犬かご小説リクエスト(内容編)
第7位 「居場所シリーズの犬かごが結婚する前のある一日!」
「おでんと壁の傷」
「さー!大掃除するわよー!」
犬夜叉家。大晦日。かごめは自分たちの部屋をとことん掃除しようと
エプロンをしてはりきっている。
「かったりーなぁ。ふああ」
犬夜叉がめんどくさそうに掃除機を持たされる
「満ー。お父さんみたいなものぐさな男になっちゃだめよー!
女の子にもてないんだから」
「あい!」【あー。そうだよな。とーちゃんみてぇな奴にはならねぇよ】
と、満はかごめの味方についた模様で。
「けっ・・・。掃除ぐらいやってやらぁな」
(・・・かごめに負担はかけられねぇからな)
かごめの体に負担はかけられない。
あのクリスマスイブ・・・。二度とかごめを泣かせないと心に誓った。
「よーし!やると決めたからには徹底的にやるぞ!」
犬夜叉はまずは箪笥をどけて、掃除機をかけだした。
(ん?)
箪笥をどけて柱に目がとまった。
(これは・・・)
手のひらの痕となにか、水の雫のような痕が柱にあった。
「なんでい。これは・・・」
「あ・・・!それは・・・!」
かごめにはすぐわかった。
「この手の跡はアンタの手よ。ほら」
犬夜叉の手を当ててみると大きさがぴったり。
「で、このシミは私の涙よ」
「はー?どういうことでい」
「・・・やっぱり忘れてる・・・。あのね。これは犬夜叉と
私が喧嘩して仲直りした証なのよ・・・。ほら・・・。
犬夜叉がまだ楓荘に引っ越したばかりの頃・・・」
そう・・・。これは犬夜叉とかごめが
出会って最初の頃の話・・・。
※
ちょうどそれは楓荘に犬夜叉が引っ越してきてから2週間目の朝。
「ちょっと挨拶くらいしなさいよ。アンタ」
「うるせぇ。朝から説教すんじゃねぇ。
ぶっとばすぞ」
相変わらず人を寄せ付けず、口の悪い犬夜叉。
だがかごめも負けておらず・・・
「挨拶も出来ないなんて・・・。子犬の方がよっぽど利口よ
ワンちゃんさん!」
「・・・わ、ワンちゃん!?」
かごめの言葉に意表を疲れる犬夜叉。
「そーよ。挨拶は人間関係の基本よ!アンタ、喋られる口
持ってんだから”おはよう”ぐらい言いなさいよね!!
さぁ、言いなさい!言うまでここは通さないから!!」
「な・・・。て、てめぇ、お、オレはお前を
倒してでも行くぞ・・・(少しビビリつつ)」
「ああ倒せるものならどーぞ!その代わり怪我したら
治療費一生請求してやる!」
階段の前に両手を伸ばして立ちはだかるかごめ。
(・・・こ、この女・・・(汗))
かごめの迫力に完全に犬夜叉、参ってる様子・・・
「・・・わ、わかったよ。言えばいいんだろ?」
「そうよ!」
「・・・お・・・オス」
「オス?おはようでしょ!はいもう一回!」
「・・・(汗)お、おは・・・ヨウ・・・。
かごめ」
かごめはにこっと笑った。
(な・・・なんで急に笑うんだ)
怒っていたのに・・・
おはようといっただけで・・・
「ふふ。うれしい。やっと犬夜叉の”おはよう”が
聞けた」
「・・・。ああそうかよ。じゃあオレは仕事に行くぜ」
犬夜叉は戸惑いつつ階段を下りていく・・・
(・・・)
犬夜叉はふっと二階を見上げる・・・
「いってらっしゃーい!」
かごめが笑って手を振っていた
(ばっ・・・な、なんであれじゃあ新婚みてぇじゃねぇか・・・)
かごめみたいな女は初めてだ。
どんなに寄せ付けないように荒い口調で言っても返してくるどころか
笑って返す。
(・・・かごめか・・・。妙な女の隣に越してきちまったもんだぜ)
桔梗に似た女・・・。
これも因果なのだろうか。
(桔梗とは似てもにつかねぇけど・・・)
”いってらっしゃい!犬夜叉”
かごめの笑顔に・・・
ほっとするのはどうしてだろう。
(・・・ふ、ふんっ。関係ねぇ・・・。もっと条件のいい
物件見つけたら引っ越してやる。それまでのことだ・・・)
”いってらっしゃい”
(・・・)
かごめの”いってらっしゃい”が心に響く。
(けっ・・・)
心の中で犬夜叉は”おかえりなさい”という
かごめの声を想像したのだった・・・。
(・・・)
7時過ぎ。
仕事から帰った犬夜叉。
部屋の前で何故か立ち止まり、かごめの部屋のドアをじっと見ていた。
”おかえりなさい”
(・・・!な、なんでアイツの声なんか想像してんだオレは・・・)
かごめの可愛い声が帰って来るとどこかで期待していた。
(けっ・・・。赤の他人だ・・・!)
バタン!
