同じ女を好きなった。
同じ女を今、好き・・・。
そんな男2人が、土筆が出始めた川原で缶コーヒーを並んで飲んでいる。
「・・・。これ美味しいなぁ・・・。いつもはフランス産の紅茶しか飲まないから
こういうの、たまにのむと美味しいです」
「・・・そうかい。一般庶民はこれがささやかな贅沢なんだよ。けっ・・・」
犬夜叉はむすっとした顔で缶コーヒーを飲む。
「・・・桔梗から聞きましたか?ツアーのこと」
「ああ・・・。桔梗が前向きになってる・・・。色々あったけど
よかった・・・」
「・・・。よかった・・・か。桔梗はそうでも貴方はどうなんです?」
(う・・・)
何だかいつになく、刺々しい物言いの樹。
「貴方って本当に顔に出ますよね。心理状況。かごめさんと何かあったでしょう?」
ぶはっとコーヒーをはく犬夜叉。
「かごめさんと何か、大事な約束をした?違いますか?」
「!」
次々と言い当てる樹に犬夜叉、あとづさり。
「それが、桔梗を見送る日と重なった」
「て、てめぇ・・・!!なんで知って・・・」
「管理人の楓さんに聞いたんですよ。この間。旅行のこと」
(あのばばあ・・・余計なことを・・・)
「”あのばばあ、余計なこといいやがって”なんて思わないで下さいね。
僕が無理やり聞き出したんだから」
「・・・(汗)」
犬夜叉、樹の千里眼には適わず。
ゴクゴクッとコーヒーを飲み干す。
「貴方もつくづくタイミングが悪いというか、女泣かせというか・・・」
「う、うるせぇ」
「で。どうするんですか。今回ばっかりははっきりさせないといけませんよ」
「わ、分かってる!!外野がいちいち口突っ込むんじゃねぇ・・・!」
「・・・突っ込みたくなるのは誰のせいだろうな」
まるで小姑が嫁をいびるかのように呆れた表情の樹。
「分かってるならいいんですけど・・・。でもどうして突然今頃旅行なんでしょうね・・・?」
「さぁ・・・。金も勿体ねぇし、かごめは金銭感覚しっかりしてるからな」
「本当にそれだけだと?」
「他に何があんだよ」
フーっと樹はため息を一つついた。
「かごめさんの様子、変じゃないですか?」
「別に」
「・・・。突然の親友の結婚式を計画、世話になった管理人に旅行・・・。
かごめさんの気持ち、分かりませんか?」
「あぁ?かごめのいつものおせっかいだろ?俺は付き合わされたけどな」
そのおせっかいでかごめの初々しいドレス姿を見られた犬夜叉。
「・・・かごめさんの真意を・・・」
「かごめの真意?」
「・・・きっとかごめさんは貴方と・・・」
その先を言うおうと思ったが飲み込んだ。
「かごめが何だよ」
「いいえ。何でも。」
「気になるじゃねぇか言えよ」
「・・・悔しいからじぶんで考えてください」
樹は空き缶をコートのポケットに入れスッと立ち上がった。
「・・・。犬夜叉さん。人間は・・・一人じゃいきられない生き物かもしれないけど・・・。
でも、時には一人になってみるという覚悟も必要なんじゃないでしょうか・・・」
「はぁ・・・?」
「じゃあ。失礼します」
去っていく樹・・・。
一体自分になにを言いたかったのか・・・
「・・・説教くせぇ台詞はいてんじゃねぇよ。けっ・・・」
”どうするつもりですか”
今はかごめの”真意”より、重なった約束のことに犬夜叉は
支配されている。
どちらを選ぶか・・・。
(・・・。もう・・・一週間しかねぇのに・・・)
重い腰を上げ、立ち上がった犬夜叉。
「・・・ん?」
ジーンズの後の右ポケット。
咲きかけの黄色いタンポポがくっついている。
「・・・」
犬夜叉は無意識にそれをポケットに入れ、
来る1週間後の選択に心、悩んでいた・・・。
※
犬夜叉の部屋。
せんべい布団にスポーツバックが一つ、置かれその前であぐらをかいて
考え込む犬夜叉。
(・・・とうとう・・・来てしまった)
三月三十日。
結局、当日まで結論を出せないままの犬夜叉・・・。
腕時計を見る。
(確か・・・。桔梗が乗る飛行機は10時半発・・・)
そしてかごめとの約束の時間は午前11時に駅前で待ち合わせ・・・。
ただ今、午前9時30分です。
(どうする、どうする、どうするーーー・・・俺は・・・)
髪の毛をぐしゃぐしゃに掻き毟る。
掻き毟ったところでこたえが出るわけじゃない。
(かごめとの約束の時間が11時・・・。なら、桔梗を見送った後、すぐ飛ばせば
駅に間に合うかもしれねぇ)
そんな考えが浮かぶ。
一番無難な誰も傷つかない方法・・・。
「そうだ。高速飛ばせばなんとかなる・・・」
かごめにメールを打とうと思って携帯を取り出した。
『かごめへ。すまねぇ・・・少し遅れる・・・』
送信ボタンを押そうとしたとき。
足元に落ちていたあるものに気づく。
「ん?」
それは・・・。
(これ・・・は)
蕾のタンポポ・・・。
(この前の・・・)
黄色の花びらが少し見えている・・・。
(タンポポか・・・)
"私ね・・・。完全に花びらが開いている花も勿論好きなんだけど
花の蕾ってもっと好きなの。だってこれからどんな色の、どんな形の花が
さくのかって・・・ウキウキするでしょ・・・?"
いつだったかそう言って・・・
電信柱のたもとに生えている蕾のタンポポをしゃがんで
見つめるかごめ・・・いた。
”あのな、足元ばっかり見てたら転んじまうだろ。いちいち、
道端の花に興味もってんじゃねぇよ。・・・歌の文句で充分だ”
”・・・。身近な自分以外の生き物興味もてなってしまうような自分
にはなりたくない・・・そう思わない?”
開きかけのタンポポ
ただそれだけの”モノ”なのに、かごめと一緒だと
違うものに見えきた・・・。
(・・・かごめ・・・)
小さな蕾のタンポポ。
チラリと見える黄色の花びらが・・・
犬夜叉の瞳はまぶしい・・・。
まぶしすぎる。
”桔梗”
でもなく
”かごめ”
でもなく・・・
”誰も傷つかない、自分も傷つかない道”を
選ぼうとした心に・・・痛いくらい眩しい黄色だ・・・。
P・・・
かごめへのメール。
削除ボタンを押す犬夜叉・・・。
「・・・畜生・・・」
ドアの前に立ち尽くす犬夜叉・・・。
前にも後ろにも行けない、歩けない・・・。
PPPP!!
「!」
携帯の音に過剰に驚く犬夜叉・・・
携帯の画面には・・・
『月島桔梗』の名前が
表示されていた・・・