リクエスト小説(内容) 第6位 「現代版高校生犬かご」 「きみのて」 後編 かごめと遊園地で別れてから。 顔を合わすことはあっても前のように話すことはなくなってしまった。 友達だった頃の方がよかった お互いにそんな気さえしている。 (あ・・・) (・・・あ) 廊下でばったり会っても 軽く会釈して通り過ぎていく・・・。 (・・・かごめ・・・) かごめの後姿・・・ 呼び止めたい。呼び止めて前みたいに 喧嘩したい。 それすらも今はできない・・・ 寒い教室。窓を開けると凍てつく風が入ってくる。 (寒みぃ・・・) ”ほーら。何してんのよ。手、貸して。 あっためてあげる” かごめがこすって温めてくれた・・・。 けど・・・今年の冬は・・・ なんて寒いんだろう・・・ ・・・なんて・・・寂しいんだろう・・・。 (あ・・・) 校庭で・・・。かごめが友達と雪で遊んでいる・・・ 「かご・・・」 思わず呼ぼうと声をかけかけるが・・・。 ”もう私に触らないで・・・ッ” 観覧車の前で・・・かごめの手を離したのは自分。 (かごめ・・・) 犬夜叉は自分の冷たい手を見つめながら・・・ 心の中でかごめの笑顔を求めていた・・・。 3年の3学期。冬。 3年生は大学進学するもの、就職するもの 進路が決める大事な時期だ。 それはかごめも犬夜叉にも同じで・・・ 「えー。かごめ東京行っちゃうの?」 「・・・ウン多分・・・」 かごめは東京の大学を受験した。 (犬夜叉は・・・。どうなんだろうな・・・) 「あ、そういえば。犬夜叉は地元の工場に勤めるって 言ってたよ。担任がさ」 「・・・。そ、そうなんだ・・・。で、でも私には関係ないし・・・。 あ、ごめん先行くね」 かごめはいそいそと教室を出て行った・・・。 (かごめ・・・) かごめの友人・真貴子。 かごめと犬夜叉ことを唯一知る親友だ。 (やっぱりまだ・・・。好きなんだ) 真貴子は知っていた・・・あの観覧車の前で別れたあと・・・ かごめが目を腫らすほどに泣いたことを・・・。 (・・・ったく・・・犬っころの奴・・・!) 真貴子はあるものをカバンから取り出す。 それは・・・ 「おう。そこの犬っころ」 「あ・・・?」 (こいつは確か・・・かごめのダチか) 隣のクラス。机にはいつくばって犬夜叉はクークー眠っていた。 「顔かしな」 「うるせぇ。昼寝中だ」 「・・・かごめのことでケリつけるっていってもか?」 「・・・!」 犬夜叉はハッと目を覚ましたかのように起き上がった。 真貴子と犬夜叉は階段の踊り場で話す。 「アンタ・・・まぁ想いっきりかごめを振ってくれちゃってさ」 「うるせぇ。部外者はひっこんでろ」 「あぁ?昔の女忘れるためにかごめと付き合おうとした 男が偉そうに言うんじゃないわよ?アンタ、かごめに ちゃんと謝ったてーの?えぇ?」 (・・・汗) 真貴子の迫力に犬夜叉、たじたじ。 「・・・。ま・・・。確かに二人のことは二人で解決 しなくちゃいけないからね」 「・・・」 犬夜叉は腕を組んで真貴子に背中を向けた。 「・・・。かごめ。春になったら東京行くのよ」 「・・・!?」 「その反応・・・。やっぱり知らなかったか・・・。 どうするの。このまんま宙ぶらりんでサヨナラする気?」 「・・・」 ストレートに聞いてくる真貴子に犬夜叉は返答も出来ず・・・。 「・・・。このままさよならする方がいいみたいね。 こんなはっきりしない男・・・別れて正解だったみたい。じゃあね」 真貴子は呆れ顔で立ち去ろうとするが・・・ 「犬夜叉。やる」 「え?」 バサッ 何かを犬夜叉に投げつけた。 (・・・手袋・・・?) 「かごめ特製手編みだよ。”あげる相手がいなくなった”って アタシにくれたけど・・・それ、どう見ても男物の柄だしね」 紺の毛糸で作られている・・・ 「・・・最後に挨拶くらいはしてね。じゃあ」 真貴子は心の中で犬夜叉にかごめともう一度 やり直してほしいと願って・・・去っていく・・・。 (・・・。