静かな部屋・・・。
誰も居ない
布団一つ。それ以外何もない
「寝るだけだ!」
ごろん!と足を広げて寝転んだ。
一人・・・。
静かなのは慣れている。
けど隣に・・・
”おはよう!”
”いってらっしゃい”
かごめの声が離れない
たった数個の言葉なのに・・・
”言ってくれる人がいる”
その存在に気づいてしまった時から・・・。
「・・・」
かごめの部屋側の壁を見つめる・・・。
コンコン
「!!」
びくう!っと犬夜叉の心臓が跳ねた。
「だ、だ、誰だ!」
「あたし・・・。あの、おでんつくったの。
食べない・・・?」
(おでん?)
くんくん。
なんだかいい匂いが・・・。
ガチャリ。
かごめはお鍋を持ってたっていた。
「あ、お腹いっぱいならいいの。無理しなくて・・・」
グー。
犬夜叉の腹は思いっきりかごめの言葉を否定した。
かごめはくすっと笑った。
「・・・(汗)し、仕方ねぇ。食ってやる」
「そ?じゃ、おじゃましまーす!」
「あ、ちょ・・・」
かごめはパパッとサンダルを脱いで部屋にあがりこむ。
「んもう!小分けするお皿とかもないのね!」
「うるせー!鍋置いて出ていけ」
「心配ご無用ほら♪お皿もってきました!さ、食べましょ☆」
(・・・(汗))
完全にかごめのペース・・・。
小さな卓袱台にお鍋を置いて向かい合って座る。
「いっただきまーす!」
かごめは至ってマイペースでぐつぐつ煮える
おでんの具を箸でつまむ。
(こ、こいつ・・・なんで無防備なんだ)
とりあえず犬夜叉もお年頃の青年。
女の子が部屋にいたらちょっと意識しちゃいます。
(けっ。食うもん食ったら追い出せばいい)
犬夜叉ももぐもぐとおでんの具をほうばる。
(・・・。う、うめぇじゃねぇか)
あったかい大根やちくわ。
ほかほか。湯気と匂い
ストーブはないのに
部屋がアッタカイ・・・。
「ふふー。やっぱ冬はおでんよねー」
「けっ・・・」
本当においしいそうに
笑顔で食べるかごめ・・・。
単なる食事なのに食欲がすごく出てくる。
おいしいと感じる。
(味もうまいけど・・・うまいのは・・・)
一人だからじゃない。
誰かと一緒に食べるから・・・。
「ん?なあに?私の顔になにかついてる?」
「べ、別に・・・っ」
「ふふ。ねぇおいしい?」
「あ?ま、まぁまずくはねぇな」
「そうか。よかった」
”もっとおいしそうに食べなさいよ!”
とか帰って来ると思ってたんであっさりかごめが収まってしまって
拍子抜けの犬夜叉。
そうして二人でもぐもぐ食べつくして
空になった鍋。
「ふー・・・。満腹満腹」
「・・・。そうかじゃあ帰れ」
「え?」
犬夜叉はかごめの鍋を持たせて出て行けと促した。
「そんなちょっと。何よ」
「腹ごなしは終わりだ。とっとと帰れ」
「何よ・・・!言う台詞ちがうでしょ!。ごちそうさまとありがとうでしょ!」
(うるせぇな・・・。人の心の中にずかずか
ハイってきやがって・・・。苛苛する・・・)
かごめの声も
笑顔も
犬夜叉の心を激しく動かす
動かされることが悔しい・・・。
「出てけ。お節介すんじゃねぇ」
「嫌よ!!アンタがごちそうさまとありがとう言うまで出て行かない!!」
「
やかましいッ!!!てめぇッ!!」
ドン!!
犬夜叉の激しい声と拳が・・・
柱に打ち付けられた・・・
「・・・。こ、怖くなんてないもん・・・。負けないもん・・・」
(・・・はッ)
だがかごめの目はうるうるしている・・・。
「お節介・・・ですって・・・?お節介でもしなきゃ・・・。
アンタご飯食べないでしょ・・・?お節介でもしなきゃ・・・
顔色良くならないじゃない・・・」
「・・・。お、お前には関係のないことだ・・・」
「関係ないけど・・・。辛いのよ・・・。私が辛いのよ・・・。
元気がない人がそばにいると・・・。自己満足よね。
分かってる。でも・・・」
ポチャン。ポチャン
空の鍋にかごめの涙がこぼれる・・・。
(・・・。な、何で泣くんだ・・・。確かにオレは怒鳴ったけど
そこまで力入れて泣くこと・・・)
「それにねぇ!!栄養失調で倒れられたら弥勒さまや珊瑚ちゃんにも
迷惑がかかるのよ!わかってる!??ねぇ!」
「・・・う、うるせぇ。わ、わかったから泣くな・・・!」
「泣かないわよ!あんたみたいな強情男にためになんて・・・。
あー!涙もったいない!」
かごめは袖口で涙を拭った。
「・・・。わ、悪かったよ・・・。」
「もう遅いわよ」
「・・・。こ、今度コンビニでおでんおごってやる。
それでチャラにしろ」
バコン!
