銀と蒼の糸を紡いで
〜大地に根付く花・空姫〜
世は平安。
政治は帝を中心に貴族が取り仕切り、庶民は日々の暮らしは
賛嘆たるものだ。
それはいつの世でも同じ図式なのだろうが
貴族が蹴鞠で楽しんでいる最中も庶民、とりわけ体力も立場も弱い
子供や老人や女が日々死んでいく。
体はしななくとも心が病んでいく。
一部の貴族はそんな庶民達の不満が爆発しないかと密かに慄いている。
現実感のない貴族達は架空の人物や幻を信じるようになり
”物の怪を退治せよさすれば政治も安定するであろう”
証拠もない理屈をつくりあげ、貴族に反発するものは
ことごとく罰せられ、酷いときは死罪にも・・・。
そんな混沌とした世。
だがとある地方の小さな村は至って平和な時間が流れていた。
「・・・かごめ!オレに何させんだよ!・・・」
「え?だって、稲田の手入れをしないと・・・。じきに冬が来るわ」
庶民と無地の桃色の着物。
薄紅の羽織の娘が一人、田んぼに入っていく。
顔を泥だらけにしているのは『日暮社』の巫女兼この村の領主・かごめ。
両親の顔も知らず、領主であった祖母も
二年前になくなった。祖母を継ぎ、この小さな村を治め、護っている。
この土地は寒さが厳しいのだが村人誰一人、死人がでたことは
この20年ない。
農作物は豊かに実り、田も渇水することもなく・・・
はやり病もなくまさに平和そのもの。
さらに村人の怪我や旅人の疲れなどをたちまち
治したという逸話もある。
祖母から伝授された薬草や医術。
かごめに助けられた村人や村に立ち寄った旅人たちは
”青い瞳の空姫の神通力のせい”
だと口々に噂した。
空から舞い降りた天女だと・・・。
村の者はかごめのことを”空姫”とも読んでいる。
「犬夜叉ー!」
「うるせー!オレはお前の小間使いじゃねぇぞ!」
「あ、そうよね。ごめん。じゃあ旦那様かしら?」
「・・・なッ///ば、馬鹿いうなッ」
照れ屋の少年。犬夜叉。かごめの従者・護り役(?)で居候の
通称犬夜叉。年のころは17歳だろうか。
1年前に神社の前で倒れているところを”拾った”若者だ。
素性は明かさないが身なりからどこかの武家の出だとかごめは
感じていた。
名前の如く、犬のように足は早く、飛び上がり、
腰の刀・鉄砕牙で、バッタバッタと山の木を切っては
薪をたくさんつくる。
(・・・。きっと何か修行をしていたのね。怪力は役に立ってる。ふふ)
さらに赤い衣をいつも身にまとい
”空姫の飼い赤い犬”と呼ばれている。
「・・・あー毛並みのいい犬だこと」
「・・・///な、撫で・・・」
長い銀髪。かごめが撫でると犬夜叉はおとなしくなる。
「犬夜叉、”絆(ばん)”持ってる?」
「お、おう」
木製の丸い薄っぺらい楕円形のお守り。
「これを持っている私達は二人で一つ」
「・・・お、おう///」
日暮神社に伝わるお守りらしい。
二つのお守りをくっつけたら丸い一つの
お守りになる。
「犬夜叉、私も頑張るからもう少し頑張って。ね?」
「わ、わかったよ。たっくしょーがねぇなぁ」
鎌を持たされて、再びお仕事開始。
かごめに一目ぼれしたらしく、反発しながらも
かごめには頭が上がらない。
銀髪の少年。犬夜叉。部族系の異国の父から生まれたはみだしっ子らしい
ことしかかごめは知らない。
かごめも聞かない。
(だって私が必要としてるのは今の犬夜叉だもの)
「・・・なんでい」
「ううん・・・。犬夜叉の髪、綺麗だなって思って」
「けっ。どーせオレは髪の色が違うからな」
拗ねる犬夜叉。
髪のことを言われることがあまり好きではないらしい。
「・・・あら?皆と違うのは私一緒よ?ほら」
(・・・!!)
