第82話 夢の中の温もり
ガタン・・・。
春の匂いが漂う北陸の地方都市。
駅舎は去年新しくなって
地面も大理石のようにピカピカで・・・。
人通りの多い商店街。
ショッピングビルが立ち並ぶ。
電話ボックスに真っ先に入る。
電話帳をくるる犬夜叉。
「保育所幼稚園って言ってもこんなにあんのか・・・」
ざっと200件以上の名前が連なる・・・
(一日でこれだけは無理か・・・)
だがこの街にかごめがいるのは確かだ。
(迷ってられねぇ・・・。このままなんて・・・できねぇ・・・っ)
ビリリッ。
犬夜叉は保育所と幼稚園の番号が載っているページを開き、
一件一件電話をかけていく。
「あのえっと・・・。ちょっと人を探してて・・・。日暮かごめって教員、いますか?」
「そこで日暮かごめって保母働いてませんか?」
滅多に使わない敬語でぎこちなく尋ねる。
しかし突然、昼間からそんな電話をかければ
当然怪しまれたりもする。
「いえそんな人はうちでは・・・。あの・・・その方をどういった
ご関係ですか?」
ガチャン!
勢いあまって切ってしまった・・・。
(くそ・・・。これで半分はかけた・・・)
かけた保育園や幼稚園の番号を線をひいて
消していく。
犬夜叉は10円玉を何枚も硬貨入り口にほおりこむ。
「もしもし・・・あの・・・そちらに・・・」
「あの・・・日暮かごめって保母が・・・」
10円玉を何十枚もほおりこみながら
犬夜叉はかける。
10円玉がなくなると近くのコンビにで何か買って
お札をくずし、硬貨をつくった。
チャりんチャりん。
左手にはこんもり10円玉を握り締める。
「・・・。だーーーー!!こんなちまちまやり方しょうにあわねぇ!!
直談判だ!!」
正攻法より”下手な鉄砲、数打てば当たる”の論理を選んだ犬夜叉。
犬夜叉は番号がかいてあるページをベリッと破り、
ポケットに突っ込む(これは本当はやっちゃいけないことです(汗))
「おう!!一番早い単車かせ!!」
店員のえりを掴んで強引にバイクを一台レンタル。
エンジンを拭かせ、残りの100件の保育園・幼稚園の住所を
たどり、一軒一軒まわっていく。
「な、なんなんですか?あ、あなた!」
「だ・・・だから。ここに日暮かごめっていう女働いていないかと・・・」
「い、いませんよッ。と、とにかくお引取りくださいッ。警察呼びますよ!?」
「な、なんだとこの・・・」
ぴしゃッ。
・・・と門前払いされたり。
「あわーーー!!電柱の張り紙の柴犬似の誘拐犯だーーー!!」
「だっ。誰が柴犬似の誘拐犯だーーーー!」
園児たち数人に指差され、
逃げる犬夜叉。
見知らぬ土地で悪戦苦闘する犬夜叉・・・。
最後の一件の保育所を尋ねた頃にはもうあたりは真っ暗で・・・。
宿をどこにも予約せずきた。
更に北陸の夜。
寒さも一段と・・・
「へっくしょいッ」
(けっ。寒さなんか・・・)
今はとにかくかごめの居所をつきとめることしか頭になく・・・。
(ここが80軒目・・・)
小さなお寺の隣に
小さな保育所があった。
こんなに遅いのに保育所の中は明かりがついている・・・
(こんな時間にたずねていったらまた警戒されるか・・・)
一瞬迷ったが
(でも・・・。ここに・・・ここにかごめがいるかもしれねぇ)
そう思うと、犬夜叉の手は
保育所のインターホンを押していた・・・。
ガラガラ・・・
「はい。どなたでしょう・・・?」
着物を着た老婆が一人出てきた・・・。
「あ・・・あのえっと・・・。や、や、夜分遅くすいません・・・」
相手に不審に思われないよう、犬夜叉、必死に丁寧に話す。
「ひ、人を探していて・・・。この・・・。この女・・・女の人を・・・知りませんか・・・?