かごめは鍋で犬夜叉の顔面を思い切りHIT!
「私が丹精込めて作ったおでんとコンビニのおでん
一緒にしないでよ!!お金で済まそうなんてそんな・・・!」
「じゃ、じゃあどうすりゃお前の気が済むんだ」
「・・・。明日からちゃんと”おはよ”って言って」
「は?そ、そんなんでいいのか」
「うん・・・!」
いつのまにか涙は消えて
かごめは満面の笑み・・・。
(わ、わからねぇ・・・(汗))
わけの分からない御面をみているようだ。
変なことで怒って変なことで喜んで。
「・・・じゃあ約束ね。あしたからちゃんと
挨拶してよね」
「わかったよ。うっせーな」
「あ、それと・・・」
かごめは犬夜叉の小指をからませた。
(な・・・///)
「やっぱりコンビニのおでんでチャラにしてあげる。
でも一緒に買いに行くのよ?それが条件」
「・・・けっ」
「指きりげんまん♪じゃ、おやすみ!」
無愛想な犬夜叉を余所にかごめは
一人嬉しそうに自分の部屋に戻った。
(なんなんだ・・・。本当にアイツは・・・)
分からない
分からない
分からないけど・・・
かごめの部屋の明かりに
安心感を覚えてしまう
きっとあそこはとても温くて
楽しい場所なんじゃないかと・・・
”指きりよ♪”
「・・・ガキじゃあるまいし。けっ」
小指からだったけど・・・
(・・・人って・・・あんなに温かいのか・・・)
かごめと一緒に居ると
いろんな”初めて”に出会う。
「・・・コンビニのおでんでチャラか。へっ。
なら駅前が旨いぜ」
犬夜叉はコンビニの割引券を部屋に戻って探した。
・・・初めて自分は一人じゃないと
感じた夜だった・・・。
「・・・の時の傷なのよ。これは。よーするに
犬夜叉のカンシャクの痕ってわけなのよ?満」
「かんちゃく?」【なんでい。それ、食い物か?】
柱の傷を満に触らせるかごめ。
「そう・・・。お父さんのお母さんへの愛の印かな」
「なっ・・・べ、別の言い方ねぇのか///」
「え?違うのー?」
上目遣いで犬夜叉を見るかごめ・・・
(そ・・・その目だ・・・。変わらない・・・)
犬夜叉の心を動かしてしまう・・・。
今ではかごめに見つめられることに至福を感じる・・・。
「ふふ・・・。あの頃は・・・。犬夜叉ったら
全然心見せてくれなくて・・・。切なかった」
「・・・い、色々あんだよ。若いときは・・・」
「・・・そうね。あの頃があるから・・・。
今の犬夜叉があるんだものね」
かごめは満をだっこしたまま犬夜叉に寄り添った。
「///」
「この柱の傷は・・・。私達の思い出。なんか・・・
愛しいね」
「・・・ま、まぁ・・・///」
気のせいか・・・
かごめから”誘ってる空気”を感じる犬夜叉・・・。
「・・・ねぇ犬夜叉」
「な、なんでい」
「・・・私で・・・。よかった・・・。隣に居るのが・・・
私でよかった・・・?」
(かごめ・・・)
「・・・なんだか・・・ね。今・・・。幸せなのに・・・
不安になっちゃうなんて変だよね・・・」
満も生まれ
体調もいい
なのに柱の傷を見てあの頃の切なさが
思い出されて・・・。
「かごめ・・・」
「ごめんごめん・・・センチなっちゃたぁー・・・。
あ、満ねちゃってる」
そっとソファに満を寝かせる。
「可愛い子も授かって・・・。幸せなのにね・・・」
「かごめ・・・」
「・・・こんな弱虫な私だけど・・・。末永くよろしくお願いします」
かごめは正座をして三つ指ついて頭を下げた。
「きゅ、急になんだよ・・・」
「一応・・・。妻としての挨拶・・・というか」
「・・・挨拶なんかいらねぇ・・・。お前はずっと・・・
オレのそばからはなさねぇ・・・。決まってるだろ///」
「犬夜叉・・・」
かごめの隣に座って肩を引き寄せる・・・。
「あの柱の傷は・・・。オレが大切なモンに気づいた
印だ・・・。かごめ、お前が教えてくれた・・・」
「犬夜叉・・・」
この温もり
この髪
この笑顔・・・
人は一人では生きていけないということを
犬夜叉はかごめと出会って知った・・・。
「・・・。今の台詞は・・・『愛の告白』って
思っていい?」
「あ・・・(汗)か、勝手にしやがれ・・・///」
「うん・・・。勝手にする・・・。でも・・・。
もっともっと聞きたいな。・・・お布団の中でも・・・イイヨ///」
「・・・///」
満はベビーベットに寝かせて・・・
かごめかーちゃんと犬夜叉とーちゃんは
二人の部屋へ静かに移動して・・・
ふっと電気が消えました。
二人の絆が深まる夜・・・
懐かしい・・・柱の傷は
夫婦そして家族の絆を深めたのだった・・・