犬かごリクエスト(タイトル編)小説
第7位 「迷いの先には愛がある」
別れがスタートだったのかもしれない。
かごめと犬夜叉。
迷いに迷って出した結論。
”私は自分の国で生きていく。犬夜叉は戦国時代で
桔梗が生きた時代で桔梗を想って生きていく”
迷って迷って
本当は一緒にいたかった
永遠に
けれど幾多の命の上になりたつ幸せなどない
四魂の玉の争いでどれだけの人や妖怪の魂や命が消えていったか。
自分たちの恋路を優先するほど
かごめも犬夜叉も器用ではなかったのだ・・・。
※
「犬夜叉はどこへいった・・・?」
「あそこに決まってるでしょう?弥勒様」
”孫”に囲まれて畑を耕す珊瑚と弥勒。
楓の村に骨をうずめて早50年。
楓亡き後、この村を守ってきた。
・・・犬夜叉と共に。
犬夜叉の日課は必ず朝、ご神木を眺めに行くこと。
この50年。一日たりとも欠かしたことはない。
・・・かごめと唯一つながっているもの
かごめがもしかしたら・・・いるんじゃないかという期待。
50年経ってその期待が叶ったことはなかったが
それでも期待を消せない犬夜叉。
(かごめ・・・)
かごめが遺していった制服のスカーフ。
もう色あせてぼろぼろになってしまったが
微かに残るかごめの優しい匂いに
胸を焦がす。
50年。
長い時間
かごめもかごめの人生を
幸せな人生を送っていることだろう。
(・・・お前が幸せなら・・・)
だが心の片隅で、かごめが自分以外のほかの男と
家庭を育んでいる光景を想像すると
嫉妬で胸がつぶれそうになる。
・・・50年経っても・・・。
(かごめ・・・。お前・・・。幸せか・・・?)
ご神木の真ん中に手をあてて
かごめに呟く。
・・・聴こえているだろうか・・・?
いや・・・かごめの声が聞きたい。
50年経つのに
きっとかごめは自分のことなど忘れ
幸せに暮らしているのに
(オレは・・・かごめ・・・)
伝えてなかった想い
かごめが好き・・・という・・・
後悔だけが残る。
(かごめ・・・!)
犬夜叉の念に反応するように
ご神木が光った。
(え・・・っ)
白い光に包まれ・・・犬夜叉は意識を失った・・・。
”犬夜叉・・・。素敵な冒険をありがとう・・・”
”犬夜叉・・・。出会ってくれて・・・ありがとう・・・”
(え・・・?かご・・・め・・・?)
微かに聞こえたかごめの声・・・。
「ん・・・?」
気がつくとそこは・・・
ご神木のたもと・・・。
だが風景は・・・
(かごめの・・・。実家だ!)
そう。ここは現代・・・。
犬夜叉は辺りを見回す。
かごめに会えるかもしれない・・・!
だが、ご神木以外、かごめの家はすでになく・・・。
(かごめの家はどこだ・・・!?)
かごめの家があった場所は更地になり井戸の社だけが
名残をとどめて・・・。
(どういうことなんだ・・・?かごめはここにはいねぇのか・・・?)
かごめの時代でも時間は流れている。
(・・・。そうか・・・。かごめはきっとどっかの男の家に・・・
嫁に行ったのかな・・・)
そうなっていても可笑しくはないだろう
かごめの時代にこれた喜びは一瞬だけ・・・。
(かごめ・・・)
かごめが居たはずの家
だがそこにかごめの匂いはしない・・・。
(・・・あえなくてもいい・・・。この時代に来られただけでも・・・)
出来ることなら会いたい。
でも・・・
かごめが他の男と子供に囲まれている光景など
見たくはない。
(・・・このまま・・・。帰ろう。きっと井戸は通じてるはずだ)
犬夜叉が井戸に向かおうとしたとき・・・。
「犬の・・・兄ちゃん!?」
振り返ると、中年の男が一人立っていた。
「だ、誰だ。てめぇは」
「あ・・・。ほら。オレ、草太だよ。もうおじさんだけど・・・」
背広を着た中年の男。
だが匂いは紛れもなく草太で・・・。
「草太・・・か・・・」
「”今日”犬兄ちゃんに会えるなんて・・・。やっぱり
運命かな。」
「どういう意味だ?そうだ」
「・・・。かごめ姉ちゃんが犬兄ちゃんを読んだのかも」
(かごめ・・・がオレを!?)
