犬かご小説リクエストタイトル編 第4位「伝えたい気持ち」 寒い 雪が降る夜。 古いお堂で宿をとっていた犬一行。 「・・・!」 桔梗の匂いに気づいた犬夜叉。 だが、躊躇う。 (・・・こんな時に・・・) 寒さからか・・・ かごめが体調を崩していたのだ・・・。 だが、お堂の外には死魂虫が犬夜叉を誘って漂っている・・・。 (・・・) かごめは何も言わず まるで ”いいよ・・・” というように静かに寝息を立てている・・・。 「・・・。すまねぇ。かごめ」 犬夜叉はかごめに軽く頭を下げて お堂を後にした・・・ 「・・・」 薄っすらと目を開けるかごめ・・・ (・・・犬夜叉・・・) 再び目を閉じて かごめは眠る・・・ 目を覚ました頃には・・・ きっと犬夜叉は帰って来るだろうと信じて・・・。 (寒い・・・) 寒気がする体を縮めて朝を待ったのだった・・・。 「かごめ、大丈夫か?」 (ん・・・) 朝起きるとかごめを心配そうに見下ろす犬夜叉の姿があった。 「・・・どうしたかごめ?」 「・・・」 ”声が出ないみたい”と口を指差した。 「かごめ・・・!」 弥勒や珊瑚が持っていた薬草をつかってみたが 全く効かなかった・・・。 「かごめ・・・」 「お前のせいじゃ!犬夜叉!風邪をひいおった かごめを置き去りにしおって!」 犬夜叉の周りでぴょんぴょんはねて怒る七宝。 かごめは七宝に顔を振って”犬夜叉のせいじゃないわ・・・” と言っている。 「・・・かごめ・・・。すまねぇ・・・」 赤い顔のかごめ・・・。 いつもなら文句の一つもいうはずなのに 今日はその文句すら言えない状態のかごめ (・・・かごめ) 「お前が治るまで・・・側に居てやるから」 かごめに優しい言葉をかけても どこか虚しく聞こえるのはなぜ・・・? 「飲みテェもんがあったら言え」 かごめは首を横に振る。 「・・・。そうか・・・」 何も言われない方が なんだか辛い いつもみたいに文句を言われた方が ラクだ。 お堂の中はかごめと犬夜叉の二人きり。 静けさが 犬夜叉を責めているようで・・・ (・・・。俺は・・・自分の気持ちばっかりだな・・・ いつもいつも・・・) 「かごめ・・・。すまねぇ・・・」 「・・・」 やはりかごめは首を振る・・・ ”謝らないで・・・” (かごめ・・・) 静かなお堂の中・・・。 静けさは犬夜叉に色んな気持ちを考えさせる 時間を与える・・・。 かごめがどんな思いで待っているのか 桔梗のことも自分のことも 色んなことを考えさせる・・・。 (・・・何・・・考えてるのかな・・・) 腕を組んで俯く犬夜叉を 静かに見つめるかごめ・・・。 声が出たら ”何かんがえてるの・・・?” と聞きたくて・・・ 声が出てほしいと 強く願う。 「ケホンッケホッ」 「かごめ・・・!」 咳き込むかごめ・・・ 犬夜叉は自分の衣をそっとかごめにかけて寝かせる。 カタカタ・・・ 障子戸の穴から入る隙間風・・・ 犬夜叉は風がかごめに当たらぬ様にと 障子戸の前に座った・・・ (犬夜叉・・・) 「・・・ガト・・・」 「え・・・?」 かすれ声・・・ 「・・・リガト・・・」 せめてお礼の気持ちだけでも伝えたい 「・・・ガト・・・ね・・・」 (かごめ・・・) かごめのかすれ声が・・・ 締付ける・・・。 冬風より 痛々しく 蝋燭の小さな炎より 細く・・・ 「礼なんていらねぇ・・・。とにかく休め・・・」 かごめは優しく頷いた。 (言いたいことは・・・こんなことじゃないのに・・・) 伝えたい想い 沢山有りすぎて 言葉にならない 「・・・。かごめ・・・オレは・・・」 かごめは黙って 犬夜叉の声を聞いている。 どんな言葉なら かごめは喜ぶだろうか 嬉しいだろうか 「俺は・・・」 ”好きだ” ”お前に惚れてるからな” (そっ・・・そんなこと言えるかッ) 使い慣れぬ甘い言葉なら 喜ぶだろうか・・・ 「かごめ・・・オレ・・・は」 浮かばない言葉 形ならない想い 「オレは・・・オレ・・・っ!」 「・・・」 「・・・い、いや・・・。何でもねぇ・・・」 形に 声にならない・・・ 強い想い・・・ どうしたら伝えられるだろう・・・? どうやったら伝わるだろう・・・? もどかしさが 犬夜叉を包む・・・。 風邪をひいていたことを知っていたのに かごめを置いて行ってしまった 二人で居るときも 桔梗のことを考えてしまう瞬間が あることもあるのに かごめは何も言わない 受け入れてくれるのに・・・ (・・・どうして俺はかごめに何も言えねぇんだ・・・!) 着物の裾を握り締める・・・。 (え・・・っ) 犬夜叉の手をそっと かごめの熱い手が添えられた・・・。 「・・・かごめ・・・」 「・・・ジョウブ・・・ジョウ・・・ブ・・・」 『大丈夫・・・』 (かごめ・・・) かごめの”大丈夫”は・・・ 犬夜叉を励まそう かごめの精一杯の気持ち・・・ 「かごめ・・・俺は・・・」 伝えたい気持ち 沢山あって 溢れてきて だけどやはり言葉にならない 形にならない 「かごめ・・・。オレは・・・ 何があっても・・・お前を守るから・・・」 かごめは微笑む・・・ (かごめ・・・) かごめの少し熱を帯びた手・・・。 犬夜叉は想いを込めて 両手で握り返した・・・。 言葉で上手く伝えられない だからせめて・・・ 愛しい手から 伝えたい (・・・犬夜叉・・・) 犬夜叉の気持ちは かごめには手に取るように分かっていた。 かごめへのすまなさも・・・。 ・・・桔梗への想いも (・・・ねぇ犬夜叉・・・私ね・・・) 風邪をひいてよかったかもしれない 声が出なくてよかったのかもしれない 声が出ていたら 犬夜叉を責めて、嫉妬まじりな自分になっていただろう (・・・ねぇ犬夜叉・・・) 色んな想い 形にすることは難しい けれど願うのは一つ。 (私は大丈夫だから・・・。だから・・・。そばに・・・置いてね・・・。 いいよね・・・?) 好きな人のそばにいたい ただそれだけ・・・。 「かごめ・・・」 微笑むことが犬夜叉の力になるなら どんなときも笑っていよう (かごめ・・・) 好きとか愛してるとか 甘い言葉はいえなくても せめて好きな女の名を呼ぼう 「かごめ・・・」 ありったけの想いを込めて 「・・・。そばにいるからな・・・。かごめ・・・ 絶対に・・・。この手は・・・離さない・・・」 この世で一番大好きなぬくもりを包み込む。 止まらぬ恋心を込めて・・・ 伝えたい気持ち きっと伝わるその気持ち 犬夜叉の心にもかごめの心にも 一緒に居る限り・・・。