ここで働いていたりしませんか・・・?」
かごめの写真を老婆に見せる。
老婆は胸にぶら下げていた老眼鏡を目にはめて
まじまじと写真をみた・・・
「まぁ・・・この人は・・・」
(お!??知ってんのか!???)
「・・・私の若い頃にそっくりだわ〜♪」
「な・・・っ」
こける犬夜叉。
「し、知ってんじゃねぇのか!?」
「ごめんなさいね。うちで働いてはいないわ・・・」
「・・・そうか・・・」
がっくりと肩を落とす・・・
どっと疲れを感じる犬夜叉・・・
「・・・。あ、夜分遅く悪かった・・・じゃなくて悪かったです・・・。
んじゃ・・・」
「あ・・・ちょっとお待ちなさい」
老婆が犬夜叉を呼び止める。
「あなた・・・。どこからきたの・・・?」
「・・・戦国市」
「戦国・・・?戦国ってもしかして東京の近くの・・・?」
犬夜叉は頷く。
「そんな遠いところから・・・貴方・・・宿は・・・?夕食は?」
「・・・」
押し黙る犬夜叉。
グゥ〜・・・
だが腹時計はちゃんと返事をした。
「うふふ・・・。正直ねぇ・・・。さ、入りなさい。今、子供達も丁度
食事中だから」
「え・・・、あ、あの・・・っ」
老婆は犬夜叉の手を引っ張って、保育園の中へ連れて行く。
保育室では
数人の4、5歳くらいの子供達が
スプーンを片手にカレーをほおばっていた。
「はーい。みんな。お食事中ごめんなさいね。このお兄ちゃん、私の
お友達なの」
「えんちょーせんせいの?」
「そう・・・。名前は・・・」
犬夜叉はちょっと照れくさくて言えない。
「名前は秘密なの。だからおにいちゃんでいいわ。ね、
おにいちゃん」
「・・・お、おう・・・(汗)」
「じゃあ、卓くんの横に座って待っていてね。今、
貴方の分もってくるわー♪」
犬夜叉、卓くんの横にスプーンを持たされ、座らせられる。
子犬の形の小さな椅子に・・・。
おまけに、涎掛けまでさせられてしまった(笑)
「・・・」
(俺はガキじゃねーーーーー!!)
「はいおまちどうさまでしたー!」
子供達に囲まれながら、犬夜叉はむすっとしながらも結局、
ぺろりとたいらげてしまった。
「さー。お食事が終わったらお風呂に入りましょ!」
保母と園長の二人が子供達を風呂に入れる。
「あなたも手伝って!」
「なんでおれが・・・」
とはいえ、夕食をいただいた犬夜叉だ。
入浴のお手伝いと借り出され、
男の子達の髪をシャンプーをしゃかしゃか泡立てるする。
(俺・・・ここで何やってんだ・・・(汗))
風呂からあがった子供達。
「さー。夜も遅いわおねんねしましょうね」
布団に横になる。
すぐみんな眠ってしまった。
「ふぅ・・・。やれやれ・・・。ギャングさんたちはやっと
お休みのようね」
エプロンを取り、子供達の寝顔を見つめる園長。
「ふふ。あなた、子供は苦手って顔してるわね」
「別に」
「まぁね。唾はくし、『くそばばあ』って言われて腹もたつけど
寝顔だけは。ほらみて。天使よ・・・」
園長は子供達の髪を撫でながら呟く・・・
その手つきがとても優しく・・・
ふっと・・・
かごめの顔が浮んだ・・・。
「・・・。あなたの探してる人って恋人・・・?」
「なっ・・・。べ、別に・・・っ」
犬夜叉の反応ですぐわかる。
「ケンカして家出しちゃったとか・・・それで連れもどしに来た
そんなところかしら?」
「・・・」
園長の推理、ほぼ合っており、犬夜叉、黙るしかない。
「じゃあちゃんと謝るしかないわね。戻ってきてもらうために」
「・・・。戻ってくるわけねぇ・・・」
突き放されたのは自分。
手を離されたのは・・・
「じゃあ貴方は何故ここまで彼女を追ってきたの・・・?」
「・・・」
「・・・。まぁいいわ・・・。若い人の恋路を詮索したがるのは年寄りの
悪い癖・・・。ああそうだわ。これ・・・」
園長は犬夜叉になにか紙切れを渡す。
「これは・・・」
この町周辺の児童館や施設の名簿が・・・
「保母が働く場所は保育所・幼稚園だけとは限らないわ。
施設や児童館・・・。思いつくところの住所かいておいたから」
「・・・ばあさん・・・。あんたなんで見ず知らずの俺なんかに・・・」
「・・・。子供と男を見る目だけには自信があるからよ・・・。ふふ・・・」
「・・・」
「おやすみなさい・・・」
園長はくすっと笑うと部屋の電気を消し部屋を静かに出て行った・・・。
犬夜叉はごろんっとソファに寝転んだ。
”彼女に何を伝えるの・・・?”