「かごめは・・・。今、どうしてる?」
「・・・」
「幸せな姿がみたい・・・。遠くからでもいいから・・・。
頼む・・・」
犬夜叉の心は弾む。
かごめに会えるという期待。
50年ご神木に通い詰めた願い。
「どんな姿でも会いたい・・・。会わせてくれ。かごめに!」
「・・・。わかったよ・・・。本当に”どんな姿”でもだね?」
「ああ・・・!」
年老いていてもかごめはかごめ。
かごめの匂い
優しい匂いと笑顔に会えるなら
犬夜叉の心は浮き足つ。
「じゃあ・・・。こっちへ・・・」
(こっち・・・?そんな近くにいたのか?匂いはしなかったのに・・・)
草太に導かれ、ご神木の裏側に・・・
(・・・!?)
「”これ”が・・・。かごめ姉ちゃんだよ」
(こ・・・こ、これって・・・)
ご神木の根元に
小さな小石が・・・輪をつくって
小さな花が咲いている
(こ、これって・・・)
犬夜叉の手が汗ばむ・・・
「姉が言いました・・・。”私の骨はご神木の根元に
埋めてくれ”・・・と・・・」
「・・・!!」
(かご・・・め・・・)
小さな小石の真ん中に咲く花。
それはかごめの・・・墓。
(かごめは・・・もういねぇ・・・)
「”どんな姿”でもって言うから・・・。犬の兄ちゃん・・・。
そこにかごめ姉ちゃんが眠ってるよ・・・」
草太の目が滲む・・・
(かごめは死んでいた。かごめはもういねぇ
かごめはかごめは・・・)
50年という月日。
永遠の別れが待っていてもおかしくはなかった
犬夜叉は呆然とかごめの墓の前で跪く・・・
「姉ちゃんは・・・。ずっと一人身でした」
「・・・!」
「姉ちゃんを好きになった男は沢山いたけど・・・。
姉ちゃんはずっと犬の兄ちゃんを想っていたんだ・・・」
(かご・・・め・・・)
「毎日毎日・・・。姉ちゃんは死ぬ間際までご神木に
通い続けてた・・・。兄ちゃんに会えるかと期待してたんだ・・・」
病の体を押して
雨の日も雪の日も
”犬夜叉に会えるかな”
微かな望みを捨てきれずご神木に通い続けていた・・・
「姉ちゃん・・・。死ぬまで寝言で”おすわり、おすわり”って・・・
何度も言ってたな・・・。きっと夢の中で兄ちゃんに会ってだんだ・・・」
(かごめ・・・)
草太の言葉が
犬夜叉を心を締め付ける・・・
「姉ちゃんの最後の言葉・・・。犬の兄ちゃんに伝えないと・・・。
きっとそのためにオレはここに来たんだ」
そう。
一年前の今日・・・
かごめは召された
きっと犬夜叉と草太を会わせたのは・・・かごめ・・・
「姉ちゃんの最後の言葉・・・それは・・・」
”犬夜叉・・・。素敵な冒険と時間を・・・ありがとう・・・”
”犬夜叉と出会えた私の人生は・・・幸せだった・・・”
微かに聞こえたあの声は
かごめの最後の言葉だったのか・・・
「・・・死に顔も笑ってたな・・・。凄く綺麗で・・・。
これから犬の兄ちゃんに会いに行くって顔で・・・っ
姉ちゃんは・・・姉ちゃんは・・・ッ」
感極まって・・・
嗚咽をこらえる草太・・・。
「・・・一人に・・・。してくれ・・・」
「わかった・・・。犬の兄ちゃん・・・。今日来てくれて
ありがとう・・・」
草太は静かにご神木から離れていった・・・
(・・・なんでオレは・・・今ここにいるんだ・・・?)
目の前のかごめは・・・
一輪の花・・・?
かごめはもういない
かごめはもういない
桔梗はかごめの魂と共に再会できたけれど・・・
かごめの生まれ変わりはいない
生まれ変わりのかごめなど意味がない
「かご・・・め・・・」
もっと早く会いたかった
会いたいと強く願えばよかった
そしたら
そしたら・・・
「・・・かごめ・・・かごめ・・・」
”幸せだった・・・ありがとう”
50年
待っていた
ずっと待って待って・・・
それが幸せだった・・・?
『お互いに・・・離れていても一緒だよ』
そう言って別れたのに
迷って
悩んで
別れたのに・・・
「こんなことってあるか・・・ッ!!かごめ・・・!!」
幸せな姿を見たかった。
自分にとって切ない光景でも
かごめが生きて
幸せな姿が・・・。
「かごめ・・・!」
目の前に揺れる花が
かごめの生まれ変わり・・・?