かごめが俺のために・・・作った・・・) 手袋・・・ 紺色の毛糸で・・・ ふわふわしてて・・・ 手袋をつけてみる・・・ (温ったけぇ・・・) かごめの手のぬくもりと同じだ・・・ 寒い手の温度を 癒してくれる・・・ 手袋をはめた手を・・・頬に当ててみる・・・。 2年前・・・ 恋人との別れ。 深い事情を抱えた別れ。 15の犬夜叉には受け止められず、自暴自棄になっていた・・・ ”自棄になるのは勝手だけど・・・!学校の外で してくれない!?” ”辛いのはアンタだけじゃないわよ!” 自棄になって一人だった犬夜叉のそばに いてくれたのは・・・ かごめだけだった・・・ ”嬉しい・・・。だって・・・まさか アンタの方から・・・言ってくれるなんて・・・” かごめだけだった いつも そばにいたのは・・・ かごめの笑顔が・・・ そばにあったから・・・ (かごめ・・・) 寂しい 寒い 手袋から伝わる温もりが恋しい かごめの手がなくなって・・・ 初めてわかった・・・ 存在の大きさ ”かごめが東京に行っちゃうんだよ?” (・・・このまま別れるなんてできねぇ・・・) 手袋が教えてくれた かごめの気持ち 犬夜叉は・・・もう一度かごめと向き合うことを決意したのだった・・・。 一方かごめは・・・。 「えっと・・・あとは宅急便でおくるだけね」 東京へ立つ準備を着々と進めていた。 ダンボールに荷物を積めている最中・・・。 (あ・・・) 犬夜叉と初めてデートしていった 時の服が・・・。 (・・・。犬夜叉・・・) 犬夜叉は今どうしてるだろう どんな気持ちだろう こんな気持ちのまま・・・ 新しい世界に行けるだろうか (・・・。駄目だ・・・こんな中途半端な気持ちのままじゃ・・・ 前に進めない) かごめは携帯を取り出した。 PPPP! 突然携帯が鳴った。 (・・・犬夜叉・・・) 想いが通じたのか誰かの差し金なのか。 携帯を取るかごめの手は震えて・・・ 「も・・・もしもし・・・」 「・・・。かご・・・めか?」 トクン。 2ヶ月ぶりに・・・犬夜叉の声。 かごめの背中に緊張がはしる。 (ど、どうしうよう・・・。こ、声が出ない・・・。 何を話したらいいのか・・・) 「・・・元気か?」 「う、うん・・・」 「・・・。3月24日10時・・・日曜。空けといてくれ」 「え・・・?」 「・・・あの観覧車の前で待ってる。じゃ・・・」 「あ、あのちょ・・・」 ツー・・・。 用件だけいって犬夜叉は切った。 「・・・。何よ。何なのよ・・・。いっつも一方的で・・・ 勝手で・・・」 それでも・・・ 嬉しい。 犬夜叉と話せた・・・。 ”あの観覧車の前で待ってる” (・・・。話ってなんだろう・・・?別れの挨拶・・・? それとも・・・) 赤の観覧車に乗ると恋人たちが永遠に結ばれる。 (・・・。んな訳ないか・・・。やっぱり別れの挨拶だよね・・・。 痕腐れなくって・・・) かごめはカレンダーに目をやった。 3月24日。 かごめが東京に経つ日。 (・・・。どうしよう・・・。) ”待ってる・・・” (犬夜叉・・・) ”待ってる・・・” (・・・犬夜叉・・・) かごめの耳に残る犬夜叉の声。 迷いながら ・・・3月24日がついに来てしまった・・・。 「・・・じゃあお母さん。行くね」 新しい靴 新しいコート。 新しい環境へと。 かごめはリュックを片手に家を出た。 (・・・9時半・・・) 駅。もうすぐかごめが乗る新幹線が来る。 腕時計を見る。 ”待ってる・・・” (犬夜叉・・・) 本当に待っていてくれるだろうか。 会ったとして笑顔でサヨナラがいえるだろうか・・・? (・・・やっぱり・・・。無理・・・。 笑顔でバイバイなんて・・・) 新幹線がホームに入ってきた。 乗車口のドアが開く。 「・・・」 乗り込むかごめ・・・。 ”待ってる・・・” (・・・犬夜叉・・・) ”待ってる・・・” (・・・犬夜叉・・・) やっぱり・・・。もう一度会いたい・・・! かごめが降りようと思った瞬間。 ガシャン! (あ・・・) かごめを阻止するように・・・ ドアが閉まってしまった・・・ そして動き出す新幹線・・・。 (犬夜叉・・・!) 新幹線は・・・ どんどんホームから離れ遠ざかっていったのだった・・・。 一方。 (かごめ・・・) かごめの手袋をつけた犬夜叉が観覧車の前で待っている。 携帯の時計の時間はすでに10時を過ぎており・・・ (やっぱり・・・。怒ってるか・・・) だけど待ちたい。 かごめが来なくても待ちたい 待っていたい (・・・かごめ・・・) 目を閉じると思い出すのは かごめの笑顔 初恋の女性の微笑みも胸の奥に浮かぶけれど 激しい痛みはなくなった。 それよりもっと痛むのは ・・・かごめにちゃんと自分の気持ちを伝え切れなかったこと (かごめ・・・) 会いたい。 神様がいるなら 会わせてほしい。 (・・・かごめ・・・) かごめの手袋・・・ 本当に温かい 朝から3時間外にいても手が冷えない。 (かごめみたいだ・・・) 人の冷たい心。 どれだけ人から怪訝に言われてもかごめだけはそばにいて 寄り添ってくれた。 自棄になりそうな心を包んでくれた ”あんたはあんたのままでいいじゃない・・・” ・・・初めて知った人の優しさ。 初めて感じた 涙の重み (・・・一回でいいから・・・会わせてくれ・・・) このままサヨナラなんて 死より辛い 手袋を頬にあて・・・膝を抱えてかごめを待つ・・・。 (・・・え・・・) 「・・・やしゃ・・・ッ」 かすかな声に気がつき顔を上げると・・・。 「ハァハァ・・・。犬夜叉・・・ッ!!!」 息を切らせてかごめが走ってくる・・・ (かご・・・め・・・) 「ハァハァ・・・。遅くなって・・・。ごめん・・・ 新幹線・・・途中下車して戻ってきたから・・・」 「かごめ・・・」 犬夜叉の髪。 雪がほんのりかぶって・・・。 「・・・待ってて・・・くれたの・・・?」 「・・・ったりめぇだろ・・・」 「・・・。ごめんね・・・。寒いのに・・・ ごめんね・・・」 かごめの手・・・ 犬夜叉のつむじに積もった雪を優しく落とす・・・ 優しい手・・・。 手袋も温かかったけど・・・ 欲しかったのは・・・ (・・・この”手”だ・・・) 犬夜叉はそっとかごめの手を握る・・・。 「・・・。あれ・・・?その手袋・・・」 「・・・かごめの友達が・・・俺にくれたんだ・・・」 「・・・真紀ちゃんが・・・」 (ありがとう。真紀ちゃん) と此処で呟くかごめ。 それから二人は 観覧車の乗り場の前のベンチに座り 話し始める。 「・・・。すまねぇ。まさか今日、東京に経つ日だったとは・・・」 「ううん、いいの・・・。午後の新幹線の自由席、 とれたから・・・」 「・・・。行くんだな・・・。東京・・・」 「・・・。うん・・・」 今日が最後。 今日がお互いに見詰め合える最後の日。 (今日が最後・・・。ちゃんと言おう・・・。 自分の気持ちを・・・) 「・・・犬夜叉・・・。ごめんね・・・。私・・・。 自分の気持ちしか見えてなかった・・・。犬夜叉の彼女に なれるって・・・。浮かれたんだ・・・」 「そんな・・・。オレの方こそ・・・。でもな、お前と 付き合いたいって気持ちに偽りはなかった・・・。それは 本当だ」 「・・・うん・・・。信じるよ・・・」 「・・・。すまねぇ・・・。かごめ・・・」 言いたいのは 謝る言葉じゃないのに どうしても言えない。 (・・・このままでいいのか・・・。このまま別れてしまって いいのか・・・) 「・・・雪・・・。春先の雪は・・・。冬とのお別れの印なんだって・・・」 「別れ・・・」 かごめのことばが・・・犬夜叉の心に 重く沈む・・・。 「・・・。犬夜叉・・・。握手しよう・・・」 「え・・・?」 「仲直りの印と・・・。サヨナラの挨拶の握手」 (サヨ・・・ナラ・・・) 差し出されたかごめの手・・・ 「・・・私・・・。犬夜叉に会えてよかった・・・。 好きになれてよかった・・・」 「かごめ・・・」 出したくない。 握手なんてしたくない。 犬夜叉の手は重くあがらない・・・。 「・・・。お願い・・・。握手して・・・?