園長の言葉・・・。
一体、かごめに会ったら自分は何を言うのだろうか・・・?
謝る・・・?
それとも・・・。
(・・・わからねぇよ・・・)
珊瑚へ宛てたかごめの手紙を見つめる。
(かごめ・・・。どこにいるんだ・・・)
ただ・・・会いたい。
(かごめ・・・)
・・・声を聞きたい・・・
みっともない男だと思われても・・・
「スゥー・・・」
街中の探し回ってどっと疲れが犬夜叉の体を襲う。
そしてゆっくりと目を閉していく・・・
心は・・・
犬夜叉に幻を魅せる・・・
そこは草原。
黄緑色の葉がゆらりと風に吹かれ
天はまさに蒼く澄み渡り・・・
犬夜叉は一人、ねむっている・・・
サクサク・・・
草を掻き分け、犬夜叉に近づいてくる誰か・・・
髪の長い・・・誰か
”犬夜叉・・・”
(・・・誰だ・・・?)
優しい声の主に気がつき、目を覚ます犬夜叉・・・
”犬夜叉・・・”
ゆっくり目を開けると・・・
太陽の光が逆行して声の主の姿は黒い影に見える
(誰なんだ・・・?桔梗か・・・?)
”犬夜叉・・・”
(・・・違う・・・。じゃあお前は・・・)
”犬夜叉・・・”
太陽の白い光が・・・
薄くなって声の主の姿が見えてきた・・・
(お前は・・・!)
「かごめ・・・っ!!」
チュンチュン・・・。
雀の鳴き声はするが・・・。
カーテンのむこうはまだ薄暗い・・・
「・・・なんだ・・・。今のは・・・」
幻が突然前から消えたような不思議な感覚・・・
夢から覚めない・・・
あの声。
あの温もり
(夢・・・。かよ)
夢だと自覚した瞬間。
じわっと寂しさが募った。覚めないで欲しかった。
(でも・・・)
本当に温かかった。
体温があがったと思うくらいに・・・
「・・・これ・・・」
手に残る温もりの正体に犬夜叉は気がついた。
犬夜叉にかけられいた白い柔らかい毛布・・・
羽毛のふわふわ綿毛の・・・
(あのばあさんがかけてくれたのか・・・)
冷えた朝にあたたかな毛布・・・
これが人の”労わり”というもの。
かごめが教えてくれた大切なもの・・・
さらさらの柔らかな布地・・・
触っているだけで落ち着いてほっとする・・・
まるで・・・
誰かみたいだ。
(かごめ・・・)
犬夜叉は毛布をぎゅっと・・・
抱きしめた・・・
そして朝日が完全に顔をだしたころ。
「おはよう。起きて・・・。あら・・・?」
園長が子供達を起こしに行くと、そこには犬夜叉の姿がなかった・・・
かわりに
メモが・・・
『カレーうまかった・・・。ありがとう。』
「ふふ・・・。乱暴な字ねぇ・・・」
字には人柄が出るという。
乱暴な字でも・・・
「照れくさそうに書いた顔が浮ぶようだわ」
きもちが伝わればいい。
伝われば・・・。
ブロロ・・・。
早朝のバイパス道路を・・・
犬夜叉は走る。
(・・・かごめ・・・)
会いたい人に向かって
ただひらすらに・・・