犬夜叉の目をじっと見つめるかごめ。
かごめの澄んだ瞳・・・
蒼く空のような・・・
(め、近すぎるだろッ)
ぱっとかごめに背を向ける犬夜叉
「私の両親もこの土地の人間ではなかったみたい。
私も色々言われたわ。でもあんたみたいに拗ねてなかったし
頑張ったもの」
「じ自分で言うか(汗)そ、それに
お、オレとお前を一緒にすんな・・・」
「そうね。私は犬夜叉とは違う。あんたは男だし私は女だし。
でも人は違う者どうしたからこそ、いい関係ができるのよ。
稲田の土のように・・・」
鎌をもってかごめは話し始める。
(・・・まーた理屈っぽい話がはじまった)
「色んな色のいろんな場所の土を混ぜ合わせて耕すから
いい土ができる。そしてその土で山の雪解け水をで作るから」
かごめは耕した土を
いとしそうに手ですくう。
かごめはこの土地が好きなのだ。
犬夜叉はこの一年かごめをそばで見てきて知っている・・・。
この土地を愛し、土地に住む村人達を愛し・・・。
「・・・はいはい。お前の説教は聞き飽きた」
「・・・だから。犬夜叉と私も・・・。きっと
仲良くなれるって思ったんだよ?」
「///。わ、わかったから・・・」
「ふふ。さーて!残りやっちゃうわよ!!」
「!!」
ぺろんと着物のすそを捲って、白いふくらはぎがお目見え・・・。
(・・・し、白くて柔らかそうな・・・///)
少年犬夜叉、女子の肌を間近でみることは刺激が強く・・・。
「お、女が着物、たくし上げんじゃねぇッ///」
「だってこの方が効率いいのよ。さ、犬夜叉、あんたは雑草抜き
頑張って!!」
「わ、わかったよ。ったく人使い荒れぇ女・・・」
(それに・・・。お前みてぇな女・・・初めてだ)
色んな村や国を回りまわってきた犬夜叉。
地位が高ければ高いほど、欲望に満ち溢れた女ばかりだった。
(・・・村人のために・・・。寒い冬に裸足で田んぼの手入れするんなんて・・・。
顔土だらけで・・・。なんでだ)
どうして人のために嬉しそうに尽くすんだろう。
惚れた男のために身を売る女はいたし
貴族の女では自分の伴侶のために不正な金を流す女もいた。
少しでも地位の高い貴族の男の嫁になるために着飾り、美を尽くす
女子もいるが・・・。
(わかんねぇ・・・。でも・・・)
”犬夜叉・・・。もしよかったらずっと
ここにいない・・・?ううん居て欲しいな”
見ず知らずの男を簡単に信用し、受け入れるなんて・・・。
(こいつは・・・オレに何も求めなかった。ただ
一緒に居たいとだけ・・・)
かごめのそばは心地よい。
青い空のように
清清しくて暖かくて・・・
そうまるで・・・
冷えた体を温めてくれる囲炉裏のよう・・・
「・・・ちょっと。犬夜叉。私の顔になにかついてる?
それとも見惚れてた_?」
「!!う、自惚れんなッ。熱ッ!!」
芋の煮物を袴にこぼす犬夜叉。
「あははは。慌て者ねぇ。ったくー」
「うるせー!」
囲炉裏で笑いあいながら誰かを夕食をとる・・・
一年前の犬夜叉自身、考えられなかった。
(・・・。オレは・・・。帰る場所を見つけちまった)
ありのままの自分を受け入れてくれる場所
ありのままの自分で居られる場所・・・。
「空姫様!空姫様!お助けください!!」
「何事!??」
夜遅く。村の若い母親が乳飲み子を抱えて社に駆け込んできた。
「うちの子がうちの子が・・・!」
赤ん坊は泡を吹いてぐったりしている。
かごめは喉のあたりを少し摩って・・・。
「・・・。富さん(母親の名前)この子・・・
何か喉を詰らせていますね」
「え!?あ、そーいえば夕飯をこしらえている間、
小石で遊んで・・・」
「犬夜叉、悪いけど熱いお湯を少し分厚い布を持ってきて!」
「わ、わかった!」
犬夜叉はかごめの言われた通りに桶にお湯を入れ、布を何枚も
用意した。
「あ・・・!?お、お前何を・・・!」
かごめは持ってきた熱湯を手の甲にかけて
かごめの手は真っ赤に爛れたが・・・。
「ちょっと我慢してね。すぐとるから・・・」
子供の口の中に指をつっこんだ
「ゲホッ。ゴホッ」
赤子は激しく咳き込んだと思ったら同時に小石が一つ飛び出てきた。
「坊や・・・!!」
母親は思わず赤子を抱きしめて安堵からか、座り込んでしまう。