出ないと・・・ 私犬夜叉から卒業できない・・・」 「かごめ・・・」 「私・・・。強くなる・・・。犬夜叉を丸ごと受け入れられる ほどに強くなるから・・・」 かごめの涙声・・・。 犬夜叉の左手は・・・ そっと上がり・・・ かごめの手を握った・・・。 「・・・。アリガト・・・。これで仲直り・・・ね?」 「・・・かごめ・・・」 「・・・。。一時でも・・・。 彼女にしてくれて・・・。アリガトウ・・・幸せだった・・・」 (かごめ・・・) 手袋に・・・かごめの涙がしみこむ・・・ そしてゆっくり離される手と手・・・ 「犬夜叉・・・。元気でね・・・。風邪ひかないでね・・・」 「・・・」 かごめはバックを持ち、犬夜叉に背を向けた。 (・・・行っちまう・・・) 「・・・サヨナラ・・・」 かごめの笑顔・・・ でも瞳は涙でいっぱい (かごめが・・・行っちまう・・・!) かごめの手が 笑顔が・・・ (行っちまう・・・!!!) 「行くな!!かごめ・・・!」 (え・・・?) 犬夜叉はかごめの手を強引にひっぱって・・・ 「ちょ・・・犬夜叉・・・!?」 観覧車に乗った・・・ 「・・・犬夜叉・・・!?」 「行くな・・・。どこにも行くな・・・ッ」 観覧車に乗るやいなや・・・ かごめを抱きしめる犬夜叉・・・。 「・・・でも犬夜叉・・・ッ」 「・・・オレは・・・オレは・・・確かにまだ 桔梗を忘れられねぇ・・・。でもでもでも・・・ッ!」 かごめを抱きしめる犬夜叉の腕に力が入る・・・ 「・・・かごめ・・・。お前がそばにいねぇと・・・ 力が出なくて・・・寂しくて・・・」 一人きりの昼休み 一人きりの帰り道。 隣に在ったはずのかごめのぬくもりがいない 繋ぐかごめの手が そこにない・・・。 「犬夜叉・・・」 「ずるい男だ・・・でも・・・。オレにはかごめが必要なんだ・・・。 だから・・・。そばにいてくれ・・・ッ」 「犬夜叉・・・。居ていいの・・・?私でいいの?」 「・・・かごめがいい・・・。かごめ・・・かごめ・・・」 (犬・・・夜叉・・・っ) 一番欲しかったもの・・・ かごめはやっと もらえた ”そばにいてほしい” 短いその台詞 でもずっと確証がほしかった 忘れられない人がいてもいいから 一緒に居て欲しいという証が・・・ 初めて抱きしめあった 二人。 二人が乗っている観覧車は赤色・・・ ”赤色の観覧車に乗ったカップルは永遠に結ばれる” 赤色の観覧車に二人は 確かに乗っている・・・。 「・・・。てぶくろ・・・。不恰好でごめんね・・・」 「いやオレはこれでいい・・・。あったけぇぜ・・・。 ほら・・・?」 かごめの両頬に当ててみる・・・ アッタカイ。 二人が一緒にいるから アッタカイ。 「・・・な?」 「うん・・・」 見つめ合う・・・。 (・・・かごめ・・・) (犬夜叉・・・) 手から伝わる想い・・・。 一番欲しかった 想い・・・ 「・・・犬夜叉・・・。好き・・・」 「・・・オレもだ・・・」 赤い観覧車の中で・・・ 二人は・・・ ・・・初めてのキスを交わした・・・ 手をつないだまま・・・ 赤い観覧車にはもう一つ ジンクスがある・・・ 赤い観覧車の中でキスを交わすと・・・ 『生まれ変わっても恋人になれる』 という・・・。 だけど・・・ そんなジンクスなどもういらないだろう ・・・二人の心は繋がったのだから・・・。 駅のホームまで・・・ かごめを見送る犬夜叉・・・。 「・・・。絶対に遊びに行くからな。絶対行くからな」 「ウン・・・。待ってる」 (・・・。今週の週末・・・。速攻で行ってやる) 「妙な男に捕まるんじゃねぇぞ」 「ウン・・・。行ってきます。犬夜叉」 「ああ・・・。行ってがんばってこい」 「うん・・・」 ドアが閉まる・・・。 窓をはさんで手と手を合わせる二人・・・。 離れていくけれど サヨナラじゃない 二人の始まり・・・ ・・・二人の手から・・・ ようやく始まった 二人の恋 君の優しい手から・・・ 始まった恋・・・ 雪が解けてようやく 春が来た・・・ ・・・君の手から始まる新しい季節が・・・。 FIN