”泣かないで・・・”
そういう様に花が揺れている。
50年前に別れたあの日。
悩んで
迷って
自分の気持ちを押し殺した・・・
あの日・・・。
「かごめ・・・ッ」
もう永遠に
かごめの魂には会えない
優しい匂いのする魂には・・・
かごめの生まれ変わりの小さな花の前で
肩を震わす犬夜叉・・・
もう遅い
迷っても
悩んでも
・・・かごめには届かない・・・
「かごめ・・・ッ」
”犬夜叉に出会えて・・・よかった”
幸せだったのか
自分に出会わなければ
別の幸せがあったんじゃないか
かごめの問いたくても
聞けはしない
・・・かごめは幸せだったのか・・・?
後悔と疑念と
「・・・かごめ・・・ッ」
永遠の別れ
生身の体がなくなった
そして・・・
魂も・・・
ワタシハアナタニデアエテ・・・
シアワセデシタ。
犬夜叉も桔梗も
珊瑚も弥勒も七宝も
皆・・・
そう言える思える時間を生きただろうか・・・?
悩んで迷って育んで
その先にあるものはー・・・
「・・・夜叉?」
「んっ!?」
珍しく・・・。
ご神木を背もたれにうたた寝をしていた犬夜叉・・・。
かごめに起こされて・・・
「はい。ジュース。目、覚まして」
頬に缶ジュースをあてるかごめ。
「・・・かごめ・・・」
「どうしたの?何か・・・哀しい夢でも見た?」
「いや・・・。別に」
昨日、犬夜叉が聞いたかごめと珊瑚の会話。
『ねぇかごめちゃんさ・・・。奈落を倒した後って考えてる?』
『・・・うーん・・・どうかな・・・』
『犬夜叉ともし・・・もしもだよ、その・・・
別れたりするような・・・』
『・・・。もしそうなっても・・・私は後悔しないよ。
アイツと出会えたから・・・珊瑚ちゃんや弥勒様、七宝ちゃん。皆と出会えた。
だから感謝してる』
『・・・ホントニ?』
『うん。きっと偶然じゃなくて意味がある
出会いだったって・・・。でもきっと泣いちゃうと思うけどね。ふふ・・・』
かごめは笑っていた
笑っていたけれど・・・
泣いていた
自分はいつも闘いのことしか頭にないのに
かごめはちゃんと考えていた
・・・考えたくない、結論なんて出したくないことだけど
向き合って・・・。
「本当にどうしたの?真剣な顔で考え込んじゃって・・・」
「・・・かごめ」
「ん・・・?」
”お前は・・・幸せか?”
「・・・何よ?」
「いや・・・。何でもねぇ・・・」
「・・・変な犬夜叉。シリアス顔なんて似合わないよ?
ふふ。ふくれっ面の方がアンタらしい。はい乾杯」
かごめは犬夜叉の隣に座りジュースの栓を抜いた。
「あー。おいしいー・・・。幸せー・・・!」
甘い飲み物一本で
幸せだとかごめは言う。
「本当にかごめ、幸せか?」
「え?」
「・・・幸せか・・・?」
ジュースをぎゅっと握り締めて真剣な眼差しで聞いてくる・・・
(どうしたの。ほんとうに・・・)
「・・・うん。幸せよ?だって私・・・500年前に居るんだよ?
すごいよ。なかなか出来ない体験」
「そういうことじゃなくて・・・ッ」
「・・・それに・・・。みんなに出会えたことが一番幸せかな。
やっぱり・・・。掛け替えのない仲間に・・・」
(かごめ・・・)
やはりかごめはそう言う。
かごめの返答。
「・・・でもまだまだよ」
「え?」
「だって幸せって育むものだもの・・・。時間をかけて
ゆっくりゆっくり・・・。私なんてまだまだだよ」
「かごめ・・・」
かごめは犬夜叉の腕にしっかり捕まった。
「もっといっぱい迷って悩んで・・・。頑張らなくちゃ・・・ね・・・!」
「ああ・・・そうだな・・・」
愚問だっただろうか
かごめに幸せかと聞くのは
「空が青いー・・・」
いつもの同じ空を
嬉しそうに見上げるかごめ
(・・・かごめ・・・)
「さ・・・。戻ろう。みんなが待ってる」
立ち上がり、犬夜叉に手をさしのばすかごめ。
(かごめの手と共に・・・。俺は行く。
後悔しないために)
しっかりと繋がれた手と手。
その絆が確かなら
かごめと共に行く先にはきっと・・・
愛がある・・・
迷って
悩んで
苦しんでも
きっと
「・・・オレはお前とずっと一緒に居るからな。
そのつもりだ」
「え?何か言った・・・?」
「///な、なんでもねぇよ。さ、行くぞ!」
かごめと共に進む道の先には・・・
愛がある・・・
きっと・・・
FIN