声のトーンが急に低く、大人っぽくなる。
「どうした?なんかあったのか・・・?」
「いや・・・。退院と聞いて・・・」
「ああ。もうすっかり怪我のほうが治ったさ」
「そうか・・・。よかった・・・」
ほっと・・・静かについた息づかい・・・。
自分を労わる桔梗の気持ちが伝わってくる・・・。
何かが揺らぐ。
心の奥の弦が・・・。
「お前に・・・。相談したいことがある・・・」
「相談?何だ?」
「・・・」
桔梗の相談・・・それは・・・。
”アメリカツアーに参加するかどうか”
「・・・。樹は行ってもっと腕を磨いてこいと・・・」
「でも・・・チャンスなんだろ?お前のバイオリン、たくさんの人に
聞いて欲しい」
「そうか・・・。でも・・・行ってしまえば半年は日本には
帰ってこられるか・・・」
半年。
半年、自分は犬夜叉の側を離れる。
不安だった。
これ以上・・・お互いの時間がずれるのが・・・。
「半年がなんだよ。なんかありゃ、俺はすぐ飛行機だろうが
ロケットにでも乗ってすっとんでいく・・・。だから、行ってこいよ・・・な?」
犬夜叉の優しい声が、桔梗に深い安堵感を与える。
「犬夜叉・・・。そうだな。半年などずっと眠っていた二年間に比べたら
長くもない・・・。私とお前は・・・繋がっている。きっと・・・」
「桔梗・・・」
昔を思い出す。
互いに、どこか、心を癒せる場所を探していた。
あの頃。
自分の未来のことより、今、抱える傷を癒したい。
そんな思いが強かった。相手に求めていた。
でも今は・・・。
「それでいつなんだ?日本を発つのは・・・。俺、見送りにいくから」
「三月三十日・・・。本当に来てくれるか?」
「ああ。必ず行く・・・」
「ありがとう・・・」
「じゃあな・・・」
携帯を切り、犬夜叉はまたごろんと寝転がった。
ついさっきまではかごめとの旅行に心をうからせていたのに
今は・・・桔梗の門出を祝うために見送ると約束して・・・。
(・・・俺は・・・。どうしようもねぇな・・・)
くしゃっと髪を掻き毟る。
そしてちらりと見たカレンダー。
犬夜叉は重大なことに気がつく・・・。
(さ、三月三十一日って・・・)
そう。かごめとの旅行の日だ・・・。
「・・・。なんで・・・こうなるんだ・・・どうして・・・」
誰かがそう仕向けたのなら
そいつに言ってやりたい。
”俺を試して何が楽しいのか”
と・・・。
それともこれは宙ぶらりんな自分への罰なのか・・・?
(だとしたら・・・キツイぜ・・・これは・・・)
犬夜叉はその夜。
缶ビールを10本近くも空けたのだった・・・。
その頃。かごめは・・・。
楓の知り合いのアパートに、楓と二人で身を寄せている。
「楓おばあちゃん、お茶いれたよ」
おぼんにポットと急須をのせ、こたつに入るかごめ。
「すまんな」
「ううん。このくらい。おばあちゃんのおいしいごはん、毎日
食べさせてもらってるんだから」
かごめはコポコポと湯飲み茶碗に注ぐ。
「すまんな。せっかくのかごめの申し出を断ってしまって・・・」
「・・・ううん。お友達の旅行があるんだから仕方ないわよ。おばあちゃんには
また別の形でお礼するわ」
「・・・お礼なんて・・・。お礼を言うのはこっちじゃ。犬夜叉の優柔不断のばか者
にかごめ、お前はずっと尽くしてくれた。ありがとう」
楓はかごめに向かって正座して頭を下げた。
「そ、そんなつくしたただなんて・・・。私が勝手にそばにいたいって思ってるだけだから」
「・・・。アパートに連れてきた頃はまだ拗ねた子供のようだった。
だがアパートの皆と知り合えて・・・特にかごめ、お前のお陰でアイツは変れた・・・」
「そんな。おばあちゃん。顔を上げて」
かごめは楓を起こした。
「かごめがそばにいればきっと犬夜叉はこれから先の人生・・・。ふてくされることもなく、
まっすぐ生きてくれるはずじゃ・・・。老いぼれのわがままと思ってくれていい。
これからもアイツのことを・・・よろしくたのむ」
楓はかごめの手をぎゅっと包んで言った・・・。
母親代わりにずっと小さいときから犬夜叉のことを見守ってきた・・・。
楓の瞳は間違いなく子を想う母の慈愛の目だ・・・。
「・・・うん・・・。でもおばあちゃん。犬夜叉もう大丈夫だよ・・・。もう・・・」
かごめはそっと楓の手を離した。
「ごめん・・・。楓おばあちゃん。私・・・無理かもしれない・・・」
「かごめ・・・?」
かごめは一瞬深い寂しげな顔を浮かべた。
「あ、そうそう。今日、ケーキ買ってきたんだ。おばあちゃん、食べよ♪」
かごめははしゃぐように冷蔵庫からケーキの箱を持ってきた。
「私は抹茶がいいなー。おばあちゃんも一緒で良いよね♪」
「あ、ああ・・・」
「わぁ。おいしそー♪」
さっき、一瞬見た、あの酷く寂しそうな
いや、酷く疲れ、覇気のないあの表情は・・・。
(見間違いじゃったんだろうか?)
楓は元気に笑うかごめをじっと見つめていた・・・。
「ハァ・・・」
病院の入り口から、薬と湿布を手にした犬夜叉が出てくる。
ため息交じり・・・。
足の怪我はもうあと数回通院すれば完治するだろうと言われたが
それより心の方が重いらしい。
ため息を連発しながら、犬夜叉は花屋の前を通ったとき。
「ねー。お母さん、どっちのお花にしよっかなー」
外に売ってある桔梗の花とチューリップの花を少女と母親が
しゃがんで眺めていた。
「そうねぇ。どっちも可愛くて綺麗よねー」
「うん」
(・・・)
なんだかその母と少女の会話が妙に犬夜叉の耳に入ってくる。
「でも両方は無理よ。どちらかのお花に決めなさい」
「えー。でも両方大好きだモン。決められないよー」
「両方欲しいなんて贅沢いわないの」
「だってー。両方欲しい。仕方ないじゃん」
(・・・)
母と少女の会話一つ一つ、何だか耳が痛い。
「あのね。どっちも決められないなら、どっちもやめなさい」
「えー?どうして?」
「どちらの花にたいして失礼でしょ。貴方が迷っている間にどっちの花も
枯れてしまうからよ」
「そっかぁ・・・」
少女は両手に掴んだ花を元に戻した。
「ごめんね。私、お花さん」
少女は微笑む。
母親と手をつないで離れていった・・・。
”どっちも欲しいならどっちもやめなさい”
”どうーして?”
”あなたが迷っている間に両方の花が枯れてしまうからよ”
親子の会話が突き刺さる。
神が自分に忠告するためにあの親子を仕向けたのではないか、
そう思うほど。
このままの状態がいけないことは分かりきっているのに。
何も踏み切れない自分が
いる。
(・・・。どっちも枯れてしまう・・・か・・・)
パッパー・・・!!
横断歩道。
青信号が点滅して犬夜叉は慌てて渡る。
「犬夜叉さん!」
銀色のベンツが歩道の際に止る。
「樹・・・」
犬夜叉と樹。
互いに言いたいことを胸に抱えていた・・・