「坊や・・・。すまない、私がついていながら・・・。
愚かな母を許しておくれ・・・」
「富さん・・・」
この若い母親の夫はつい最近、隣の国の貴族に
あらぬ疑いをかけられ、殺された。
女で一つで子を育てて、そして田も護らねばならない。
子供に目が行き届かなくなっても無理はなかった。
(・・・。強い力を持つ人間は皆、弱い立場の者を犠牲の上で
権力を誇って・・・。・・・それにも気がつかない貴族社会って
なんなのかしら)
この世の常。
貴族や政権を持つ部族たちはこぞって自分たちの権力の誇示
にばかりいつも切磋琢磨している。
「富さん・・・。大丈夫。富さんはこの子のたった一人の母上様ですよ」
「でも・・・私は我が子の命を自分の過ちで奪おうとした
女子です」
「・・・。ならば私は子育てに難儀している
村人がいることに気がつかない愚かな領主です。だから・・・おあいこです。ね。
ふふ」
「空姫・・・。いやかごめ姫様・・・」
かごめはそっと自分の羽織を脱いで母親と母の背で眠る赤子にかけてやる。
「やだ・・・。姫様なんてよばないでください。私は姫と呼ばれる
程おしとやかでもないしただの領主の跡継ぎです」
「いえ・・・。私達村人達にとてはかごめ姫様は
仏より尊いお方・・・。ありがたや・・・。あたたかい・・・」
かごめにむかって手を擦って拝む母親・・・。
「富さんやめてください。それより坊やを抱いてあげて」
母親は我が子をそっと抱いて背中におぶった。
「・・・それからこれ、坊やにあげてくださいな。
電電太鼓。犬夜叉がつくったんですよ。ちょっと不恰好だけど」
「う、うるせー!!」
「あ、ありがとうございます。犬夜叉様」
母親と赤子は何度も二人にお辞儀をして
帰っていった・・・。
(誰かから礼をいわれるなんて・・・。かごめと一緒にいる
ようになってからだ)
”ありがとう”は犬夜叉がきらいな言葉一つだった。
でも今は・・・
嫌じゃなくなった。
「かごめ、手ぇ、どうすんだよ!!」
「え?あ、ああそうだった。少し焼けどしてたんだ」
けろっとした顔のかごめ。
「ばッ。どこが少しなんだ!!すぐひやさねぇと!!」
「あ、ちょっと犬夜叉・・・!」
犬夜叉は庭の井戸へかごめを連れて行き、
水をかけた。
「ったく・・・。俺がめぇ離すと無理するんだから。お前は・・・」
「ごめん・・・。つい夢中になって・・・。へへ。まだまだだね。
私って・・・」
舌をぺろっと出して笑うかごめに・・・
(・・・っ///)
犬夜叉の恋心は頬を染める。
「ま・・・///・・・そこがいいんでだけど」
「え?」
「い、いやなんでもねぇッ!ひ、冷やしたらく、薬だ!!
やけどに効く薬はどこだ・・・っ」
自分の以外の誰かをこんなに大切に感じるなんて
今でも信じられない。
「・・・。犬夜叉・・・。上手になったね・・・手当てするの・・・」
かごめの手に包帯をまく犬夜叉。
最初は巻くこともできなかったがかごめの側で
村人の手当てなどして、かごめから教わり大分慣れてきた。
「・・・。お、お前がオレに叩き込んだんだろ///」
「あはは。そうだったね・・・でも・・・頼もしい・・・。私って幸せものだね」
「何が」
「こんなに頼もしい従者がいて・・・。ううん。従者なんかじゃないわ
大切な・・・大切な・・・私のたった一人の人」
(・・・た、たった一人・・・。そ、それってつまり・・・)
犬夜叉は何だか・・・
愛の告白をされているように思えて・・・
ちょっと緊張。
「・・・。くしゅんッ」
ふわり。
犬夜叉はかごめに自分の羽織をそっと着せた・・・。
「・・・あったかい・・・。私・・・。人に・・・
衣をかけてもらうのって・・・。なんかいいね・・・」
「・・・。お、お前がそうさせんだろ・・・」
「え?」
囲炉裏端・・・
火の粉がパチパチと鳴って舞い上がる・・・
「変な女・・・。人のことばっかり・・・。世の中は・・・。貴族や金、権力が
ある奴で成り立ってる・・・。金と力がない人間は生きていけやしねぇ」
「・・・。そうね・・・。正直私も腹が立つ。
もし、偉い人たちに文句言えるとしたら馬鹿や郎、ふざけんじゃねぇ!!
って一発言ってやりたいわ。それで蹴鞠をしてる
貴族がいたら、顔面に投げつけてやるのよ!」
可愛く拳をひゅっと構えるかごめ。
「・・・(汗)」
でもかごめならきっと本当に言うだろう。
どんなに地位が高い人間だろうが低い人間だろうが・・・。
「でも・・・。でもね。私は大層な人間じゃない・・」
「充分大層だろ・・・。どんな病も治る薬をつくっちまう。
”神通力の空姫”なんだろ?」
二人はくすっと笑いあった。
「・・・神通力か・・・。ふふあったらいいね。
でも私はただの人間です。本当は死ぬほど寂しがり屋のね・・・」
(な、なんて目しやがる・・・///)
かごめの上目遣いに・・・
犬夜叉は弱い。
その目で頼まれたら逆らえなくなってしまう。
「・・・。たとえ・・・。荒廃している世の中でも・・・。私は私・・・。
犬夜叉は犬夜叉・・・。でしょ?」
「・・・。おう」
「一日一日を・・・。懸命に生きるだけ・・・。ただそれだけよ」
「・・・。おう・・・」
蝋燭の炎がゆれて・・・。
衣ごとかごめを背中から抱きしめる・・・。
「・・・。犬夜叉・・・」
「じゅっ・・・十二単の程じゃねぇけど・・・。そ、その・・・。
せ、背中、あったけぇか?」
「うん・・・。とっても。ねぇ。このまま・・・
今夜眠ってもいい?」
(え!?こ、このまま!?)
恋する少年は
色々な状態を想像する。
「・・・か、かごめ。お、オレ・・・。まだ元服もしてねぇしッ
そ、そのなんだッ、子の作り方も知らな・・・」
「スー・・・」
(・・・ね、寝てやがる・・・(汗))
可愛い呼吸の音と安心しきった寝顔が
腕の中に・・・。
(・・・ま、まあいいか・・・(汗))
どれだけ世の中が荒れていたとしても
失望しかないとしても
かごめが隣居るなら・・・
(そこは極楽で・・・。オレの居場所だ・・・)
”神通力の空姫”
神の力じゃないけれど
かごめには不思議な力がある。
(・・・勝手に人の心にはいって・・・。
住みついちまうっていう力がな・・・)
羽衣のはきてなくとも
冷え切った人の心に温かな衣を着せる力が・・・。
この心を護りたい。
自分の刀で
自分の心で・・・
薪がなくなって囲炉裏の火が消えても・・・
犬夜叉はかごめをずっと抱きしめたまま座っていた。
腕に圧し掛かる・・・柔らかい感触にときめきながら・・・。
(・・・。か、か、かごめの・・・乳)
頬を染める少年も
少女ぬくもりにいつしか眠りにつく・・・。
銀髪の少年と青い瞳の少女。
二人が肌身離さず首にかかる”絆(ばん)”
が朝陽に照らされていた・・・。
そしてまた、いつもの日々が始まる・・・。
「犬夜叉ー!!起きて!!さ!畑から大根とってきて!
あ、途中でかじっちゃ駄目よー!!」
「・・・お、オレは野良犬じゃねぇぞーーー!!」
・・・二人の胸の”絆”が光る。
これから始まる冒険を照らすように・・・。
FIN
・・・。平安っぽくなくですみません(汗)
時代考証とかへたくそで専門用語とかあんまり浮かびませんでした
(汗)それに私の中ではかごめちゃんは
高貴な貴族の”お姫さま”っていうイメージじゃなくて
たとえ地位が低くても”懸命にそこで生きる花”っていうか
やっぱりあれです。
たんぽぽなんです。
どんな状況でも自分なりの花を咲かせるというか(汗)
イメージが・・・(汗)きっと「おてんばで世間知らずなお姫様がダイスキでどこでもくっついている
雑用係の犬夜叉」ってなイメージを私も
色々考えたのですがこの状態に落ち着きました。
・・・どこにでもくっついてくるっていうところだけは同じです(笑&汗)
平安って言うと宮中とか十二単とか
すごく華やかな雰囲気が出ますよね。
・・・うーん。実はかごめちゃんはこのお話では”領主の娘”という立場になっておりますが
実は色々秘密が・・・(っていっててあんまりまとまってなかったり・汗)
・・・。余裕があれば続編頑張ります。そのときはもっと平安っぽい
雰囲気だせたらなと思います。